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恋の行方編 後藤シークレット1



Episode4.5
「夜の校舎ほろ甘秘話 ~BBQその後···~」

【屋上】

屋上に行く頃にはすっかり日が暮れていた。

鳴子
「屋上って初めて入った」

千葉
「オレも」

サトコ
「私もだよ。綺麗な屋上庭園があって···」

言いかけて言葉に詰まる。
バーベキュー会場に戻ると、明らかに先程までと空気が違った。
騒がしいほど賑やかだったはずなのに、今は肉の焼ける音と酒の匂いしか感じられない。

サトコ・鳴子・千葉
「これは······」

千葉
「凄い本数のビール瓶だね。しかも全部カラになってる」

鳴子
「これ全部教官たちで飲んだ···とか」

莉子
「そうよ、文句ある?可愛い新人ちゃんたち」
「遅かったじゃない、どこ行ってたのかしら?」

後藤
すみません

鳴子
「サトコ、この人は···」

サトコ
「科捜研の木下莉子教官。私たちが講義を受けるのは、これからみたいなんだけど」

莉子
「よろしくね新人ちゃん」
「ふふっ、本番の講義の前に軽く手ほどきしてあげましょうか?」

千葉
「あ、あの···」

鳴子
「えっと···」

木下教官が千葉さんの顎をスッと撫でると、後藤さんが間に入る。

後藤
莉子さん、ここ一応学校です

莉子
「だからいいんじゃない」

後藤
······

後藤さんを軽くあしらうと、
木下教官は鳴子と千葉さんに腕を絡めてビール瓶が転がる方に連れて行く。

サトコ
「大丈夫でしょうか···」

後藤
あの人も一応教官だ。多分大丈夫だろう

サトコ
「多分···」

少し不安になりながらも周りの様子を確認する。
難波警視正はひとり淡々と肉を焼いては食べ、
東雲教官と黒澤さんは端の方で悪い笑みを浮かべて、何か話しているようだった。

(あの2人何か企んでるみたいな顔···。見なかったことにしよう)

サトコ
「面倒くさいことになってるって、これのことだったんですね」

後藤
『肉・酒・莉子さん』が揃うと、大体こうなる

サトコ
「なるほど···」

後藤
訓練生に、こんな姿見せるべきじゃなかったな

サトコ
「いずれ知る事実なら、早い方が良かったような気もします」
「そういえば、石神教官たちの姿が見当たりませんけど···」

後藤
石神さんと加賀さんなら、あそこだ

後藤さんが指さす先には、座り込んでうつむいている2人の姿があった。

サトコ
「え···」

(石神教官と加賀教官が、あんなふうになってるなんて···)

あまり見ない姿に驚き、思わず後藤教官を見る。

サトコ
「き、気分でも悪いんでしょうか!?」

後藤
莉子さんに潰されただけだ
あの人の楽しみは石神さんと加賀さんを潰すことだからな

(木下教官が!?そんなにお酒強い人なんだ···)

カラになったビール瓶の本数を考えれば、石神教官たちが座り込んでいるのも納得できる。

サトコ
「ってことは···鳴子と千葉さんが危ない」

後藤
諦めろ。酔ってる莉子さんにつかまったら最後だ
おまけに黒澤と歩まで絡んでるみたいだしな···

木下教官から次々とビールが注がれる中、携帯を持った黒澤さんたちが黒い笑顔で迫っている。

(うう、鳴子、千葉さん、ごめん!お肉は美味しいから、せめてそれを味わって!)
(あれ?こんな時の唯一の良心になるはずの颯馬教官は···)

サトコ
「颯馬教官の姿が見えませんけど···」

後藤
莉子さんに飲まされる前に脱出したんだろう
周さんはその辺りそつがない

サトコ
「そうなんですか」

(さすが颯馬教官···)

サトコ
「石神教官と加賀教官、あのままでいいんですか?」

後藤
···下手に声をかけると、とばっちりを食うことになる
しばらくしたら、近くにミネラルウォーターをそっと置いておくのが最善策だ

サトコ
「猛獣みたいな扱いですね···」

後藤
同じようなもんだな
俺たちは片付けを進めるか
難波さんが肉を食い終われば、そこでバーベキューは終わりにできる

難波警視正の近くにあるテーブルには、あと3パックほどお肉が残っているようだった。

(難波警視正はずっと焼肉食べてたのかな。そうだとすると、かなりの量を···)

後藤
炭を始末するための水を持ってくるか。しばらく浸けておかなきゃならないからな

サトコ
「バケツを探さないといけないですね」

後藤
片付けは黒澤あたりにやらせようと思ってたんだが···」
黒澤と歩が混じった莉子さんたちに近づく危険を考えれば、片付けをした方がマシだな

扱いが慣れている後藤さんに、私は小さく吹き出してしまう。

(ふふ···なんか皆の世話をしてる教官って新鮮かも)

後藤
笑い事じゃない

サトコ
「すみません。後藤さんにも苦手ってあるんだなって思って」
「この中で一番最強なのは木下教官ですか?」

後藤
···かもな
焼肉はアンタと2人で行くに限りそうだな

サトコ
「ふふ、そうですね」

(後藤さんとの焼肉楽しかった···また行けたらいいな)

屋上のバーベキューが、まさかこんな終わりを迎えるとは思ってもいなかった。
木下教官の犠牲になっている鳴子たちに申し訳なさを感じながら、いったん屋上を後にした。



【中庭】

夜も更け、私たちはバケツを探しに教官室に向かう。
爽やかな風が吹いて、心地よい。

後藤
さっきまでの喧騒がウソみたいだな

サトコ
「そうですね」

後藤
このまま屋上でのことはなかったことにして帰るか···

サトコ
「ダ、ダメですよ。同期を見捨てることはできません!」

後藤
冗談だ


【教官室】

後藤
防災用のバケツがあったはずなんだが···

サトコ
「私も探すのお手伝いします」

後藤
ああ。そっちの用具入れは見ても問題ないだろうから、探してくれるか?

サトコ
「ここですね」

後ろにあるロッカーを開けると、中にはホウキやらモップやらが入っている。

(バケツありそうだけど···)

サトコ
「モップが絞れるバケツはありましたけど、これじゃ使えませんよね」

後藤
普通のバケツは入ってないか?

後藤さんもロッカーを覗こうと扉に手をかけた時、上に雑に積まれていた備品が落ちてきた。

後藤

サトコ
「きゃっ」

私を庇うように抱きしめて、後藤さんが降ってきた物から私を守ってくれた。

後藤
大丈夫か?

サトコ
「私は平気です。後藤さんは···」

後藤
平気だ
なぜこんなところに大量のタワシが···

サトコ
「教官室で、こんなに使わないですよね?」

後藤
今度用具室にでも持っていくように清掃の担当に伝えておくか

散らばったタワシから視線を外すと、後藤さんと間近で目が合ってしまう。

サトコ
「······」

後藤
······

(あ···まだ庇ってくれたままだった···)

近い距離にドキドキとしながらも、後藤さんを見つめていた時ーー

黒澤
スクープゲットー!

後藤

サトコ
「黒澤さん!?」

沈黙を破ったのは黒澤さんの陽気な声だった。
携帯をこちらに構え、ニヤリと笑っている。

黒澤
歩さんの言う通り、二人を追って正解でした

後藤
その携帯をよこせ

黒澤
そうはいきません!ではでは、ドロン!

後藤
オイ!黒澤!

あっという間に教官室から姿を消した黒澤さんに後藤さんがため息を零す。

(び、びっくりした···)

後藤
ったく、あいつは···片付けは黒澤に決定だな

そう言って後藤さんはスッと身体を離した。

サトコ
「あ、後藤さん」
「バケツ、上の段にありました!タワシに隠れてたみたいです」

後藤
バケツだけは持っていってやるか

サトコ
「はい」


【寮自室】

そして、その日の夜。

『バーベキューの記念写真です!黒澤より』

送られてきたのは、教官室で後藤さんが私を庇ってくれている写真。

(後藤さんには申し訳ないけど···大事に保存···)

そして、その後送られてきた石神教官と加賀教官が座り込む写真のタイトルは

『最強班長2名、酒に伏す』

だった。

Secret End



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