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今日は彼に甘えちゃおうキャンペーン 東雲2話



(だって、私が「おまじない」で書いた「願い事」は···)

サトコ
『ティーポットで淹れた紅茶の茶葉を乾かして』
『願い事を書いた紙と一緒に袋に入れて、枕の下に滑り込ませる···と』

(うーん···願い事か···)
(もうすぐホワイトデーだし、いつも教官にはお世話になりっぱなしだから···)

サトコ
『今後のデートで、教官にいっぱい甘えてもらえますように···』

(···これだよ!私の「願い事」って)
(だから、ボートも自分で漕いだし、悩み事も聞こうとしたし)
(恐竜のキャラ弁を作ったのだって···)

東雲
あー食べた
今日のキャラ弁、大満足···
ふわ···

サトコ
『もしかして眠いですか?』

東雲
ん···お腹いっぱいになったから···

サトコ
『だったら、お昼寝タイムにしましょう!』
『さ、膝枕です。どうぞ!』

(って、なるはずだったのに···)
(それが、どうして···)

東雲
重···
いちおう脳みそが入ってんだね。キミの頭

サトコ
「入ってますよ!当然じゃないですか!」

(···じゃなくて)
(なんで、私が教官に膝枕してもらってるわけ?)
(そりゃ、お弁当を食べ終わったあと、急に睡魔に襲われたけど···)

東雲
···なに、その顔
不満なの?オレの膝枕が

サトコ
「とんでもないです!大満足です!」

そう、決して嬉しくないわけじゃない。
むしろ、今日を「膝枕記念日」にしたいくらいだ。

(でも、違うんです)
(今日は、私が教官を甘やかしたいんです!)
(なのに、なんで真逆の展開に···)

東雲
で、このあとは?

サトコ
「えっ」

東雲
ずっとこのまま?
それとも他に計画が···

サトコ
「あります!移動します!」

東雲
ふーん···どこに?

サトコ
「それは着いてからのお楽しみです」

(そうだ···私にはまだ隠し球があったんだ)
(これからだ。次の場所で、挽回しないと···)



サトコ
「教官、こっちです!」

東雲
ウザ
はしゃぎすぎ···

サトコ
「大丈夫です!教官もすぐにはしゃぎたくなりますから!」

(そう···この角を曲がれば、きっと···)

サトコ
「ここです、教官!第二弾『恐竜カフェ』···」
「って···」

東雲
『魅惑の盆栽カフェ』って書いてあるけど

サトコ
「そんなはずは···」
「たしか、今日から期間限定で始まるはずで···」

東雲
来週

サトコ
「えっ」

東雲
来週土曜日の10時からだから。『恐竜カフェ』は
ついでに『恐竜パンケーキ』は、再来週土曜日から販売
『恐竜ラテアート』は初日から最終日まで
『ホワイトデーザウルス』は1000個限定商品

サトコ
「は、はぁ···」

(さすが、教官···そこまでチェック済み···)
(じゃなくて!)

サトコ
「すみません、すみません!」
「私、てっきり今日からだと思っていて···」

東雲
······

サトコ
「他···どこか他のカフェに行きましょう!」
「それか、教官の行きたいところに···」

と、美味しそうな香りが漂ってきた。
どうやら向かいのカフェからのようだ。

(あそこ···たしか「いちごチーズケーキ」で話題の···)
(いいな···行ってみたいけど、すごい行列···)

東雲
いいけど。そこのカフェで

(え···)

東雲
そこの。目の前の

サトコ
「で、でも、チーズケーキのお店だからパンケーキはないですよ?」
「もちろん恐竜もいませんし」

東雲
知ってる

サトコ
「それに、めちゃくちゃ並びますし」
「せっかくですから、教官の行きたいカフェに···」

東雲
うるさい
並ぶよ。ほら

(···本当に?)
(普段は10分並ぶだけで「怠···」とか言っちゃうのに?)
(ここ、どう見ても1時間は並びそうなんですけどーー!)


【カフェ】

店員
「こちらの席にどうぞ」

サトコ
「は、はい···」

(結局、並んじゃった···しかも1時間半近く···)
(教官、内心ブチ切れ寸前なんじゃ···)

東雲
オススメは?

サトコ
「ベイクドチーズケーキです」
「特に、期間限定のイチゴが大人気で···」

(あ···)

サトコ
「教官、パンケーキもありますよ!」
「ほら、ここ···『フレッシュチーズたっぷりのパンケーキ』···」
「しかもこれ、教官の好きな『フワフワ』系です!」

東雲
へぇ···美味しそうじゃん

サトコ
「じゃあ、教官はこれで決まりですね」
「私は、おすすめの『いちごのチーズケーキ』を···」
「えっ」

(これ、ビッグサイズしかないの?)
(そんなはずは···きっと普通サイズもあるはず···)

サトコ
「すみません。この『いちごのチーズケーキ』ですけど」
「普通サイズは···」

店員
「申し訳ありません。こちらはビッグサイズのみとなっております」

(ええっ)

サトコ
「ち、ちなみに、これって何人前くらい···」

店員
「そうですね···女性ですと『3人前』···」
「よく食べる方がいらっしゃって『2人前』でしょうか」

(つまり1人じゃ無理ってことだよね)
(たしかに、どのテーブルも2~3人で切り分けて食べてるけど···)

東雲
じゃあ、この『いちごのチーズケーキ』と、ピーチネクター

(えっ)

東雲
キミ、飲み物は?

サトコ
「ま、待ってください!教官はパンケーキを頼むんじゃ···」

東雲
飲み物。早く

サトコ
「······アイスティーを」

店員
「かしこまりました」

店員さんがテーブルを離れたのを確認して、私は教官に詰め寄った。

サトコ
「いいんですか?パンケーキじゃなくて···」

東雲
べつに。気が変わっただけ
みんな食べてるし。イチゴだし
オレンジだったら、絶対拒否してたけど

サトコ
「は、はぁ···」

(本当に、気が変わっただけ?)
(···そんなことないよね。私に合わせてくれたんだ、きっと)

サトコ
「なんか、すみません···」

東雲
は?
意味不明
謝られる覚えはないんだけど

サトコ
「···っ、じゃあ···」
「ありがとうございます」

東雲
······

サトコ
「大好きです。教官」

東雲
······あっそう

(それにしても、今日の教官、いつもより5割増しで優しいっていうか···)
(おかしいな···私が甘やかそうとしていたはずなのになぁ)


サトコ
「はー、美味しかったですね!チーズケーキ」
「教官はどうでしたか?」

東雲
そうだね、まぁ、悪くないっていうか···
面白かったよ
キミの反応が

(えっ)

東雲
『あっ···きましたよ、教官!噂のチーズケーキです!』···
『すごいです!イチゴがいっぱいです!!』···
『はっ···写真、撮るの忘れてた!』···
『やだ···凄く濃厚』···

サトコ
「そんなこと言ってません!」

東雲
言ってた。顔が
おしゃべりすぎ

(そ、そこまで顔に出したつもりは···)
(ていうか「おしゃべりな顔」っていったい···)

東雲
で、次は?
買い物に行ってもいいし、なんならもう夕食でも···

サトコ
「教官の家に行きたいです」

東雲
オレの家?
外食じゃなくて?

サトコ
「はい」

本当は、外食するつもりでいた。
でも、ここはあえて「予定変更」だ。

(だって、まだ一度も「教官を甘やかす」ことができていないわけで···)


【東雲マンション】

(こうなったら奥の手だ)
(まずは、教官が一番寛げる場所に行って···)
(教官の食べたいものをふるまって···)
(寛いだところで「膝枕」とか「ドライヤーで髪を乾かしてあげる」とか···)
(「頭を撫でる」···は逆にNGっぽいから、それ以外の何かを···)

東雲
はい、コーヒー

サトコ
「ありがとうございます」

(よし···ここから仕切り直そう)
(まずは、今日の夕飯を···)

東雲
夕飯、オムライスでいい?

サトコ
「えっ」

東雲
もしくはカレー

サトコ
「??」

(···そのどちらかを教官が食べたいってこと?)
(だったら···)

サトコ
「カレーがいいです」

(カレーならちょっと凝ったものを作れそうだよね)
(教官が好きなものを、たくさん入れたりもできるし···)

東雲
わかった。カレーね

(えっ、あれ?)

東雲
シーフードでいい?
それか豚肉

(えっ、えっ?)

東雲
ああ···キーマカレーも作れるか
ひき肉、あったはずだし···

サトコ
「待ってください!カレーなら私が···」

東雲
いらない
十分だから。オレひとりで

サトコ
「!」

東雲
キミはDVDでも観ていれば
そこに、最近キミがハマってる『涙色のカセキ』のDVDがあるし
それか『新撰組が愛した女』の最新作でも···

サトコ
「ダメです!」

そのままキッチンに入ろうとした教官を、私は飛びついて引き止めた。

サトコ
「カレーは私が作ります!教官こそ、休んでいてください!」

東雲
は?なんでキミが?

(そ、それは···)

サトコ
「だって、その···食事はいつも私が作ってるし···」

東雲
却下

サトコ
「私もカレー作りたいし」

東雲
却下
ひとりで作りたい。オレは

(う···)
(こ、こうなったら、もう···)

サトコ
「甘えてほしいんです!」
「今日は、教官を甘やかすって決めたんです!」

東雲

サトコ
「だから、私が作りたいんです!!」

たっぷり、10秒くらい間が空いた後ーー

東雲
はぁっ!?
なにそれ
キミが甘えちゃいんじゃないの?

(えっ?)

東雲
だって、キミ···鞄に···

サトコ
「??」

東雲
ああっ、もう···だから···っ

教官は、ソファの脇にあった私の鞄を手に取った。
そして、勢いよく逆さにひっくり返した。

サトコ
「ちょ···教官!?」

東雲
見たから。ボートでキミが鞄をひっくり返した時···
メモみたいな紙が出てきて···

(メモ?)

東雲
だから、オレなりにキミを甘やかそうと···
···あった。これだ
この紙に『教官に甘えたい』って書いて···

サトコ・東雲
「!?」

(な···なんで、例のおまじないの紙が鞄の中に···)
(まさか!)
(今朝、エビフライを焦がした時に···)

サトコ
『と、とりあえず誤魔化そう!』
『ええと···スマホ、スマホ···なにか良い方法は···』

バサッ···

(あのとき、たしかに何かが机から落ちた気がしたけど···)
(よりによって、この紙だったなんて···)

でも、これで誤解は解けたはずだ。
だって、そこに書いてあるのは···

ーー「教官に甘えてほしい」

東雲
キミ···これ···

サトコ
「雑誌にあった『おまじない』です」
「紙に『願い事』を書くんですけど···」
「何を願おうかなって考えた時、教官のことが真っ先に浮かんで···」

東雲
······

サトコ
「いつも教官にはいっぱいお世話になっていて···」
「私ばかり、甘えさせてもらってるから···」
「たまには教官に甘えてほしくて···」

東雲
······

サトコ
「というわけなので、今日はドーンッと!」
「私の胸に飛び込んできてください!」

東雲
······

サトコ
「さあ、ドーンッと···」

東雲
······無理

(うっ···)

サトコ
「そ、そんなに頼りないですか?」
「でも、1日くらい甘えてくれても···」

東雲
無理
ほんと、キミ···
キミって···

(あれ···なんか様子が···)

東雲
できてるの。覚悟

サトコ
「えっ···はい、もちろん···」

東雲
だったら

乱暴にウエストを抱えられた。
さらに、身体を肩に担がれて···

(こ、これは···)
(最近、ウワサの「お姫様抱っこ」ならに「お米様抱っこ」では···)

【寝室】

(えっ、寝室?)
(まさか、これは···)

サトコ
「ぎゃっ」

(ベッド···ベッドの上って···)

東雲
あるんだよね、覚悟
オレを甘やかすっていう···

サトコ
「あ、あああります!ありますけど!」
「私、まだ卒業前で···っ」

東雲
······

サトコ
「きょ、教官?」

(本当に?)
(本当に、これから私···教官に···)

サトコ
「ひゃっ···」

サラサラの髪が、首筋をくすぐった。
教官が、私の胸元に顔を埋めてきたからだ。

サトコ
「あ、あの···」
「この体勢は···」

東雲
しない。これ以上は
だから、いさせて···このままで···

(···教官?)

東雲
疲れた···いろいろと···
ほんと、あり得ない···

サトコ
「あり得ないって、なにが···」

東雲
慣れないことした
キミを···甘やかすとか···

(えっ、じゃあ···)

サトコ
「自分でカレーを作ろうとしたのも···」
「行列に並んで、チーズケーキを食べてくれたのも」

(ううん、それじゃなくて···)

サトコ
「膝枕してくれたのも、公園でキッスしてくれたのも···」
「ピーチネクターをくれたのも···」

(全部、私を甘やかそうとしてくれたからで···)
(それって、つまり···)

サトコ
「ありがとうございます」
「私の願いを叶えようとしてくれて」

東雲
勘違いだったけどね
しかも真逆とか

サトコ
「だとしても嬉しいです。その気持ちだけで」

東雲
······

サトコ
「ありがとうございます。教官」

しばらく無言が続いた後···
教官は、ぽつりとつぶやいた。

東雲
ホワイトデーだから

サトコ
「えっ」

東雲
年に一度だけだから。こういうの

布越しに伝わってくる体温が、明らかに上昇している。
髪の毛から覗いた耳のふちも、心なしか薄っすらと赤い。

(教官···)

サトコ
「教官···っ」

東雲
ぐっ

サトコ
「好きです!大好きです!!」

東雲
ちょ···離せ。馬鹿力···
苦し···っ

(起きたら、カレーを作ろう)
(教官の好きなもの、いっぱい入れて···)

私の願いを叶えようとしてくれた、大切な人のために。
とびっきりの「年に一度」にするために。

Happy End



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