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ふたりの絆編 後藤3話



【寺】

久しぶりの休日。
後藤さんと夏月さんのお墓参りを終えた帰りに、颯馬教官から連絡があった。
明日、教団に家宅捜索が入ると決定したらしい。

サトコ
「明日···随分、急ですね」

後藤
例の国籍不明だった男の素性が割れたそうだ。男の名は金山京太郎、37歳
金山は通名で日本人ではない。詳しいことは歩がまとめている最中だが···
その男が教団の武器密輸に深くかかわっている可能性が高いと判明したそうだ

サトコ
「金山がマンションを訪れた後の今が好機ってことなんですね」

後藤
教団内部に入っていた捜査員からも、内部で怪しい動きが見られているという報告もあってな
今なら押さえられると石神さんの判断だ

サトコ
「石神教官の判断なら間違いないですね!」

後藤
俺もそう思ってる。夜からは明日のための作戦会議だ
昼はしっかり食っておきたいな···
何か食いたいものあるか?

サトコ
「焼肉にしましょう!」

後藤
アンタ、ほんと肉好きだな

サトコ
「元気を出すときはお肉が一番です!」

(それに後藤さんが最初に連れて行ってくれたのが焼肉だったから···)
(私にとって特別元気が出る食べ物になっちゃったんだよね)

後藤
じゃあ、肉にするか

サトコ
「やった···!」

後藤さんは携帯をしまうと私と手を繋いで歩き出す。
久しぶりに感じる後藤さんの大きな手。
少し指先は冷たいのに、すっぽりと包まれて温かい。

(いよいよ明日突入···私もしっかり自分の役目を果たそう!)



【マンション】

翌日の早朝。
石神班は加賀班と合同で教団の部屋に家宅捜索に入った。

加賀
おい、クソメガネ!これしか証拠出てこねぇぞ!

颯馬
こちらが想定していた数よりずっと少ないですね

教団の部屋から銃器が見つかったものの、教官たちは厳しい表情を崩さない。

後藤
こちらの動きを勘付かれて、場所を移されたんでしょうか?

石神
いや···ここにあったのは初めから、この程度だったのだろう
今の段階では証拠品が回収できればいい。これで教団を表立って捜査できる

サトコ
「金山の姿も見えませんでしたね···」

教団の関係者は連行されたけど、その中に金山の姿はなかった。

(あの人が来てから、教団に動きがあった)
(武器の密輸に深く関わってるのは間違いないと思うけど···)

ベランダに出て様子を見てみると、マンションの前の茂みに人影を見つける。

サトコ
「金山!」

後藤
氷川、どうした?

サトコ
「金山がマンションの前をうろついています!」
「確保に向かいます!」

後藤
氷川!?

(見失わないうちに急がないと!)

【マンション前】

金山
「!」

私がマンションのエントランスから飛び出すと、金山も私に気付いたようだった。

サトコ
「待ちなさい!」

走り出す金山を追いかける。
何度も道を折れながら、入り込んだ先は近くの建設中のビルだった。

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【ビル】

サトコ
「確かに、ここに逃げ込んだはず···」
「出て来なさい!」

(隠れられるところはそんなにないはず···)

念のため、銃を構えながら階段を使って上の階に行こうとした時。
カツ···という靴音が背後から響いた。

金山
「···ウゴクナ」

サトコ
「!」

入口のドアの陰から金山が銃を手に現れる。

(しまった···!ドアの陰を最初に確認するべきだった!)

サトコ
「···大人しくしなさい。マンションの教団の部屋からは銃器が押収されている」
「あなたの仲間である教団関係者も任意で事情を聞かれています」

金山
「だからナンだと言うんだ?この状況ではワタシの方が有利に違いない」
「あんたにはココで死んでもらう。まずは銃を捨てろ」

サトコ
「···っ!」

(早撃ちで勝つしか···)

金山が引き金を引くより早く撃てれば助かるけれど。
恐怖と緊張で全身が強張って鼓動ばかりがうるさく聞こえる。

(でも···撃たなければ撃たれるだけ···)

一か八か賭けてみようと覚悟を決めた瞬間、部屋の空気が大きく動いた。

パンッ!

(え···!)

後藤
伏せろ!

サトコ
「きゃっ···!?」

弾けた銃声は、乾いた空気に響いただけ···
後藤さんの声が耳に届くと同時に、私は後藤さんと床に倒れ込んでいた。
そして私が立っていた場所を貫く銃弾。

サトコ
「教官···」

金山
「チッ!他にもいやがったのか!」

2対1になっては不利だと思ったのか、金山が建物の外に駆け出す。

後藤
待て!

サトコ
「待ちなさい!」

追いかけようと私と後藤さんもビルを飛び出すと、再び銃声が耳を貫いた。

サトコ
「!」

右肩に走る焼けつくような痛み。

サトコ
「う···っ」

後藤
撃たれたのか!?

金山
「チッ!外したか!」

肩を抑えながら膝をつくと、走り去る金山の姿が見える。

サトコ
「私は大丈夫です!金山を追ってください!」

後藤
···っ

後藤さんは一瞬追いかけようとしたものの、踏みとどまって携帯を取り出した。

サトコ
「教官!」

後藤
警官が1人負傷した。肩を銃で撃たれている。救護班を頼む

電話を切って、後藤さんは私の傍らに膝をつく。

サトコ
「ダメです!金山を追ってください!私は掠っただけですから!」

後藤
掠ったといっても、銃で撃たれてるんだぞ!油断するな!

サトコ
「後藤さん···」

後藤さんはポケットからいつも通りのくしゃくしゃのハンカチを出すと、
私の肩にきつく巻く。

(後藤さんの手···震えてる···)

後藤
······

救護班が駆けつけるまで、後藤さんは厳しい表情のまま私の肩を抱いてくれた。

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【学校 廊下】

病院へ搬送された私は手当てを受け、軽傷ということでそのまま帰ることができた。
まずは報告に行こうと教官室を訪れると、石神教官の怒声が聞こえてくる。

石神
お前は公安の捜査員としての自覚があるのか!

サトコ
「!」

遠くから聞いただけなのに、その声にビクリと身体が震えた。

(まさか···)

【教官室】

恐る恐る教官室を覗くと、石神教官と難波室長に叱責されている後藤さんの背中が見える。

石神
みすみす犯人を取り逃がすとは···俺の下で何を学んでいた

後藤
申し訳ありません

難波
訓練生だから放っておけなかったのか?

私に気付いた難波室長がこちらに視線を送ってから後藤さんに問いただす。

後藤
氷川はまだ一人前の捜査員ではありません
教官として、周囲の安全確認が出来ていない状況で
あの場に残すという判断はできませんでした

難波
それはつまり···彼女が一人前の公安捜査員になっていたら残せたという訳か?

後藤
······

石神
答えろ、後藤

後藤
···その状況になってみないとわかりません

背を向けている後藤さんの表情は見えない。
けれど、その声は絞り出されるような声だった。

(後藤さん、私を助けたせいで責任を問われてるんだ···どうしよう···)

難波
···まあいい。必ず、この責任は取らせるぞ

後藤
···はい

難波室長は戸口にいる私を一瞥すると教官室を出ていく。

(声をかけるなら今しかない!)

サトコ
「あ、あの···っ!病院から戻りました!」

石神
氷川、今日はもう帰れ

サトコ
「え···諸々の報告は···」

石神
後日、肩のケガが治ってからでいい。文書で提出しろ

サトコ
「わかりました···」

後藤
······

(後藤さん···振り向いてくれない···)

こちらから声をかけるわけにもいかず、私は肩を落として石神教官に一礼し背を向けた。

石神
氷川

サトコ
「は、はい」

石神
お前はケガが治るまで『タディ・カオーラ』の捜査から外れろ
潜入用の部屋にある私物は後日、寮の方に送ってやる

サトコ
「···わかりました。今日は私の失態でご迷惑をおかけし、申し訳ありませんでした」

(結局、後藤さんの足手まといになっただけで、何の役にも立てなかった···)

悔しさと情けなさで唇を噛みながら、私は拳を固めて教官室をあとにした。

【寮 自室】

サトコ
「ううん···なんにもないよ。お母さん元気にしてるかなって思っただけだから」

部屋に戻り、気が弱くなっているのか私は実家に電話をしていた。

(心配かけるからケガのことは言えないけど···声を聞くだけで、ほっとする)

サトコ母
『頑張るのはいいけど、無理しすぎちゃダメよ』
『本当につらくなる前に帰ってきなさいね』

サトコ
「うん···大丈夫。今度、長い休みがあったら帰るから。お母さんたちも身体に気を付けてね」

電話を切って、ベッドの枕に背を預ける。
体勢を変えるたびに三角巾で吊った右肩が痛むけれど、今は心の方が痛い。

(私がいたから、後藤さんは犯人を追えなかった···難波室長は責任を取らせるって言ってたけど)
(処分されるのかな···全ては私の責任だって言ってもダメかな···)

さっきはとても話せる雰囲気ではなかったけれど、石神教官に直接掛けあってみようかと考える。

(後藤さん···)

目を閉じればチラチラと浮かぶのは振り返らなかった後藤さんの背中。

(後藤さんにお礼と···ちゃんと謝りたい)

メールしてみようかと携帯を取ると、部屋のドアがノックされた。

(誰だろう?)

サトコ
「はい」

ベッドから起きてドアを開けると、そこに立っていたのは後藤さんだった。

サトコ
「後藤さん!?」

後藤
ケガの具合はどうだ?

サトコ
「大丈夫です。撃たれたと言っても掠っただけなので、外傷を手当てしただけで···」
「しばらくはこんな情けない姿ですけど」

後藤さんに部屋に入ってもらいながら、吊った右腕を見せる。

後藤
とりあえず片手でも食えそうなものを買ってきた。食欲はあるか?

サトコ
「そう言われるとお腹空いてるかも···」

後藤
薬飲むのに、何か食べないといけないだろ
栄養のあるものでも作れればいいんだが···すまない

後藤さんはテーブルに購買の袋を置く。

サトコ
「後藤さんが差し入れてくれただけで何倍も元気が出ます!」
「早くケガが治りそう···!」

後藤
大げさだろ

サトコ
「後藤さんは何か食べましたか?」

後藤
いや···俺も何も食べてない

サトコ
「それじゃ一緒に食べましょう!おにぎりやパンたくさん買ってきてくれたんですね」

後藤
アンタが何を食べたい気分かわからなかったから、適当に買ってみた

サトコ
「あ、お茶もある。お茶飲みたい気分だったんです」

ペットボトルのお茶を手にして、簡単にフタが開けられないことに気が付いた。

サトコ
「あ···」

後藤
俺が開ける。おにぎりとパンはどっちがいい?

サトコ
「えと···梅干しのおにぎり食べてもいいですか?」

後藤
梅干しだな。ほら

サトコ
「え!」

後藤さんは梅干しおにぎりの包みを開けると、私の口元に持ってきた。

(食べさせてくれるってことだよね···?)

<選択してください>

A:私も食べさせたいな···

サトコ
「後藤さんが食べさせてくれるなら、私も食べさせたり、とか···」

後藤
また今度な

後藤さんは代わりというようにポンッと頭を撫でてくれた。

サトコ
「はい···じゃ治ってからの楽しみにします」

B:左手で食べられます

サトコ
「左手で食べられますよ」

後藤
今はなるべく身体を動かさない方がいい。左手を動かせば右肩にも響くだろう

サトコ
「少しくらい平気です」

後藤
いいから、今は大事にしておけ

C:あーん

サトコ
「あーん···」

後藤
丸ごと1個入りそうな口だな

サトコ
「え!そんなに大きかったですか!?」

後藤
食欲があるのはいいことだ。ケガを早く治すには体力も必要だからな

後藤さんは私におにぎりを食べさせてくれる。

後藤
してほしいことがあれば言ってくれ。片手じゃ不自由だろう
飯は買ってくるし、風呂は···

サトコ
「ふ、風呂!?」

後藤
さすがに風呂までは入れてやれないか。やろうと思えば、できないことはないだろうが···

真剣な顔で腕組みをした後藤さんに私は首を振る。

サトコ
「だ、大丈夫です!それはまたいつか···ほ、他の機会に!」
「お風呂は困れば鳴子に手伝ってもらいますから!」

後藤
そうか、佐々木がいたな。俺からも佐々木に頼んでおく
次はパンを食うか?

サトコ
「自分でも腕の動かし加減を知りたいので、パンは自分で食べます」
「後藤さんも自分の分食べてください」

後藤
なら、パンの袋だけ開けておく

後藤さんはアンパンの袋を開けて手渡すと、自分も同じアンパンを食べ始める。

サトコ
「後藤さん···その···ありがとうございました」
「後藤さんが守ってくれなかったら、今頃···」

撃たれていたら···その先にあるものを想像して、キュッと左手で拳を作る。
その手に、優しく大好きな手が重ねられた。

後藤
···大丈夫だから。もう、怖くない

サトコ
「でも、私を助けたせいで責任を追及されることに···」

後藤
それは、サトコが気にすることじゃない。俺の判断だ

サトコ
「後藤さん···」

目を伏せてはいるものの、後藤さんの言葉は強い。

後藤
俺は間違った選択をしたとは思っていない
自分の責任は自分でとる。アンタは何も気にせず自分のケガを治すことだけを考えろ

サトコ
「···はい」

そう言われてしまうと、私もこれ以上言葉が見つからなかった。
おにぎりとパンを食べて薬を飲むと、後藤さんにベッドに入るように言われる。

後藤
食って寝るのが一番だ。困ったことがあれば、すぐに電話しろ

サトコ
「ありがとうございます」

後藤
おやすみ

私の頭にぽんっと手を置いて軽いキスをすると後藤さんは部屋を出ていく。
ベッドの中からドアを見つめて、ぎゅっと胸が締め付けられる。

(なんか心細いような···もっと傍にいてほしいような···)
(風邪で寝込んだ時に、お母さんにいてほしいのと同じ気持ちかな)

ソワソワする気持ちは鎮静剤のせいか、いつの間にか落ち着いて。
私はそのまま眠りに落ちてしまった。

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【病院】

翌日は午前中に病院に行き、午後から授業に出る予定だった。

(この時間ならバスで帰ろうかな···)

バス停の時間を確認しようと歩き出すと、私の前に車が停車する。

颯馬
送りますよ

サトコ
「颯馬教官!」

運転席の窓を開けて顔を出したのは颯馬教官だった。

【車内】

颯馬教官の車はクラシックが流れていた。

サトコ
「これ···フィガロの結婚ですか?」

颯馬
ええ。サトコさんはクラシック好きですか?

サトコ
「詳しくはないですけど···聴くのは好きです」

颯馬
『好き』という気持ちが一番大事だと思いますよ。どんなことでも

サトコ
「あの···教官は病院の近くに用事とかあったんですか?」

颯馬
ええ、捜査の所用で。時計を見たら、ちょうどサトコさんの診察が終わる頃かと思いまして

(タイミングピッタリなところが颯馬教官らしくて、すごいな)

颯馬
傷の方はどうですか?

サトコ
「化膿もしてないみたいで、順調に治ってるそうです」

颯馬
それはよかった。サトコさんが撃たれたと連絡があった時は肝が冷えましたよ

サトコ
「申し訳ありませんでした。私がもっと気を付けていれば···」

颯馬
銃を持った人間を追いかける時は、より警戒が必要です
貴女は訓練生ですからね。そういったことも、これから学んでください

サトコ
「はい。あの···後藤教官は大丈夫でしょうか?」
「私を助けたことで石神教官と難波室長から責任を問われていたんですが···」

颯馬
難しい判断だったのだと思いますが···貴女は彼の行動をどう思いますか?

サトコ
「え?」

颯馬
貴女の傍から離れず、救護班を呼び犯人を取り逃した···これを判断ミスだと思いますか?

<選択してください>

A:ミスだと思う

サトコ
「公安の捜査員としては失格だと思います」

颯馬
なら、後藤は処分されて当然だと?

サトコ
「···いえ。あの状況だったら、私も仲間を置いては行かないと思います」
「仲間を守れないのは刑事失格だと思うから」
「こんな答えをしたら石神教官には叱られますよね···」

B:ミスではないと思う

サトコ
「私はミスだとは思いません。私も同じ判断をしたと思います」
「ただ、公安の捜査員としては犯人確保を優先しなければいけなかったというのもわかります」

颯馬
つまり、後藤の判断は正しかったけれど、公安としては失格だったと?

サトコ
「そう思われても仕方ないと思います。でも···仲間を守れない人は刑事失格だとも思います」
「こんな答えをしたら石神教官には叱られますよね···」

C:判断できない

サトコ
「私には判断できません。犯人を取り逃がしたのが公安の捜査員として失格なのはわかります」
「でも···」

颯馬
でも?

サトコ
「仲間を守れない人は刑事失格だと思うから···だから判断ミスかはわかりません」
「ただ、私も負傷した仲間を置いて行くことはしないと思います」
「こんな答えをしたら石神教官には叱られますよね···」

颯馬
確かに石神さんには叱られるでしょうが···

フッと颯馬教官の笑う声が漏れて···車内の空気が軽くなった気がした。

颯馬
貴女は···それでいいのかもしれませんね

サトコ
「え···どういう意味ですか?」

問いの答えは颯馬教官の意味深な笑顔。
それ以上聞くこともできない雰囲気で、車はちょうど学校へと着いた。

to be continued



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