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今日は彼に甘えちゃおうキャンペーン 後藤2話



【スーパー】

東雲
ん?

サトコ
「!」

東雲教官と一瞬目が合ってしまい、慌てて視線を逸らす。

(マズイ、もし見つかったら···)

サトコ
「後藤さん···」

後藤
······

どうすればいいのかわからず、後藤さんを見上げた。
後藤さんは一度颯馬教官たちに目を向け、すぐに私に視線を返す。

後藤
それで、何にするんだ?

(えっ!?)

サトコ
「い、いえ、そんなことよりも···」

東雲
···なんですって

颯馬
それじゃあ、お願いしましょう

颯馬教官たちは、会話が聞こえる距離まで迫っている。

(もうダメ···)

覚悟を決めたその瞬間、教官たちは私たちの近くを通り過ぎて行った。

(え···?もしかして、気付いていなかったとか?)
(いやいや、そんなはずは···さっき目が合ったのに···)

不思議に思って振り返る。

東雲
······

サトコ
「!」

東雲教官はこちらを見て、ニヤリと笑みを浮かべた。

(やっぱり!)

サトコ
「ご、後藤さん、今、颯馬教官たちが···」

後藤
ああ、いたな

サトコ
「気付いていたなら、なんで!」

後藤
やましいことなんて、していないだろう

サトコ
「それはそうですが···」

後藤
それに···もうすぐ卒業だしな

後藤さんはそう言いながら、私の手を握る。

後藤
俺も一応、牽制しておきたい

サトコ
「!」

(牽制なんてしなくても、あの人たちが私のことをそういう目で見ることは絶対にないだろうけど···)

それでも後藤さんの言葉に、顔がほころんだ。

サトコ
「ご飯、せっかくなので一緒に作りませんか?」
「私がばっちりサポートしますから」

後藤
······
迷惑を掛けないように、努力はする

サトコ
「ふふ、そんなにかしこまらなくても大丈夫ですよ」
「メニューは一緒に作れそうなものがいいですよね。なにがいいかなぁ」

後藤
餃子はどうだ?あれなら一度作ったことがある

サトコ
「いいですね!じゃあ、餃子の皮とひき肉とニンニクを買って···」
「お家の冷蔵庫には何がありますか?」

後藤
······

サトコ
「何もないんですね···」

それから私たちは店内を回り、必要なものをカゴに入れて行った。



【後藤マンション】

サトコ
「これは···」

後藤
······

久しぶりに上がった後藤さんの部屋は、かなり散らかっていた。

後藤
アンタが来るから、掃除しようと思ったんだが···
忙しくて、あまり手を付けられなかった
すぐに片付けるから、ここで待っててくれ

気まずそうな顔でソファの一角を一時的に綺麗にしてくれて、私の座る場所ができる。
気遣いがなんだか微笑ましくて、つい頬が緩んでしまった。

サトコ
「一緒にやった方が早いですよ」
「私はこっちをやるので、後藤さんはテーブル周りをお願いします」

後藤
···助かる

それから手早く片づけをして、ソファに座ってDVDを観始めた。

サトコ
「うう···キノコ···キノコがっ···!」

後藤
ティッシュいるか···?

サトコ
「おねがいじまず······」

後藤
まさか、あんな展開だとはな

サトコ
「どうなるかハラハラしましたが···よかった、幸せになれて···」

ラストシーンを思い出すだけで、さらに涙が溢れた。
そんな私の頭に、そっと温かい手が乗せられた。

後藤
···よしよし?

サトコ
「······」

後藤
固まるな

サトコ
「す、すみません。ちょっと驚いてしまって···」

(後藤さんなりに気を遣ってくれたのかな)

サトコ
「あはは」

後藤
···笑うな

後藤さんはかすかに頬を赤らめながら、顔を背けた。

(男の人相手に変かもしれないけど、可愛いなぁ)

サトコ
「すみません、もう笑いませんから」
「そろそろいい時間ですし、ご飯作りませんか?」

後藤
ああ

私たちはDVDを片付けて、一緒にキッチンへ向かった。


【キッチン】

後藤
それで、次は何をすればいい?

サトコ
「具材は切ってあるので、調味料と一緒に混ぜてください」
「私はその間にお味噌汁を作っちゃいます」

後藤
混ぜる······わかった

混ぜる目安を伝えて、手際よくお味噌汁を作る。

後藤
······

ちらりと隣を見ると、後藤さんは慎重な様子でタネを混ぜていた。

(もっと大雑把に混ぜても大丈夫だけど···)

あまりにも真剣にやっているので、そのまま見守る。

後藤
···これくらいでいいか?

サトコ
「はい、大丈夫ですよ」
「こちらも丁度終わったので、一緒に包みましょう」

後藤
ああ
······

後藤さんはぎこちない手つきで、包む作業を進めていく。

後藤

サトコ
「皮が壊れちゃいました?」

後藤
これは···どうすればいい?

サトコ
「これくらいなら大丈夫ですよ。少しタネの量を減らした方がいいかもですね」

後藤
わかった。次からは減らしてみる

そう言って出来上がったのは、いびつな形をした餃子だった。

後藤
······アンタのみたいにならない

サトコ
「やっているうちに、慣れていきますよ。皮はまだあるので、どんどん作りましょう!」

後藤
ああ

それから後藤さんは集中して、黙々と餃子を作っていく。
上手くできれば嬉しそうに、失敗したら少し悔しそうにしていた。

(後藤さん、楽しそうだな)
(一緒に作ろうって誘ってみてよかったかも)

料理ができあがり、テーブルに並べる。
中央に置いた大皿には、たくさんの餃子が乗っていた。

サトコ
「いただきます」

最初に後藤さんが作った餃子を食べようと、箸を伸ばす。

後藤
待て。俺が作ったやつは、自分で食べる

サトコ
「でも···」

後藤
こんな不格好なのは、アンタに食べさせられない

サトコ
「後藤さんが作ったのだから、食べたいんです」

私は言葉を返される前に、餃子を口にした。

サトコ
「美味しいです」

後藤
本当か?

サトコ
「はい!」

後藤
そうか···

後藤さんはほっとしながら、私が作った餃子を食べる。

後藤
美味い

サトコ
「本当ですか?」

後藤
···真似るな。本当だ

サトコ
「ふふ、よかったです」

(ちょっと作り過ぎちゃったかなって思ったけど···)

ふたりで作った餃子はとても美味しくて、箸が進んだ。

食事を終えた私たちは、片付けをしてソファに座る。

サトコ
「料理をしてみてどうでしたか?」

後藤
失敗もしたが···アンタのおかげで、何とかなった
たまにはああして料理をするのもいい

そう話す後藤さんは、柔らかい表情をしていた。

(よかった、楽しんでもらえて)

ほっとした気持ちで頬が緩む。不意に伸ばされた後藤さんの指が私の頬を滑った。

後藤
これじゃあ、俺がしてもらってばかりだな

サトコ
「え?」

後藤
ホワイトデーはこちらから、だろう?

サトコ
「あ···」

(そ、そういえばホワイトデーだった···)

後藤
···その様子だと、忘れていたみたいだな

サトコ
「すみません。久しぶりのデートだったから」
「後藤さんを喜ばせたい気持ちが走ってしまって···」

後藤
アンタらしい

後藤さんは口元に笑みを浮かべながら、私の背中に腕を回した。
愛しい温もりと鼓動を感じて、ほっと息をつく。

後藤
···これは俺からだ

その言葉と共に、首元がひやりとした。
視線を落とすと、シンプルなデザインのネックレスが掛けられている。

サトコ
「これ···」

後藤
サトコにはシンプルなものが似合うと思った

照れ臭いのか少し素っ気なく言う後藤さんに、愛しさが溢れ出す。

(わざわざお店に行って···選んでくれたのかな)
(こういうの選ぶの、苦手そうなのに···)

サトコ
「ありがとうございます。こんな素敵なものをもらえるなんて、私···」

後藤
喜んでもらえたならよかった

額と鼻先をくっつけ、ふたりで笑い合う。

後藤
···いつも俺を支えてくれて、ありがとう

サトコ
「私の方こそ、ありがとうございます」

そしてゆっくりと顔が近づき···

サトコ
「あああっ、まっ、待ってください!」

私はとっさに、後藤さんを手で制した。

後藤
···どうした?

サトコ
「ぎ、餃子を、食べたので···」

後藤
別に気にしない

サトコ
「私は気にします···」

後藤
···なら、一緒に風呂に入るか

サトコ
「え!?一緒にって···えっと、その···」

焦る私の気持ちまで絡め取るように、そっと手のひらを握られた。
ゆるぎない握り方は少しだけ強くなる。

後藤
···駄目なら、ふりほどいてくれ

サトコ
「···」

駄目も言えない。ふりほどけもしない。
私がこれ以上何もできないことを、きっと後藤さんは知っていた。


【寝室】

サトコ
「ん···」

後藤
······

(あ···)

目を開けると、気持ちよさそうに眠っている後藤さんがいた。

(昨日はあのあと、お風呂に入って···)

過ごした甘い時間を思い出し、身体に残る熱が蘇る。

(······幸せ)

後藤さんの唇に、そっと触れる。
私をたくさん愛してくれた唇は柔らかく、とても温かだった。

後藤
······なんだ···?

サトコ
「あ···」

薄っすらと瞼を開けながら、掠れた声が聞こえると指を引っ込める。

サトコ
「す、すみません、つい···起こしちゃいました?」

後藤
いや······大丈夫だ、おきてる···

サトコ
「まだちょっと眠そうです」

ふふっと微笑むと、後藤さんの指が私の唇に優しく触れる。

後藤
ん···

そのままおはようのキスをして、温もりを感じ合った。

後藤
昨日は色々と、ありがとな

サトコ
「お礼を言うのはこっちです」
「後藤さんを楽しませるつもりが、私の方が楽しんじゃって···」

後藤
それでいい。俺はアンタが···

サトコ
「?」

後藤
···なんでもない

サトコ
「だめ、言ってください。気になります」

後藤
······

後藤さんは少しの間気恥ずかしそうに視線を漂わせ、消え入りそうなほどの声音で言う。

後藤
···アンタが嬉しそうな顔をしているだけで、十分だ

サトコ
「!」

(後藤さん······)

想いが募り、抱きしめる力が強くなる。
後藤さんは私のうなじに手を添え、、唇を塞いだ。

サトコ
「ん···」

優しいキスの雨が降ってくる。
たくさんの愛情を受け取っていると、空いている手で背中を撫でられた。

サトコ
「···っ」

こそばゆさに身が捩る。
そんな私の反応を楽しむように、刺激が与えられた。

サトコ
「ん···や···っ」

指が肌を滑るたび、身体は素直に反応してしまう。
私はそれを受け入れるように、後藤さんの首に腕を回したーー。


【学校 個別教官室】

翌日になり、私は後藤さんの手伝いをしていた。
資料の確認をしていると、珍しく目の下に隈が薄っすらとできた颯馬教官が訪ねてくる。

颯馬
後藤、これを明日までに

(えっ!?)

颯馬教官が机に置いた書類は、かなりの量があった。

後藤
······

目の前の書類の山に、後藤さんは目を見張る。

(さすがに明日までは···)

そんな私の心を読んだかのように、颯馬教官は笑顔で口を開いた。

颯馬
ちょっとだけ仮眠を取りたいんです。その間にお願いしたくて
大変有意義な休日を過ごした後藤なら、これくらい余裕ですね

(そ、それって···もしかして、ホワイトデーのこと!?)
(スルーしてくれたと思ってたのに···)

綺麗な笑みを浮かべている颯馬教官に、嫌な汗が流れる。

颯馬
うーん···でも一人じゃ大変な量かな
やっぱり仮眠は諦めて手伝うよ

後藤
いえ、任せてください。周さんはもう寝てください

颯馬
ふふ、後藤ならそう言ってくれると思った
でも無理はしないで

そう言うとユソケルを後藤さんの机の上に置き、颯馬教官は優雅に去って行った。
改めて書類の山を見る。

(東雲教官だったら、嫌味に留まりそうだけど···)

颯馬教官に比べたら、そんなものは可愛いレベルなのかもしれない。

(ある意味、颯馬教官の方が怖い···)
(「無理はしないで」に妙なプレッシャーもあった、絶対あった···!)

サトコ
「後藤さん、私も手伝います」

後藤
いや、これは俺の···

サトコ
「二人でやれば早く終わりますから!」

後藤
······頼む

颯馬教官だけは怒らせないようにしよう。
そう心に決めながら、ふと思い出すのは甘くて素敵なホワイトデーの思い出。
私は頬が緩みそうになるのを抑えながら、書類の山に手を伸ばした。

Happy End



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