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恋の行方編 黒澤8話

【学校 資料室】

ピン···と空気が張り詰めた気がした。
悪い冗談を耳にした時のように、私はすぐには言葉を返せなかった。

サトコ
「あの、でも···」
「現院長って、黒澤さんの···」

黒澤
本当の父親じゃないことは、すでに知っているんでしょう?
その資料を調べているくらいですから

サトコ
「······」

黒澤
あの男は、父の兄···つまりオレにとっては伯父で···
幸成兄さんは、本当はイトコです
でも、小学校の時に母が、中学生の時に父が亡くなって···
オレは伯父の家に引き取られました

(それで、幸成さんのことを『お兄さん』って···)

黒澤
父の死因を、オレは『不慮の事故』だと聞かされていました
仕事中に事故にあって、亡くなったのだと

サトコ
「······」

黒澤
当時は、それを素直に信じていました
けれど8年前···
父の三回忌のときに、知ったんです
父が、ある事件の被疑者として伯父を調べていたことを

(えっ···)

黒澤
そして、救急患者として運ばれてきた父を最後に診たのが···
祖父から院長を引き継ぐ前の『伯父』だったということも

サトコ
「!」

黒澤
それを知って、オレ···必死に調べたんですよー
調べて、調べて···
けど、部外者では調べられることに限界があるって気が付いて···

(じゃあ···)

サトコ
「黒澤さんが警察官になったのは···」

黒澤
父の死の真相を暴くため
公安部を希望したのも、同じ理由です
母が亡くなった後『交番のおまわりさん』になったはずの父が···
最後に所属していたのが『公安部』だと知ったから

サトコ
「!」
「じゃあ、やっぱりこの最後の空白期間、お父さんは···」

黒澤
公安部の刑事でした
おそらく、伯父を調べるために古巣に戻ったんです

黒澤さんの唇に、自嘲するような笑みが浮かんだ。

黒澤
バカみたいだと思いますか?
こんな···過去にとらわれたままのオレのこと

サトコ
「いえ!そんなことは···」

黒澤
だったら、オレに力を貸してください

(えっ···)

黒澤
今なら、伯父の悪事を暴けます
今回の件で、平名織江だけでなく、伯父も引っ張ることができれば···
過去の事件を再捜査できるかもしれないんです!

黒澤さんは、なぜか自分のシャツの胸元をギュッと握りしめた。

黒澤
ずっと待っていたんです、この機会を
警察官になると決めたときから···いえ···
三回忌に···されたときから、ずっと···

かすれた声で、そう吐き出して···
黒澤さんは、再び私の方に視線を向けた。

黒澤
基本、オレは誰のことも信じていません
でも、サトコさんなら信じてもいいと思えるんです
あの夜···黙ってオレを受け止めてくれたアナタのことなら···

サトコ
「···っ」

(それって、あの日の···)

(あの夜の···)

不覚にも、胸が大きな音を立てた。
二度と思い出したくない···
そう思ったはずの光景に、どうしてこんなにも胸が締め付けられるのだろう。

ふ、と体に熱が伝わってきた。
気が付いたら、私は黒澤さんに抱き寄せられていた。

黒澤
協力···してくれますよね?
オレに、力を貸してくれますよね?

それは不安そうで···
あまりにも頼りなさげな声音で···

黒澤
アナタなら···
アナタなら、オレのこと···

(黒澤さん···私···)
(私···は···)

黒澤
···なーんて
本気にしちゃいました?今言ったこと

(······え?)

黒澤
嘘ですよ、ぜーんぶ
父が亡くなったのは、単なる事故のせいですし
所属が空白なのは、たぶんただの記録漏れです

サトコ
「···っ、じゃあ、なんでそんな話···」

黒澤
だって、サトコさん、好きでしょ
こういう『お涙ちょうだい』っぽい話

サトコ
「!」

黒澤
ほんと、人が良すぎるっていうか、なんていうか···

(なにそれ···なにそれ!)

黒澤
でも、さすがに心配だなー
公安を目指す人が、二度もこんな話に引っかかっちゃうなんて
それじゃ、テロリストにもコロッと騙されちゃいますよ?

あまりの言い草に、私は思わず手を振り上げた。

黒澤
あ、また叩いちゃいますか?

サトコ
「!」

黒澤
痛かったんですよねー、アレ。バチーーーン···
······って······

反論したかった。
でも、できなかった。
涙がボロボロこぼれて、とまらなくなったせいで。

(悔しい···)
(悔しい、悔しい、悔しい!!)
(こんな人の言葉に、二度も心を動かされてたなんて!)

それでも、振り上げた手で、乱暴に涙をぬぐった。
そして、精一杯、目の前の人を睨みつけた。

<選択してください>

サイテーですね

サトコ
「サイテーですね」

黒澤
······

サトコ
「ほんと···サイアク···サイテー···」
「二度と顔も見たくない···」

黒澤
ハハッ、大丈夫ですよー
今週いっぱいで潜入捜査もオシマイですから

尊敬していたのに

サトコ
「尊敬していたのに」

黒澤
······

サトコ
「本当に···本当に···」
「黒澤さんのこと、尊敬していたのに···っ」

黒澤
イヤだなぁ、そういうの
重たくて好きじゃないです、オレ

サトコ
「···っ」

このおしゃクソ刑事が

サトコ
「この···おしゃクソ刑事が···」

黒澤
えっ、今なんて···

サトコ
「おしゃべりクソ刑事!!」
「黒澤さんのことです!!」

黒澤
うわーひどーい
透、傷ついちゃう☆

(嘘ばっかり!)
(私の言葉なんかで傷ついたりしないくせに!)

込み上げてくる感情を飲み込んで、私は黒澤さんに頭を下げた。

サトコ
「失礼します」

背中を向けて歩き出した途端、再び涙がこぼれ落ちてきた。



【ラーメン屋台】

(もうイヤだ···大失態だ···)
(よりによって黒澤さんの前で泣くなんて)

本当は、意地でも泣きたくなかった。
傷ついたことを知られたくなかった。

(ていうか悔しすぎるよ)
(黒澤さんに、また泣かされるなんて)

ティッシュを取り出して、思い切り鼻をかむ。
そうでもしなければ、また視界がにじみそうだ。

(冗談じゃない)
(これ以上、黒澤さんのことなんかで泣いてたまるか!)

サトコ
「おじさん!替え玉ひとつ···」

???
「すみません。ラーメン、味噌で」

(この声、まさか···)
(やっぱり!)

サトコ
「あ、ええと、おじさん···やっぱり、お会計···」

おじさん
「はいよ、替え玉」

(うっ···タイミング悪···)

石神
······

サトコ
「あ、その···おつかれさまです」

石神
······

(どうしよう···気まずい···)
(黒澤さんの次か、その次くらいに今、会いたくない人なんですけど···)

サトコ
「え、ええと···」

石神
······

サトコ
「教官は、その···味噌派なんですね」

石神
······

サトコ
「私は、普段は味噌なんですけど、今日はしょうゆ気分で···」

石神
黒澤と何かあったか

サトコ
「!!」

(な、なんでバレて···)

石神
······

(何か答えないと、まずいよね?)

サトコ
「あ、その···」
「特に何も···ないです···」

石神
······

サトコ
「黒澤さんは、その···」
「すごい人だと、感心しきりで···」

石神
いつまで感心しているつもりだ

(······え?)

石神
お前は、黒澤に一目置いているところがあるが···
お前たちは同年齢だ
肩を並べるべき相手に、いつまでも憧れていてどうする

(···石神教官?)

石神
あいつに追いつき、追い越すことを考えろ
つまらない感情は、今のお前には不要だ

淡々とした声が、私の心を強く揺さぶる。
何も知らないはずの石神教官の言葉が、どうしてこうも胸に刺さるのか。

(たぶん「正しい」からだ)
(今の私に大事なのは「公安刑事」になることで···)
(そのために、私は毎日がんばっているわけで···)

サトコ
「追いつきます···」

石神
······

サトコ
「黒澤さんに追いつきます···私···」

(そうだ···)
(「ライバル」だって思って···追いついて、追い越して···)

サトコ
「すみません、餃子6個追加で!」

おじさん
「はいよ」

(絶対、黒澤さんよりもすごい刑事になるんだ!!)



【駅】

そんなわけで、翌朝···

(メイク···ちょっと気合入れすぎたかな)
(でも、これくらいしたほうが気分も上がるし)
(目がまだ少し赤いのも誤魔化せるはず···)

アナウンス
『上り列車が参ります。白線の内側に下がってお待ちください』

(きた···いつもより30分早い電車)

これで、昨日よりも少しは多く「本来の仕事」に携われるはずだ。

(潜入捜査も残りわずか)
(何らかの結果を残して、少しでも黒澤さんに···)

【電車】

サトコ
「!!」

(な、なんで?)
(いつももっと遅い電車に乗っているはずなのに···)

サトコ
「···っ」

(ダメだ。気にするな)
(黒澤さんは、今日から「ライバル」なんだ)
(ライバル···ライバル···ライバル···)

サトコ
「うわっ」

電車が、いきなり急ブレーキをかけた。

車掌
『失礼いたしました。停止信号です』

(びっくりした···)
(思わず、つり革放しちゃっ···)

サトコ
「!!!」

(な、なに、この距離···)
(密着寸前なんですけど!)

不本意な状況に、私は···

<選択してください>

寄りかかる

(もういいや、疲れちゃったし)
(黒澤さんに寄りかかっちゃおう)

黒澤

(これは「柱」···)
(黒澤さんじゃなくて、ただの「柱」···)

黒澤
······

舌打ちする

サトコ
「ちっ」

(あり得ない)
(こんな状況、迷惑なんですけど!)

黒澤
···ぷっ

(えっ、笑った!?)

黒澤
素直ですね、ほんと
今の舌打ち、加賀さんレベルでしたよ

(そ、そこまで迫力ある舌打ちじゃないんですけど!)
(もっとマイルドというか、優しい感じで···)

必死に顔を背ける

(絶対、目だけは合わせないようにしよう!)
(ずーーーっと下を向いて、顔を上げさえしなければ···)

黒澤
やめたほうがいいですよ
ムリして顔を背けても、首を痛めるだけです

(うっ···たしかにこの体勢辛いけど···)

黒澤
あと3日ですねー。サトコさんと一緒にいられるのも

サトコ
「!」

黒澤
2週間、あっという間でしたよねー
アシスタント業務、おつかれさまでした

サトコ
「···まだ終わっていません」

黒澤
······

サトコ
「この3日間で、必ず成果を挙げて見せます」
「ただのアシスタント以上の成果を」

視線を合わせることなく、静かに宣言する。
黒澤さんが、わずかに身じろいだのがわかった。

黒澤
···ずいぶん気合が入っているようですが
任務は、ほどほどでいいですからねー
アナタに何かあったら、オレが石神さんに怒られちゃいます

サトコ
「大丈夫です」
「石神教官は、怒ったりしません」

電車が、下車駅に到着した。
私は、振り返ることなく先にホームに降りた。

(さあ、頑張ろう)
(少しでも黒澤さんに追いつくんだ!)

黒澤
······


【黒和堂病院】

サトコ
「おはようございまーす!」

(って、まだ誰もいるわけない···)

門村吉明
「あら、おはよう」
「長野さんったら、今日は早いわねー」

(うそ!門村さん、早すぎ···)

門村吉明
「ねえねえ、せっかくだから聞いてよー」
「昨日仕入れた『研修医と看護師長の不倫疑惑』···」

サトコ
「す、すみません!まずはトイレに行かせてください!」

(危ない、危ない···)
(門村さんに捕まったら、30分早く来た意味がなくなっちゃうよ)

サトコ
「···よし」

(まずは情報収集···)
(っと、その前に、例の301号室を見てこよう!)

(301号室の患者さんは···)
(いた···とりあえず元気そうだな)

平名織江が、次に狙いそうな患者···
そう聞いて以来、私は何度か彼女の様子を見に来ていた。

(次に来られるのは、リネン回収のときか)
(本当は、もっとしっかり見張りたいんだけど···)

と、301号室の患者がベッドから起きだした。

(まずい、見つかる!)

(とりあえず、仕事をしているふりをして···)

サトコ
「···あれ?」

(えっ···ええっ···)
(301号室の患者さん、お腹ぺったんこなんですけど!?)
(どういうこと?)
(あの人、妊婦じゃなかったの?)

妊婦じゃなければ、私の仮説はかなり微妙になる。
「ターゲットが入院するのを待つ」ことができなくなるからだ。

(でも、他に平名織江が狙いそうな患者さんはいないし···)
(もしかしたら「お腹が目立たないタイプの妊婦さん」ってことも···)

看護師1
「ねぇ、平名さん、見なかった?」

(···ん?)

看護師2
「屋上じゃない?ほら、例の···」

看護師1
「ああ···また密会中?」

【屋上】

重たいドアを、ゆっくり開けてみる。
けれども、すぐ見える範囲に、密会中の平名織江の姿はなかった。

(となると、塔屋の向こうかな?)
(よし···それとなく近づいて···)
(いた···男の人と一緒だ!)

相手の男性は、スーツに身を包んでいる。
しかも、平名織江とはずいぶん親し気な雰囲気だ。

(まさに「密会中」って感じ···)
(で、肝心のお相手の顔は···)
(ダメだ、見えない···背格好は「院長」っぽいのに···)

と、スーツの男性が体の向きを変えた。

サトコ
「!!」

(違う···院長じゃない!)
(とりあえず写真を1枚···)

サトコ
「···よし」

(すぐに黒澤さんに送って···っと···)

(それにしても誰なんだろう、あの人)
(他の看護師は「例の」って言ってたよね)
(となると「密会」は一度や二度じゃないはず···)

門村吉明
「ちょっとぉ!そろそろ聞いてよ、アタシのビッグスクープ!」
「看護師長と研修医の、イケナイ研修···」

(そうだ!この人なら···)

サトコ
「門村さん!私も新しい噂をゲットしたんですけど!」

門村吉明
「えっ、なになに?」

サトコ
「外科病棟の平名さんなんですけど···」
「とある男性と『イケナイ密会』をしてるって噂が···」

門村吉明
「やだっ!それ、初耳よぉっ」

(よし、食いついた!)

門村吉明
「誰なの、お相手は!」

サトコ
「それが具体的な名前は聞き出せなくて···」
「ただ、服装はスーツで」
「年齢は40代後半から50代くらいの人っぽいんですけど」

門村吉明
「ちょっと!それじゃ、漠然としすぎ!」

サトコ
「でも、門村さんなら候補を挙げられるんじゃないかなーなんて···」

門村
「···ヤダ、わかってるじゃないの」
「そうねぇ···スーツ姿の40代から50代って言ったら···」

門村さんの情報をもとに、私は候補に挙がった人物を全員調べてみた。
けれども、2日経っても該当者は見つからなくて···

(参ったな···今度こそ「何か掴めるかも」って思ったのに)

もちろん、このことは黒澤さんにも報告した。
でも、今のところ、これといった返事はない。

(今日はミーティングもないし、潜入捜査も明日で終わりだし···)
(このままじゃ、不完全燃焼のまま終わりそう···)

サトコ
「···いやいや」

(「あと1日」あるんだ)
(明日こそ、何か進展があるかも···)

???
「どうもお世話になりました」

(うん?)

サユミの父
「先生にもいろいろご迷惑をおかけしまして···」

黒澤幸成
「そんなことはないですよ」
「サユミちゃん、とてもイイコでしたし」

(サユミ···って、あの女の子だよね)
(喋れないはずなのに、歌を歌っていた···)

黒澤幸成
「ああ、長野さん」

お父さんを話を終えたらしい幸成さんが、笑顔で近づいてきた。

黒澤幸成
「おつかれさまです」

サトコ
「おつかれさまです。あの···」
「『サユミちゃん』って、小児病棟に入院している女の子ですよね」
「たしか、喋れないっていう···」

黒澤幸成
「そうです。ご存じだったんですか?」

サトコ
「はい、仕事中に何度か出くわしたことがあって」

黒澤幸成
「あの子はよく院内をフラフラしていましたからね」
「おかげで僕も仲良くなったんですが、明日退院するそうで」

(そっか···それでお父さんが挨拶していたんだ)

サトコ
「あの···ちなみになんですけど···」
「『喋れない子』が『歌だけは歌える』ってあり得るんですか?」

黒澤幸成
「さぁ···心因性の場合、そういう症例もあるのかもしれませんね」
「もっとも、僕はそういう患者さんに当たったことはありませんが···」

サトコ
「···そうですか」

(ってことは···)



【寮 談話室】

(幸成さんは、サユミちゃんの歌声を聞いたことがないんだ)
(もしかして、人前では歌わないようにしていたのかな)
(それとも、鼻歌みたいに無意識に歌っていたとか···)

サトコ
「って、違う違う!」

(あの子のことはいいから!)
(今は、任務について考えないと)

屋上で見た「スーツ姿の男性」の正体は、未だわかっていない。
それ以上の情報収集も、ここ数日は「イマイチ」だ。

(潜入捜査の延期ってできないのかな)
(せめて、平名織江が辞める来週木曜日までは···)

鳴子
「♪ふふふーん···ふふふーん···」

(え···)

鳴子
「♪ふふふーん···ふふふー···」

(この歌···サユミちゃんの歌と似ている?)

鳴子
「あれ、サトコじゃん」
「久しぶり!どうよ、特別任務は···」

サトコ
「うん、まあ···」
「それより鳴子、今の、なんて歌?」

鳴子
「歌?」

サトコ
「今、口ずさんでた歌だよ!」
「『♪るるるー、」るるるー』みたいな···」

鳴子
「えっ、それ歌ってた?」
「まいったなぁ···覚えたつもりはなかったんだけど」

サトコ
「···どういうこと?」

鳴子
「私らが潜入した自己啓発セミナー、覚えてる?」

サトコ
「もちろん。『フレンドリー伊坂』のだよね?」

鳴子
「実は、この間あそこの『研修合宿』に潜入してきたんだけどさ」
「その時の講師が、毎回食事前にこの歌を歌っていてさ」

(歌を···講師が?)

鳴子
「ほら、この歌、節回しがちょっと独特じゃん?」
「それで、つい覚えちゃったのかも」

アハハ、と笑う鳴子の声がやけに遠い。
だって、頭の中は、今得た情報のことでいっぱいだ。

(あの自己啓発セミナーの母体は、宗教団体「終末の泉」で···)
(そこの「講師」も、宗教団体の関係者かもしれなくて···)

その講師が歌っていた、独特な「歌」。
それを口ずさんでいた、小児病棟の女の子。

(それって偶然?)
(それとも······)

鳴子
「ちょ···」
「どこ行くの、サトコ!?」

(ひとまず電話···黒澤さんに···)

Trrr···Trrrr···

(···ダメだ、出ない)

サトコ
「落ち着け···ちゃんと考えろ···」

これまで、平名織江の狙いは「301号室の患者」だと思っていた。
でも、サユミちゃんも、あの宗教団体と関りがあるとしたら?

(あの子は、明日には退院する···)

サトコ
「今晩?」



【黒和堂病院】

サトコ
「はぁ···はぁ···」

(考えすぎかもしれない···)
(でも、万が一···私の考えが正しかったとしたら···)

サトコ
「すみません、リネン管理スタッフの長野です!」
「忘れ物を取りに来ました!」

スタッフ証を見せて、消灯すぎの病院に入れてもらう。
小児科病棟は、ここから少し離れた棟の3階だ。

(お願い···まだ何も起きていませんように···)
(いっそ、私の勘違いでありますように!)

(着いた···この部屋······)

サトコ
「痛っ」

(誰!こんなところにリネンボックスを置いたの!)

ぶつけた膝をさすりながら、私は部屋に足を踏み入れた。

(ベッド···ひとつだけだ···)

逸る気持ちを抑えて、すぐそばまで歩み寄る。
サユミちゃんの口元に手をかざすと、穏やかな寝息が指先にかかった。

(よかった···無事だ···)
(おかしな様子も、特にないっぽいよね?)

とたんに足の力が抜けた。
情けなくも、私はその場にへなへなと座り込んでしまった。

(なんだ···ただの思い過ごしか···)
(よかった···本当によかっ······)

サトコ
「!!」

心臓が、跳ね上がった。
ベッド脇に、誰かがうずくまるように倒れていた。

(誰、あれ···男の人···?)

近づこうとしたその時、床にゆらりと人影が伸びた。

(しまった、誰かいる!)

まさに間一髪だった。
背後から襲い掛かってきた人物を、私はなとかかわして立ち上がった!

(やられた!いつの間に平名が!)

???
「あら、ヤダ」

(······え?)

門村吉明
「どういうことなの、コレ」

(うそ···どうして門村さんが?)

to be continued

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