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今日は彼に甘えちゃおうキャンペーン 加賀2話



サトコ
「行きたいことろ、どこでもいいです!加賀さんについていきます!」

加賀
······

私の勢いに押されたのか、加賀さんが一瞬押し黙る。

(やっぱり、マズかったかな···男性が嫌がる回答ナンバー1だし···)
(でもいくら考えても、加賀さんと一緒ならどこでもいい、って思えちゃって···)

加賀
···なら、付き合え

サトコ
「え?」

加賀
どこでもいいんだろ

サトコ
「は、はい!もちろんです!」

少し考えた後、加賀さんは私の先に立ち、歩き始めた。



【デパート】

(ここは···)

見覚えのあるそこは、いつぞや加賀さんを尾行してやって来たデパートだった。

(加賀さんと付き合って、初めてのクリスマスだっけ)
(莉子さんから、加賀さんが “ハナ” って人に会うために仕事を前倒ししてるって聞いて···)

サトコ
「···あ、もしかして」

加賀
花に、ホワイトデーのもんを買う

サトコ
「ふふ、やっぱり」

案の定の答えに、頬が緩む。
外だというのに、加賀さんは人目も気にせずアイアンクローしてきた。

サトコ
「いたっ···ちょっ···か、加賀さん!」

加賀
ニヤけてんじゃねぇ

サトコ
「わかりました!わかりましたから···!」

ようやく解放されると、案の定、周りの人の視線が私たちに集中している。

(恋人にアイアンクローを食らってる女···って思われてる···)
(いや、私たちが恋人同士に見えたら、の話だけど)

サトコ
「何を買うかはもう決まってるんですか?」

加賀
ああ。これが欲しいらしい

それは、木製のおままごとキッチンセットだった。

サトコ
「かわいい!花ちゃん、おままごと好きですよね」

加賀
これで俺に、シチューを作るっつってたからな

(加賀さん、嬉しそう···)
(加賀さんにこんな顔させられるのは、きっとこの世で花ちゃんだけなんだろうな)


【花 自宅】

プレゼントを買うと、その足で美優紀さんの家にやって来た。

美優紀
「あら、休みの日に悪いわね」

加賀
大したことじゃねぇ
ほら、花。約束のもんだ

サトコ
「加賀さん、もうちょっとロマンチックに渡しませんか···」
「なんかそれじゃ、麻薬とか武器の密売人みたいですよ」

加賀
あ゛?


「ひょーごー!まってた!」
「ねー、だっこだっこ!」

足元でせがまれて、加賀さんが花ちゃんを抱き上げる。
まるで本当の親子のようで、なんだか微笑ましい。

サトコ
「花ちゃん、よかったね」


「サトコ!いっしょにシチューつくろう!」
「はなね、ひょーごがくれたおままごとセットで、シチューつくるやくそくしてるの!」

サトコ
「うん、じゃあ野菜がいっぱいのシチューにしようね~」

加賀
······

(···殺気!)
(たとえおままごとでも、野菜は許されないのか···)

加賀さんから逃げるようにして、花ちゃんに付き合っておままごとを始めた。

夕方まで花ちゃんと遊び、そろそろおいとますることになった。

サトコ
「美優紀さん、お邪魔しました」

美優紀
「いいのよ。こっちこそごめんね、せっかくの休みだったのに」
「デートだったんでしょ?しかも、ホワイトデーの」

(さすが美優紀さん、鋭い···)

サトコ
「そのつもりだったんですけど、でも私も楽しかったですから」
「加賀さんが喜んでくれるのが、一番うれしいんです」

美優紀
「サトコちゃん、あなた···」

ガッと、美優紀さんに両肩をつかまれる。

美優紀
「目を覚ましなさい!もっといい男がいるわよ!」

サトコ
「ええ!?い、いませんよ!」

美優紀
「現実を見つめて!あの男が、本当にサトコちゃんを幸せにしてくれる!?」
「なんなら、サトコちゃんよりも花を優先するような男よ!?」

サトコ
「いやまあ、そうですけど···でも、それも加賀さんらしいっていうか」

美優紀
「ああ···なんだか、ダメな男にたぶらかされそうになってる妹を見てるみたいな気持ち···」

加賀
余計なこと言ってんじゃねぇ
おい、帰るぞ

サトコ
「あ、待ってください!」


「あっ、ひょーご!さいごにもういっかい、だっこ!」

加賀
チッ···しょうがねぇな

まんざらでもなさそうな加賀さんに抱っこされたあと、花ちゃんが私に耳打ちしてきた。


「ねーねーサトコもね、ときどきは、ひょーごにあまえんぼしていいんだよ」

サトコ
「えっ」


「ひょーごも、そのほうがうれしいよ、きっと!」

サトコ
「花ちゃん···」

(は、花ちゃんの方が大人だ···)
(幼稚園児に、女としてのアドバイスをもらってしまった···)

加賀
置いてくぞ

サトコ
「あ、行きます行きます!」
「それじゃ美優紀さん、花ちゃん、お邪魔しました!」

美優紀
「また来てね」


「バイバーイ」

ふたりに見送られ、とっくに家を出て行ってしまった加賀さんを追いかけた。


【車】

私が助手席に乗り込むと、加賀さんがゆっくりと車を出す。

加賀
なんか食ってくか

サトコ
「はい」


『ときどきは、ひょーごにあまえんぼしていいんだよ』

さっきの花ちゃんの言葉を思い出し、意を決して加賀さんを振り向いた。

サトコ
「か、加賀さんの家に···行きたいです」

加賀
あ?

サトコ
「ダメ···ですか···?ごはん、作りますから」

加賀
······

サトコ
「野菜は、できるだけ入れません」

加賀
···できるだけ、じゃねぇ。絶対入れんな

サトコ
「は、はい!」

(今のって、了承の意味だよね?)
(花ちゃんの言うように、たまには甘えてみてよかった···!)


【加賀 マンション】

途中でスーパーに寄り買い物を済ませた後、加賀さんの部屋にお邪魔した。
私が作ったシチューを食べた加賀さんが、盛大に舌打ちする。

サトコ
「な、何かまずかったですか?」

加賀
野菜は入れんなっつっただろうが

サトコ
「だって、野菜抜きのシチューって···お肉しか入ってないじゃないですか」

加賀
充分だろ

サトコ
「せめて、じゃがいもと玉ねぎくらいは食べませんか···ニンジンは仕方ないとしても」

加賀
食わねぇ

(私の今後の人生の課題は、どうやったら加賀さんに野菜を食べさせられるか、だな···)
(シチューとカレーなら、じゃがいもと玉ねぎは溶けるまで煮込めばいいかもしれない!)

サトコ
「よし、次はそれでやってみよう!」

加賀
何企んでんだ

サトコ
「な、なんでもないですよ!」

なんだかんだ言って、加賀さんは野菜以外、全部完食してくれた。

(そもそも野菜を残してるから、 “完食” とは言わないだろうけど)
(それでも、食べてくれたのはやっぱり嬉しいな)

加賀
なんで急に、家がいいなんて言いだした

サトコ
「え?」

加賀
テメェから言うのは、珍しいだろ

サトコ
「えっと···今日はちょっとだけ、甘えたかったんです」

加賀
甘える?

食器を片づける私を眺めながら、加賀さんはベランダの窓を開けて煙草をふかしている。

サトコ
「普段、あんまり甘えることってできないので···」
「いえ、甘えてもいいなら、私はいつでも甘えたんですけど···!」

加賀
······

サトコ
「···ほら···加賀さんが、そういう顔するから···」
「だからおまじないで···」

加賀
まじない?

サトコ
「あ」

(よ、余計なことまで言っちゃった···!)

サトコ
「あの···ちょっと、遊び感覚でですね!やってみたんですけど!」
「そうしたら意外と効き目があって、夢に加賀さんが出てき···」

加賀
······

(しまった!また余計なこと言った!)

加賀
···くだらねぇ

サトコ
「ごもっともです···」

(こう、こういうとき、私は喋らない方がいい···)

加賀
で?

煙草の火を消してこっちに歩いてくると、加賀さんが軽々と私を抱き上げる。

サトコ
「わわっ···」

加賀
なんて言ってた

サトコ
「え···?」

加賀
見たんだろ、俺の夢

サトコ
「はい···でも」

加賀
夢に見るほど、飢えてんのか

サトコ
「そ、そうじゃないですよ···!」

(そうじゃない···けど、そう思われても仕方ない夢だったかも···)

そのまま加賀さんは、私を連れて寝室のドアを開けた。

【寝室】

私をベッドに降ろして、加賀さんが親指で頬をなぞる。

サトコ
「加賀さん···」

加賀
夢なんざ見なくても、ここにいるだろ

サトコ
「そう···なんですけど」
「夢の中の加賀さん、ものすごく甘くて···」

加賀
······

サトコ
「い、いえ、それを望んでるわけではなくてですね」
「あ、でも、ちょっとくらいは···」

加賀
変な夢見てんじゃねぇ、変態が

サトコ
「変態···!?」

言葉は辛辣なのに、私の肌を撫でる手はこのうえなく優しい。

加賀
どうしてほしい?

サトコ
「え···?」

加賀
夢の俺は、甘かったんだろ
テメェが望む通りにしてやる

(それは···今日が、ホワイトデーのお返しデートだから?)
(でも、それなら···)

サトコ
「···兵吾さんの、好きにしてください」

加賀
······

サトコ
「私は···結局、それが一番嬉しいです」

加賀
···バカが

顎を持ち上げられて、唇が重なる。
いつもよりも長く優しく、柔らかく···食むように、何度も吸い付かれた。

サトコ
「んっ、んん···」

加賀
先月の礼に···願い、叶えてやるよ

サトコ
「あ···」

加賀
···力、抜け
お前が満足するまで、抱いてやる

(今の、言葉···夢の中でも···)
(って···私が満足するまで!?)

サトコ
「待ってくださ···いつも、結局は加賀さんが満足するまで···っ」

加賀
それが、テメェの願いだろ?

サトコ
「······!」

ベッドにどさりと押し倒され、服を全て脱がされないまま身体の奥を求められる。
“バレンタインのお礼” は、長く、甘い夜になる予感がした···

サトコ
「ん···」

翌朝、目が覚めると起き上がれないほど身体がけだるかった。

(甘えたい、なんて軽い気持ちで言ったら、とんでもないことになった···)
(あんなに焦らされて、そのうえ激しくて···)

昨日の夜のことを思い出すと、恥ずかしさと嬉しさで、悶えてしまいそうなほどくすぐったい。

(でも確かに、甘やかしてもらった···かもしれない···)
(加賀さん、すごく優しくて···それに···)

たまらく照れくさくて、嬉しくて、ばたばたと足を動かしていると···

加賀
気色悪ぃ

サトコ
「か、加賀さん!?起きてたんですか!?」

加賀
テメェよりあとに起きたことなんざ、ほとんどねぇだろ

隣で寝てると思った加賀さんと、目が合う。
一瞬の沈黙のあと、どちらからともなく、唇を重ねた。

サトコ
「···ふふ」

加賀
笑ってんじゃねぇ

サトコ
「すみません···でも、嬉しいです」

(なんだかんだ言って、こうやって甘やかしてくれる)
(普段厳しい分、この瞬間が本当にうれしい···)

ただひとつ、心配なことがあるとすれば、
あまりの身体のしんどさに、今日の講義を無事に受けられるかどうか、ということだ。

サトコ
「しかも、今日はよりにもよって加賀さんの講義···」

加賀
背筋伸ばしてしっかり聞けよ
少しでも気を緩ませたら···分かってんだろうな

サトコ
「ううう···」

話の内容は別として、至近距離でささやく加賀さんは、いつもより穏やかだ。
もう少しだけこの雰囲気を味わいたくて、そっと、加賀さんの背中に腕を回した···

Happy End



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