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ヒミツの恋敵編 後藤6話



【教官室】

翌日、久しぶりに後藤さんが教官室に姿を見せた。
しかし私が声を掛ける間もなく、全教官と補佐官に集合の知らせが入る。

石神
朝から集まってもらって悪いが、重要な連絡事項がある

(重要な連絡事項?)

訓練生たちが顔を見合わせ、緊張が走る。
教官たちはすでに事情を知っているのか、誰も表情を変えていなかった。

石神
後藤

後藤
はい

石神さんと入れ替わるように、後藤さんが皆の前に立った。

後藤
すでにいろいろな噂や憶測が流れ、周知のことと思うが···
今回の情報漏洩の疑いだが、臨時教官として出向している一柳が犯人であることは間違いない

サトコ
「!」

後藤さんの言葉に訓練生からざわめきの声があがる。

(これまで伏せてきたのに、ここにきて皆の前で、どうして···)

訓練生A
「断定するからには、証拠があるんですか?」

後藤
ああ。東雲が調べを進め、充分に証拠も揃っている
あとは警視庁と連携し動くだけだ。今後は、これまでのような捜査の失敗はあり得ない
安心して捜査に当たってくれ

サトコ
「······」

石神
報告は以上だ。なお、今回のことは事件解決まで外部には口外しないように
解散!

石神教官の一言で、皆がバラバラと動き出す。

訓練生A
「あの一柳教官が犯人って···」

訓練生B
「一柳警部っていったら警視庁のエリートだろ?どうして、そんな人が···」

岡田
「エリートほど闇を抱えているものですよ」

(岡田教官···)

戸惑いを隠せない訓練生たちに声を掛けたのは岡田教官だった。

岡田
「企業や組織のエリートが罪を犯すケースはめずらしくありませんよね?」

訓練生A
「確かに···」

訓練生B
「そう言われれば、めずらしい話じゃないよな」

岡田
「警察といえど、組織に変わりはない」
「そのエリートである一柳さんが何らかの理由で、犯罪に手を染めたとしても···」
「悲しいかな、それをあり得ないことだということはできません」

サトコ
「···岡田教官は一柳教官が犯人だと思っているんですか?」

岡田
「私だけではありません。証拠が出ている以上、それが事実です」

岡田教官は神経質そうに、そのメガネを直す。

サトコ
「岡田教官はその証拠を見たんですか?」

岡田
「見てはいませんが···東雲さんが掴んだ証拠なら間違いないでしょう」

サトコ
「そうかもしれませんけど···」

(後藤さんや東雲教官が捜査を誤るはずはずないっていうのはわかるけど)
(でも···私はあれが正当な証拠だとは認めない)
(一柳教官はモニタールームに行ってさえいないって言うんだから)

一柳教官が犯人でないと信じる私の気持ちが揺らぐことはない。

岡田
「後藤さんも辛いでしょうね。一柳さんとは古い付き合いですから」

岡田教官は後藤さんに視線を送ると、教官室を出て行った。
私も岡田教官の視線を追うように、後藤さんを見つめる。

(わざわざ大勢の前で一柳教官が犯人だって宣言するなんて···)
(何か考えがあるはず)

後藤さんが教官室を出る姿を見て、私もその背中を追いかけた。

【廊下】

サトコ
「後藤さん!」

後ろから声を掛けると、後藤さんが足を止めて振り返った。

後藤
どうした?

サトコ
「どうして、皆の前で一柳教官が犯人だと断言したんですか?」

後藤
皆に伝えた通りだ。はっきりした証拠がそろった以上、混乱を招かないために公表する必要もある

サトコ
「後藤さんは···本当に一柳教官が犯人だと思ってるんですか?」

後藤さんとぶつかる視線。
私はその瞳をじっと見つめる。

(後藤さんの考えを知りたい···)

後藤
···証拠が揃っている以上、どうすることもできない
この仕事をしていれば、親しい人間を逮捕しなければいけない時もある
その覚悟はアンタもしておけ

サトコ
「······」

それだけ言うと、後藤さんが背を向けて歩き始めた。

<選択してください>

 A:後藤を呼び止める 

サトコ
「後藤さん、待ってください!」

後藤
これ以上今、話すことはない

振り返らずに、後藤さんは短くそう答えるだけだった。

 B:何も言わずに見送る 

(これ以上は聞いても話してもらえない···か)

その背中がそう言っているように見える。

(言葉ではなくてわかることが拒絶なんて悲しい···)
(でも、それより気になるのは···)

 C:私は一柳教官を信じてると言う 

サトコ
「私は一柳教官を信じてます!」

その背中にそう声を掛けると、ピタッと後藤さんの足が止まった。

後藤
軽々しく、そんなことを言うな。俺以外の人間に聞かれたら、ただじゃ済まないぞ

振り返らずにそれだけ言うと、後藤さんは再び歩き出す。

(これが後藤さんの本心?)
(証拠が揃ったくらいで、後藤さんが一柳教官を疑う?)

教官室での2人の姿を思い出す。

後藤
今回の肝は警護対象の絞り込みと現場の把握か

一柳昴
「オレが行く」

後藤
お前が?行けるのか

一柳昴
「行くしかねーだろ。他に誰に任せるんだよ」

後藤
···そうだな

(2人はお互いに絶対の信頼を置いていた)
(一柳教官が認めていないなら、後藤さんが証拠の方を信じるはずがない)

サトコ
「本当のことを言ってもらえないのは···」

(私がまだ後藤さんの真のパートナーになれてないから···か)

そう思うと、どうしようもなく悔しくて、
私はグッと自分の拳を握りしめた。



【階段】

その日の夜、私は遅くまで学校に残っていた。

(教官たちが持っている情報を何とか調べ出そうとしたけど、無理だった···)

教官たちの捜査情報を探ることは難しく、結局時間の無駄になってしまった。

(広末さんたちに話を聞きに行ってみようかな)
(さすがにもう一柳教官に直接会うの危ないよね)

後藤さんの話をどこまで信じていいのかわからないけれど···
あの話が真実だとすれば、すでに公安警察が一柳教官の周りで動いていたことになる。

(後藤さんだって、何か考えて動いてるはず)
(一緒に行動できたらいいのに···)

力を合わせるに足りる存在になれないことが、悔しくて悲しい。

サトコ
「はぁ···」

思わずため息をこぼした時、廊下の先を過ぎる影が見えた。
コツコツとかすかに響く早い足音。

(この足音、聞き覚えがある···)
(あっちは、もう消灯して誰もいないはずなのに)

気になった私は廊下の先にそっと進んでみる。
窓から入る月明かりが照らし出した影は······

【廊下】

岡田
「······」

(岡田教官!?)
(···そっか、あの早い足音は岡田教官の歩き方だ)
(でもこんな遅い時間に、どうして岡田教官が···)

廊下の電気を点けることもなく、岡田教官は真っ直ぐに建物の奥へと進んでいく。

(この先にあるのは···確かモニタールームとサーバールーム)
(公安学校の情報を一括で管理している場所···)

岡田
「······」

サトコ
「!」

岡田教官が不意に足を止め、私は廊下にある柱の陰に身を潜めた。

(気付かれた···?)

岡田
「······」

岡田教官は周囲を確認し、もう一度歩き始めた。

(周りを確認するってことは、見つかりたくないってこと?)
(いったい、何をする気なの?)

不審に思った私は、授業で学んだ尾行術を実践しながら岡田教官のあとをつけた。


【モニタールーム】

(やっぱり、モニタールームに入って行った···)

私はモニタールームのドアの僅かな隙間から、部屋の中を覗きこむ。

岡田
「東雲さんのロックもこの程度とは···」

真っ暗な部屋の中で、岡田教官は電気も点けずに数台のパソコンだけを起動させた。
モニターの明かりが岡田教官の顔を映し出す。

(岡田教官って、こんな笑い方をする人だった?)

岡田
「くくっ、天才とは名ばかりで実際のエリートなんて、大したことないな」
「あの一柳だって、私の手にかかればあのザマだ」

サトコ
「!」

薄暗い明かりの中で笑う岡田教官の笑顔はひどく歪んだものだった。

(私の手にかかればって···まさか、岡田教官が!?)

岡田教官は誰もいないモニタールームで数台のパソコンを操作している。

(ここは公安学校の情報を管理する場所···)
(そのパソコンを岡田教官が操作する必要なんてある?)

あったとしても、こんな夜にコソコソと操作する必要があるとは思えない。

(考えたくないけど、岡田教官が一柳教官に罪をかぶせた真犯人かもしれない)
(とにかく、後藤さんに連絡しよう!)


【廊下】

そっとモニタールームのドアを閉め、屈んだまま後ろを振り向いた時···
ぬっと私の前に現れる人影。

サトコ
「!」

岡田
「氷川さん。こんなところで何を?」

(見つかった!でも、どうして!?)
(さっきまで、岡田教官はモニタールームにいたはずなのに!)

驚きながらも、私は必死に言い訳を考える。

<選択してください>

 A:夜の見回りを··· 

サトコ
「夜の見回りを···」

岡田
「夜の見回り?もう見回りの時間はとうに過ぎたはずですが?」

サトコ
「それは···情報漏洩とかあったので、念のため···」

岡田
「そうですか···それは見回りをしていた甲斐があったようですね」

 B:寝ぼけちゃったみたい 

サトコ
「あ、あれ?どうしてこんなところに···部屋で寝ていたはずなんですけど」
「寝ぼけちゃったみたいです。部屋に帰りますね」

さりげなく移動しようとすると、岡田教官が動いて行く手を阻む。

岡田
「寝ぼけて、ここまで移動できるとは驚きだ」
「もう少しマシな言い訳を考えたらどうですか?」

 C:岡田教官こそ、何を? 

サトコ
「そういう岡田教官こそ、ここで何を?」

岡田
「質問しているのは私の方です。訓練生なら教官に質問に答えるのが先では?」

サトコ
「岡田教官が、本当に教官と呼べる人なら」

岡田
「ふっ···この状況で、よくそこまで言えるものだ」

(こんなことで誤魔化せるわけないか)
(今は逃げるしかない!)

私は細く息を吸い込み、身を屈めたまま岡田教官の横をすり抜ける。
そのまま全力で走り出そうとした時、左肩を掴まれ一気に後ろに引き倒された。

サトコ
「···っ!」

(岡田教官って、こんなに力強いの!?)

床に尻もちをつきながらも、すぐに体勢を立て直す。

(こうなったら、正面突破!)

半歩後ろに下がって立ち上がり、構えを取った瞬間だった。

岡田
「悪いが、そんな時間はありません」

岡田教官の手に握られているのは、学校で支給されているスタンガン。

(しまった!)

背後はモニタールームのドアで逃げ場がない。

ドアを盾にしようと思った時には···私の身体には鋭い痛みが走っていた。

暮らしをおトクにかえていく|ポイントインカム

サトコ
「······」

(首が痛い···)

うっすらと目を開けると、そこは薄暗い室内だった。
ぼんやりと明かりを放ついくつかのパソコンが、ここがモニタールームだと教えてくれる。

岡田
「動きは悪くありませんでしたが···」
「相手が凶器や道具を持っていることを計算に入れた方がいいですね」

サトコ
「······」

岡田
「それに私が後ろに回ったことにも、まったく気づいていなかった」
「モニタールームはサーバールームと繋がっていて、サーバールームから廊下に出ることもできる」

(確かに、そこまで考えて警戒できなかったのは私の落ち度だ···)

私の手は手錠で拘束されている。
床に座る私を岡田教官は冷たい瞳で見下ろしてくる。

サトコ
「あなたが裏切り者だったなんて···」

岡田
「意外ですか?」
「それも甘い···捜査情報の漏洩が発覚したのは、私がここに来てから···」
「一柳さんが犯人だという証拠が出ても、私をマークし続けなければ」

岡田教官は嘲笑うような笑みを浮かべる。

サトコ
「一柳教官が犯人になるように···証拠を作ったのも、あなたなんですね?」

岡田
「ええ。ここの情報網にハッキングするのは骨が折れましたが···」
「東雲さんのセキュリティの組み方にはクセがある。それさえわかれば簡単だ」
「あとはプロに頼んで、写真の合成をするだけです」

サトコ
「どうして、こんなことをするんですか!?」
「一柳教官を陥れる必要なんて···」

岡田
「あなたに動機を話す必要はない。あなたがいろいろと嗅ぎ回っているのはいるのは知っていましたが···」
「ここまで知られたら、もう帰すわけにはいきませんね」

岡田教官は床に片膝をつくと、私の顔を覗き込んでくる。

サトコ
「ここは公安学校の中···あちこちに監視カメラがつけられてます」
「ここで私を殺したとしても、すぐにバレますよ」

込み上げる恐怖心を抑え、私は岡田教官を睨みつけた。

岡田
「いいところに気が付きましたね。けれど、やはり詰めが甘い」
「ここはモニタールーム···監視カメラの管理もできるんですよ」

岡田教官は立ち上がると、キーボードの操作を始める。

岡田
「この近辺の監視カメラは全てダミーの映像に切り替わりました」
「よって、このあと、ここで起きる出来事は誰の目にも触れない」

サトコ
「······」

岡田
「これまでの映像も、全てが終わったあとに私が差し替えます」

次第に抑揚を欠いていく彼の声に、嫌な汗が噴き出す。

(手は拘束されてて、満足に動けない)
(どうすればいい···?)

岡田
「そんな顔しなくても、ここであなたを消すことはしません」
「こういうことはプロに任せるのが一番ですから」

(後藤さん···)

岡田教官は携帯を取り出すと、どこかへ電話を掛け始めた。

to be continued



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