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愛しいアイツのチョコをくれ 石神2話

【学校 廊下】

(次の予定まで、時間があるな)

時計を確認しながら、サトコの姿を思い浮かべる。

(ちょうど講習会をしている時間だな···)
(様子を見に行ってみるか)

【講習会会場】

東雲
ハッキングをすると、相手に追跡される恐れがあります
なので中継点となる踏み台のパソコンを使って···

訓練生たちは、東雲の講義に熱心に耳を傾けていた。

東雲
このように、相手のパソコンに接続します

サトコ
「······」

サトコは東雲の話に合わせてパソコンを操作し、タイミングよくスクリーンが切り替わる。
東雲の傍らで、サトコは恙なくサポートをしていた。

(スクリーンに映し出されているのは、サトコが作った資料か)
(初心者にもわかりやすくまとめられている)
(さすが東雲が太鼓判を押しただけのことはあるな)

石神
······

(別に嫉妬をしているわけではないが···)

頼もしくサポートをするサトコを見て、ほんの少しだけある感情が過った。

(···ん?)

サトコ
「······」

サトコはしきりに東雲の様子を気にしている。

(何かあったのか?)

しばらくふたりの様子を見ていると、ふとある仮定が思いつく。

(昨日遅くに電話した時も起きていたな···遅刻でもしたか?)

それならば、どこか落ち着かないサトコの様子が納得できt。

(···まったく、褒美を用意した途端これだ)

サトコらしさに、苦笑する。

(まあ、あいつならすぐに挽回するだろう)

東雲
それじゃあ、氷川サトコさん。続き、説明してくれる

サトコ
「分かりました」

東雲に指示され、サトコが教壇に立つ。

サトコ
「相手のパソコンに侵入した際、痕跡を残さないためには···」

(···分かりやすい説明だ)
(こうして客観的にみると、改めてあいつの成長がうかがえる)

時間を見ると、いつの間にか次の予定が迫っていた。

(もうこんな時間になるのか)
(···急いで移動すれば、問題ない)

しっかりと後輩たちに教えるサトコは、とても頼もしい。
そんな彼女の誇らしい姿をもう少しだけ見ていたくて、この場に残ることにした。

【個別教官室】

教官室に戻った俺は、集中して事務仕事を進める。
ちょうど一息ついたタイミングで、部屋のドアがノックされた。

サトコ
「お疲れさまです」

石神
ああ、お疲れ

サトコ
「講習会、無事に終わりました!」

石神
そうか

サトコ
「あ、あれ?反応薄くないですか···?」

石神
講習会を見に行った。基本的にはよくやっていたが···
途中、東雲の様子をやたらと気にしていたな

サトコ
「そ、それは···」

石神
遅刻をしていただろう?

サトコ
「うっ···石神さんは、何でもお見通しなんですね···」
「で、でも、厳密にいうと遅刻はしてないです!ギリギリ間に合いましたから」

石神
胸を張って言うことではないだろう

サトコ
「うっ···」

石神
···まあ、よくやっていたのは確かだ。これからもその調子で励め

サトコ
「は、はい!」

最後にそう締めると、サトコは笑顔を見せる。

サトコ
「実は報告以外にも、石神さんに用があって···」

そう言いながら、紙袋を差し出してきた。

サトコ
「今年はバレンタインをやらないって、石神さんに聞かれちゃいましたが···」
「卒業前の最後のバレンタインなので、どうしても石神さんに渡したかったんです」

東雲の手伝いで、ここ最近のサトコはかなり忙しかったはずだ。
それでも合間を見つけて、こうして用意してくれたのだろう。

(ああ、そうだ···サトコはそういう奴だ···)

石神
ありがとう。開けてみていいか?

サトコ
「はい!」

断りを入れて、紙袋から箱を取り出す。
そして蓋を開けてみるとーー

石神
これは···

(かなり溶けているが···トリュフ、か?)

サトコ
「す、すみません!こんなはずじゃ···」
「作り直すので、いったん返して···」

石神
······

サトコ
「あっ···」

制止の声を無視して、トリュフを口に入れる。
優しい味わいが口の中に広がった。

石神
美味い

サトコ
「本当ですか···?よかった···」

ほっと胸を撫で下ろすサトコに、笑みを返す。

石神
明日はオフだったな?

サトコ
「はい、そうですけど···」

石神
夕方から会おう。時間を空けておけ

サトコ
「!」

デートの誘いに、サトコは顔を輝かせる。
そんなサトコの表情を見ているだけで、自然と頬が緩んだ。

【バー】

石神
乾杯

サトコ
「乾杯」

翌日、サトコを連れてきたのはラグジュアリーホテル最上階にあるBARだった。

サトコ
「こんな素敵な場所で石神さんと過ごせて、嬉しいです」
「でも···いつから用意していたんですか?」

石神
それは···

石神
桂木さん、少しいいでしょうか?

桂木大地
「ああ、どうした?」

石神
先程の話ですが···
もてなすバレンタインというのは、どういうものでしょう

桂木大地
「珍しいな、石神がそんなことを気にするなんて」

石神
まあ、色々とありまして···

桂木大地
「そうだな···」

桂木さんは俺の返答にかすかに笑みを浮かべて、思考を巡らせる。

桂木大地
「相手が喜ぶことをする···これが一番だろう」

石神
喜ぶこと···?

桂木大地
「ああ。独りよがりのプレゼントでも相手任せでもなく、な。お互い対等なわけだから」

石神
···サトコの喜ぶ顔が見たくなったから、だ

サトコ
「!」

サトコは目を瞬いて、嬉しそうにはにかむ。

(ああ、これだ。俺が見たかった顔は···)

グラスに口をつけながら、ふと周りのカップルに目を留めた。

(やはりこういう場所だと、カップルが多いな)

サトコは俺の視線を辿り、苦笑しながら口を開く。

サトコ
「皆さん、華やかな格好をしていますね。私なんて、地味なスーツを着て来ちゃって···」

石神
どこに連れて行くか話していなかったからな
だが、お前はそれでいい。あまり着飾って、他の男に注目されても困る

サトコ
「···!」

サトコの頬が、みるみるうちに赤く染まっていく。

(これは···酒のせいだけではないな)

サトコ
「···ずるいです、そんなこと言うの」

石神
本当のことだからな

そう返し、カウンターの下でサトコの手に触れる。
指を絡めながら、そっとサトコに頬を寄せた。

石神
部屋を取っている

サトコ
「は、はい···」

頬を赤らめるサトコを、抱きしめたい衝動に駆られる。
それを堪えるように、繋がれた手に力を込めた。

【部屋】

サトコ
「わぁ···!」
「石神さん、見てください!すごく綺麗な夜景···」

サトコは部屋に着くなり、窓際に移動して夜景を眺める。

サトコ
「バーだけじゃなくて、こんな素敵なところに泊まれるなんて···」
「ふふ、夢みたいです」

石神
喜んで貰えたみたいだな

後ろから抱きしめると、窓に映るサトコの顔が目に入る。
窓越しに目が合い、サトコは嬉しそうにはにかんだ。

(···サトコにはいつまでも、こうして笑っていてほしい)

石神
夜景もいいが、俺の方も見てほしい

サトコ
「はい···」

ゆっくり振り向くサトコの唇に、キスを贈る。

サトコ
「ん···」

次第に深くなっていくキスに、サトコは俺の肩をそっと押した。

サトコ
「シャワーを浴びたいです···」

石神
一緒にか?

サトコ
「べ、別々に!です!」

石神
フッ、わかっている

最後に触れるだけのキスをして、サトコをバスルームに行くよう促した。

シャワーを出ると、サトコがベッドに腰を掛けていた。
傍らにあるテーブルには、フルーツが置かれている。

サトコ
「石神さん、フルーツがありますよ。食べませんか?」

石神
ああ

サトコの隣に座り、イチゴをひとつ摘む。

石神
サトコ

サトコ
「あ···」

唇にそっと押し当てると、サトコはそのままイチゴを食べた。

石神
美味いか?

サトコ
「はい···」

こくりと頷くサトコに、もうひとつイチゴを食べさせてやる。
すると指先に、サトコの唇が触れた。

石神
······

形のいい唇を指で辿り、ぺろりと舐め取る。

サトコ
「っ···」

(また頬を赤らめて···この表情が俺を煽っていると、わかっているのか?)
(それなら···)

おもむろにサトコの手を取り、手首の内側にキスをする。

サトコ
「い、石神さん···」

石神
なんだ?

サトコ
「くすぐったいです···」

石神
そうか···

サトコ
「あっ···」

腕のラインを辿るように、唇を這わせる。
こそばゆいのか、時折サトコの声が声を漏らした。

石神
サトコ···

サトコ
「ん···っ」

唇を塞ぎ、サトコの背をベッドに沈める。
舌を絡めながら、ゆっくりとサトコのガウンを脱がしていった。

サトコ
「ん···あ···っ」

柔らかな肌に指を滑らせると、甘い声が漏れる。
感じるたびに肩が跳ねるサトコが可愛らしくて、笑みを深めた。

サトコ
「石神、さん···」

名前を紡ぐ唇を優しく塞ぎ、サトコの背中に腕を回す。
俺たちの熱は溶けあうように、ひとつになっていったーー

【教官室】

翌日ーー

黒澤・難波
「はああ···」

石神
ふたりして肩を落として···どうかされたんですか?

黒澤
聞いてくださいよ!サトコさんからバレンタインチョコもらえなかったんです!

難波
俺なんて、室長なのにもらえてないんだぞ?

サトコ
「す、すみません。色々と忙しくて、準備する時間が···」

東雲
まあ、オレはもらいましたけど

黒澤
なんですって!?もしかして、サトコさんの本命は歩さ···

サトコ
「ち、違います!講習会でお世話になったから、それで···」

石神
······

(俺だけかと思ったが、東雲にも渡してたのか···)

東雲
なんですか、そんなにじっと見て

東雲は挑発的な笑みを浮かべる。

東雲
石神さんに関係ありました?

石神
···あるわけないだろう

ふいに、サトコと視線が絡み合う。
周りに気付かれぬよう隠れて手を合わせ、謝罪のポーズを見せてくる。

(全く···馬鹿だな)
(東雲も確かにチョコをもらったかもしれないが···)

あの夜を想い返し、口元に笑みを浮かべる。
彼女と過ごした甘い時間は、確かに俺だけのものだ。

Happy End

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