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カレKiss×加賀 4話



【アジト】

水戸
「---今夜、俺たちは日本に革命を起こす」

その声に目を覚ますと、 “アジト” と呼ばれるあの部屋だった。
後ろ手に縛られ、身動きが取れない。

(私···)
(···そうだ。水戸くんに薬を嗅がされて)
(···体がまだ痺れてる)

いくら油断していたとはいえ、素人相手に情けない。
私が目を覚ましたことに気付いた水戸くんが、笑いながらこちらに歩いてきた。

水戸
「気分はどう?萌木サン」

サトコ
「水戸···くん···どうして···」

水戸
「『どうして』?」

水戸くんが持ってきたのは、私が書いた爆弾の設計書だ。

水戸
「よくもまぁ、本物だなんてデタラメを言えたな?」

サトコ
「······」

水戸
「よく出来てるフェイクだよ。ぱっと見じゃ絶対にわからない」
「工学部の俺でさえ騙されるところだった」
「ただ、リーダーっていうのは何事も疑わなきゃいけなくてさ」

(···それで、調べてくうちにフェイクだって分かったんだ)

“同志” たちも、一様に私を責めるようにこちらを見ている。

(落ち着け···今は向こうの出方を見なきゃ)
(この人数じゃ、さすがに勝ち目はない)

水戸
「そういう悔しそうな顔、悪くないね」

笑いながら、水戸くんが私の腹部を思いきり蹴る。
突然の衝撃と痛みに、一瞬呼吸が止まった。

サトコ
「げほっ···げほ!」

水戸
「この嘘つき野郎!」
「あんな嘘で騙しやがって···どうせ、またどっかの記者かなんかだろ!」
「二度と記事が書けないように、指を一本ずつ折ってやろうか?」

(記者···?そうか、まだ警察だとは気づかれてないんだ)
(それなら···!)

サトコ
「待って···!そこまで気づいてるなら、私と取引しない?」

水戸
「この期に及んで何言ってんだよ」

サトコ
「確かに私は、秀談社の記者···あなたたちのことを記事にしようとしたのは謝る」
「でもあなたたちは、この国を変えるだけの主張があるんでしょ?」

男性
「当然だ!俺たちの主張を、日本中の奴らに聞かせるためにやってるんだ」

女性
「それを踏みにじったのは、あなたでしょ!」

サトコ
「そうかもしれない···でも、私が記事にすればあなたたちの存在は日本中に知れ渡る」
「見逃してくれるなら」
「あなたたちが起こそうとした事件を大々的に取り扱うって約束する」

水戸
「······」

サトコ
「幸いなことに、まだ爆破計画は現時点じゃまだ未遂」
「警察からはマークされるだろうけど」
「日本中にいる同志たちに働きかけることはできる」

水戸
「警察なんて、今更どうでもいい。そんなもんを怖がってちゃ、国は変えられないから」

サトコ
「だったら···」

水戸
「···確かに、アンタの提案も悪くない」

水戸くんの合図で、みんなが部屋を出ていく。
水戸くんも出ていこうとしてので、咄嗟に呼び止めた。

サトコ
「どこに行くの?」

水戸
「言っただろ。今日が決行日だって」
「設計書が偽物だって分かった後、俺が本物を作った」
「アンタが持ってきたやつよりはだいぶ威力も低いけどな」
「まあ、脅しくらいにはなるだろ」

サトコ
「···!」

水戸
「すぐに解放はしない。まずはあの爆弾で、秀談社のビルを乗っ取ってやる」
「それまで、アンタはここで待機だ」

サトコ
「うぐっ···」

最後の私を思い切り踏みつけると、水戸くんが部屋を出ていく。
手を縛っているロープはかなり強度が強く、いくらもがいても緩みそうにない。
事件を防ぐどころか彼らに行動を決意させ、さらにそれを助長してしまった。
今回の任務は、完全に失敗だ。

(でも今は、嘆いてる場合じゃない···とにかく、ここから逃げ出さないと)
(それに、出版社を乗っ取るなんて···そんなことをしたら)

任意同行では済まなくなってしまう。
必死にもがいていると···
鍵がかかっているはずのドアが思い切り蹴り破られた。

サトコ
「!?」

加賀
ほう···ずいぶんとそそる格好してるじゃねぇか

サトコ
「かっ、加賀さん!?どうして···」

加賀
クズが···この貸しは高くつくぞ

溜息をつきながら、加賀さんが私の手を縛っているロープを解いてくれる。

サトコ
「すみません···油断したすきに、マルタイに薬を嗅がされて」

加賀
何もされてねぇだろうな

サトコ
「はい···お腹を蹴られたり、それくらいです」

加賀
テメェの『何もされてない』の範疇は呆れるほど広いな

サトコ
「でも、刑事だってことはバレてません。咄嗟に記者だということにしたので」

加賀
珍しく機転が利いたじゃねぇか

サトコ
「向こうが先に勘違いしてくれて···それに乗った形です」

加賀
刑事だとバレりゃ、ただじゃすまなかったかもしれねぇ
だが···どっちにしろ間に合っただろうがな

サトコ
「え···?」

顎で外を示され、半信半疑のままドアへ向かう。
でも部屋から出る前に、外が騒がしいことに気付き···

少し先にはパトカーが何台も停まっていて、刑事たちに連行される水戸くんたちの姿があった。

サトコ
「え···!?ど、どうして」

加賀
テメェを尾けてたから、ここが隠れ家だってことはわかってたが
家宅捜索をする理由も、令状もねぇ。仕方ねぇから、泳がせておいただけだ

サトコ
「私を尾けてた···?加賀さんが?」

(ど、どういうこと?なんで加賀さんが私を···)

津軽
いたいた、ウサちゃん。お疲れ様

サトコ
「津軽さん···これは一体···」

津軽
あーあ、本当はまとめて検挙したかったんだけどね
兵吾くんが、任意同行にするって言ってきかないから

加賀
まだ実行には移してねぇ。任意同行が筋だろ
検挙しなくても、全員公安から目ぇつけられることになる。今後、下手はできねぇ

津軽
だーかーら、俺はさっさと芽を摘んでおきたい主義なんだってば

サトコ
「任意同行···」

思わず、加賀さんを見上げる。
加賀さんのことだから、本当にそれが最善だと思った結果だろう。

(私のためじゃない···わかってる)
(でも···)

サトコ
「加賀警視、ありがとうございました!」

加賀
テメェのためにやったんじゃねぇ

サトコ
「はい、わかってます!」
「だけど···それでも、ありがとうございました···!」

深々と頭を下げる私を一瞥して、加賀さんが大学生たちに視線を向ける。

サトコ
「ところで、あの···加賀警視が私を尾けてるっていうのは」

津軽
それが兵吾くんの仕事だったんでしょ?

加賀
テメェに話すことなんざねぇ

津軽
君の隣にいるのも、うちの子なんだけどね?
ウサちゃん、大丈夫?ずいぶんボロボロだけど

サトコ
「大丈夫です。ちょっとヘマしただけですから」

暴行されたと言ってしまうと、水戸くんに別の容疑がかかってしまうかもしれない。
津軽さんは気づいているだろうけど、知らないふりをしてくれた。

津軽
さて、さっきの子で最後かな
人数は、ウサちゃんから報告があったのと一致したし

サトコ
「あ、私も行きます」

津軽
いいよ、ゆっくりで。先に医務室に寄ってからおいで

ひらひらを手を振り、津軽さんがパトカーに乗り込む。
加賀さんとふたり残されながら、走り去るパトカーを眺めていた。

サトコ
「加賀さん···」

加賀
うちはテメェの班とは別の方向から、反国家思想の捜査を進めてた
テメェんところが、マルタイと直接接触するのも知ってた

サトコ
「つまり···だから私を追ってたってことですか?」

(そういえば、前に大学の近くで加賀さんに会ったことがあったけど)
(あれってもしかして、偶然じゃなくて···)

サトコ
「···あっ!? “捜査” って、私のことですか!?」

加賀
テメェを見張るなんざ、ぬるい仕事だったがな

サトコ
「で、でも···つまり加賀さんにとって、私はマルタイだったんですよね?」
「あんなに堂々と出くわしちゃって、よかったんですか?」

そう聞けば、ふんと小馬鹿にするように鼻で笑った。

加賀
あの場で顔色ひとつ変えなかったのは、褒めてやる

サトコ
「えええ!もしかして、わざと···!?私に揺さぶりをかけるために!?」
「ひ、ひどい···内心、ものすごく焦ったんですよ···」

加賀
だろうな
そのわりには、わけわかんねぇドヤ顔する余裕があったじゃねぇか

サトコ
「ドヤ顔···?」

(それってもしかして、加賀さんの雰囲気が和んだ気がした時の···?)

サトコ
「だ、だって加賀さんの表情が緩んだ気がして···」

加賀
クズが。んなわけねぇだろ

サトコ
「そ、そんな···そんなそんなぁ···!」

加賀
行くぞ。膝殴ってねぇでさっさと乗れ

加賀さんが乗ってきた車に一緒に乗り込もうとしたとき、水戸くんに蹴られた脇腹が痛んだ。

サトコ
「っ······」

加賀
······
···チッ

(舌打ち···!?なんで!?)

サトコ
「す、すみません···うるさくしちゃって」

加賀
黙って乗れ

サトコ
「はい···」
「そういえば···加賀さん、どうして今日が “決行日” だってわかったんですか?」

加賀
あ?

サトコ
「私、津軽さんに連絡する前に捕まっちゃって···」

加賀
言っただろ。テメェを見張るのが今回の仕事だ
つまり、どういうことかわかるな

サトコ
「つまり···?」

(まさか···GPSと盗聴器!?)
(ええ···!?一体どこに···いつの間に!?)

サトコ
「ほ、他の班の人間に盗聴器なんて、公安ではタブー···」

加賀
今回は仕事だ。テメェの情報を盗んだわけじゃねぇ
それに、津軽の野郎も知ってるだろ

サトコ
「えっ?」

加賀
···あいつは最初から、今回の件は一斉検挙に持ち込みたがってたからな
テメェは、それに利用されたってわけだ

サトコ
「ええ···!?」

(常日頃から、他の班は敵だって言われてるけど···)
(まさか、自分の班の班長がその最たる者だったなんて···)

次々に聞かされる予想外のことに、唖然となってしまう。

サトコ
「班長になる条件には、『とんでもない人』っていうのがあるんですか···?」

加賀
締めるぞ

(見方さえも利用する···でも、それも公安刑事の仕事なんだ)
(私なんて、まだまだ甘いな···)

今回は、いろいろと反省点が多い。
それを自覚しつつ、車に乗り込んだのだった。

to be continued



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