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カレKiss×加賀 2話


【カフェテラス】

反日思想を唱えるグループに接触するため、大学に潜入して数週間。
カフェテラスでLIDEをしていると、水戸くんが通りかかった。

水戸
「萌木さん、講義は?」

サトコ
「今日は午後からなんだけど、ちょっと早く来すぎちゃって」
「水戸くんは?工学部の講義もこれからだよね?」

水戸
「うん。ちょっとその前に、調べ物をしようかと思って」

持っていたタブレットをテーブルに置いて、水戸くんが私の向かい側に座る。
最初に接触して以来、水戸くんとは会えば挨拶を交わす仲になっていた。

(本当は、同じ学部だって言ったほうが接点も多いんだけど)
(さすがに、工学部の会話についていける自信はない···)

専門的な知識が必要な学部なので、下手をするとバレてしまう。
無難なところで、経済学部ということにしてある。

(最近はいつも、講義の前にカフェテラスに顔を出すんだよね)
(今日も来るかなと思って、さりげなく待ってたけど···ビンゴ)

水戸
「そういえば、気になってたんだけど···いつも同じ服着てない?」

サトコ
「えっ?そ、そうかな···似たような服ばっかり着てるからそう見えるのかも」

水戸
「萌木さんに似合うけどね、そういう服」

(言われてみれば、ここに来るときはいつもこの服だ···)
(さすがに不自然だよね。でもこれ系の服、他に持ってないし)

あとで鳴子に相談してみようと思いつつ、水戸くんには笑顔を向ける。

サトコ
「調べものするんだっけ。ごめんね、邪魔して」

水戸
「いや、いいよ。もしかしたら萌木さんにも関係あることかもだし」

サトコ
「え?」

意味深な言葉に、平静を保ち続ける。
近くには、私たち以外には誰もいない。

サトコ
「···どういうこと?」

水戸
「誤魔化さなくてもいいよ」
「うちさ、“飲み会サークル” ···表立って会員とか募集してないんだ」

タブレットを操作しながら、水戸くんが小さく笑う。

水戸
「つまり、活動内容をわざわざ調べてからじゃないと通常なら参加しない」
「新規会員は誰かの紹介が基本。そうでなければ、よほどの同志だと思うよ」

サトコ
「···」
「そうだって言ったら、またあの飲み会に参加してもいいの?」

水戸
「もちろん。萌木さんなら大歓迎」
「今日、午後の講義ってどれを取るの?よかったら一緒に帰らない?」

私が否定しなかったことで、水戸くんもようやく心を開いてくれたらしい。

水戸
「家まで送るよ。萌木さんの話も聞きたいし」

(情報は欲しい···でも、家を知られるのは避けたいな···)
(だけどここで断れば、また距離ができるかも)

どう対応すべきかと考えていると、スマホが震えた。

サトコ
「···ごめんね。実は講義のあと、人に会う約束してて」

水戸
「そう···残念だな。じゃあ、また今度ね」

サトコ
「うん、また誘って」

その場をやり過ごして、スマホを確認する。
それは、津軽さんから場所と時間を告げるメッセージだった。

(今日は2週間に一度の、定期連絡の日···)
(時間と場所はその都度変わるから、津軽さんからの指示に従うことになってる)

メッセージを確認すると、講義に行くふりをしてカフェテラスを出た。


【公園】

待ち合わせの公園につくと、指示されたベンチに座る。
鳴子にLIDEを送る私の後ろのベンチに、津軽さんが背中合わせで座った。

津軽
首尾は?

サトコ
「今日、水戸と接触できました」

スマホを操作しながら、あまり口を動かさないようにして伝える。

サトコ
「ようやく尻尾を出しそうです」

津軽
すぐにでも行ける?

サトコ
「いえ、ここで急ぐと多分怪しまれるので」

津軽
じゃあ、次の指示
メンバーの詳細と、ランクを調べてきて

サトコ
「メンバーについては、だいたい把握してます。ランク付けのほう、急ぎます」

津軽
頼んだよ。それと···
万が一があるから、しばらくは警察庁に近づかないこと

サトコ
「わかりました」

津軽
あれ?なんでですかぁ~?って聞かないんだ

サトコ
「出くわす可能性があるかもしれない···ってことですよね?」

津軽
正解。ま、構内では変装もしてるし杞憂かもしれないけど
リスクの芽は摘んでおきたいから
どっちにしてもメンバーのこと調べるなら、今まで以上に大学に入り浸る必要がある
こっちに来てる暇、ないでしょ

サトコ
「そうですね」

津軽
そういえば提出書類読んだけど
芽衣ちゃんは身売りしてたってウサちゃんが自分で考えたの?

サトコ
「あ、過去のモデルケースをそのまま引っ張ってきたので···」

津軽
ふーん···

(あれ、何かまずかったかな···?)

津軽
君みたいな純朴そうな子がさ
知らない男に脇、足の指、他にも言えないようなところを舐められたんだと思うと···

サトコ
「···?」

津軽
ちょっと興奮するよね

サトコ
「もう解散でいいですかっ!?」

津軽
あははは、おーこった

反応まで見透かされていたように笑われると、ちょうど津軽さんのスマホが鳴る。

津軽
は~い。モモ?ああ、そう。ちょうどよかったよ。時間ぴったり

話しながら立ち去る津軽さんは振り向くことなかった。

(また人をからかって···)

溜息を吐きながら、鳴子からのLIDEを確認した。

( “清楚系かどうかわかんないけど、服なら貸せるよ” か···よかった)
(捜査だってわかってるから深く聞かずにいてくれるし、ほんと助かるな)

鳴子に返事をして、公園を後にした。


【駅】

家に帰るために大学の近くの駅まで来ると、見慣れた車に横付けされた。

加賀
乗れ

サトコ
「······!」

名前を呼びそうになり、慌てて口をつぐむ。
咄嗟に素早く辺りを見回して、加賀さんの車の助手席に乗り込んだ。

車が走り出しても、しばらくは沈黙が続いていた。

(別に、気まずくなってるわけじゃないのに···)
(ふたりきりなのが久しぶりすぎて、何話していいかわからない···!)

加賀
おい

サトコ
「は、はい!」

加賀
うるせぇ

サトコ
「返事しただけなのに···」

加賀
昨日の差し入れ、どこのきなこ餅だ

サトコ
「あ!あれはすごく有名なお店のお取り寄せなんです」
「最近お取り寄せにハマってて、値段もお手頃なのでみなさんにもおすそ分けを」

加賀
求肥餅は柔らかくてよかったが、中に入ってるクルミが余計だ

サトコ
「だって、そういうお餅ですから···」

(柔らかさを追求する加賀さんには、クルミの硬さはアクセントにならなかったんだ···)

サトコ
「できれば直接買いに行きたいんですけど、ちょっと遠いんです」

加賀
取り寄せられんなら別にいいだろ

サトコ
「そうですけど、食べたい!って思ったときに買いに行けないのがつらくて」
「食べたいときが美味しいときですから」

加賀
···一理あるな

他愛のない話をしている間に、車はマンションの近くまで来ていた。

サトコ
「あっ、加賀さん、ここで停めてください」

加賀
あ?

サトコ
「マンションの前まで送ってもらって、万が一津軽さんに見られたら···」

加賀
ああ···同じマンションだったか

サトコ
「そうなんです。津軽さんの場合、どこで見てるかわからないので」

加賀
···確かにな

複雑そうな表情で、珍しく加賀さんが私の意見に賛同する。

(石神教官もそうだけど、班長同士ってきっといろいろあるんだろな)
(そういえば···)

サトコ
「あの···私、しばらくは警察庁に出入り禁止になったんです」

加賀
何やらかした?

サトコ
「やらかしてないですよ!その···捜査上、そのほうがいいって」

加賀
津軽命令か

サトコ
「はい···だから、しばらくは会えなくなるかもしれないんです」

加賀
······

サトコ
「···たまに、LIDEしてもいいですか?」

加賀
好きにしろ

サトコ
「じゃあ、毎日しますね」

加賀
たまにっつっただろ

サトコ
「つれない···」

しばらく会えないと言っても、加賀さんの態度は変わらない。

(そりゃそうか···捜査のためだっていうなら、なおさらだよね)
(寂しいけど、仕方ない···)

サトコ
「それじゃ···送ってくれてありがとうございました」

加賀
待て

ドアを開けようとしたそのとき、運転席から加賀さんの手が伸びてきた。
振り向く前にもう片方の腕に抱き寄せられて、助手席のシートに背中を押し付けられる。

サトコ
「加賀、さっ···」

加賀
······

加賀さんの顔が目の前に迫ったと思ったそのときには、もう唇を奪われていた。
強引で、息を乱すほど情熱的な口づけ。

(なのに···優しい)
(いつもはこんなキスしてくれないのに···ずるい)

加賀
···しばらく会えねぇんだろ
先に、駄賃やっとく

サトコ
「加賀···さん···」

離れそうになる加賀さんのスーツの裾を、そっとつかむ。

加賀
···なんだ

サトコ
「あの···」
「···もう一回、お駄賃もらえませんか···?」

加賀
······
···少しは、まともなねだり方覚えたじゃねぇか

サトコ
「じゃ、じゃあ···」

期待する私に顔を寄せると、加賀さんが意地悪に笑う。

加賀
駄犬は駄犬なりに、結果を出してからねだるんだな

サトコ
「うう···おあずけですか···」

加賀
そう簡単に、エサはやらねぇ

(そうだよね、加賀さんはこういう人だった···)
(でも···さっきのキス、まるで応援してもらってるみたいだったな)

激しくて優しい、まるで加賀さんそのもののようなキスだった。


【自室マンション】

家に帰ると早速、例の “サークル” の懐柔計画を考える。

(颯馬教官はこういうとき、いくつも “引き出し” を持つこと、って言ってたっけ)
(それに、相手を揺さぶる情報は慌てず考え、まずは相手を信用させるネタを···って)

サトコ
「信用させるには···やっぱり、“仲間” だと思わせるのが一番だよね」
「それなら、私ができることは···」

苦手な作業に耐えながら、その夜は徹夜することになった。


【大学】

数日後、私を見つけた水戸くんが真剣な顔で近づいてきた。

サトコ
「水戸くん?何か···」

水戸
「経済学部に、萌木って学生はいない」
「知り合いに聞いたら、アンタのことを知る奴は誰もいなかった」

周りに聞こえないように、水戸くんが私を責め立てる。

水戸
「···アンタ、何者だ」

サトコ
「······」

(大丈夫、落ち着け···これは想定内だ)
(ちょっと調べれば、私がここの学生じゃないことくらいわかる)

近くに人がいないことを確認すると、水戸くんが私を壁際に追い詰めた。

(···加賀さんの、講義であった)
( “相手の意見に賛同して油断させることで、さらに情報を引き出せる” )

水戸
「何が目的だ。なんのために、身分を偽ってまでうちの “サークル” に参加し···」

サトコ
「あなたたちを助けられるのは、私だけだからです」

水戸
「···何?」

サトコ
「私は、この国が許せない」
「だから、嘘をついてでもあなたたちの活動に参加したかったんです」

水戸
「言葉だけじゃ信じられない。証拠を見せろよ」

水戸くんの言葉に、ゆっくりとうなずいて見せた。

to be continued



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