カテゴリー

恋の行方編 黒澤シークレット1

Episode5.5 「キミの嘘」

それは、私と黒澤さんが黒和堂病院に潜入して3日目のこと。

黒澤
♪それでも~祈るよ~雪がそっと降る夜に
♪同じ空を~同じ愛を~

サトコ
「······」

黒澤
あ~スッキリした!
やっぱり、OMIの歌は最高ですね!!

(ハイハイ、それはよかったですネ)

黒澤
さ、次はサトコさんの番ですよ
どんな歌なのかなー

サトコ
「あいにく何もリクエストしていませんので」
「それより、早く今日の報告をさせてください」

黒澤
えー、ダメですよ。そんなの
カラオケに来て、何も歌わなかったら怪しまれるじゃないですか

サトコ
「そんなことないと思いますけど」
「最近はカラオケ以外の利用も多いらしいですし···」

黒澤
あ!じゃあ、あと1曲だけ歌わせてください

サトコ
「黒澤さん、私、早く報告を···」

黒澤
もう1曲!もう1曲だけですから!

サトコ
「······わかりました」

(ま、いっか···あと1曲だけなら)

黒澤
ありがとうございます!じゃあ、この曲を···

(え、FATの曲?)

「FAT」は、今人気の男性アイドルユニットだ。
ファンの年齢層も10代から40代とかなり幅広い。

黒澤
♪窓辺に~たたずむキミが~

(意外だな···黒澤さん、アイドルソングも歌えるんだ)
(ああ、でも合コン用に覚えたのかも。FATの曲って女子ウケいいし)

実は、私もアルバムを何枚か持っている。
ただ、この曲は聞いたことがなかった。

(なんてタイトルだろう···ええと···)
(「アンスリウム」?もしかして新曲なのかな)
(最近、忙しくて、歌番組とか全然見てなかったけど···)

黒澤
♪知りたく~なかった~キミの嘘を~

(えっ)

黒澤
♪なのに~どうして~
♪僕は~気づいて~

サトコ
「······」

黒澤
♪アンスリウムの~揺れるハート~

(なんか、これ···)
(この歌って、まるで···)

と、ソファの上のスマホが鳴り出した。
私のじゃない。
黒澤さんのスマホだ。

サトコ
「黒澤さん、スマホ鳴ってます」

黒澤
えっ?

サトコ
「ス・マ・ホ!さっきから鳴ってますよ!」

黒澤
えーまだ1番しか歌ってないのに
誰ですか、もう···

黒澤さんは着信相手を確認すると、諦めたようにマイクを置いた。

黒澤
ハイハーイ、アナタの黒澤でーす
ハハッ···もちろんです。ちゃーんと覚えてますよ

(誰からだろう···教官たちではないっぽいよね)
(喋り方がずいぶん砕けているし···)

黒澤
えー、今週末ですかー?
あーちょっと厳しいですねー
全員『受付嬢』って、なかなか魅力的ですけど

(···わかった)
(これ、「合コン」のお誘いだ)

黒澤
いやーほんと残念です
ハイハーイ···また誘ってくださーい。それじゃー
······
···うん?
どうしましたか?オレの顔に何かついてます?

サトコ
「あ、いえ···」
「合コン、断ることもあるんですね」

黒澤
そりゃ、ありますよ
今は潜入捜査のことで頭がいっぱいですし

(まぁ···たしかに)

黒澤
でも、一番の理由は違うんですけどね

(···うん?)

黒澤
ねぇ、サトコさん
どうしてだと思います?

(なっ···)

黒澤
せっかくだから当ててみませんか?
オレが、合コンを断る一番の理由

サトコ
「し、知りません、そんなの!」
「ていうか離れて···」

黒澤
例えば、こんな理由は『有り』だと思いませんか?
『オレには好きな人がいる』···

(······え)

黒澤
『だから、今回は合コンをお断りした』···
なーんて···

サトコ
「有りだと思います」

黒澤
······

サトコ
「だから退いてください」
「私相手に、こんなことをしないでください」

黒澤
どうしてですか?
その相手がアナタだとは···

サトコ
「思いません」

黒澤
······

サトコ
「もう黒澤さんには騙されません」

(そうだ···もう二度と···)
(黒澤さんのことは信じない)

黒澤
···さすが、石神さんの補佐官
容赦ないですねー

黒澤さんは、かすかに笑うとテレビ画面を振り返った。

黒澤
あーカラオケも終わっちゃいましたね
FATの新曲、最後まで歌いたかったのになぁ

サトコ
「······」

黒澤
それじゃ、本日の報告を伺いましょうか

サトコ
「···お願いします」



ミーティングは30分ほどで終わった。
黒澤さんはまだ用事があるらしく、私はひとりでカラオケ店をあとにした。
店を出てすぐに、どっと疲れが押し寄せてきた。
たぶん、思っていた以上に緊張していたのだろう。

(やっぱりキツいな···黒澤さんと仕事をするの)

あの夜のことは、さっさと忘れてしまいたい。
なのに、うまくいかない。
あんな冗談ひとつで、いとも簡単に心を揺さぶられてしまう。

(悔しい···ほんと、悔しすぎるよ···)
(でも、次はちゃんとかわしてみせるんだ)
(あんな冗談···鼻で笑って···)

と、頭上から切なげなバラードが聞こえてきた。

(この曲···さっきの···)

顔を上げると、オーロラビジョンに「FAT」のふたりが映っていた。
どうやら新曲のプロモーションビデオのようだ。

ーー『知りたくなかった、キミの嘘を』
ーー『なのにどうして、僕は気付いて』

(タイトル···『アンスリウム』だっけ···)

それが何を意味する言葉なのか、私は知らない。
それでも、この歌は···

(抉ってくるなぁ···いろいろと···)

この歌詞も、これを歌ったのが黒澤さんだということも。
なにより···

(傷つくと思ってないんだろうな、黒澤さんは)

この歌を聞いて、私がどう思うのか。
彼は、考えもしないのだ。

(所詮、その程度の存在なんだよね、私って)

だから、忘れたい。
全部、忘れてしまいたい。

(ほんと、知りたくなかったよ)
(あの夜の嘘なんて)

Secret End

読み終わったらクリックお願いします!↓↓↓

シェアする

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

フォローする