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ヒミツの恋敵編 後藤5話



【SPルーム】

次の日の空き時間。
私は総理官邸のSPルームを訪れた。

(ここで一柳教官に会えればいいんだけど···)

サトコ
「失礼します」

ノックしてSPルームのドアを開けると、広末さんがひとり待機している。

広末そら
「あれ?サトコちゃん···どうしたの?」

サトコ
「一柳教官に会いに来たんですが···」

広末そら
「ああ、昴さんだったら···」

広末さんは少し困ったような顔をして、言葉を濁す。

(この様子は···広末さんも一柳教官の事情を知ってるのかな)

サトコ
「一柳教官が大変なことは知っています」

広末そら
「そっか···今、公安の方が主導で話し進んでるもんね」
「後藤さんの補佐官だっていうサトコちゃんの耳には入るか」

サトコ
「私、どうしても一柳教官から話を聞きたくて···」

広末そら
「それって、そっち側の捜査?」

広末さんの瞳が鋭く光る。

(広末さんも一柳教官のことを心配してるんだ)

私は広末さんにハッキリと首を振る。

サトコ
「捜査じゃありません。私は一柳教官のことを信じてます」
「だから、直接話を聞きたくて···これは私の独断です」

広末そら
「今の昴さんに上の許可なく接触したら、問題になるかもよ」
「特にそっちは厳しいだろうから」

(広末さんの言う通り···室長には···)

難波
動きがあれば、また連絡する。それまでは待機だ

(待機って言われたのに、一柳教官に話を聞きに行ったら罰せられるかもしれない)
(でも···)

サトコ
「それでも構いません。私は一柳教官が犯人だとは思いません」
「だから、真犯人を捜すためにも一柳教官から話を聞きたいです」

(本当は後藤さんと一緒に行きたかったけど)
(後藤さんが行かないなら、私がひとりで行くしかない)

広末さんの目を真っ直ぐに見て告げると、その顔にいつもの明るい色が戻った。

広末そら
「サトコちゃんなら、昴さんの力になれるかも」
「オレらも何かしたいんだけど、何せ公安のガードがガチガチで困ってたんだ」

サトコ
「必ず真犯人を見つけてみせます!」

広末そら
「昴さんは今謹慎中で、自分の家にいると思う」
「昴さんの家教えるから···行ってみる?」

サトコ
「はい!」

広末そら
「こんな時だから、簡単に会ってもらえないかもしれないけど···」

サトコ
「そこはきちんと説明して、分かってもらえるまで頑張ります」

広末そら
「うん···頑張って!」

一柳教官の住むマンションを記したメモを広末さんから受け取る。
そのメモを片手に、私は一柳教官の部屋に向かった。



【マンション前】

(凄い高級マンション···セキュリティも完璧みたい)

まずはオートロックの鍵を開けてもらうところからだと、私は一柳教官の部屋番号を押す。
カメラで確認したのか、しばらくして一柳教官の意外そうな声が聞こえてきた。

一柳昴
『お前···何の用だ?』

サトコ
「一柳教官と話がしたくて来ました」

一柳昴
『···後藤の差し金か?』

サトコ
「違います。私の独断です」

一柳昴
『······』

サトコ
「後藤さんにも難波室長にも、今は動くなって言われました」
「でも、私は真犯人を見つけたい···そう思って、広末さんから一柳教官の家を聞いて来たんです!」

一柳昴
『そんなとこで話てても仕方ねぇ。とりあえず、入れ』

サトコ
「はい!」

(入れてもらえた!)

オートロックのドアが開き、私はマンションの中へと入った。


【リビング】

一柳昴
「入れ」

サトコ
「失礼します」

一柳教官の部屋に入った途端感じる、部屋のいい香り。

(部屋の中、完璧に片付けられてる!小物とかも綺麗に置かれてるし···)

サトコ
「一柳教官の部屋、すごく綺麗ですね」

一柳昴
「お前は後藤と一緒にいるから、綺麗のハードルが下がってんじゃねぇか?」

サトコ
「私の部屋よりも奇麗ですよ。彼女さん、マメな方なんですね」

一柳昴
「······」
「···何か飲むか?」

サトコ
「いえ、お構いなく」

(一柳教官、彼女さんの話題になると一瞬黙っちゃう気がするけど···照れてるのかな?)

ほどなく一柳教官が紅茶を運んできてくれた。

サトコ
「すみません。押しかけて、お茶までいただいてしまって」
「いい香り···何の紅茶ですか?」

一柳昴
「カモミールティーだ。リラックス効果がある」

一柳教官は私の向かいのソファに腰を下ろす。

一柳昴
「···で、オレに話って?」

サトコ
「情報漏洩の件です。私は一柳教官が犯人だなんて思っていません」
「真犯人に心当たりはありませんか?」

一柳昴
「お前···」

身を乗り出して聞くと、一柳教官は軽く目を見開いてから苦笑を浮かべた。

一柳昴
「単刀直入すぎねぇか?」

サトコ
「でも、今さら言葉だけ取り繕っても意味がない気がしたので···」

一柳昴
「ま、その通りだ。その方が話も早い。オレも単刀直入に答えてやるよ」

一柳教官の目が真っ直ぐに私を捕える。

一柳昴
「誰かにハメられた。証拠が出たって一方的に告げられ、有無を言わさずにこのザマだ」
「お前ら公安は、もう少し人の話を聞くってことをしたらどうだ?」

サトコ
「すみません···」

一柳昴
「お前に言っても仕方ねぇけどな」
「真犯人とやらは、オレも突き止めたいが···謹慎中で身動きが取れねぇ」

天井を見上げた一柳教官がソファに深く沈む。

サトコ
「捜査ができないのは、もどかしいですよね···」

一柳昴
「やってないなら証拠が出ないってのがフツウだけどな」
「今回はオレも知らねぇ証拠が出てる」

サトコ
「それはどんな証拠なんですか?」

一柳昴
「これだ」

一柳教官が数枚の写真をテーブルに置いた。

サトコ
「これは···学校のモニタールーム?」

一柳昴
「オレが公安学校のモニタールームに忍び込んでる写真らしい」
「オレはモニタールームなんて行ったことねぇけどな」

サトコ
「じゃあ、これは···合成写真?」

一柳昴
「出来にはオレも感心する」
「実際、モニタールームにあるパソコンにハッキングの形跡もあるらしい」
「写真を解析して、それが撮られた時間とハッキングの時間が合致してるそうだ」

サトコ
「随分と手の込んだことをしてるんですね···」

一柳昴
「相手も素人じゃないのは確かだ」
「何とかして自分で動かなけりゃ···このままじゃ、相手のいいようにされるだけかもしれねぇ」

その瞳に浮かぶ悔しそうな色。

サトコ
「一柳教官が動けないなら、私が代わりに動きます!」
「指示を出してください!」

一柳昴
「本気で言ってんのか?お前は公安側の人間だろ」

サトコ
「そうですけど、事件の真実を暴くのに公安も警視庁もありません」
「真犯人を見つけるためなら、動きます!」

一柳昴
「···そうすることで、お前の立場が危うくなることもわかってんのか?」

(目の前で事件が起きていても、任務のためなら見過ごさなきゃいけないのが公安刑事···)
(でも、冤罪だとわかっていて黙ってることはできない!)

心配するような一柳教官の声に、私は覚悟を決めて頷いた。

サトコ
「もともと私の立場なんて大したものじゃないですし」
「濡れ衣を着せられている一柳教官を見過ごすことなんてできません!」

一柳昴
「······」

不意に真剣な表情になった一柳教官がじっと私を見つめてくる。

(一柳教官?)

一柳昴
「お前···何で、オレのことそんなに心配してくれるんだ?」
「正義感だけで動くにはリスクが高すぎだろ」

サトコ
「それは···」

(理由なんて深く考えなかったけど···)

サトコ
「···ちゃんとした答えになってるか、わかりませんけど」
「後藤さんと一柳教官の絆を信じているからだと思います」

一柳昴
「オレと後藤の?」

サトコ
「はい。後藤さんのかけがえのないパートナーである一柳教官が犯人なわけがない」
「そんな汚名を着せられているのが許せないというか···」

(後藤さんと一柳教官の絆まで傷つけられるような気がしてるのかな···)

サトコ
「すみません。ちゃんと説明できなくて」

一柳昴
「いや···」

一柳教官は向かいのソファから立ち上がると、私の方にやってくる。

一柳昴
「お前···本当にオレの下に引き抜いてやろうか?」

サトコ
「え?も、もう、真面目な話をしてるんですよ!」
「そうやってからかってる場合じゃ···」

一柳昴
「······」

一柳教官の手が私の顎にかかる。
顔を上げさせられ、間近で合った一柳教官の瞳にからかうような色はない。

サトコ
「一柳教官···?」

一柳昴
「昴でいい」

<選択してください>

 A:昴さん··· 

サトコ
「昴さん···?」

(は、恥ずかしい!後藤さんのことだって名前で呼べないのに!)

一柳昴
「悪くねぇな。これからは、そう呼べよ」
「後藤の前でも」

サトコ
「む、無理です!試しに読んでみたけど、無理です!」

 B:昴? 

サトコ
「昴?」

言われるがまま口にしたものの、頬がカッと熱くなる。

一柳昴
「女に呼び捨てにされんのも、思ったより悪くねぇな」
「これからは後藤の前でも、そう呼べよ」

サトコ
「む、無理です!今のは思わず口に出ただけで···」

 C:名前でなんて呼べません! 

(後藤さんのことも名前で呼べないのに、一柳教官を名前で呼ぶなんて···)

サトコ
「無理です!名前でなんて呼べません!」

一柳昴
「オレがいいって言ってんだから、いいだろ」

サトコ
「教官を名前で呼んだりしたら怒られます!」

一柳昴
「なら···オレの女になってみるか?」

サトコ
「!?」

一柳昴
「そうなれば、何の抵抗もなく名前で呼べるだろ?」

ぐっと近づく顔に、そのまつ毛の長さまで意識してしまいそうで···

(な、なんで、一柳教官とこんな雰囲気に!?)

サトコ
「あ、あの!」

一柳昴
「ん?」

サトコ
「一柳教官からの話も聞けましたし、捜査に向かいます!」

顔を背けて横をすり抜けながらも、自分の心臓の音がうるさく耳にこだまする。
私は大きく一礼すると、一柳教官の部屋を飛び出した。

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【学校 裏庭】

(さっきの一柳教官···少しいつもと様子が違ったような···)
(私の気のせいかな)

学校に戻り裏庭で一息ついていると、先ほどのことを思い出し、また鼓動が早くなる。

サトコ
「いや、余計なことを考えてないで、今はもっと大事なことだけを考えよう!」

後藤
サトコ?

校舎の方から声を掛けられ顔を上げると、そこには後藤さんの姿があった。
私を見つけて、真っ直ぐこちらに歩いてくる。

後藤
どこに行ってたんだ?ずっと姿が見えなかったが···

サトコ
「ええと···」

(一柳教官に会いに行ってたって言ったら、怒られるかな)

後藤さんからは昨日、私情を挟むなって言われたばかりだ。

(でも、聞かれたらウソは言えない···)

サトコ
「···一柳教官に会ってきました」

後藤
一柳に?アイツは今、自宅謹慎中のはず···

サトコ
「最初、SPルームに会いに行ったんです。そこで広末さんに会って···」
「広末さんに一柳教官の家を聞いて行ってきました」

そう答えると、後藤さんが目を見張って、その表情が硬くなるのがわかった。

(やっぱり会いに行ったのはマズかったかな)

叱られることを覚悟していると、後藤さんは私から視線を外す。

後藤
···そうか

サトコ
「後藤さん?」

後藤
午後の講義がそろそろ始まる。教室に戻れ

短く告げると、後藤さんは背を向けひと足先に校舎へと戻っていく。

(怒らせた?)
(それとも、呆れられた?)

面と向かって叱られるなら、まだいい。
こんなふうに背を向けられると、私から声を掛けることもできなかった。


【教官室】

数日後。
裏庭で会ったあの日から、後藤さんの姿を学校で見なくなっていた。

(個人的な連絡も何もないし···潜入捜査か何かかな···)

私が一柳教官に会ったことはまだ誰にも咎められていない。

(一柳教官から聞いたこと、後藤さんにまだ伝えてないんだけどな)

教官室に石神教官を見つけ、私はそちらに向かう。

サトコ
「あの···最近、後藤教官を見ていないんですが···特別な捜査か何かですか?」

石神
氷川か

石神教官は私の方に顔を向けると、そのメガネを押し上げる。

石神
今、お前に話せることはない

サトコ
「···捜査に出ているかどうかも、教えてもらえないんですか?」

石神
ああ

サトコ
「······」

(私が一柳教官に会ったことを知られてて、警戒されてる?)

<選択してください>

 A:理由を教えてください 

サトコ
「理由を教えてください」

石神
理由?

サトコ
「捜査に出ているかどうかすら、教えてもらえない理由です」

石神
我々が情報を伏せることに理由が必要か?

サトコ
「それは···」

石神
俺たちは仲間内といえど、全ての情報を共有するわけではない
そんなことをわざわざ説明させるな

サトコ
「申し訳ありません···」

 B:私にできることは··· 

サトコ
「何か私にできることはありませんか?」

石神
お前にできることは訓練に励むことだ
余計なことを気にしている暇があったら、自分のするべきことをしろ

サトコ
「···はい」

 C:私が何かしましたか? 

サトコ
「···私が何かしましたか?」

石神
何の話だ?

サトコ
「私に落ち度があるから、教えてもらえないのかと···」

石神
お前がそう思うのなら、そうかもな

サトコ
「······」

石神
余計なことを考えてる暇があるなら、訓練に励め
基本的に訓練生に情報は流さない。そのことはお前も知っているだろう

サトコ
「···はい」

(後藤さんが私には情報を伏せるように言った可能性もある)

後藤さんに頭を冷やせと言われたのに、それも聞かずに一柳教官に会いに行ってしまった。
それを後悔はしていない。

(ちゃんと話して事情を説明したい)

一柳教官から聞いた話も、自分の気持ちも···

(もう、いなくなったりしませんよね?)

以前、何も言わずに姿を消した後藤さんのことを思い出し、
私は大きな不安に駆られていた。

to be continued



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