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ヒミツの恋敵編 後藤2話



【廊下】

学校の階段で足首を軽く捻ってしまい、そこに現れたのは一柳教官だった。
半ば強引に肩を借りることになり、教官室に向かっていると···

一柳昴
「どうも、お前はトラブルの神様に好かれてるらしいな」

サトコ
「え?」

一柳教官の視線の先にいたのは後藤さんだった。

後藤
サトコ、一柳···

サトコ
「後藤さん!」

一柳教官に肩を借りている私を見て、後藤さんはその目を見張った。

後藤
······

サトコ
「あ、あの、これは···っ」

一柳昴
「お前の補佐官、借りてるぞ」

一柳教官は私の腕を一際強く引き寄せる。

サトコ
「い、一柳教官!?」

後藤
···ここはお前の来る場所じゃねぇだろ。さっさと帰れ

後藤さんはツカツカとこちらに歩いてくると、私を一柳教官から引き離す。

一柳昴
「残念だったな。お前ら教官が頼りねぇから、特別講師で呼ばれてんだよ」

後藤
お前が教えるのは、部屋の掃除の仕方か?

一柳昴
「お前は幼稚園にでも戻って、片付けの仕方を習った方がいいだろうな」

後藤
···てめぇは小姑か

一柳昴
「なら、てめぇはズボラ嫁かよ」

サトコ
「それじゃ、私は···」

<選択してください>

 A:夫ですね! 

サトコ
「さしずめ、夫というところですかね!」

後藤
アンタ···

一柳昴
「お前、意外に大胆だな」

サトコ
「え、あ、つい···」

後藤さんと一柳教官にマジマジと見つめられ、はっとする。

(ノリで答えちゃったけど、恥ずかしい!)

 B:姑ですね! 

サトコ
「さしずめ、姑ですね!」

後藤
そういう話じゃないだろ

一柳昴
「ああ、違うな」

後藤
そこは夫だろ

一柳昴
「そうなのかよ!」

後藤
あ、いや···

サトコ
「後藤さん···」

(大胆な発言を!)

私と後藤さんは顔を見合わせて、互いに顔を赤くする。

 C:舅ですね! 

サトコ
「さしずめ、舅ですね!」

後藤
いや、違うだろ

一柳昴
「そういう話じゃねぇ」

後藤
そもそも性別が違う

一柳昴
「ツッコむのそこかよ!」

サトコ
「······」

(後藤さんと一柳教官のやりとりって面白いかも···)

サトコ
「話は逸れましたけど、一柳教官は私を助けてくれたんです」
「階段を下りている時に足を捻ってしまって」

後藤
大丈夫なのか?

後藤さんが心配そうに、その顔を曇らせる。

サトコ
「はい。一柳教官のおかげで、すぐに冷やすことができたので」

一柳昴
「そういうことだ。そんなに大事なら、ヘマしないようにしっかり鍛えとけ」

後藤
お前に言われるまでもない

一柳昴
「そもそもファイルくらい自分で運べっての。ほらよ」

一柳教官は持っているファイルを後藤さんに押し付けると背を向けた。

サトコ
「一柳教官、ありがとうございました!」

私の声には振り返らず、軽く肩手を上げて去っていく。

サトコ
「一柳教官って、やることがいちいちカッコいいですよね」

後藤
···アンタもああいうのが好きなのか?

ポツリと呟かれ、私は慌てて手を振る。

サトコ
「あ、いえ!これはあくまで一般論の話で!」
「私には···後藤さんが一番カッコいいです···」

後藤
···これからもそう言われるように、頑張らないとな

目が合うと、なんとなく照れ臭い。

(でも、私にとって一番カッコいいのは本当に後藤さんだもんね)

後藤
足、教官室で手当てしよう。シップくらいあったはずだ

サトコ
「すみません。本当に軽く捻っただけなんですけど」

後藤
早目の手当てが大事だ···肩、貸すか?

サトコ
「それは本当に大丈夫です!」

後藤
なら、腕に掴まれ

サトコ
「じゃあ···ちょっとだけ···」

腕を差し出す後藤さんの申し出を断れず、私はその腕に掴まって教官室まで歩いた。



【講堂】

翌日の朝礼では、今回新しく赴任する臨時教官の紹介が行われている。

石神
これまでは特別講師として講義を受け持ってもらっていたが···
今回はより指導内容を深めるために、一柳警部には臨時教官として入ってもらうことになった

一柳昴
「よろしく」

(一柳教官が正式に臨時教官に!それで、昨日から学校に来てたんだ)

石神
また、東雲教官が一時的に出張のため、代わりに講義を受け持つ教官を紹介する
岡田教官だ

岡田
「岡田聡(さとし)です。よろしくお願いします」

石神
岡田教官はデータ解析のスペシャリストとして、実践的な訓練を実施していく
各臨時教官の指示に従い、訓練に励むように

一柳教官と岡田教官を含む計5人の臨時教官の紹介で、朝礼は終わった。


【廊下】

鳴子
「臨時教官も入って、ますます厳しくなりそうだね」

サトコ
「うん。私たちも気合い入れ直して頑張らないと!」

鳴子
「一柳教官とか他の臨時教官たちは前に講師で来てるけど、岡田教官は初めてだよね」
「どんな人なんだろう?」

サトコ
「うーん···挨拶の感じだと、見た目からして怖そうってタイプじゃないみたいだけど」

すると、ちょうど後ろから早足で岡田教官が私たちを追い抜いて行く。
カツカツという早い足音が印象的に耳に残る。

サトコ
「岡田教官!」

岡田
「···なにか?」

サトコ
「これからよろしくお願いします!」

岡田
「よろしく。ただ···」

岡田教官は眼鏡の奥の目を軽く伏せた。

岡田
「私は長くはいませんから」

サトコ
「え···」

岡田
「けれど、在籍中は精一杯講義をさせてもらいます。一緒に頑張っていきましょう」

サトコ
「はい!」

かすかに笑みを浮かべると、岡田教官は再び早足で廊下を歩いていく。

鳴子
「長くはいないって···他の臨時教官に比べて短期間なのかな?」

サトコ
「東雲教官が出張をしてる間の代理って言ってたから···そうなのかもね」

(短い間でも、東雲教官とはまた違ったことを学べるかもしれない)
(データの解析は私の苦手分野だし、岡田教官の講義もしっかり聞こう!)

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【教官室】

その日の講義を終えて、教官室に行くと···

後藤
入ってる情報はそれだけか?

一柳昴
「ああ。今、そらと海司がターゲットに接触して情報を集めてる」

部屋に入った途端、ぴりっとする空気。
後藤さんが座ってパソコン画面を見ていて、それを横から一柳教官が覗き込んでいる。

(何か事件が起きてるんだ)

サトコ
「失礼します」

後藤
サトコか。少し待っていてくれ

一柳昴
「···いいのか?」

後藤
これは、こちらで片付ける問題だ

一柳教官が私にチラッと視線を送り、再び液晶に視線を戻す。

(私には手伝えない事件なのかな)

訓練生である以上、教官からの要請がなければ事件に首を突っ込むことは出来ない。
私は1歩後ろに下がり、後藤さんと一柳教官の横顔を見つめる。

後藤
周辺の状況把握には黒澤が行ってる

一柳昴
「黒澤なら、そらと海司と鉢合わせても上手くやるだろ」

後藤
ああ

(後藤さん、なんだかんだ言いながらも、黒澤さんのこと信頼してるんだよね)

日頃は叱ったり軽口を交わしてばかりだけれど、
こういう時に、大きな信頼を置かれているのがわかる。

後藤
今回の肝は警護対象の絞り込みと現場の把握か

一柳昴
「オレが行く」

後藤
お前が?行けるのか?

一柳昴
「行くしかねーだろ。他に誰に任せんだよ」

後藤
···そうだな

2人とも互いの顔は見ていない。
顔はパソコンの画面を見ているけれど、まるで互いの表情まで分かっているような話し方だった。

後藤
わかった。警護対象の絞り込みと現場はお前に任せるぞ

一柳昴
「ああ。今回は情報戦になる。妙なとこで情報止めんなよ」

後藤
わかってる。なにがあっても、俺の判断で情報を出してやる

一柳昴
「事件が解決する頃には、始末書の山だな」

後藤
その時はお前も手伝え

一柳昴
「断る。そこまで含めて、お前の仕事だろ」

後藤
ったく···お祭り課は気楽でいいな

一柳昴
「おかげさまで仲間に恵まれてるからな」

ニッと笑い合う後藤さんと一柳教官。
最後はいつものやり取りになっているけれど、そこに見えるのは深い信頼の絆。

(顔を合わせればケンカばかりだと思ってたけど···)
(捜査になると、これ以上ないパートナーなんだな)

後藤さんの相棒を目指す私としては、一柳教官はまさに憧れの人だった。

【裏庭】

まだ話し合いが続いている後藤さんと一柳教官に、私は早々に教官室を後にした。
裏庭のベンチに座り、先ほどの2人のやり取りを思い返す。

(前に、現場で見た2人も凄かったけど)

思い出すのは、仙崎大臣の事件の時。

一柳昴
「間に合ったか」
「パジャマ野郎のパジャマに穴が空くところも見たかったけどな」

後藤
これがパジャマに見えるとは、お前の老眼もかなり進行したんじゃないか?

サトコ
「一柳教官···議員たちと解放されたんじゃ···」

一柳昴
「議員たちを先に外に出して、オレたちは建物内に潜んで突入の機会をうかがっていた」

そら
「こんなに早く突入することになるとは思わなかったけどね」

後藤
突入の合図を作れと言ったのはお前らだろ
臆病者が逃げてないかと冷や冷やだったがな

(あの時の連携は、さすがとしか言いようがなくて···)
(でも、捜査の打ち合わせの時も2人は阿吽の呼吸なんだな)

サトコ
「···私もいつか、後藤さんとあんなふうになれるかな」

後藤さんと一柳教官は古い付き合いだ。
過ごしている時間が違うのもわかる。

サトコ
「まだ、遠いなぁ···」

そう呟いた時、近くで芝生を踏みしめる音が聞こえた。

黒澤
お疲れですか?

颯馬
ふふ、まるで恋煩いでもしているようですね

サトコ
「え!?」

石神
こんなところで、ぼんやりしている余裕があるのか?

サトコ
「石神教官に颯馬教官に、黒澤さん!」

石神教官の出現に、私はぴっと背筋を正して立つ。

サトコ
「後藤教官は一柳教官と捜査についての話し合いをしているようなので」
「私はこれから自主練に向かいたいと思います」

黒澤
あれ、一柳警部、こっちで後藤さんとコンタクトとってるんですか?

石神
後藤がSPルームに行く時間がとれないからだろう
桂木班の動きは大体予測できる。後藤と一柳の間で了承がとれていればうまく進むはずだ

サトコ
「そこなんですよね···」

石神
ん?

颯馬
思わせぶりな呟きですね

思わず出た声を石神教官と颯馬教官に拾われる。

石神
何が、そこなんだ?

サトコ
「あ、いえ···後藤教官と一柳教官の連携って凄いなって思って···」
「さっきまで、お2人のやりとりを見ていたんですけど、その信頼と絆には驚きました」

黒澤
後藤さんと一柳警部は犬猿の仲ですけど、組ませれば警察最強かもしれないですからね~

サトコ
「やっぱり、皆さんもそう思ってるんですね」

石神
あの2人は腐れ縁でもあるからな···嫌でも、お互いのことがわかっているんだろう

颯馬
本当に···反発し合うくせに、どっちかがいないと落ち着かない···

颯馬教官が懐かしそうに、その目を細めた。

(颯馬教官は刑事課時代から、後藤さんと一柳教官のことを知ってるんだっけ)

颯馬
···うっかり恋が芽生えるパターンですね

サトコ
「え!?」

颯馬
男と女なら···ですよ

サトコ
「あ、ですよね···」

颯馬
貴女が憧れるのもわかります
ただ、仕事で上手くいく相手が “恋人” として上手くいくか···は、また別問題だと思いますが

私を見て、ニコリと颯馬教官は笑う。

( “恋人” ってところを強調された気がするのは···き、気のせいだよね?)

石神教官がそのメガネの奥の目を細める。

石神
長所も短所も知り尽くしている···そういう意味では組みやすいのかもしれないな

黒澤
石神さんと加賀さんがそこまでいかないのは、お互いの長所を認めないからですよね~

石神
······

黒澤
いたっ!無言のデコピン禁止!

(そう言われれば、石神教官と加賀教官の関係とも似てるのかも)

石神
···一柳のようになりたいか?

<選択してください>

 A:一柳教官のようになりたい 

サトコ
「···はい。一柳教官のようになりたいです!」

石神
なら···

黒澤
徹底的な家事能力を身につけることですかね!

サトコ
「え?」

黒澤
一柳警部の力の源は、あの女子力···

サトコ
「女子力!?」

石神
黒澤の言うことをいちいち真に受けるな

サトコ
「は、はい···」

頷く私に石神教官はふっと笑った。

 B:私には無理です 

(なりたいけど、そう言うのは図々しいと思われるかも)

サトコ
「私には無理です」

石神
口に出さなければ、叶わない願いというのもある

サトコ
「!」

(石神教官には見抜かれてる···)

石神
目指すものがあるなら、そこまで辿り着くしかないな

サトコ
「はい!」

頷く私に石神教官はふっと笑った。

 C:あの強引さは、ちょっと 

(一柳教官には憧れるけど、率直にそう言っていいものか···)

迷って、私は少し的外れな答えをしてみる。

サトコ
「あの強引さは、ちょっと···」

黒澤
あー、わかります。でも、あの強引さあってこその一柳教官ですからねぇ

石神
あの性格にならずとも、一柳の場所を目指すことは出来る
自分の目標を達成するために、必要なものをしっかりと見極めろ

サトコ
「···はい!」

頷く私に石神教官はふっと笑った。

石神
目指すものがあるというのは、いい
それが一柳となれば···色んな意味でお前の将来が楽しみになる

黒澤
サトコさんが女版一柳警部になってしまうんですか!?

颯馬
それは、なかなか···

石神
なれれば、大したものだな

黒澤
そんな!それはちょっと···心優しいサトコさんが···
いえ、別に一柳警部が優しくないわけじゃないですけど!

石神
性格の話は置いておけ

石神教官が肘で黒澤さんにツッコミを入れる。

(最近思ったんだけど、黒澤さんってわざとツッコまれてるような···)

サトコ
「武道場での自主練に向かいます!」

石神
ああ

颯馬
頑張ってください

黒澤
頑張ってください!

(石神教官の言う通り、目指すものがあるなら、そこに邁進するのみ)
(今の私に出来ることを頑張ろう!)


【廊下】

それから数日後。

(あ、後藤さん)

先日から後藤さんは忙しく、ゆっくり話をする間はほとんどなかった。

サトコ
「お疲れさまです!」

後藤
お疲れ。アンタの方は順調のようだな

サトコ
「はい。あの、後藤さんの方は···あれから進展ありましたか?」
「もし、私に···」

後藤
あれはこっちの問題だ、心配するな

言葉の先を遮るように、後藤さんは短く答える。

一柳昴
「後藤、ちょっといいか?」

後藤
ああ、今行く

廊下の向こうから呼ぶ一柳教官に、後藤さんは顔を向けた。

後藤
じゃ、またな

サトコ
「はい」

一柳教官の方に向かう後藤さんの背を見つめる。

(一柳教官みたいになれたら、補佐官としてももっと後藤さんを支えられるのに)

私には今、後藤さんの考えが読めない。

(捜査に参加させてもらえなのは···)
(私じゃ役に立たないと思ってるのか、それとも危険だと思ってるのか)
(訓練の方を優先するべきだと思ってるのか···)

私はまだ口に出してもらわなければ後藤さんの気持ちがわからない。

(後藤さんと一柳教官は言葉がなくても分かり合ってた)
(私も、あんなふうになりたい)

遠ざかっていく2人を私はじっと見つめていた。

to be continued



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