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恋敵編&卒業編 カレ目線 後藤2話



「抱きしめた体温」

【学校 廊下】

静かな夜の公安学校。
本来ならば平穏なはずの校内に緊迫した空気が流れている。

一柳昴
「待て。急ぎすぎだ」

後藤
絶対に遅れるわけにはいかねぇんだよ

公安学校の情報漏洩事件の犯人は、臨時教官としてやって来た岡田だった。

一柳昴
「早く行きすぎてタイミング外したら意味ねぇだろうが」

後藤
······

一柳の意見を黙殺しながらも、自然と早くなっていた歩調を僅かに緩める。
俺たちが向かう先はモニタールーム。
これから岡田の確保とサトコの保護を同時に行うことになる。

(刑事として事件を追うのは当然のこと···サトコの力で岡田は尻尾を出した)
(だが···)

単独行動を許したことが正解だったのか、今となってはわからない。

(岡田は追い詰められれば手段を選ばないタイプだ)
(サトコの正義感は岡田の感情を逆撫でする可能性も高い···)

一柳昴
「···また勝手に考え込んでんじゃねぇよ」

後藤
頭がカラッポだと考える脳味噌がなくていいな

一柳昴
「バーカ。てめぇの場合はムダなことを考えすぎなんだよ」

後藤
なに?

(サトコのみを案じるのが、ムダなことだというのか?)

険のある目で一柳を睨むと、ヤツも正面からその視線を受け止めてくる。

一柳昴
「今、オレらが考えなきゃいけないのは、サトコを無事に保護することだろ」
「過去の選択の是非を問う暇があるなら、前だけを見ていやがれ」

次の角を曲がれば、モニタールームだ。

後藤
お前に言われるまでもない。しくじるんじゃねぇぞ

一柳昴
「それはこっちのセリフだ」

一柳と組むのには慣れている。
サトコを助け出すには、一柳を信じるしかない。

(頼りにしてるなんて言わねぇ。絶対に成功させろ)

一柳昴
「持ち場につくぞ」

後藤
ああ

最後に視線を交わし、一柳はサーバールームへ。
俺はモニタールームへと走った。

後藤
動くな!

サトコ
「!?」

岡田
「!」

(やはり、こうなっていたか···)

目の前の光景は想定内のもので、俺は銃を構えたまま静かに近づいていく。

岡田
「動くなと言うのは、俺のセリフだ」
「少しでも妙な真似をしたら、氷川の命はない」
「大事な相棒を二度も失いたくないだろう?」

サトコ
「!」

後藤
······

(これも、想定内···)

サトコに向けられたナイフを見ながら、俺は呼吸を整える。

(サトコが人質になったケースを何度もシミュレーションしたはずだ)
(一柳がサーバールームからモニタールームに回って、岡田の不意を突く)
(待ってろ、サトコ···)

ともすれば飛び出したくなる気持ちを抑え、タイミングを計る。

一柳昴
「モニタールームとサーバールームがつながっていることを忘れたのか?」

(来たか、一柳!)

岡田
「!!」

一柳昴
「詰めが甘いな」

一柳が岡田の身体を捕えると同時に···

後藤
サトコ!

俺はサトコの身体を岡田から引き離した。
岡田の手からナイフを落とすと、それを一柳が蹴りで遠ざける。
言葉はなくとも、互いの動きを図るのは簡単な事だった。

後藤
···遅い。サトコを人質に取られる前に来い

一柳昴
「あのタイミングがベストだ」
「そもそも、誰のおかげで助かったと思ってんだ」

後藤
俺がお前を助けてやったんだろ

一柳昴
「はぁ!?」

後藤
文句があるのか?

(サトコが無事なら、それでいい)

売り言葉に買い言葉で言葉を交わしていると、不意にサトコの身体が揺れた。

後藤
大丈夫か!?

一柳昴
「どっかケガでもしてんのか?」

サトコ
「いえ、2人の顔を見たら気が抜けちゃって···」

サトコを抱き留め、その温もりを感じた瞬間、自分の腕も熱くなるのがわかった。
今になって鼓動がうるさいほど早くなっている。

(これは···安心、してるのか···)

サトコが無事だったと、それを実感してやっと深く呼吸ができる。

(どんな事態にも “絶対” はない。本当に···無事でよかった···)

抱き締める腕を強くすると、サトコも強くしがみついてくるのがわかった。

(サトコは生きてる···)

当たり前のことなのかもしれないが、そう強く感じると腕が震えるのを感じた。


【後藤マンション】

(まったく、どうしてこんな事態になったんだ···)

そもそものきっかけはスーパーで一柳に会ったことだった。
サトコの提案で、そのまま俺の部屋まで上がり込んだヤツの図々しさと言ったらない。

一柳昴
「お前、あいつのどこがいいんだ?」

夕食後、キッチンでコーヒーを淹れているサトコの背中をチラッと見て一柳が聞いてくる。

後藤
お前に答える義理はねぇ

一柳昴
「巻き込むだけ巻き込んで、その言い草かよ」
「まあ、お前がそういうつもりなら、それでもいいけどな」

もう一度サトコの方をチラッと見た一柳が意味ありげな笑みを見せる。

後藤
どういう意味だ

一柳昴
「いや、可愛かったと思って。オレの部屋に来たときのサトコ」

後藤

一柳昴
「一柳教官を信じてます···って、涙ながらに訴えてきて···」
「おっと、お前には教える義務のない話だったな」

後藤
話せ

一柳昴
「なら、まずはオレの質問に答えてもらおうか?」

一柳が足を組み直してソファにふんぞり返る。

(相変わらず性格の悪い野郎だ)

後藤
···見ればわかるだろ。真っ直ぐなところだ

一柳昴
「それだけじゃねぇだろ」

後藤
教えたら、お前本気で惚れるだろうが

サトコに聞こえないように小声で言うと、一柳が軽くその目を見張った。

後藤
図星か

一柳昴
「···おせーよ、危機感」

一柳は特に否定もせずに小さく笑う。

(やはり、こいつはサトコに近づけられない)

サトコのことは信じている···だが、ちょっかいを出す男を近付けるかどうかは、別の話だ。

一柳昴
「お互いの腹の中を見せて、オレらは対等になったっつーことだな」

後藤
どこがだ!サトコの恋人は俺だ。サトコは俺を選んで···

一柳昴
「選んで?」

後藤
俺たちは···

そう話を続けかけて、ハッと口をつぐむ。

(わざわざ一柳に話すことじゃないだろ)

一柳昴
「どうした?」

後藤
もうこの話は終わりだ

一柳昴
「あと少しだったのにな」

ニヤリと笑う一柳を睨むと、サトコが戻ってくる。

サトコ
「盛り上がってたみたいですね。なんの話ですか?」

一柳昴
「ちょっとな。男同士の話だ。ここに座れよ」

さも当たり前といった顔で、一柳が自分の隣を叩く。

(おい···!)

サトコ
「そこ、二人で座るには狭いですよ?」

一柳昴
「だからいいんだろ?」

(こいつは···)

サトコは一柳に微笑むと、その前にコーヒーを置いて俺の隣に座る。

サトコ
「熱いので気を付けてくださいね」

後藤
ああ···

俺にもコーヒーを勧めるサトコは大人だ。

(余計な心配をしなくても、サトコは···)

俺だけを見ている···そう安堵した時だった。

一柳昴
「今日、お前が作った料理、オーブンを使うとこのアレンジができるぜ」

サトコ
「え、どんな料理ですか?」

一柳が携帯で何かを見せようとし、サトコが立ち上がって身を乗り出そうとする。
その瞬間、俺はサトコの手を掴んでいた。

サトコ
「え···」

後藤
······

一柳昴
「······」

リビングに沈黙が下りる。

(ガキか、俺は···)

けれど、今さら掴んだ手を離すこともできない。

サトコ
「あ、あの、後藤さん?」

後藤
···アンタの料理は、今日のがいい

サトコ
「は、はい···」

一柳昴
「ったく、お前ら···見てる方が恥ずかしいんだけど」

顔を真っ赤にするサトコに、肩を竦める一柳。
それでも俺はサトコの手を離さなかった。

to be continued



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