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今日は彼に甘えちゃおうキャンペーン 黒澤2話



ホワイトデー、黒澤さんのお誘いを受けて、行列の中を並んでいた。

サトコ
「ここ···あの有名なピザ屋さんじゃないですか」

黒澤
そうなんです!予約は不可なので、食べたいなら並ぶしかないという、あの!

サトコ
「実は私、一度食べに来たかったんです」

黒澤
本当ですか?

サトコ
「でもひとりで並ぶのも、ちょっと気が引けて」

黒澤
確かに···ここに1人で並ぶのは相当なピザ好きと認定されますからね
でも安心してください。今日はオレがいますから☆

サトコ
「はい、連れて来てくれてありがとうございます」

黒澤
いえいえ。むしろこのくらいで感謝なんていいんですよ
サトコさんにはもーっと返さないと足りないくらいですし

(あ···もしかして黒澤さん、私がこのお店に来たかったって知ってて?)

勘違いかも···と思うけれど、嬉しい気持ちが膨らんでくる。

(行列のお店ってあんまり来ないけど、黒澤さんとならどれだけでも待てそう)

そして並んだまでは、よかったものの···

サトコ
「···もう少しで売り切れって言ってましたよね。大丈夫でしょうか」

黒澤
大丈夫です。サトコさん、次です!やっと次、注文できますよ!

サトコ
「はい···!」

スタッフ
「申し訳ございません!本日のピザの販売はここまでとさせていただきます!」

黒澤
え!?

私たちの目の前で、ピザは無情にも売り切れてしまった。

黒澤
そ、そんな···!

サトコ
「残念ですね···」
「さっき店員さんも、持つかわからないって言ってましたけど···」

黒澤
よりにもよって目の前で売り切れにならなくても!
はあ···すみません、サトコさん。せっかく並んでもらったのに
並んだ時間、完全に無駄になっちゃいましたね

サトコ
「黒澤さん···そんなことないです」

黒澤
え?

サトコ
「ええと、その···私は並んでいる間に黒澤さんと話が出来ただけで、十分嬉しかったので」

黒澤
···!

サトコ
「あ···!私、行ってみたいお店があるんですけど」
「カフェなので軽食も食べれますし、丁度いいと思いますよ」

黒澤
じゃあ予定を変えて、そこ行きましょうか

サトコ
「はい、ただ···ちょっと、その···問題が」

黒澤
問題?

サトコ
「ええ···行ってみればわかるんですけど、行ったらもう手遅れというか」

黒澤
手遅れ···??

サトコ
「いえ、何でもないです。···今日は私のお願い、なんでも聞いてくれるんですよね?」

黒澤
もちろんです!今日はこの黒澤が、アナタを癒す日ですから!

サトコ
「よし!じゃあ、行きましょう!」

黒澤
サトコさん···何か企んでません!?

警戒する黒澤さんの背中を押して、私が向かった先は···


【カフェ】

なんともメルヘンチックな雰囲気が漂うカフェに、黒澤さんと向き合って座る。
テーブルに椅子、そして店全体がファンタジーの世界を醸し出していた、

黒澤
サトコさん···こ、ここは···?

サトコ
「 “子リスとウサギのメルヘンキャッフェ” です!」
「前に雑誌で見てから、ずっと気になってたんですよ」

(あのおまじないが載ってた雑誌なんだけど···たまたま目について、覚えてたんだよね)

黒澤
待ってください、サトコさん
この女子的空間···オレ、浮いてないですか?

サトコ
「全然そんなことないですよ!むしろ馴染んでます!」

黒澤
ええ~?こんなところ、そらさんとかに見られたら絶対からかわれる···

スタッフ
「お待たせしました~。長野県産りんごを使用した、ビッグジャンボパフェです」

サトコ
「わあ···大きい!」

黒澤
これが、サトコさんが食べたかったパフェですか!

サトコ
「はい!長野のりんごがふんだんに使われてるって話だったので」

(って···黒澤さん、意外とパフェ似合うなぁ)
(さっきまではそわそわしてたのに、パフェを見た瞬間、目を輝かせて)

サトコ
「か、かわいすぎる···」

黒澤
「ん?どうかしましたか?」

サトコ
「なんでもないです!」
「パフェ、よかったら一緒に食べませんか?さすがに、ひとりでこの量は···」

スタッフ
「ではこれから、ホワイトデー限定イベントがスタートします!」

サトコ
「い、イベント?」

黒澤
あ、これですよ。このメニューの裏に···

サトコ
「えっとジャンボカフェを···」

スタッフ
「ジャンボカフェを食べさせ合っこして、最初に食べ終わったカップルの勝利です!」

サトコ
「食べさせ···!?」

黒澤
もしかしてこれ、オレたちも強制参加ですかね

サトコ
「そうみたいです···思いっきりジャンボパフェ頼んじゃいましたし」

スタッフ
「優勝したカップルには、豪華賞品をプレゼント!」

黒澤
サトコさん、頑張りましょう!

サトコ
「ええ!?」

(なんか、黒澤さんのほうがやる気になってる···!?)
(でも、楽しんでくれてるなら結果オーライ···かな?)


【公園】

そして···
私たちはパフェ早食いコンテストでちゃっかり優勝して、お店を出てきた。

サトコ
「はあ、お腹いっぱい!やっぱり食べごたえありましたね、あのパフェ!」

黒澤
そうですね···

サトコ
「黒澤さん?大丈夫ですか?」

黒澤
早食いやってるときは楽しかったんですけど、終わったら一気にダメージが···
あの店の、男への精神攻撃は凄まじいですよ

サトコ
「す、すみません。無理やり連れて行ってしまって」

黒澤
そんな顔しないでください
ああいうカフェ、めったに行かないので色々と新鮮でしたし☆
それにアナタに喜んでもらえたなら、それで

(笑顔が眩しい···のに、心なしかげっそりしてるように見える···)

サトコ
「黒澤さんの精神力が回復するまで、ちょっと休んでいきましょうか」

通りかかった公園のベンチに座ると、黒澤さんが私の隣に腰を下ろす。
でもその直後、コツンと肩に重みを感じた。

(え···?)

黒澤
あー、落ち着く

サトコ
「くっ、くっ、黒澤さん···!?」

黒澤
重いですか?

サトコ
「いえ···!だ、大丈夫です、けど···っ」

黒澤さんにもたれかかられて、頭の中が真っ白になった。

(こ、こんなに密着したら···心臓の音、聞こえちゃいそう···)

ベンチに置かれた私の手に、黒澤さんの手が静かに重なる。

サトコ
「······!」

黒澤
···アナタと一緒にいると、ホッとするんです

サトコ
「黒澤さん···?」

鳴子
「えーっ!?ど、どういうこと!?」

あまりにも突然聞こえた声に、咄嗟に身体を離すことが出来なかった。
あわてて振り向くと、鳴子や千葉さん、それに他の同期たちが呆然と私たちを見ている。

(し、しまった···!もしかして、ボウリングの帰り!?)
(どうしよう···!なんとかして誤魔化す方法は···!)

鳴子
「まさか、サトコのデートの相手って···」

サトコ
「ちが···あの」

黒澤
···極秘任務

普段の黒澤さんの明るさがまったく含まれていない低い声が、その場に響いた。
その声に、みんなの表情が変わる。

千葉
「あ···!そうか、任務中だったんですね」

鳴子
「なるほど!それなら納得···」

黒澤
目立ちたくないので、すみませんが早く帰ってください~

同期1
「すみません!ほら、邪魔にならないうちに早く行こうぜ」

同期2
「でもびっくりしたな。黒澤さんって、いつも笑ってるイメージだったけど」

鳴子
「やっぱり、仕事となると違うってことよ」

千葉
「うん。オレたちも見習わないと」

うまく誤魔化せたらしく、鳴子たちはすぐに公園から出て行った。

(よかった···でも、任務って···)
(もしかしてこれ、デートじゃなくて任務だったのかな···)

黒澤
はぁ···台無しですよ

サトコ
「す、すみません···!私も、任務だったなんて知らなくて」

黒澤
なーんて☆

サトコ
「えっ?」

いつも黒澤さんの笑顔に、肩の力が抜けた。

黒澤
せっかく二人の時間だったのに、邪魔されちゃいましたね

サトコ
「えっと···」

黒澤
あれ?そういえば、今日はオレがアナタを癒すって言ってたのに
結局、オレのほうが癒されちゃってます

サトコ
「そんなことは···」
「あの、任務っていうのは···」

黒澤
もちろん嘘ですよ。任務だったら先にサトコさんにも言います
さて、もう遅いし、そろそろ帰りましょうか

サトコ
「はい···そうですね」

先に立ち上がった黒澤さんが、手を差し伸べてくれる。
少し照れながらも、しっかりとその手を握り返した。

黒澤
そういえば、あのメルヘンなカフェでもらった商品、なんだったんですか?

サトコ
「あ、まだ中見てなかったですね」
「···え!?こ、これは···」

黒澤
なんです?
···お食事無料券

サトコ
「しかも、あのお店の···です」

黒澤
つまり、もう一度来い、と···

サトコ
「うまい商売ですね···」

“子リスとウサギのメルヘンキャッフェ” を思い出したのか、黒澤さんの目が遠くなった。

(きっとああいうお店、苦手だよね···)
(それなのに、そんなこと言ったら···嫌われるかな)

サトコ
「あの···もしよろしければまた、私と一緒に、行ってくれませんか?」

黒澤
え?

サトコ
「今日、最後のお願いです」

黒澤
···
それって、またオレとデートするってことですけどいいんですか?

サトコ
「···!」

手をつないだまま、隣の顔を見上げる。
黒澤さんの表情に、大人びた笑みが浮かんでいた。

黒澤
約束ですよ

サトコ
「···はい!」

(また、黒澤さんと一緒に過ごせる···)
(結局自分の気持ちははっきり伝えられてないし、返事はもらえてないけど)

いつかちゃんと伝えて、この曖昧な関係をはっきりさせたい。
つないだ手から黒澤さんのぬくもりを感じながら、密かにそう願う私だった···

Happy End



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