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恋の行方編 黒澤シークレット2


Episode 6.5
「アンスリウム」

【寮】

(関係ない···関係ない···)
(黒澤さんが、誰とデートしようが知ったことじゃないし)
(むしろ、そんなのどうでもいいし)
(ジャンボパフェも、ぜんっぜん好きじゃないし!!)

サトコ
「私は、仕事に生きるんだからーーー!!!」


【電車】

というわけで、潜入捜査開始7日目。
久々の休日にも関わらず、私は電車に揺られていた。

(今日は区の図書館に閉じこもろう)
(閉館までずーっと勉強するんだ!)

【図書館】

ところが···

サトコ
「えっ、休館日?」
「蔵書整理のため??」

(どうしよう···学校の資料室に行く?)
(でも、せっかくここまで来ちゃったし···どこか勉強できるところは···)

サトコ
「そうだ!」


(カフェ、この辺だったよね)
(あそこなら静かだから、勉強するのにちょうどいいはず···)

サトコ
「···あった!あの店だ」

(でも、なんか以前と雰囲気が違うような···)

【カフェ】

店員
「いらっしゃいませ!」

(うわ···満席?)
(しかも、賑やかすぎるというか···)

店員
「おひとりさまですか?」

サトコ
「はい、まぁ···」

(これじゃ、勉強できそうにないな)
(いいや。他の店を探して···)

???
「氷川さん!」

(えっ)

真壁慶太
「やっぱり!氷川さんじゃないですか」

(あ···真壁さ···)
(ええっ、黒澤さん!?)

真壁慶太
「お久しぶりです!氷川さんもパフェを食べに来たんですか?」

サトコ
「い、いえ、私は···」

真壁慶太
「よかったらご一緒しませんか。せっかくお会いできたことですし」
「いいですよね、黒澤さん」

黒澤
ええ、もちろんです

(ちょ···えっ···)

真壁慶太
「じゃあ、決まりですね。席、こっちですよ」

(ええっ···)

真壁慶太
「氷川さん、飲み物はどうしますか?」

サトコ
「ええと···じゃあ、カフェオレを···」

(まいったな、こんなことになるなんて)
(でも、真壁さんの笑顔を見ていると断りにくいっていうか···)

真壁慶太
「なんだかすごい偶然ですよね。こんなふうにバッタリ会うなんて」
「僕と黒澤さんなんて、休みを合わせるの、大変だったのに」

黒澤
なんだかんだで2ヶ月かかりましたよね

真壁慶太
「ええ。僕が休みの日は、黒澤さんがお仕事で···」

黒澤
オレが休みの時は、真壁さんがお仕事でしたからね

真壁慶太
「でも、やっと合いましたからね」

黒澤
ええ。今日は存分に楽しみましょう

(···ずいぶん仲良いんだな、このふたり)
(黒澤さんも、教官たちといるときより雰囲気が柔らかいような···)

真壁慶太
「あっ、ついにきましたよ!」

店員
「お待たせしました。ジャンボパフェです」

(え···)

真壁慶太
「さあ、食べましょうか」

黒澤
あ、待ってください!その前に記念に1枚···

(うそ···ジャンボパフェのお相手って···)
(真壁さんだったの!?)

真壁慶太
「あ···もしかしてひいてますか?」
「男ふたりでパフェなんて」

サトコ
「い、いえ···そういうわけじゃ···」

黒澤
なに言ってるんですか
今時、男ふたりでパフェなんて普通ですよ

真壁慶太
「そ、そうですよね」
「よかった。僕、どうしても一度食べてみたくて」
「あ、氷川さんもどうぞ」

サトコ
「いえ、私は···」

(なんか邪魔者っていうか···)
(ふたりの間に入っていけないっていうか···)

黒澤
まあまあ、そう言わずに
はい、アーン

(なっ···)

サトコ
「あのっ、本当に私は···」

黒澤
いいじゃないですか。遠慮しないで

真壁慶太
「そうですよ、ぜひ!」

(うっ···真壁さんのキラキラな視線が···)
(黒澤さんだけなら、絶対に拒むのに···)

サトコ
「······じゃあ、一口だけ···」

差し出されたスプーンを、軽く口に含む。
甘いクリームが、あっという間に広がった。

真壁慶太
「どうですか?お味は···」

サトコ
「おいしいです。すごく」

真壁慶太
「よかった!じゃあ、僕たちも食べましょうか」

黒澤
そうですね···
っと···
サトコさん、ちょっとこっちを向いてください

(ん?)

黒澤
生クリーム、ついてますよ

サトコ
「え、どこに···」

黒澤
ああ、動かないで

サトコ
「!」

親指で、唇を拭われた。
それも輪郭をなぞるみたいにゆっくりと。

黒澤
···ハイ、ちゃんととれましたよ

(な···な···っ)

黒澤
あれ、ずいぶん顔が赤いですね。どうしたんですか?

(そんなの決まって···)

黒澤
真壁さんってば

(······えっ?)

真壁慶太
「す、すみません!でも···」
「ふたりを見ていたら、妙にドキドキしてしまって」

(ええっ!?)

黒澤
ハハッ···面白いですね、真壁さんは
婦警さんたちに人気なの、よくわかるなぁ

真壁慶太
「か、からかわないでください。僕なんてそんな···」

黒澤
またまた~すぐにそうやって謙遜するんですから~

真壁慶太
「そ、そんなことないです」
「それより早く食べましょう。このままじゃ溶けちゃいます」

黒澤
そうですね、念願のジャンボパフェですからね

ふたりは、笑顔でジャンボパフェを頬張り始めた。
その様子は、まるで10代の少年のようだ。

(いつもより穏やかで、柔らかい感じで···)

温かなカフェオレに口をつけ、ほっと息をつく。
さっきまで熱かった頬も、ようやく落ち着いたようだ。

(よかった···真壁さんが赤面してくれて)
(私も赤くなっていたの···黒澤さんに気付かれなくて)



【駅】

真壁慶太
「それじゃ、僕たちはこっちですから」

黒澤
サトコさん、また月曜日に

サトコ
「はい、また」

(···なんだか思いがけない1日になっちゃった)
(とりあえず、今日はもう帰ろう)
(勉強は、夕飯のあとに学校の資料室で···)

サトコ
「あ···」

久しぶりに、花屋の前で足を止めた。
可愛いハート型の花が、目に入ったからだ。

(そういえば、しばらく花を買っていなかったな)

少し前まで、ペットボトルの容器に花を挿していた。
たぶん、最後に飾ったのはアネモネだったはずだ。

サトコ
「すみません。このハート型の花、いくらですか?」

店員
「ああ、『アンスリウム』ですね。200円ですよ」

(『アンスリウム』?)
(それって、この間黒澤さんがカラオケで歌っていた···)

店員
「1輪でよろしいですか?」

サトコ
「い、いえ···やっぱり他の花にします!」
「なにかオススメはありますか?」

店員
「そうですね。今日は···」

(知らなかった···花の名前だったんだ、「アンスリウム」って)

ずいぶん可愛らしい花だった。
部屋に飾ったら、自然に笑顔がこぼれそうな気がした。
それでも、私は手に取ることができなかった。

(たぶん意地だ)
(それも、すごくつまらない意地)

たとえば、さっき···
カフェで赤面していたのを気付かれたくない、と感じた類の。

Secret End

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