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ふたりの卒業編 後藤6話



【個別教官室】

サトコ
「杉山氏が、今回の事件に何か関係してるんですか!?」

イケメン敏腕秘書ともてはやされている政治家秘書の杉山氏が過激派組織の婦人会に姿を見せた。
そのことを報告すると、後藤さんたちの顔つきが変わる。

後藤
これでつながった

サトコ
「つながったっていうのは···」

後藤
···夏月の事件のことだ

サトコ
「!」

後藤さんの言葉に私は小さく息を呑む。

サトコ
「杉山が夏月さんの事件に関わっているんですか!?」

後藤
正確には、杉山の父親が···だ

サトコ
「杉山の父親?」

後藤
夏月の時の事件と、今回の警察官襲撃事件の共通点を探っていた
そこで被害者に一つの共通点が見つかった

後藤さんがファイルから数枚の書類を取り出すと、デスクの上に並べる。
そこには今回の事件で犠牲になった警察官のプロフィールが書かれていた。

後藤
この2人が今回の事件で狙われた人物で、こちらの2人が前回の事件で狙われた人物だ
···夏月は例外だ。巻き込まれただけだからな

眉間にシワを寄せた後藤さんが、夏月さんのプロフィールを外す。
後藤さんの視線が夏月さんの写真に留まり、しばらくそのままだった。

(後藤さん···)

颯馬
この犠牲となった4人は警察内部の汚職事件に関与しています

サトコ
「え、汚職事件に!?」

後藤
夏月の事件の時には、警察内部で隠蔽されていた
だが、今回新たに2人が殺されたことで発覚した

颯馬
そして杉山の父親も警察官で、この汚職事件に関与していた可能性が浮上しています

サトコ
「なるほど···間接的とはいえ、杉山も二つの事件に関わっているんですね」
「その杉山が、今回の実行犯である過激派組織の集会に顔を出している···」

一柳昴
「ただの偶然じゃないだろうな」

サトコ
「杉山の父親はどうしているんですか?」

後藤
現在は行方不明だ。杉山の父親に関する情報は、ある年を境に途絶えている

サトコ
「生きている可能性は低いんですか?」

一柳昴
「まあ、あまり高くはないだろうな」

(杉山の父親は警察内部の汚職事件に関与していて、現在は行方不明)
(そして、警察官を襲撃している過激派組織と杉山が通じているっていうのは)
(どういうことだろう?)

後藤
件の汚職事件に関わっていた人物は、もうひとりいる

サトコ
「じゃあ、次に狙われるのは···その人!」

後藤
そういうことになる。最後の被害者になるであろう男は、まだ現職だ

颯馬
今回の事件は当然耳に入っているでしょうね

一柳昴
「気が気じゃねぇだろうな」

サトコ
「でもそれなら、その男を張っていれば犯人を確保できるってことですね!」

後藤
そういうことだ。事件のつながりが見えた以上、急がなければいけない

一柳昴
「狙われている男を秘密裏に警護する必要があるな」

後藤
警護には俺が向かう

サトコ
「私も一緒に行きます!ここまできたら最後まで見届けさせてください!」
「警護の訓練は一柳教官から、しっかり受けています!」

一柳教官の方を見ると、ふっと余裕の笑みを浮かべられる。

一柳昴
「まあ、オレの訓練を受けていれば現場でも即戦力にはなる」

後藤
一柳の訓練はともかく···来るなと言っても聞かないだろう

サトコ
「はい!」

一柳昴
「ともかくじゃねぇだろ。警護はオレの専門分野だ。お前らだけには任せておけねぇ」
「オレがサポートについてやる」

サトコ
「SPの一柳教官のサポートがあれば心強いですね!」

後藤
邪魔だけはするなよ

一柳昴
「それはこっちのセリフだ。部外者が口を挟むな」

後藤
部外者はお前の方だろうが

サトコ
「まあまあ···」

<選択してください>

A:ケンカしてる場合じゃない

サトコ
「ケンカしてる場合じゃないですよ」

後藤・昴
「別にケンカじゃない」

(タイミングぴったり!)

颯馬
その呼吸を捜査でも見せてくれ

サトコ
「後藤さんと一柳教官が組めば怖いものナシですね!」

後藤
フン···

一柳昴
「ちっ」

顔を背け合う二人に、私と颯馬教官は顔を見合わせて笑った。

B:本当に仲良いですね

サトコ
「お二人、本当に仲良いですね」

後藤
サトコ···

一柳昴
「お前の目は節穴か?」

サトコ
「またまた···そろそろ認めたら、どうですか?」
「唯一無二の親友だって」

後藤
唯一無二の···

一柳昴
「親友?」

後藤さんと一柳教官が顔を見合わせて、あからさまに嫌そうな顔をする。

颯馬
ふふ、サトコさんも言うようになりましたね

サトコ
「こういう時の扱い、少しずつわかってきましたから」

C:本当に仲悪いですね

サトコ
「こんな時まで言い合うなんて···本当に仲悪いですね」

後藤
仕方ないだろう

一柳昴
「コイツのせいだからな」

後藤
その言葉、そのまま返す

サトコ
「また···」

颯馬
この言い合うテンポが、そのまま連携の良さに通じているんですよ

サトコ
「なるほど···」

(そう考えると、後藤さんと一柳教官はこのままでいいんだな)

颯馬
ともかく、私もサポートにつきますから安心してください

サトコ
「はい!」

(今は言い合ってても、いざって時の後藤さんと一柳教官の連携は完璧だし)
(颯馬教官もついてくれるなら安心だよね)

後藤
これがターゲットとされる警察官の家の場所と間取りだ
すでに犯人側が動いている可能性も高い。現場に行き、状況を見て判断する

一柳昴
「オレ以外にも警護課から応援を連れて行く。準備が整い次第、現場に向かうぞ」

サトコ
「はい!」

後藤
だから、お前が仕切るな

一柳昴
「仕切られるお前が甘いんだよ」

現場となる家の間取りを頭に入れ、私たちは最後のターゲットとなる男の自宅へと急いだ。


【車内】

後藤
狙われている男の在宅は確認済みだ

サトコ
「家は静かに見えますね」

私たちは目的地となる家から少し離れたところで周囲の様子を窺う。

颯馬
他の捜査員からの報告では、この数時間の間に何台かの車両が近くに停められていたそうです

一柳昴
「すでに犯人側が中にいる可能性もあるってわけか」

後藤
正面からいくわけにはいかないな

一柳昴
「中に入るのは最少人数···せいぜい2人···」

後藤
俺が行く

サトコ
「私も行きます!」

後藤さんに続いて私も手を挙げる。
チラッと後藤さんに視線を送ったのは、一柳教官だった。

一柳昴
「いいか?」

後藤
···ああ。俺とサトコで行く

サトコ
「後藤さん···!」

後藤
アンタと俺ならいける

サトコ
「はい!」

一柳昴
「なら、オレと周さんは家の敷地内で待機。他の警官も周囲に配備する」

一柳教官が待機している警察官たちにインカムで配置の指示を出す。

颯馬
何だか刑事時代に戻ったみたいですね

後藤
···そうですね

当時のことを思い出すのか、後藤さんが軽く目を伏せる。

後藤
だが、今の俺はあの頃と違う。必ず、全員無事で任務を終えてみせます

颯馬
ああ。今の俺たちなら、できるはずだ

警官たちの配備が終わると、私たちは顔を見合わせる。

一柳昴
「油断すんなよ」

後藤
お前もな

颯馬
くれぐれも気を付けて

サトコ
「はい!」

頷き合うと私たちは車を降り、私は後藤さんと男の自宅へと向かった。


【男の自宅】

(玄関のカギがかかってなかった···)

後藤さんと私は男の自宅に入りながら、家の中の様子をうかがう。

(リビングに人の気配はするけど···)

後藤
······

後藤さんが振り向き、視線だけでリビングを指した。

(最初にリビングを確認するんだ)

私は小さく頷いて答える。
後藤さんが先頭になり、リビングのドアを開けると······

【リビング】

後藤
警察だ!

杉山
「!」

リビングのドアを開けると、中には杉山の姿があった。
杉山が中年の男性に拳銃を向けている。

(杉山がどうして!?)

杉山
「ちっ、どうしてここがわかった!?」

男性
「ぐっ!」

杉山は男を盾にするようにして立つと、彼のこめかみに拳銃を突きつけた。

杉山
「動くな!動けば、この男の命はない」

後藤
······

サトコ
「今殺そうとしてたくせに、人質にするなんて卑怯な···」

杉山
「死ぬ前に役に立てるんだ。警察官冥利につきるだろう」

杉山はニヤリとその口角を上げる。
その顔はテレビで見せている好青年の顔とは、全く違うものだった。

(これが、この男の本性!一連の事件の黒幕は杉山だったっていうの!?)

杉山
「まずは拳銃を捨てろ」

後藤
···わかった。氷川

サトコ
「はい」

後藤さんが拳銃を下に置き、私もそれに習う。

(犯人側が先に中にいて、マルタイを人質に取られる可能性も考えていたけど)
(これから、どう動けば···)

相手の動きあってのことなので、この先の作戦は立てられない。
一瞬一瞬の判断が明暗を分ける。

(落ち着けば大丈夫。このケースの訓練も重ねてきたんだから···)

それでも緊張を隠せず呼吸が早くなる。

後藤
サトコ

杉山が人質の男を縄で縛りあげている隙に、後藤さんが1歩こちらに下がってきた。

後藤
アンタは俺が必ず守り抜く

(後藤さん···)

小さいけれど力強い声だった。
その声を聞いた途端、早くなっていた鼓動が落ち着いてくる。

(後藤さんがいる···それに、私も後藤さんを護るって決めたんだ)
(絶対にこの任務は成功させる!)

杉山
「さて···次はお前たちの番だ」

杉山が私たちの後ろに目配せをすると、2人の男が部屋に入ってくる。
彼らが過激派組織の構成員であろうことは簡単に想像がつく。

杉山
「2人を縛り上げろ」

構成員A
「了解。コイツらはどうしますか?」

杉山
「そうだな···すぐに殺してもいいが、何かの駒に使えるかもしれない」
「とりあえず、縛って部屋の隅にでも転がしておけ」

構成員B
「わかった。大人しくしろ!」

サトコ
「···っ」

後藤
······

私たちは縄で後ろ手に縛られると、部屋の隅に座らされた。
そして両足首も縄で縛られる。

(完全に身動きが取れない···)
(外にいる一柳教官と颯馬教官には、どれくらい中の様子が伝わってるんだろう)

予定通り事が進んでいれば、私たちはマルタイと家を出ている時間だ。
中で何かが起こっているという事は伝わっているだろう。

後藤
杉山、お前が人質にしている男と、お前の父親は同僚のはずだろう?
なぜ父親の同僚を狙う?

杉山
「ふん、それでこちらの情報を聞き出すつもりか?」

後藤
どうせ俺たちは殺されるんだろう?知ったところで問題ないんじゃないか?

杉山
「冥土の土産に···というやつか?悪いが、俺はそんな間抜けじゃない」
「不必要なことは喋らない主義だ」

後藤
さすが敏腕秘書と言われているだけのことはあるな

杉山に積極的に話しかける後藤さんに、私はその意図を考える。

(後藤さんがしようとしていることは···)

<選択してください>

A:時間稼ぎ

(犯人との会話を長引かせようとしている時は、時間稼ぎが大抵の狙いだけど···)
(今、時間稼ぎをする理由はある?)

人質が殺されるまで間を保たせたいというのは考えられる。
けれど同時に、人質救出のためには外との連携が欠かせない。

(あ!そういえば、私たちには外に通じる通信機がつけられている)
(杉山との会話で中の様子を伝えたいのかも!)

B:外への情報伝達

(今の後藤さんに一番必要なものは···一柳教官と颯馬教官の協力)
(そのためには、中の様子を教官たちに伝えなきゃいけない)

私たちには、外に通じる通信機がつけられていることを思い出す。

(後藤さんは、杉山との会話で中の様子を伝えたいんだ!)

C:相手の作戦を探る

(こんなふうに雑談をするのは、その会話から相手の作戦を探るため?)
(でも、向こうの作戦がわかったところで、身動きが出来なければ意味がない···)

今の私たちにとって一番重要なのは、外にいる一柳教官と颯馬教官と連携することだ。

(そのためには、中の様子を教官たちに伝えないと···)
(そうだ!私たちには外に通じる通信機がつけられてる)
(杉山との会話で中の様子を伝えたいのかも!)

サトコ
「手足を縛られた状態じゃ、私たちにはもうどうしようもありません」
「そこまで警戒する必要はないんじゃないですか?」

後藤
ああ、その通りだ。お前たちは3人···拘束された状態じゃ、こちらに勝ち目はない

私たちの状況を言葉にすると、後藤さんも敵の人数をわざわざ口にする。

(やっぱり、この作戦で合ってたんだ!)

杉山
「黙れ。まず、俺は俺の目的を果たす。お前らは黙って見ていろ」

杉山は目的の男と距離を取ると、拳銃を構えた。

男性
「ひ、ひいっ!ゆ、許してくれ!」

杉山
「そう懇願した父を、お前たちが殺したんだろう!」

(え?)

杉山の怒声が響いた瞬間。

(後藤さん!?)

私の隣で縛られていたはずの後藤さんが動いた。

to be continued



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