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恋の行方編 後藤シークレット2



Episode5.5
「教官と秘密のお泊まり」

【繁華街】

仙崎国土交通大臣を追って、訪れた地方都市。
張り込みは結局空振りに終わり、すでに夜も遅い時間になっていた。

後藤
もうこんな時間か···
今日はこっちに泊まって行くか

サトコ
「そうですね、明日も学校ですし···って、泊まりですか!?」

後藤
張り込みで疲れただろう
今から帰れば、着く頃には日付が変わって寝る時間も無くなる
明日は午前の講義を休めばいい

サトコ
「いいんでしょうか?休んでしまって···」

後藤
アンタは任務にも就いてるんだ
それが理由で講義を休んでも、誰も文句は言わないだろう
俺から捜査にかかわるやむを得ない理由だとあらかじめ伝えておく

(確かに、今から帰るのは大変だし···)

サトコ
「わかりました。泊まる場所を探さないといけませんね」

後藤
平日の夜だ。どこでも空いてるだろう



【ホテル】

着いたのは駅前にある大きめのシティホテルだった。

後藤
シングル2つ空いてますか?

フロント
「シングル2部屋でございますね。ご用意できます」

(···別々の部屋に泊まるんだ)
(いや、それが当たり前なんだけど!)
(少し話とかできるかなって思ってたから、ちょっと残念···)

後藤
空いててよかったな

サトコ
「はい」

後藤
寝る前に明日の打ち合わせを軽くしておきたい。俺の部屋に寄ってくれるか?

サトコ
「わかりました」

【部屋】

明日、都内に戻ってからの予定を簡単に説明される。

後藤
アンタは訓練もある。夕方からの任務がキツかったら言ってくれ

サトコ
「はい。でも、今夜ゆっくり休めば大丈夫です」
「では、私はこれで···」

イスから立ち上がると、後藤さんに腕を掴まれる。

後藤
今夜は休ませられないと言ったら?

そのまま強く引き寄せられ、その腕に収まる。
手がアゴにかかると、ゆっくりと顔を上げさせられた。

サトコ
「後藤さん···?」

後藤
泊まるって意味、わかってるんだろ?

サトコ
「あの、その···」

後藤
シングル2部屋だったから安心したか?

サトコ
「えっ、い、いえ、そんなことないです」

後藤
戸惑うフリで誘ってるんだな···悪い生徒だ

サトコ
「え、えっ···ま、待ってくださ···」

ニヤッと唇の端を上げる後藤さんは、いつもと雰囲気が違っていて。
返す言葉を探しているうちにベッドに押し倒されてしまった。

後藤
出張中くらい···立場を忘れさせろ

サトコ
「でも、あのっ!こ、心の準備が···!」

思わず目を瞑り、覆い被さってくる後藤さんを止めようと両手を伸ばしーー


【車内】

サトコ
「!?」

手が空を切って目を開けると、目の前には車のフロントガラス。

サトコ
「え···」

(ここ···後藤さんの車の中···?)

後藤
悪い夢でも見たのか?

サトコ
「夢···」

後藤さんはハンドルを握っていて、どうやら車は牽引されているらしい。

(あ、そっか···エンストして、黒澤さんが迎えに来てくれて···)
(車に戻ったら、いつの間にか眠っちゃってたんだ···って、また夢か···)

サトコ
「すみません。私だけ寝てしまって···」

後藤
疲れてたんだろう
着いたら起こしてやるから、寝てていい

サトコ
「はい···」

(それにしても、またあんな夢見て···いくら後藤さんが好きだからって···)

夢の内容を思い出して、恥ずかしいやら申し訳ないやらの気持ちでいっぱいになる。
少し熱い頬を感じながら、運転している横顔をそっと見る。

(夢の後藤さんも素敵だけど、やっぱりいつもの後藤さんの方が···)

後藤
この様子だと帰り着くのは朝方になるかもな
無理しないでホテルにでも泊まればよかったか

サトコ
「そうですね、ホテルに···えっ!?いえ!そんな、滅相もない!」

後藤
外泊は嫌いか?

サトコ
「そ、そういうわけじゃないんですけど···何ていうか···」
「訓練生なのに、捜査で外泊なんて経費がもったいないので···」

後藤
訓練生でも警官なんだから、気にする必要ないと思うが···
まぁ、こんな夜中でもサトコと捜査していると退屈しなくていいな

ふっと笑われ、ひとりで慌てている自分が恥ずかしくなる。

(私の夢の内容を知らない後藤さんからすれば、こんなに慌てるのもおかしいよね···)

黒澤
お二人さーん、オレが会話聞いていること忘れてません?

車に置かれた通信機から、黒澤さんの声が聞こえてくる。

後藤
忘れてない

サトコ
「黒澤さん、すみません!私がうたた寝してしまって···」

黒澤
いいんですよ。サトコさんは休んでてください
お二人のラブラブラジオを聞いても、オレの心のすきま風が吹き荒れるだけですから

サトコ
「ラブラブラジオって···」

黒澤
星空の下でのランデブー···アクシデントもイベントになるのがラブパワーなんですよね

後藤
くだらないことを言うなら、さっさと進め

黒澤
進んでますよ。あと5キロくらいでガソリンスタンドに着きます

後藤
そこで整備して、ひと息入れるか。このままでも動きそうだが···
高速にも乗るし、念を入れた方がいいだろう

サトコ
「そうですね」

黒澤
まだ着くまで時間ありますし···今から、本当にあった怖い話してもいいですか?

サトコ
「え!怖いけど、聞きたいです」

後藤
どうせくだらない話だ

黒澤
後藤さんだって、この話を聞いたら、ひとりで眠れなくなりますよ
では、始めます
···雪が吹雪く山の中に取り残された2人の男がいたんです
オレと石神さんなんですけど
地方の山中でエンストしちゃって、あの時はひどかった···

(黒澤さんの体験談なのかな)

サトコ
「ひどかったって、どんなふうにですか?」

黒澤
大きな道路に出て、助けを呼んでくるって石神さんが車を出て行ったんです
それから1時間、2時間、待っても石神さんは帰ってこなくて···

サトコ
「ど、どうなったんですか?」

黒澤
車の中で待ち続けたオレは、いつの間にか眠ってしまっていたんです
そうしたら、バン、バン!···と窓に人の手形が!

サトコ
「!」

黒澤
窓に積もった雪を払って現れたのは石神さんだったんです!

サトコ
「石神教官だったんですか···」

黒澤
牽引を頼める車を探してきた···と、戻ってきたその時は
すでに出てから5時間経っていて···

サトコ
「吹雪の中だったんですよね?石神教官は大丈夫だったんですか?」

黒澤
ここからが一番怖いんですよ!戻ってきた石神さんは···
猛吹雪にも関わらず、あの横分けが少しも乱れてなかったんです!

サトコ
「···え?」

後藤
······

黒澤
広末巡査部長がいう、石神さんサイボーグ伝説はこれかと···!
石神さんは、本当は人間じゃな···

黒澤さんの悲鳴に近い声が聞こえてくると、ブツッと後藤さんが無線を切ってしまう。

サトコ
「あ···いいんですか?話の途中で···」

後藤
あいつの好きにさせたら一晩中でもしゃべってる
無駄なことで体力を使うな。アンタは寝てろ

サトコ
「さっき少し眠ったので、眠気はなくなりました。スタンドで運転代わります」

後藤
仮にも生徒に無理はさせられない。眠気がなくなったなら、話し相手になってくれ
アンタと話してる方がいい

サトコ
「は、はい!そういうことでしたら、喜んで!」

結局、学校に辿り着くまで、後藤さんと他愛のない話をしていて。
なるべく時間をかけて帰りたい···そんなふうに思ってしまっていた。

Secret End



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