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恋の行方編 黒澤1話

最初に目についたのは、ペンダントだった。
チェーンに通された指輪が、降り注ぐ月明かりで鈍く光っていたから。

黒澤
ああ、すみません。起こしましたか
いいですよ、寝ていて
チェックアウトは朝の10時ですし

次に目がいったのは、満月だ。
窓の外で輝く月。
おとぎ話なら、お姫さまが月に帰ってしまう日。
だから、訊ねたのだ。「どこに帰るのか」と。

黒澤
ああ

彼の唇が、ゆっくりと動いた。

黒澤
あなたには関係のないことですよ
たかが一度寝ただけの人には



【寮 自室】

サトコ
「···っ!!」

声にならない声を上げて、私は飛び起きた。

(まただ···)
(昨日から、同じ夢ばかり···)

早鐘のような鼓動を収めるように、ゆっくりと息を吐きだす。
時計を見ると、起床時刻の1時間前。
けれども、もう二度寝はできそうにない。

(とりあえず、シャワーを浴びてこよう)
(汗をかきすぎて、気持ち悪いし)

甘い香りのボディソープを泡立てて、汗を洗い流す。
いつもはそれだけで気分が上がるのに、今日はちっとも浮上してくれない。

サトコ
「···まいったな」

原因はわかっている。
一昨日の、黒澤さんとの「あれこれ」のせいだ。

ーー「あなたには関係のことないですよ」
ーー「たかが一度寝ただけの人には」

(あれって、夢?)

サトコ
「···っ」

(ダメだ···このままじゃ、学校生活に支障が出るよ)
(とにかく、なんとかしないと···)



【学校 屋上】

その日の昼休みーー
昼食を終えた私は、深呼吸をしてスマホのLIDEアプリを立ち上げた。

(···よし、まずはメッセージだ)
(できるだけ丁寧に、冷静に···)

ーー『土曜日はごちそうさまでした。連れて行ってくれた居酒屋、素敵なお店でしたね』
ーー『ところで、私たちって付き合っているんでしょうか』

サトコ
「······」

(···ちょっと直球すぎるかな)

サトコ
「消去、消去」
「もう少し遠回しに···」

ーー『土曜日はお世話になりました。素敵な夜でした』
ーー『ところで、ホテル代を全額払っていただいたようですが』
『割り勘じゃなくてよかったのでしょうか』

サトコ
「···なんか違うな。消去、消去」
「じゃあ···」

それから二転三転、さらに四転五転くらいして···

サトコ
「···できた!」

(このメッセージなら送ってもいいよね)

ーー『珍しいたい焼き、見つけました!ウィスキー味です』

サトコ
「送信···っと」

(今日中に返信をもらえるかな)
(もらえたら嬉しいけど···)

ピンポーン!

サトコ
「早っ、もう!?」

ーー『「このみ庵」のですよね。あそこは神です☆』

サトコ
「そっか、『神』かぁ。アハハ···」
「って、違ーーう!」

(そうじゃない!たい焼きの話をしたいんじゃなくて···)
(ていうか、たい焼きの話をしたの、私だけど···!)

そのまま、しばらく待ってみる。
けれども、これ以上の返信はなさそうだ。

(···ダメだ、余計モヤモヤしてきた)

今の状況は、あまりにも曖昧過ぎる。
ただ、それでもはっきりしているのは···

黒澤
サトコさん、どうかお願いです
今日は帰らないで···このままオレのそばにいて
こんな情けないオレを、どうかひとりにしないで···

(あの黒澤さんを、私は放っておけなかった)
(他の誰でもない···相手が黒澤さんだったから···)

サトコ
「そうだよ」

この気持ちに嘘はない。
私は、私の意志で、あの夜を迎えることを選んだのだ。

(だったら、もし「一夜だけ」のことだったとしても···)
(黒澤さんが寂しい思いをしないで済んだのなら···)



【寮 談話室】

鳴子
「バカ!それって結局『やり逃げ』じゃん!」

スマホに向かって叫んだ鳴子を、みんなが驚いたように振り返った。

鳴子
「うん、うん、だから···」
「だからさ、それって『都合のいい女』ってことで···」

見かねた千葉さんが、電話に夢中になっている鳴子にそっと近づいていく。

千葉
「佐々木···もう少し、声小さく···」
「それか廊下に行ったほうが···」

鳴子
「あ、そうだね。ごめん」
「それでさ···」

談話ルームを出ていく鳴子を、千葉さんは苦笑して見送った。

千葉
「···友達の悩み相談かな」

サトコ
「う、うん···たぶん···」

千葉
「??氷川、どうかした?」
「なんかすごい顔してるけど···」

サトコ
「だ、大丈夫、平気」

(「やり逃げ」「都合のいい女」···)
(違うよね?それは、あくまで鳴子の友達のことで···)

鳴子
「ああ、もうムカついた!」

千葉
「あれ、電話は?」

鳴子
「もう切った。話してても埒があかないし」
「もうさ、バカだと思わない?」
「『付き合おう』って言われる前に、やっちゃうとか」

(うっ···)

鳴子
「それで、朝ホテルで目が覚めたら『相手の男がいませんでした』って」
「そんなの、やり逃げ確定じゃん!」

(ううっ、胃が···)

千葉
「そ、それは、でも相手の男も急な用事が入ったからとか···」

鳴子
「だったら、なんで翌日から音信不通になるのよ」
「その時点で、もうアウトじゃん!」

(音信不通···)
(その点は大丈夫だよね、今日LIDEの返信があったし···)

鳴子
「まぁ、でも連絡取れたら取れたで微妙だけどさー」
「その場合、たぶん『セフレ』コースまっしぐらだし」

サトコ
「!!」

千葉
「せ、セフレって、そんな···」

鳴子
「じゃあ、なに?」
「やることやってるのに、付き合う気はなくて···」
「そのくせ、相手を完全に切らないのは『セフレ』にしたいからでしょ」
「それ以外に理由なんてあるの!?」

千葉
「そ、そういうこと、俺に訊かれても···」

サトコ
「そうだよ、鳴子、落ち着いて···」

???
「あれー、皆さん、盛り上がってますねー」

(この声、まさか···!)

黒澤
どうもー、ご無沙汰していまーす

鳴子
「ああ、黒澤さん···」

千葉
「退院おめでとうございます」

黒澤
ありがとうございまーす
あ、このお菓子、クラスの皆さんに。入院見舞いのお礼です

千葉
「わかりました。明日みんなに配りますね」

(なんで、このタイミングで黒澤さんが···)
(しかも、よりによってこんな話題の時に···)

黒澤
ところで、鳴子さんはどうしたんですか?
ずいぶん、ご機嫌斜めのようですが

千葉
「それが、その···」

鳴子
「聞いてくださいよ、黒澤さん!私の友達が···」

(ダメ、その話題はやめて!)

サトコ
「あ、あああの!」

私は、半ば無理やりふたりの会話に割り込んだ。

<選択してください>

退院おめでとう

サトコ
「た、退院おめでとうございます!」

黒澤
その言葉なら、もう聞きましたよ
先週の土曜日に

(···っ、先週の土曜日って···!)

黒澤
でも、何度言われても嬉しいものですね
ありがとうございます

サトコ
「い、いえ···どういたしまして···」

(まずい···心臓が壊れそう···)

ウィスキー!!

サトコ
「ウィスキー!!」
「鯛味のウィスキー焼きって、気になりますよね?」

千葉
「鯛味?」

鳴子
「ウィスキー焼き?」

(しまった、間違えた!)

サトコ
「すみません、鯛味のウィスキー···」
「じゃなくて、ウィスキー焼きの鯛···」

黒澤
サトコさん、落ち着いて
『たい焼きのウィスキー味』ですよね?

サトコ
「そ、そうです!それです!」

(って、私···さすがに焦りすぎ···)

やり投げって···

サトコ
「や、やり投げって···」
「何を投げるんでしたっけ?」

黒澤
何をって···

鳴子
「『槍』でしょ」

千葉
「『槍』しかないんじゃないかな」

黒澤
だそうですよ、サトコさん

サトコ
「そ、そうですよね。すみません」

(私ってば、なんてバカな質問を···)

???
「いい度胸ですね。こんなところで油を売ってるとは」

(えっ?)

颯馬
いつまで待たせるつもりですか、黒澤
20時に寮監室に来るように伝えたはずですよ?

黒澤
あー、すみません。せっかく寮に来たので···
訓練生の皆さんに、元気になったオレの姿を一目見せ···

颯馬
ご託は結構です。さあ、来なさい

黒澤
痛っ···痛たたっ
周介さん、もっと優しく···っ

颯馬
黙りなさい

黒澤
あっ···痛···っ、でもちょっと気持ちいい···っ

鳴子
「···相変わらずだね、黒澤さん」

千葉
「ああ」

(ほんと、相変わらずっていうか、いつも通り過ぎるっていうか···)
(もしかして、あの夜のことって···)

サトコ
「·········夢?」

というわけで、結局はっきりしないまま、数日が過ぎ···


ある日のこと。

石神
全員揃っているな
今日の演習は『取り調べ』だ
このなかで、実際の取り調べに関わったことがある者は?

(うわ、結構いる···)
(やっぱり刑事課だった人たちが多いせいかな)
(そもそも、交番勤務しか経験してないの、私だけだし···)

ひそかに落ち込んでいると、プリントが配布された。
今日の演習用シミュレーションが3パターン記されたものだ。

男子訓練生A
「やばいな、パターン3···」

男子訓練生B
「だよな。他はともかくパターン3だけは当たりませんように」

(···そうなの?)
(私的には、パターン1も2も難しすぎるんですけど)
(こうなったら、他の訓練生の演習を見てマネるしか···)

石神
では、最初の演習者だが···
氷川、前へ

(ええっ!?)
(こういうのって、普通名簿順とかじゃないの?)

男子訓練生C
「首席からってことは成績順かよ」

男子訓練生D
「いや、石神教官の補佐官だからじゃねーの?」
「実は、すでに個人授業で教わっているとか···」

男子訓練生C
「ああ、デモンストレーション的な?」

(そんなの教わってないし、首席も嘘だし!)

石神
···どうした、氷川。自信がないのか?
だったら評価0ということで、次に···

サトコ
「受けます!やらせていただきます!」

(ダメだ、評価点0だけは)
(ただでさえ、いろいろ崖っぷちなんだから)

石神
では、前へ

サトコ
「···はい」

(大丈夫···なんとかなる···)
(基礎的なことは、座学で一通り学んでいるんだ···)

石神
シミュレーションパターンは『3』

(うっ、一番難しいって言われてたやつ···)

石神
なお、犯人役は···

突然、乱暴な音を立ててドアが開いた。

(あれ、加賀教官?)

石神
···遅いぞ

加賀
うるせぇ。むしろ感謝しろ
クズの茶番に付き合ってやるんだ

(え、まさか···)

石神
犯人役だが、今日は加賀教官に担当してもらう

(えええっ!?)

加賀教官は、犯人側の椅子に腰を下ろすと、机にドカッと足を乗せた。

(ムリムリムリ!)
(テロリストっていうより、マフィアの帝王なんですけどーっ!)


【廊下】

その日の放課後ーーー

鳴子
「いやぁ、怖かったね、今日の演習」

千葉
「ああ、今までで一番キツかったよな」

サトコ
「······」

鳴子
「···サトコ、元気だしなって」
「仕方ないよ。その···サトコは一番最初のご指名だったからさ」

サトコ
「でも、さすがにアレはマズイと思う」

サトコ
『せ、先週の日曜日、どこにいた?』

加賀
······

サトコ
『先週の日曜日、午後1時』
『ど、どこにいたのかって聞いてる······んですけど···』

加賀
······

サトコ
『あの、先週の日曜日···』

加賀
······

サトコ
『先週の······』

加賀
······チッ

サトコ
「···わかる!?リアクション、舌打ちだよ!?」
「舌打ち1回だけだよ!?」

千葉
「う、うん···でも、なんていうか···」
「氷川の失敗は無駄じゃなかったっていうか···」
「氷川を見て、俺たちも気を引き締めたっていうか···」

鳴子
「大丈夫だって!次こそ、頑張ればいいんだから!」
「それよりサトコ、教官室に寄っていくんだったよね」
「はい、いってらっしゃーい」

サトコ
「ちょ···背中推さないで!」
「···もう」

(「次こそ、頑張れば」···か)
(その「次」も、いつまであるんだろう)
(石神教官との約束は···)

石神
3ヶ月後の試験で、全科目で10位以内に入れ
できなければ「首席卒業」は不可能として、この件を上に報告する

サトコ
「···ダメダメ」

(マイナスのことは考えるな)
(今は、前を向いて突き進まないと!)



【教官室】

サトコ
「失礼します!」

東雲
ああ、おつかれさま
大変だね、専属補佐官も
担当教官のスケジュールを『わざわざ』書き写さないといけないなんて

(うっ、いきなり出鼻をくじかれるとか···)
(···ううん、こんなの大したことない)
(いつか、必ず石神教官に『専属補佐官だ』って認めてもらうんだ!)
(そのためにも、今は補佐官らしいことを少しずつ···)

後藤
氷川、ちょうどよかった
さっき、石神さんから伝言を預かって···

サトコ
「はい、なんでしょう!!」

東雲
ぷっ、食いつき良すぎ···

後藤
いや、その···大したことじゃないんだが···
時間があるなら、資料室に来てくれと···

サトコ
「資料室ですね!すぐに行きます!」

後藤
待て、まだ話が···

(石神教官から仕事を頼まれるなんて、たぶん初めてだよね?)
(どんなことかな···テキスト作成の手伝い?資料集め?)
(もしかして、教官が関わっている捜査に、私も加わるとか···)



【資料室】

(·········え?)

慌てて周囲を見回してみる。
けれども、石神教官の姿は見当たらない。
そのかわり···

黒澤
ああ、来てくれたんですね。おつかれさまです

(え、なんで···)

黒澤
あれ、違いました?
てっきり、オレの手伝いに来てくれたと思ってたんですけど

サトコ
「いえ、私は石神教官の手伝いで···」

黒澤
ああ···
それ、依頼したの、オレです
資料の整理に人手が欲しくて、石神さんにお願いしたんです

(なんだ、そういうこと···)

黒澤
あれ、ひどいな?
石神さんからの依頼じゃなくて、ガッカリしちゃいました?

<選択してください>

はい、まぁ···

サトコ
「はい、まぁ···」

黒澤
ハハッ、素直ですねー
そういう人、オレ、結構好きだなぁ

サトコ
「す···っ?」

(すすす好き!?)

黒澤
ハハッ、冗談ですよ、冗談

いえ、そんなことは···

サトコ
「いえ、そんなことは···」

黒澤
いいですよー、無理に取り繕わなくても
サトコさん、考えていることが顔に出やすいんですから

サトコ
「···っ、すみません!」

(私ってば失礼なことを···)

そう見えますか?

サトコ
「そんなふうに見えますか?」

黒澤
ええ、見えます。それと···
質問に質問で返す人、オレ、好きじゃないなぁ

サトコ
「···っ、すみません」

黒澤
ハハッ、冗談ですよ、冗談

黒澤
それより、どうぞ座ってください
作業の説明をしますんで

サトコ
「···はい」

(なんだ···石神教官からの依頼じゃないんだ···)
(でも、当然だよね)
(今の私が、補佐官として認められているなんてやっぱり思えないし)

黒澤
······

(そもそも、今日の演習···ほんと、ひどかったな)
(石神教官の目で、あんな情けない結果しか出せなくて···)

黒澤
······

(そりゃ、取り調べなんてやったことなかったけど)
(だからって、あの結果は、さすがにひどすぎ···)

黒澤
···どうかしましたか?

サトコ
「えっ」

黒澤
なんだか元気ないじゃないですか
何かありましたか?

サトコ
「あ、その···」

黒澤
オレでよかったら、聞きますよー
こう見えて、口が堅いことには定評ありますから

(黒澤さん···)

優しい微笑みに、ドキリとした。
同時に、彼が「尊敬する先輩」だったことを思い出した。

(いいかな···黒澤さんだったら···)
(ちょっとだけ、相談に乗ってもらえたら···)

サトコ
「あの···『取り調べ』ってやったことありますか?」

黒澤
ありますよ。それほど多くはないですが

サトコ
「じゃあ、その···」
「どうやったら、うまくできますか?」

黒澤
取り調べをですか?

サトコ
「はい。今日演習だったんですけど、私の結果、ボロボロで···」
「持ち時間の3分間で、舌打ち1回しか引き出せなくて」

黒澤
舌打ち?

サトコ
「あ、犯人役が加賀教官だったんです」
「それで、たった1回だけ···」
「『チッ』って···」

黒澤
ぶはっ

(え···?)

黒澤
ははっ···あははっ

サトコ
「な、なんで笑うんですか!」

黒澤
ごめんなさい。でも···
サトコさんのモノマネ、結構ツボで···

サトコ
「···っ、べつにマネしたわけじゃ···」

黒澤
嘘です。絶対加賀さんを意識したでしょ
目つきとか、顎の角度とか、めちゃくちゃ似てましたもん

サトコ
「それは、その···っ」
「······実は少しだけ」

黒澤
ほら、やっぱり!

サトコ
「でも、ちょっとです!本当にちょっとだけで···」

黒澤
嘘ですよ!結構、大げさでしたって!
···ヤバ、思い出しただけで、またツボ入った···
ハハ···アハハ八ッ

(もう···黒澤さん、笑いすぎだよ)
(でも、ちょっと楽しくなってきたかも···)

サトコ
「···ふふ···」

黒澤
ハハハッ

サトコ
「アハハ···ッ」

黒澤
ハハハッ

気が付いたら、ふたり分の笑い声が資料室に響いていた。
他に誰かいたら、きっと注意を受けていたはずだ。

黒澤
あー、笑った
笑いすぎたんで、明日は筋肉痛になるかもしれませんねー

サトコ
「そんな大げさな···」

(あ···)

とくん、と胸が鳴った。
優しい眼差しが、私を見ていることに気が付いたから。

(どうしよう···なんか···)

黒澤
······

(視線···反らしにくい···)

黒澤
···取り調べの件ですが

サトコ
「は、はい!」

黒澤
オレは、最初の頃は先輩たちのマネをしていました

(先輩たち···?)

サトコ
「それって、後藤教官とか颯馬教官とか···」

黒澤
ええ。例えば、石神さんは『冷静に淡々と』行いますが···
加賀さんは、威圧感があって、かなり『違法スレスレ』です
で、オレは周介さんのやり方が一番性に合ってたんで···
周介さんのやりかたを、主に参考にしています

(···そうだったんだ)

サトコ
「私は、誰を参考にすればいいんでしょう」

黒澤
そりゃ、もちろん加賀さん···

サトコ
「!?」

黒澤
というのは冗談で···
やっぱり後藤さんでしょうね。『ザ・王道』って感じですから
サトコさんも、受け入れやすいんじゃないかな

(後藤教官のやり方を···そっか···)

サトコ
「わかりました。今度、教官にお願いしてみます」

黒澤
ええ、ぜひ

微笑む黒澤さんに、私は深々と頭を下げた。

サトコ
「ありがとうございます!相談に乗ってくれて」

黒澤
いえ、オレは···

サトコ
「やっぱり、黒澤さんは頼りになります!」
「本当に助かりました!」

(そうだ···)
(私にとって黒澤さんは、もともとこういう人だった)

落ち込んでいるとき、いつも励ましてくれた人。
同じ歳だけど、尊敬できる先輩。

(やっぱり好きだ、黒澤さんのことが)
(先輩としても···ひとりの男の人としても···)

黒澤
······ない人ですね、サトコさんも

(えっ?)

サトコ
「今、なんて···」

黒澤
ああ、気にしないでください。ただの独り言ですので
ところで、来週の土曜日は空いてますか?

サトコ
「来週ですか?」
「はい、たぶん···」

黒澤
よかった。じゃあ、飲みに行きませんか?
店はもう押さえてますんで

サトコ
「!」

黒澤
待ち合わせは···そうですね···
20時に、S駅の南口で

(それって···そのお誘いって···)

黒澤
どうです、問題ありませんか?

サトコ
「は、はい!」

黒澤
それじゃ、楽しみにしてますんで
土曜日、よろしくお願いしますね

落ち着いたはずの心臓が、再びウォーミングアップを始めた。
オレンジ色の逆光の中で、黒澤さんは薄く微笑んでいた。

to be continued

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