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今日は彼に甘えちゃおうキャンペーン 後藤1話



【寮 自室】

ドアを開けた先にいたのは、後藤さんだった。

後藤
夜遅くに悪い。今、大丈夫か?

サトコ
「はい。どうかされたんですか?」

後藤
明日の件だが、急遽予定が変わった。相談させてほしい

サトコ
「分かりました。よかったら中へどうぞ」

後藤
ああ、邪魔する

(仕事のことだけど···ゆっくり話すのは久しぶり、だよね)

部屋に招き入れながら、少しだけ胸を弾ませる。
ここ最近はお互い忙しく、デートどころか連絡を取ることすらままならなかった。

(お茶でも淹れて···)

後藤
······

サトコ
「···?」

視線を感じて顔を上げると、後藤さんと視線がぶつかった。

サトコ
「なんですか?」

後藤
···その格好のままだと、風邪を引くんじゃないのか

サトコ
「あ···」

(パジャマのままだった!)

サトコ
「す、すみません!寝るところだったので···」

後藤
いや、俺が急に訪ねただけだ。アンタは悪くない

(でも、後藤さんは制服なのに私がパジャマってなんだかちょっと恥ずかしい···)

後藤
どうした?

サトコ
「いえ···」

私の様子に首を傾げながらも、後藤さんが近くの椅子に掛けてある上着を手に取る。

後藤
···夜はまだ冷え込む
部屋の中でも温かくしていろ

そう言いながら、上着を羽織らせてくれた。

サトコ
「あ、ありがとうございます···!」

(やっぱり優しいな···)

サトコ
「その···お茶!お茶を淹れるので、座っててくださいね」

私は照れ隠しをするように言い、上着に袖を通してキッチンへと向かった。

後藤
···こんなところか。何か質問はあるか?

サトコ
「大丈夫です」

15分ほどして、打ち合わせが終わる。

サトコ
「明日はよろしくお願いします」

後藤
ああ

後藤さんは返事をしながら、カップに口をつけた。
テーブルに置かれたカップの中には、まだお茶が残っている。

(もう少し話をしていたいけど、あまり引き留めたら悪いし···)

少しばかり迷っていると、ふいに声を掛けられる。

後藤
サトコ、14日の予定はどうなってる?

サトコ
「ええっと···その日は一日オフですね」

後藤
そうか···

考える仕草を見せる後藤さんに、首を傾げる。

サトコ
「何かありましたか?」

後藤
いや···一緒に過ごせたら、と思っただけだ
アンタにちゃんと渡したい

サトコ
「あ···」

(そうだホワイトデーだ、すっかり忘れてた!ってことは···)

つまり、デートのお誘い。そう気付くと、嬉しさが一気に込み上げた。

サトコ
「はい!私も一緒に過ごしたいです」

思わず大きくなってしまった声に、後藤さんは苦笑しながら私の頭を撫でる。

後藤
行きたいところがあったら、遠慮なく言ってくれ
それじゃあ、俺は戻る。またな

後藤さんが部屋からいなくなり、私はベッドにダイブする。

サトコ
「~~~···!」

(デートなんてかなり久しぶりだよね。どうしよう、楽しみ過ぎる···)

嬉しさのあまり、ベッドにうつ伏せになりながら足をバタつかせる。

(行きたいところ決めて、服選んで、それからそれから···)

サトコ
「いたっ!」

ベッドの縁に足をぶつけ、赤くなった箇所を手で押さえた。

サトコ
「うう······」

(で、でも、おかげで少し冷静になれた、かも···?)

とはいえ、やはり痛みよりも嬉しさの方が勝っている。
しばらくして痛みが落ち着くと、天井を仰いで改めて考え始めた。

(行き先は決めていいって言ってたけど···)
(後藤さんにも喜んでほしいな)

行き先について考えていると、眠気がやって来る。

(どうせなら、ごと···さんが···すきな···とこ、とか···)

だんだんと瞼が落ち、思考が鈍くなる。
私は後藤さんが喜ぶ顔を思い浮かべながら、眠りについた。

後藤
サトコ···

後藤さんの真剣な眼差しが、私を捉えて離さない。
背中はぴったりと壁に追い詰められて、大きな手が私の顔の横につかれている。

サトコ
「ん···」

ゆっくりと顔が近づき、キスの予感に私は瞼を閉じた。

サトコ
「······」

(···あ、あれ?)
(今のって、絶対にキスの流れだよね···)

いつまでもやってこない感触に、ゆっくりと瞼を開けると···

加賀
間抜け面だな

サトコ
「か、加賀教官!?」

(どうして加賀教官が···)

加賀
でけぇ声出してんじゃねぇ、クズ

サトコ
「むぐっ」

加賀教官は目を細めながら、私の両頬を片手で掴んだ。

加賀
いいか?テメェに拒否権なんざあると思うな
俺の言うことにはすべて『はい』で答えろ

(ひいっ!)

人手も殺しそうなほどの鋭い視線に、私は身を縮こまらせた。

サトコ
「よ、喜んでやらせていただきますっ!」

勢いよく起き上がった私は、辺りを見回した。

サトコ
「···え?」

(私の部屋···?)

サトコ
「なんだ、夢···」

(あんな夢見るなんて、心臓に悪すぎる···)

サトコ
「···ん?」

何気なく時計を見ると、家を出る時間が迫っていることに気付く。

(いけない、もうこんな時間···!)

私は慌ててベッドから降りると、身支度を始めた。

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【食堂】

ひと仕事終えた私は、食堂で昼食をとっていた。

(デートの行先、どこにしようかな)
(遠出をするって選択肢もあるけど···)

サトコ
「うーん···」

鳴子
「サトコ、ここいい?」

頭を悩ませていると、鳴子に声を掛けられる。
鳴子の隣には千葉さんがいた。

サトコ
「どうぞ」

鳴子
「ありがとう」

ふたりはテーブルにトレイを置いて、私の向かいに座った。

千葉
「難しい顔をしていたいけど、悩み事でもある?」

(そうだ、ふたりにも意見を聞いてみようかな)

サトコ
「友達から相談されたんだけど···」
「デートの時、何をしたら彼が喜んでくれるのかなって」

鳴子
「そうだなぁ。その人との関係性にもよると思うけど」

サトコ
「例えば?」

鳴子
「何年付き合ってるのかとか、お互いの年齢とか、立場とか」
「それにこういうことなら、黒澤さんが教えてくれそうだよね」

千葉
「確かに詳しそうだな」

???
「ふっふっふ···」

サトコ
「この声は···」

聞き覚えのある声にあたりを見回すと、どこからともなく黒澤さんが現れた。

黒澤
呼ばれて飛び出てジャジャジャジャーン!アナタの黒澤透です☆

サトコ
「黒澤さん!?」

鳴子と千葉さんも、突然現れた黒澤さんに驚いている。

黒澤
悩める子羊のためにやって参りました!
黒澤透のお悩み相談室のはじまりはじまり~☆

サトコ
「は、はぁ···」

黒澤
今回のお悩みは『愛しいカレはどんなことで喜んでくれるか?』ですね
黒澤透調べ『メンズがカワイイ彼女にされてハッピーなことベスト3』
ドドーン!っと発表しちゃいます!
まずは第3位
『甘えられる』!好きな人にはいつだって甘えてもらいたいものですよ男は!

鳴子
「普段は甘えない彼女だったら、余計に嬉しそうですよね」

千葉
「それはあるかも···」

黒澤
第2位
『小さなことでも覚えていてくれている』!
ふとした時に行ったことを覚えていてくれると感動モノです!!

鳴子
「あ、これは女子も喜ぶやつ」

千葉
「確かに」

(そうなんだ···)

忘れないように、しっかりと頭の中に書き留める。

黒澤
そして栄えある第1位は···『手料理』です!

鳴子
「いきなり私情入りましたね!」

千葉
「唐突に即物的というか······」

黒澤
いやいや、手料理をなめちゃいけません。彼ごはん本が売れるのはなぜか?
古今東西、時代が移り変わっても男は胃袋を掴んでなんぼです!
それに一緒に作ったりしてもイベント的にはいいんじゃないでしょうか

(なるほど···)

サトコ
「黒澤さん、ありがとうございました。とても参考になりました」

黒澤
いえいえ、お役に立てたならよかったです
他にも何かありましたら、遠慮なくご相談くださいね
どんな問題でも、一発で解決して···

石神
···こんなところにいたのか

黒澤
ひいっ!

場が凍りつくほど冷たい声音に、黒澤さんは恐る恐る振り返る。
そこには無表情ながらも、とてつもない威圧感を出している石神教官がいた。

黒澤
やや、これはこれは石神さんじゃないで···

石神
······

黒澤
そ、それでは皆さん、失礼しま~~~す!

黒澤さんは真っ青な笑顔で、石神教官に連行されていった。

千葉
「ええっと···なんていうか、色々とすごかったね」

サトコ
「う、うん···」

鳴子
「でも、参考になったんじゃない?」

サトコ
「そうだね。黒澤さんには感謝しなくちゃ」

千葉
「そういえば佐々木は、何かしてほしいことはあるの?」

サトコ
「え···?」

(わざわざ聞くってことは、もしかして千葉さんは鳴子のことを···)

にこにこしながら2人を見ていると、千葉さんが焦ったように手を振った。

千葉
「ち、違っ!今のは···」

サトコ
「私は応援してるからね」

そう言うと、千葉さんは何故かがくりと肩を落とす。
そんな千葉さんを、鳴子は哀れむような目で見ていた。



【寮 自室】

寮に戻った私は、黒澤さんからもらったアドバイスを踏まえてデートについて考える。

(今日は後藤さんと一緒の仕事だったけど、お疲れ気味だったなぁ)
(どこかに出かけるのも捨てがたいけど、ゆっくり休んでほしいし···)
(···よし、後藤さんの好きな料理を作ろう!)

私はLIDEを開き、『当日、家にお邪魔していいですか?』と後藤さんに送る。
それからほどなくして、返信が来た。

後藤
構わない。どこかに行かなくていいのか?

サトコ
「後藤さんとゆっくり過ごしたいので」

後藤
わかった

それから数回やり取りをして、待ち合わせ場所や時間を決める。

後藤
それじゃあ、あとは当日に

サトコ
「はい。おやすみなさい」

後藤
おやすみ

それから私は、やり取りしたばかりのLIDEを何度か見直した。
文面からは、こちらを気遣っている様子がうかがえる。

サトコ
「···よし。当日は頑張って、後藤さんに喜んで貰わなきゃ!」

私はデートに向けて、より一層気合いを入れた。


【レンタルショップ】

デート当日になり、私は後藤さんとTATSUYAにやってきた。

サトコ
「こっちにレンタルランキングがありますよ」

後藤
この中から選ぶか

サトコ
「そうですね。お互い、気になったものを1本ずつ選びましょう」

(何にしようかな···)

迷いながら見ていると、ある恋愛映画が目に留まった。

(これ鳴子が観に行ったって言ってたっけ。大絶賛していたような···)

後藤
······

視界の端に、後藤さんがホラー映画に手を伸ばしている姿が映る。

サトコ
「ま、待ってください!」

後藤
ん?

サトコ
「こ、怖いのは···眠れなくなるというか···!」

後藤
大丈夫だ。俺がいる

サトコ
「え···?」

後藤
······

私たちは顔を見合わせ、お互いに顔を赤くする。

後藤
いや、今のは···

店員
「はぁ~~熱いなぁ~ここ、なんだか熱いなぁ~」

サトコ・後藤
「!」

サトコ
「ご、後藤さん!これを借りませんか?」

後藤
あ、ああ···

私は気になっていたDVDを手に取り、後藤さんを促す。
結局借りたDVDは、私が選んだ1本だけだった。


【スーパー】

レンタルショップを後にした私たちは、次にスーパーにやってきた。
後藤さんがかごを持ち、店内を見て回る。

サトコ
「何か食べたいものはありますか?」

後藤
なんでも

サトコ
「うっ、それが1番困ります···」

後藤
アンタが作るものはどれも美味いから、なんでも

サトコ
「······」

(ず、ずるい···)

とはいえ、今日は後藤さんに喜んで貰うのが最大の目的だ。

(黒澤さんが言ってたっけ。一緒に作るのもありだって···)

サトコ
「···ん?」

少し離れた方に、見慣れた人物がいた。

(あれは···颯馬教官に、東雲教官!?)

to be continued



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