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ヒミツの恋敵編 後藤7話



【モニタールーム】

今回の事件の真犯人は岡田教官。
それを突き止めたものの、私は彼に掴まってしまった。

岡田
「私です。ええ、始末してもらいたい女がひとり···」
「···殺さなくても構いません。どこか海外に売り飛ばすかたちでも」

岡田教官はどこかへ電話をかけている。

(海外に売り飛ばすって···どこに電話をかけてるの?)

短い電話を終えた岡田教官と目が合う。

岡田
「よかったですね。運が良ければ殺されずに済みますよ」

サトコ
「······」

薄く笑う口元は酷薄で、これが彼の本当の顔なのだと分かる。

岡田
「ここでしばらく待機です。最後の学校をよく見ておきなさい」

(さっきの電話の相手が来るのを待つってこと?)

岡田教官は近くにある椅子を引き寄せると、そこに座って足を組んだ。

(移動するときに、逃げるチャンスがあるかもしれない)
(この時間も無駄には出来ない)

私の手は後ろに拘束されている。
制服のポケットにはレコーダーが入っていて、私はそれを何とかオンにした。

(ここで事件の真相を聞き出したい)
(教官室での連絡のあと、岡田教官は “エリート” を連呼していた)
(一柳教官は警視庁きってのトップエリート···となると、妥当な動機は···)

<選択してください>

 A:動機は嫉妬 

(嫉妬···エリートである一柳教官に嫉妬しての犯行の可能性が高い)
(となると、岡田教官のプライドをくすぐるような会話がいいはず)

 B:動機は憧憬 

(憧憬?岡田教官は一柳教官に憧れてた?)
(···ううん、違う。憧れじゃない···これは嫉妬だ)
(嫉妬なら、岡田教官のプライドを利用するような会話がいいはず)

  C:動機は恨み 

(動機は恨み?どうして恨むようになったのかって考えると···)
(岡田教官は一柳教官に嫉妬していた)
(嫉妬なら、岡田教官のプライドをくすぐるような会話がいいはず)

サトコ
「岡田教官が一柳教官を狙った動機は···嫉妬ですか?」

岡田
「···なに?」

“嫉妬” という言葉に、岡田教官がピクリと反応する。

(動機は嫉妬で間違いない)

授業で学んだ交渉術を思い返しながら、岡田教官と話を続ける。

サトコ
「同じ臨時教官なのに、一柳教官の方が注目されていることが気に入らなかったんですか?」

岡田
「そんな単純な話じゃない!」

岡田教官はバンッ!とデスクを強く叩く。

岡田
「昨日今日の話なわけあるか!あいつは···一柳は···」

激昂し、その唇がわななく様がモニターの明かりで見える。

(こっちの話に乗ってきた!)
(事件について話す機会が録音できれば、動かぬ証拠になるはず!)

決定的なひと言を聞き出したいと言う気持ちを抑え、私はわざと怯えたフリをした。

サトコ
「いったい···一柳教官との間に何があったんですか?」

岡田
「···聞きたいか?」

サトコ
「···はい。私は岡田教官のことを素晴らしい教官だと思ってました」
「それなのに、どうして一柳教官に嫉妬なんか···」

(相手の自尊心をくすぐりながら、上手く会話を誘導していく)

岡田
「教えてやるよ。俺と一柳と後藤は刑事課時代の同期だ」

サトコ
「え···」

(そんなに前からの知り合いだったんだ···)

岡田
「あの頃、一柳は俺の手柄を全部持って行きやがった!」
「あの事件も···あの事件も俺がいなけりゃ解決できなかったはずなのに!」
「それなのに!それなのに、認められるのはあいつばかりで···!」

サトコ
「······」

(勝手なことを···って言いたいけど、ここは否定せずに肝心の言葉を引き出さないと)

サトコ
「それで一柳教官に復讐を?」

岡田
「復讐?違うな。正当な関係に戻してるだけだ」
「俺が一柳より下にいるなんて、どうかしてる。これまでの成果を取り戻したいだけだ」

(何とか、情報漏洩の罪を一柳教官に着せたって言わせたい···)

それを引き出すための会話を私は考える。

サトコ
「今回の件で、一柳教官の処分はどのくらいのものになるんですか?」

岡田
「ん?そうだな···公安の情報を漏洩させたとなれば、懲戒解雇···刑事事件として立件され···」
「まあ、再起不能だろう。あいつのエリート街道もこれで終わりだ!」

サトコ
「随分とやり方がスマートですね」

岡田
「当然···授業でも事件を動かすには情報が第一だと教えたでしょう?」

余裕が出てきたのか、岡田教官の口調が普段のものに戻っていく。

(油断している証拠。このまま話を続けよう)

サトコ
「一柳教官も臨時教官として出向してることがわかってから、計画を決めたんですか?」

岡田
「その通り。そこで、この学校のシステムを利用することを考えたんです」
「この公安学校にある情報管理システムにアクセスさえできれば、簡単に捜査情報を盗み出せる」

サトコ
「捜査情報が漏れているとなれば、教官たちが捜査を始めないわけがない···」

岡田
「ええ。あとは一柳が犯人だとわかる証拠を撒いておくだけです」
「私が動かずとも、警察が一柳を破滅させてくれる。あいつをチヤホヤしていた警察に···ね」

(今の話で自白が取れた!これで証拠になるはず!)

ほっとしたのも束の間、岡田教官の携帯が震えた。

岡田
「連絡が来ました。名残惜しいですが、これでお別れです」
「立ちなさい」

サトコ
「···はい」

私はそっとレコーダーをポケットから取り出し、床に置く。
置いたレコーダーが見えないように気を付けながら、立ち上がった。

(あとは、移動中のどこかで逃げられれば···)

岡田
「逃げようなんて思わない方が賢明ですよ。少しでも妙なマネをすれば容赦はしません」

サトコ
「!」

岡田教官が取り出したのは小さなサバイバルナイフ。

岡田
「私もなるべく自分の手を汚したくないんでね」

私にナイフをちらつかせ、歩くように促す。

(凶器を持たれてたら、簡単には逃げられない···)

光る切っ先に息を呑みながら、私は歩き始める。

岡田
「ドアを開けてください」

サトコ
「はい」

モニタールームのドアを開け、廊下に1歩を踏み出した時···


【廊下】

後藤
動くな!

サトコ
「!?」

岡田
「!」

(後藤さん!?)

廊下で、こちらに向かって銃を構えているのは後藤さんだった。
その顔を見た瞬間、目の奥が熱くなる。

岡田
「後藤···どうして、ここにいることがわかった」

後藤
お前の行動は監視していた

岡田
「なに···?」

後藤
こちらをハメたつもりだろうが、手のひらの上で転がされていたのはお前だ

岡田
「なんだと!?」

(後藤さんは岡田教官が真犯人だってわかってたの!?)

岡田
「くそ···っ!」

岡田教官は舌打ちすると、私をぐっと引き寄せた。
胸に突き付けられるナイフ。

岡田
「動くなというのは、俺のセリフだ」
「少しでも妙なマネをしたら、氷川の命はない」
「大事な相棒を二度も失いたくないだろう?」

サトコ
「!」

後藤
······

(刑事課から一緒なら、岡田教官も夏月さんのことを知ってるんだ···)

後藤さんを見ると、後藤さんはその表情を少しも変えていない。

後藤
ああ···だから···
俺はもう、失わない!

後藤さんが銃を下ろし、床を蹴った。
同時に後ろのモニタールームのドアが大きく開く。

一柳昴
「モニタールームとサーバールームがつながってることを忘れたのか?」

岡田
「!!」

一柳昴
「詰めが甘いな」

先ほど岡田教官が私に言ったこととまったく同じ言葉。
それを口にした一柳教官が背後から岡田教官にタックルをした。

後藤
サトコ!

同時に後藤さんが私の身体を引き離し、ナイフの間合いから遠ざける。
そして、後藤さんと一柳教官がアイコンタクトを交わすと······

一柳昴
「後藤!」

後藤
わかっている!

岡田
「ぐっ!」

一柳教官が岡田教官を羽交い絞めにすると同時に、後藤さんの手刀が右手に決まる。
その手から落ちたナイフを一柳教官が蹴りで遠ざけた。

一柳昴
「ここまでだ」

岡田
「···っ!」

両膝を床についた岡田教官に一柳教官が手錠をはめた。

後藤
···遅い。サトコを人質に取られる前に来い

一柳昴
「あのタイミングがベストだ」
「そもそも、誰のおかげで助かったと思ってんだ」

後藤
俺がお前を助けてやったんだろ

一柳昴
「はぁ!?」

後藤
文句があるのか?

(後藤さん、一柳教官···)

いつものように軽口を交わす2人に全身から力が抜ける。
膝から崩れ落ちそうになり、それを支えてくれたのは後藤さんだった。

後藤
大丈夫か!?

一柳昴
「どっかケガでもしてんのか?」

サトコ
「いえ、2人の顔を見たら気が抜けちゃって···」

しっかりと抱き留めてくれている後藤さんの腕に安堵していると、複数の足音が近づいてくる。

石神
任務完了のようだな

黒澤
お疲れさまでした!

サトコ
「石神教官に黒澤さん!」

石神教官と黒澤さんが数人の警察官を連れてやって来る。
石神教官は岡田教官の前に立つと彼を見下ろした。

石神
残念だ、岡田。お前がこのようなことをするとは

岡田
「···嘘をつけ。初めから期待もしていなかったくせに」

石神
俺は期待する人物にしか臨時教官を依頼しない

岡田
「!」

石神
お前なら、東雲を支えるポジションに立てると思ったんだがな···

岡田
「······」

岡田教官はしばらく石神教官を凝視し、それから言葉もなくうなだれた。
カチャッと落ちたメガネを拾ったのは、一柳教官だった。

一柳昴
「···悔しけりゃ、実力で追い抜いていけ」
「オレは逃げも隠れもしねぇから」

一柳教官は岡田教官のメガネをたたむと、彼の胸ポケットに差し込んだ。

石神
連れて行け

警官
「はっ!立て!」

岡田教官は何も言わずに連行されていった。

サトコ
「これで事件解決···ですか?」

後藤
ああ

一柳昴
「それはいいけど、お前らいつまで抱き合ってんだよ」

サトコ
「あ!」

後藤

(後藤さんに支えられたままだった!)

<選択してください>

 A:自分から離れる 

私はぱっと後藤さんから離れる。

サトコ
「す、すみませんでした!支えてもらってしまって!」

後藤
···人質になったあとなんだ。気にするな

 B:後藤の反応を待つ 

(ど、どうしよう)
(こういう時は後藤さんの反応を待った方がいい?)

後藤
もう大丈夫か?

サトコ
「だ、大丈夫です!すみませんでいた。支えてもらったままで···」

後藤
あんな目に遭ったあとなんだ。気にするな

後藤さんはそっと私の身体を離した。

 C:そのまま支えられている 

(ここで急に離れるのも、かえってあやしまれるかも···)

後藤
···もうひとりで立てるか?

サトコ
「は、はい。大丈夫です!支えてもらって、すみませんでした」

後藤
気にするな。あんな目に遭えば、立っていられなくなって当然だ

後藤さんはゆっくりと私の身体を離した。

黒澤
いやー、でも今回も見事でしたね!後藤さんと一柳警部の連携は!

一柳昴
「オレがコイツに合わせてやってんだよ」

後藤
それは俺のセリフだ

サトコ
「あの、まだはっきりと事情が読めないんですけど···」
「皆さんは、初めから岡田教官が犯人だと思っていたんですか?」

後藤さんと石神教官を見ると、2人は頷いて答える。

石神
岡田が一柳に罪を着せようと細工していることは、すぐにわかった

後藤
岡田の身辺を洗えば、ヤツが反社会組織と通じていることが簡単に判明したからな

サトコ
「そうだったんですね···」

(さっき岡田教官が電話してた先は、そういう組織だったのかな···)

石神
だが、岡田がねつ造した証拠だけを見れば、どうしても一柳が不利になる
その証拠がねつ造されたものだと証明するにも、思ったよりも時間と手間がかかりそうだった

後藤
そこで一柳が犯人だと断定したフェイクを入れることで、岡田を油断させ泳がせたんだ
あそこでアンタが入ってきたのは計算外だったが···

サトコ
「すみません···」

黒澤
でも、サトコさんのおかげで完璧な証言がとれました!

サトコ
「あ、私が録音したものもあります!」

私はモニタールームの床からレコーダーをとってくる。

サトコ
「捕まったなら、せめて岡田教官が犯人だという証拠を残せたらと思って···」

後藤
あの状況で、よくそこまで考えたな

サトコ
「無駄に捕まるわけにはいきませんから」

石神
勝手な行動は許されたものではないが···岡田の証言を引き出したことは評価できる
氷川、お前の処分は後々検討する

サトコ
「はい!」

石神
黒澤、東雲に元のシステムに戻すように連絡しろ

黒澤
了解です

サトコ
「元のシステム?」

後藤
歩が岡田のために、一部ハッキングできるシステムに変えていたんだ

サトコ
「え?」

黒澤
歩さんのワナ···ですよ
この学校のデータベースにハッキングしようとした形跡が何度かあったんで···
流してもいいデータを用意して、岡田を釣ったんです

石神
その情報漏洩で多少捜査は空ぶったが、こちらもそのつもりで待機していたから問題ない

一柳昴
「あとから追っかけるかたちで事件を片付けてた、こっちの身にもなれ」

石神
それも、お前の身の潔白を証明するために必要な事だろうが

一柳昴
「お前らは人遣いが荒すぎんだよ」

黒澤
空ぶるとわかっていながらも、本気で捜査しているように動く後藤さんチームと···
裏で本星を押さえにいく一柳警部チーム···お2人の連携は見事でしたよ!

サトコ
「あの、それじゃ、一柳教官の謹慎っていうのは···?」

一柳昴
「謹慎はしてたが、裏で動くところは動かせてもらった」
「極秘捜査だったから、そらたちにも黙ってたとこだけどな」

サトコ
「そうだったんですね···」

(そんなふうに事態が動いてたなんて、知らなかった···)

身内でも捜査情報を知らされないのは、公安ならではとしか言いようがない。

(全てにおいて教官たちの方が上手だったんだ···)

自分の心配が馬鹿馬鹿しく思えたけれど、それ以上にほっとする気持ちが大きい。

(よかった···本当は何も変わってなかったんだ···)

後藤さんと一柳教官の絆も、教官たちの絆も。

サトコ
「···っ」

ずっと我慢していた涙が溢れてしまう。

後藤
これを使え

一柳昴
「ほら」

私の目の前に差し出された、2枚のハンカチ。
ひとつは私とお揃いのもので、もうひとつは綺麗な花柄。

後藤
俺のを使うに決まってんだろ

一柳昴
「そんないつ洗濯したかもわかんねぇクシャクシャのハンカチ、誰が使うかよ」

後藤
昨日洗濯した。アイロンをかけてないだけだ

サトコ
「両方、使わせてもらいます!」

(こんなことされたら、もっと泣けるに決まってるんだから···)

ますますあふれる涙を、私は2枚のハンカチで押さえた。

to be continued



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