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恋の行方編 後藤シークレット3



Episode10.5
「付き合いたての甘い時間」

【個別教官室】

後藤さんからの告白の翌日。
私は補佐官の仕事をするために、後藤さんの教官室を訪れていた。

(次のチーム演習のための名簿分けを···前の演習とメンバーが被らないようにして···)

後藤さんは隣で講義用の資料を作っているようだった。

(後藤さんに···昨日好きって言われたんだよね···)

パソコンの画面を見つめる後藤さんの横顔に、昨日の姿が重なって······

【駅ホーム】

雨上がりの匂いがする駅のホーム。
夕陽が眩しかったけれど、きっと顔が真っ赤だと思うから有り難かった。

(誰もいないとはいえ、駅のホームでキスしちゃった···)

近付いてきた電車は向かいのホームに停車して、時刻通りに走り出す。

後藤
下りの電車だったんだな

サトコ
「はい。こっちはあと3分後みたいです」

照れくさいのか、後藤さんの視線もわずかに逸らされている。

(後藤さん自身も驚いてたりして···)

外でキスするタイプには思えないけれど、それだけに嬉しさもある。

(私のことを想ってくれてるってことだよね)
(どうしよう···嬉しすぎる···)

ニヤけそうな顔を頑張って引き締めていると、後藤さんにフッと笑われた。

サトコ
「どうして笑うんですか」

後藤
面白い顔してた

後藤さんが顔を近づけてきて、軽く頬を触る。
その優しい手つきに、胸の奥がじんわり温かくなった。

(後藤さん···)
(も···もう一回、キス···するのかな···?)

一回目のキスの直後のせいでよりドキドキしていると、電車がホームに入ってくる音がする。
それを聞いて、後藤さんはパッと手を離した。

後藤
冗談だ

サトコ
「じょ、冗談!?」

(からかわれた···!)

顔を見れば、その顔に浮かんでいる笑顔もこれまでよりずっと明るい気がする。
その笑みに視線を奪われたまま、私は到着した電車に乗った。

【電車】

あまり人は乗っていなかったけれど、何となく座る気分にはなれずに並んで電車に揺られる。
肩触れそうで触れない微妙な距離。

(何を話そう···告白のあとって、どういうことを話すんだっけ?)
(呼び方を変える?後藤さんは教官だから、これ以上くだけた呼び方もできないし···)

後藤
サトコ

サトコ
「は、はい」

後藤
この先、揺れるから気を付けろ

サトコ
「あ、はい···」

(後藤さんは自然体なのに、私ばっかり意識しちゃって恥ずかしいな)

平静を取り戻そうとしていると、手に温かい感触が触れた。

(後藤さんから···手···)
(少ないとはいえ他に人がいるのに···でも、手をつなぐくらいで慌てる方がおかしい?)

後藤
······

傍らを見上げると、後藤さんは窓の外を見ていた。
夕陽のせいではなく、確かにその顔は少し赤い。

(後藤さんも···ドキドキしてくれてるのかな···)

横顔を見ていると、ますます私の鼓動は早くなっていって。
視線を外して、その手の温かさを感じているしかなかった。


【寮】

私たちは学校の最寄駅に着くまで、ずっと手をつないだままだった。
寮に着くころには日が沈んで空には星が瞬いている。

後藤
···今日はありがとな

サトコ
「私の方こそ···ありがとうございました」

後藤
ああ

サトコ
「······」

(何か···別れるの、寂しいな···)

これまでとは違う初めての経験する別れ難さ。
込み上げてくる気持ちが関係の変化を教えて、胸が甘く締め付けられる。

後藤
そんな顔するな。明日も会うだろ?

サトコ
「はい···」

(そうだよね。明日も学校で会えるんだから···)

後藤
···2人でいる時間も作る

耳元でコソッと囁かれ、私は頬を赤くして頷いた。

後藤
おやすみ

サトコ
「おやすみなさい」

後藤さんは私の頭にポンッと手を置くと、校舎の方に戻っていく。
熱くなった顔を抑えて、私も寮へと帰った。


【個別教官室】

(昨日はいろいろ思い出してたら、ほとんど眠れなかったんだよね)
(嬉しいせいか、全然眠くないけど···)

後藤
終わったか?

サトコ
「あ、はい!···もうちょっとです」

隣から声を掛けられて、弾けるように顔を上げる。

後藤
何をボーっとしてたんだ?

サトコ
「え、えっと···この間の演習で同じ班だった人は誰だったかなとか···」
「いろいろ考えてて、その···」

後藤
···全然違うこと考えてただろ?正直に言っていい

私の考えを見透かすように顔を覗き込まれ、少し身を引く。

(隠し事はできない···よね···)

公安の彼に誤魔化しが効くと思っている方が間違いなのかもしれない。

サトコ
「昨日のこと···思い出してたんです···」

後藤
昨日のこと?

サトコ
「ホームでのこととか、帰りの電車のこととか···」

後藤
······

小さな声で答えると、後藤さんは無言になってしまった。

(仕事中に余計なこと考えるなって思ってるよね···)

叱責を覚悟した私に、後藤さんは額に手を当てると、ため息をつきながらデスクに肘をついた。

サトコ
「後藤さん?」

後藤
俺だって仕事中は意識しないようにしてるんだ

サトコ
「え···」

こちらを見る後藤さんの顔も心なしか赤い気がする。

後藤
俺は何も感じてないと思ったか?

サトコ
「後藤さんはいつも通りに見えましたけど···」

後藤
思ってることを顔に出さないようにするのは仕事柄慣れているが···
俺だって、アンタと2人きりになって何も思わないほど堕ちてない

後藤さんの手が何度か迷ってから、私の手に重ねられた。

後藤
一応場所と立場は弁えようと思ってる

サトコ
「す、すみません···私が余計なこと言ってしまったから···」
「でも、そうですよね···気を付けます」

後藤
···学校以外では

サトコ
「え?」

後藤
学校以外では···俺のこと考えてくれ

サトコ
「は、はい···!」

胸の奥がきゅんと鳴った。
後藤さんのことを好きだと実感すればするほど、目がじんわりと滲む。

サトコ
「···私、すごく嬉しいです」
「後藤さんに好きになってもらえて···」

後藤
···俺も意志が弱いな

後藤さんは苦笑すると、私の肩に手を置く。

後藤
あんまり煽るなよ。俺も我慢してるんだ
学校では、こんなことしないと決めていたんだが···

吐息が触れる距離で見つめ合う。

サトコ
「後藤さん···」

後藤
たまには···破ってもいいか?

密やかな問いかけに、頷いて答えることしかできなくて。
その手が頬に移ると同時に、優しい微笑みが目の前に広がる。

後藤
好きだ、サトコ

後藤さんの言葉の1つ1つが宝物になって胸にしまわれていく。

サトコ
「私もです···」

想いを伝える言葉のあとに触れる唇。
場所も立場も忘れて、少しの間、私たちは恋人の時間を過ごしていた。

Secret End



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