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ふたりの卒業編 後藤7話



【男性の家】

杉山
「黙れ。まず、俺は俺の目的を果たす。お前らは黙って見ていろ」

男性
「ひ、ひいっ!ゆ、許してくれ!」

杉山
「そう懇願した父を、お前たちが殺したんだろう!」

杉山が男性に拳銃を向けた瞬間、私の隣の後藤さんが動いた。

(手足を縛られてるんじゃなかったの!?)

はらっと後藤さんから解かれた縄が落ちる。
同時に庭側の大きな窓が破られた。

杉山
「なに!?」

後藤
撃たせるか!一柳!

一柳昴
「わかってる!」

颯馬
サトコさん!

サトコ
「颯馬教官!私はここです!」

一瞬の出来事だけれど、まるでスローモーションのように私の目には映る。

後藤
はっ!

杉山
「ぐっ!」

私の隣を飛び出した後藤さんは杉山にタックルをすると、その銃口を天井に向けさせた。
そして手から拳銃を叩き落すと、素早く杉山を床にねじ伏せる。

一柳昴
「マルタイ確保!」

その間にも一柳教官は男性を安全な位置まで移動させていた。

(すごい···!)

颯馬
もう大丈夫ですよ

サトコ
「あ···」

颯馬教官の声が耳元で聞こえたかと思うと、私の手足が自由になっている。

サトコ
「ありがとうございます!」

颯馬
被疑者確保···ですね

部屋になだれ込んだ警察官たちが過激派の構成員たちを捕えている。

後藤
立て

杉山
「くっ···!」

後藤さんが杉山に手錠をかけて立たせる。
こうして私たちの作戦は成功を収めた。


【取調室】

警察庁に戻り、すぐに杉山の取り調べが始まった。
取り調べには後藤さんと私、一柳教官と颯馬教官が参加している。

杉山
「···すべて俺が計画し、やったことだ」

杉山は驚くほど簡単に罪を認めた。

後藤
随分と素直だな

杉山
「俺は無駄なことはしない主義だ。それに、決めていたからな」

後藤
決めていた?何をだ

杉山
「俺が捕まった時は、俺の負け···ゲームオーバーだと」

後藤
ふざけるな!これはゲームなんかじゃない!

杉山
「ふっ、どうだろうな。ゲーム感覚だったのは、警察の連中の方じゃないのか?」
「俺の父親の命を簡単に奪ったんだからな」

後藤
どういうことだ?

杉山
「俺の父親が警察官なのは、お前たちも知っている通りだ」
「父が警察内部の汚職事件に関与していることは、お前たちも把握しているんだろう?」

後藤
ああ。今回の事件で狙われた二人は同じ汚職事件に関与している
以前に起きた警察官連続襲撃事件の被害者も同様に···な

後藤さんが犠牲者のプロフィールを男の前に並べた。

後藤
この二つの事件をつなぐのは、杉山···お前だ
今回の事件だけでなく、前回の事件にも関わっているのか?

後藤さんの声がかすかに強張る。

(一番重要な質問···)

見守る私にも緊張が走る。

杉山
「ああ。以前の2件の事件も俺が計画したものだ」

サトコ
「!」

後藤
······

後藤さんの纏う空気が張り詰めるのがわかる。

後藤
ここに並べた警察官の他に···もうひとり女性警察官が犠牲になっている

後藤さんが夏月さんのプロフィールを杉山の前に置く。
杉山の眉が写真に反応するようにピクリと動いた。

杉山
「この女は···」

後藤
この警察官の殺害も、お前の仕業か?

杉山
「この女は···ああ、囮で使われた女か。この女には顔を見られたからな」
「知り合いのホームレスに金を握らせて殺した。この女だけは想定外だった」

後藤
······

小さく笑う杉山に、後藤さんが立ち上がった。
俯いている彼の顔は前髪でよく見えないけれど、その拳が振り上げられるのがわかった。

サトコ
「後藤さん!!」

杉山に振り下ろされようとした拳を私は後藤さんの身体ごと止める。

後藤
離せ、サトコ!こいつのせいで···っ!

サトコ
「分かってます!分かってますけど···ここで杉山を殴ったら、後藤さんが処分されます!」
「そんなことをしても···きっと夏月さんは喜びません!」

後藤

夏月さんの名前に後藤さんの動きが止まる。
次に後藤さんの隣に立ったのは一柳教官だった。

一柳昴
「ったく、お前は···落ち着け」

後藤
······

一柳教官が後藤さんを後ろにあるイスに移動させた。
よく見ると、冷静に見えた一柳教官の手も強張っているのが見える。
代わりに取り調べ用のイスには颯馬教官が座った。

杉山
「この女···あの男にとって特別な女だったのか?」

颯馬
警察官にも、それぞれの事情があるという事だ。お前が罪を犯す動機と同じように···な

取り調べをする颯馬教官は初めて見る。

(いつもの穏やかな颯馬教官と全然違う···)

その厳しい空気は、まさに公安刑事そのものだった。

颯馬
一連の汚職事件のなかで、お前の父親だけが行方不明になっている
その息子であるお前が、父親の仲間である警察官を殺害した動機は何だ?

杉山
「簡単な話だ。俺の父は汚職に自責の念を覚え、自首しようとした」
「そこで事件の発覚を恐れた他の警察官たちが口封じのために父を殺した」
「当然、警察官の犯罪だから父の殺害も隠蔽されたままだ」

颯馬
そこで、自らの手で復讐を始めたわけか

杉山
「そういうことだ。さっきアンタが言ったように、俺には俺の事情がある」

サトコ
「······」

(杉山も父親の復讐のために犯罪に手を染めた···)

罪を犯すことは決して許されないことではないけれど。
動機としては理解できるものだった。

杉山
「最後のあいつは仕留められなかったが、これで全てが明るみに出るだろう」
「俺の復讐は果たされたことになる。それで満足だ」

杉山は目を閉じて天井を仰ぐと、その口元に笑みを浮かべる。

サトコ
「······」

颯馬
······

一柳昴
「······」

真相が解明されても、心が晴れることのない事件。
警察官の汚職、そこで犠牲になった父親の復讐······

(そんな事件に巻き込まれて、亡くなった罪のない夏月さん···)

やりきれなさに言葉が出てこない。

後藤
······

後ろの後藤さんを見ると、彼は何も言わず、杉山を見据え続けていた。


【廊下】

サトコ
「後藤さん!」

取調室を出た後藤さんの背中に私は声を掛ける。

後藤
······

後藤さんは足を止めると、僅かにこちらを振り返った。

後藤
さっきは取り乱して悪かった。もう大丈夫だ

サトコ
「後藤さん···」

それだけ言うと、後藤さんは歩いて行ってしまう。
その背中は他人を拒絶しているような気がして、私は惑う。

<選択してください>

A:後藤を追いかける

(後藤さんをひとりにしたくない···)

そう思った私は後藤さんを追いかける。
すると、後藤さんが足を止めた。

B:後藤を追いかけない

(今は追いかけない方がいいかもしれない)
(ひとりで気持ちを整理したい時だってあるよね···)

夏月さんの事件が片付いた今、思うところもあるだろう。
そう思って背中を見つめていると、後藤さんが足を止めた。

C:もう一度呼び止める

(ひとりにしない方がいいのかもしれないけれど···)

そう思ったけれど我慢が出来ずに、私は口を開いてしまった。

サトコ
「後藤さん!」

後藤
···何だ?

後藤さんが立ち止まり、わずかにこちらを振り返る。

サトコ
「あの、その···」

(どうしよう。声を掛けたはいいけど、何を言うかまでは考えてなかった···)

後藤
上に報告に行ってくる。アンタはもう帰って休め

サトコ
「後藤さんは、いつ帰るんですか?」

(できれば、後藤さんの部屋で待っていたいけど···)

後藤
警察内部の事件だ。報告には時間がかかるだろう

サトコ
「···わかりました」

再び歩き出した後藤さんの背中を、私は黙って見送った。
後藤さんの足音が遠ざかると、今度は私の後ろから足音が近づいてきた。

一柳昴
「お疲れ」

サトコ
「一柳教官!」

一柳昴
「相変わらず辛気臭いヤツだな」

一柳教官は後藤さんの背中を見ている。

サトコ
「後藤さん···大丈夫でしょうか?」

一柳昴
「···多分な」

サトコ
「多分···」

一柳昴
「あいつのメンタルの強さはオレにもわかんねぇからな」
「任務中は驚くほど強靭な精神力を見せる時もあるが···」
「たまに信じられねぇほど豆腐メンタルになる時もある」

サトコ
「なんとなくわかります···」

一柳昴
「ぷっ、わかんのかよ。お前、本当に後藤のことよく知ってんだな」

サトコ
「2年近く、後藤さんの補佐官をしていますから」

一柳昴
「2年もアイツの面倒見てんのか。お前も物好きだな」

一柳教官が私を見つめて、その目を細める。

サトコ
「面倒見てもらったのは、私の方です」
「後藤さんがいなければ、公安刑事にはなれませんでした」

一柳昴
「ノロケか?」

サトコ
「そ、そういうつもりじゃ···!」

一柳昴
「刑事課時代の後藤は···あそこまで無愛想じゃなかった」

サトコ
「え?」

一柳昴
「夏月を失ってから自分の感情を押し殺すようになっていたが···」
「この2年で随分元に戻った気がする」

サトコ
「一柳教官···」

一柳昴
「昴でいいって何度も言ってんだろ?」

一柳教官は一歩こちらに来て、私との距離を縮めた。

サトコ
「そういうわけには、なかなか···」

一柳昴
「卒業、もうすぐだろ。卒業したら、教官呼びできねぇってわかってんのか?」

サトコ
「そ、それは···」

(だとすると、一柳さん···?昴さん···は呼べないよ!)
(後藤さんのことだって、まだ名前で呼んだことないのに···)

一柳昴
「卒業の時まで待ってやる」

サトコ
「お、おかしな期待をしないでください!」

一柳昴
「後藤を変えた女だ。オレもお前と組んでみたい」

サトコ
「!」

一柳昴
「警護課からのスカウトの話、忘れんなよ」

私にグッと顔を寄せ、そう囁くと一柳教官は私の肩を軽く叩いて去っていく。

(一柳教官って、心臓に悪い···)
(でも···)

去っていく一柳教官の顔も、区切りがついたような顔をしている気がして。
私もひとりになり、大きく息をつく。
窓から見える空は雨も止み、夜の色に染まり始めていた。


【教官室】

翌日、私は通常通り学校に来ていた。

(後藤さんも学校に来てるのかな···)

報告が朝までかかるかもしれないと言っていた。
講義のあとに教官室に向かい、後藤さんの姿を探す。

(いないみたい···)

石神
氷川、何か用か?

サトコ
「あ、石神教官···後藤教官を探しているんですが···今日はお休みですか?」

石神
いや、休みという話は聞いていないが···

サトコ
「昨日の事件の報告が長引くかもしれないとは聞いていたんですけど···」

石神
ああ。確かに長引いたが深夜には終わったはずだ
その後のことは、俺も聞いていない

サトコ
「そうなんですか···」

(家に帰ってるのかな···)

昨日、警察庁の廊下で別れてから、後藤さんからの連絡はない。
漠然とした不安が胸に広がる。

東雲
また実家にでも帰ったんじゃないの?

サトコ
「東雲教官!」

突然横から聞こえてきた声に振り向くと、東雲教官が冷めた目でこちらを見ている。

東雲
飯嶋さんの事件、片付いたんだって?
これで後藤さんにとって、公安刑事である理由はなくなったってことだよね

サトコ
「!」

石神
東雲、お前は本当に···

(公安刑事でいる理由がなくなった···?)
(そうなのかな···?)

<選択してください>

A:後藤さんは公安を辞めない

サトコ
「後藤さんは···公安を辞めたりしません」

東雲
へぇ···自信満々だね。何を根拠に?

サトコ
「確かに、夏月さんの事件を解決するのは後藤さんの大きな目的だったと思います」
「でも今、公安にいるのは、それだけじゃなくて···」

(他の理由もあるって···思っていいですか?後藤さん···)

教官たちとの絆や私と積み重ねてきた時間も信じたい。

東雲
まあ、キミがどう思おうと結果はすぐに出るよ

石神
講義はないが、今日後藤は一応ここに顔を出す予定だからな

B:後藤さんの実家に連絡を···

サトコ
「そういうことなら、後藤さんの実家に連絡を!」

東雲
キミ、実家の番号知ってるの?

サトコ
「う、知らないです···石神教官、知りませんか?」

石神
話が飛躍過ぎだ。後藤は今日、ここに顔を出す予定になっている

C:石神教官に連絡を取ってもらう

サトコ
「石神教官、後藤さんに連絡してみてください!」
「石神教官からの電話だったら、すぐに出てくれるかもしれません!」

東雲
自分で電話したら?

サトコ
「そ、それは···」

東雲
つながらなかった時が怖い?

サトコ
「わかってるなら、わざわざ言わないでください!」

(本当に東雲教官はイジワルなんだから···)

石神
落ち着け。後藤は今日、ここに顔を出す予定になっている
もう少し待て

サトコ
「顔を出すっていっても、もう夕方···」

(学校のどこかにいるのかな···)

サトコ
「失礼します!」

石神
廊下は走るな

サトコ
「は、はい!」

(後藤さん、どこにいるんですか?)

私は教官室を出ると、後藤さんを探すため···結局、走り出してしまった。

to be continued



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