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カレ目線 後藤6話



「アンタとなら、前に進める」

【屋上】

裏の問題は数多く残っているが、表面上は仙崎の事件に片が付いた。
警察庁に報告書を出し終え、そのまま一服するために屋上に向かう。

後藤
······

(···先客か?)

一柳昴
「後藤···」

後藤
······

(···最悪だ)

屋上でタバコをふかしていたのは一柳だった。

一柳昴
「そんな顔したいのはオレの方だ」

後藤
お互い様だな

(ここで引き返すのも癪だ···仕方ない)

一柳と間を空けてタバコを咥える。
火を点けようとするとライターのオイルが切れているのか、なかなか点かなかった。

(もう1つくらい持っていた気がするが···)

ポケットを探っていると、一柳の声が聞こえてくる。

一柳昴
「見苦しいんだよ」

俺にライターを投げた。
結局もう1つが見つからず、仕方なく火を点けて投げて返した。

後藤
ライター1つで恩着せがましい

一柳昴
「ちゃっかり借りといて文句いうんじゃねーよ」

後藤
······

一柳昴
「······」

(今回の事件では、こいつにも多少は世話になったからな)
(礼くらいは言っておいてやるか···)

後藤
今回はSPが役に立った。一応礼を言っとく

一柳昴
「もっと素直に感謝できねーのかよ、お前は」

後藤
お前の働きを考えれば充分だろ

一柳昴
「ったく···サトコもこんな野郎のどこが気に入ったんだか」

後藤
気安く名前を呼ぶな

一柳昴
「お前に関係ねーだろ。あいつはオレの生徒でもあるんだからな」

(お節介な一柳のことだ。サトコにもいろいろ話したのかもしれねーな)

後藤
仙崎を逮捕したことで、夏月の事件にも動きがありそうだ
まだ解決までは遠いが、膠着状態をようやく抜け出せる

一柳昴
「それはよかったな」

(夏月が一緒だった頃は、一柳ともよく話してたな)
(いや、夏月と一柳が話すのを聞いてただけか)

俺が公安課に移り、一柳が警護課に移って縁遠くはなったが、長い付き合いだ。

後藤
お前にも感謝はしてる
俺の力だけじゃ夏月の事件も追えなかっただろうし···
今回の任務が成功したのは、お前の訓練があったからだろう

一柳昴
「当たり前だが、気持ち悪ぃな。お前からストレートに礼を言われんのも」

後藤
素直に感謝しろって言ったのはお前だろ
文句の多い野郎だ

少しの沈黙が流れて、一柳がタバコの火を携帯灰皿に消した。

一柳昴
「結局、くっついたのか?根暗とお節介は」

後藤
お前には関係ない···と言いたいところだが
ちょっかいかけんなよ

一柳昴
「興味ねーよ。あんな田舎臭い女」
「ったく、どこに惹かれたんだか」

後藤
そうだな。たとえば···

一柳昴
「いや、いい。よせ」

後藤
お前が聞いてきたんだろ

一柳昴
「···よりによって警官を選ばなくてもいいだろうに」
「夏月と重ねるような馬鹿なことするなよ」

後藤
夏月とサトコは似てねーよ

一柳昴
「そうだな···」
「まぁ、夏月もホッとしてんだろ。お前が根暗から脱却し始めて」

後藤
······

(一柳に聞いても仕方がないことだろうが···)

誰かに聞くのは弱さだとわかっている。
それでも聞きたかった。

後藤
夏月は···俺が誰かを大切に想うことを許してくれるだろうか

一柳昴
「は?バカ言ってんじゃねーよ」

伏せていた視線を上げて一柳を見ると、一柳らしい笑い方で笑みを浮かべていた。

一柳昴
「夏月が、お前が幸せになるのを許さないような小さい女だと思うのか?」
「勝手な思い込みで夏月を嫌な女にするんじゃねーよ。それこそ悪ぃだろ」

後藤
···そうだな

(夏月は···人の不幸を願うようなヤツじゃない)
(俺のことも見守ってくれてる···か···)

自分でそう思っていても、一柳の口で肯定されてホッとしている。

(俺のまだまだ弱いな···)

一柳昴
「時間がかかるのはわかる。急ぐ必要はない。だけどな···」
「オレたちは夏月の分も生きていくんだ」
「あいつが心配しないように、幸せにならなきゃいけない」

後藤
······

(くそっ、こいつの言葉で泣くなんて絶対に嫌だってのに)

夏月を亡くして重ねてきた時間は一柳も一緒だ。
こいつもこいつなりに痛みを抱えていたのだろう。
同じものを見てきたから、その言葉は重い。

一柳昴
「オレが保証してやってもいい」
「夏月は···お前が幸せになることを願ってる」

後藤
······

一柳がそのまま屋上を出て行ってくれてよかった。
屋上のフェンスに背をもたれ、そのままその場に座り込む。

(夏月のことがあるからサトコを諦められるというわけではないが···)
(それでも···)

ようやくサトコに想いを伝える決心がついた。

(ひとりで決められなかったのは、情けねぇけど···それでも、そんな自分も今日までだ)
(サトコが憧れるような···夏月に情けないと思われない刑事になる)

タバコを消して目を閉じる。
真っ直ぐなサトコの気持ちと仲間たちが背を押してくれた。

(サトコに出逢わなかったら、復讐に固執して夏月まで見失うところだった)
(サトコが俺の気持ちと正面から向かい合ってくれたから···自分を見直せたんだな)

彼女が俺の目を覚まさせてくれた。

(夏月···お前はずっと俺の相棒だ)
(お前に胸を張れる生き方をする。だから···見守っていてくれ)


【屋上】

休憩しようと、買ったミネラルウォーターのペットボトルを持って屋上に戻ると、
サトコの頬の赤味もひいていた。

後藤
少しは酔いが覚めたみたいだな

サトコ
「はい。あ、今、藤咲さんから電話がありました」
「無事に広末さんを見つけたそうです」

後藤
俺には何の連絡もないぞ

サトコ
「後藤さんにも伝えておいてくださいって言われました」

後藤
ったく、まとめて済ませやがって

サトコ
「でも···私と後藤さんが一緒にいるってわかってたんですよね」

後藤
それはまぁ···そうだな

酒のせいではなく赤くなるサトコが可愛い。

サトコ
「一柳教官や広末さんたちと仕事をして、改めて自分の未熟さを知りました」
「学校でもっと訓練して学んで一人前の刑事を目指したいです」

後藤
頑張り屋のアンタならいい刑事になる

サトコ
「胸を張って後藤さんの隣にいられるように頑張ります!」

曇りのない純粋な目で見つめられると、
くすぐったさと同時に愛しさと独占欲が込み上げる。

(本当にサトコに惚れてるんだな···)

後藤
俺の前では女に戻っていいんだぞ

ポンッと頭に手を置くと、サトコは目を丸くした。

サトコ
「は、はい···」

みるみる頬が赤くなっていくサトコの頬に我慢できずに触れてしまう。

後藤
教官命令じゃなく、俺との約束だ

サトコ
「で、でも···」
「任務の時は、後藤さんの前でも立派な警察官でいられるようになりたいです!」

後藤
そうだな
訓練は手を抜かずに厳しくいくから覚悟していろ

サトコ
「は、はい!」

生真面目に頷くサトコにそっと唇を重ねる。

サトコ
「後藤···さん···」

後藤
好きだ、サトコ

微かに覚える胸の痛みは時間が解決してくれるだろう。
まだ全てが終わったわけではない。
やるべきことは残っているけれど、止まっていた時間がようやく動き始めた。
サトコが未来を歩む力を俺に授けてくれたから······

Happy End



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