カテゴリー

このドキドキはキミにだけ発動します 石神カレ目線

【石神マンション】

かつての公安学校のメンバーに加え、津軽班が参加することになった河原でのバーベキュー。

(サトコたち新人の息抜きとしてはいいだろう)

警備局のお祭り課でもあるまいし···という気持ちはあるが、今回は目をつむろうと思う。

(新体制の下で緊張が続いているのも事実だ)

頭に浮かんでくるのは、サトコの顔。
配属先が自分の班ではなく、ほっとしたような気持と落胆する気持ちと両方があった。

(仕事の時は線引きしているつもりだが···)

理性を保つことに対しては自信があるつもりだけれど、それが時折危うくなる。
サトコに関してだけは。

(津軽の下で、弱音も吐かずによくやってる)
(銀室での空気は、それこそ針のむしろだろうに)

あらかじめ予想していたことだけれど、サトコが俺を頼ったり相談をしてくることはなかった。

(本当に甘えることが下手だからな。あいつは)

だからこそ、ガス抜きの機会は作ってやりたい。
それは直属の上司でなくとも、恋人ならできることだった。

石神
バーベキュー場の近くに、紺碧湖という湖があるのか

パソコンでバーベキュー会場の周辺を調べていると、山の奥に小さな湖を見つける。
調べてみるとネットでも数件の記事しかヒットしない隠れスポットのようだ。

(綺麗な水だ)

写真で見る湖の水面は、まるで絵の具でも溶かしたように鮮やかで透き通った色をしていた。

(サトコに見せてやりたい)
(天気が良ければ、行けるか···)

彼女が目を輝かせる姿が今から想像できる。
美しいものには素直に感動できる···そんな真っ直ぐさが好きだった。

(あのメンバーなら、騒々しくなることは間違いないだろう)
(隙を見て連れ出すか···)

【スーパー】

バーベキュー当日。
サトコを連れ出すチャンスは思ったよりも簡単にやってきた。

石神
お前が飲んでる、クリームソーダのペットボトル···
本当にクリームソーダの味がするのか?

サトコ
「そう言われると···本物のクリームソーダの味って、よく思い出せないかも···」

買い出しに行った帰りの他愛のない会話。
話しながらも、俺の頭は別のことを考えていた。

(湖に行くなら、この帰りしかないが···)

域に寄るにはルートが離れすぎていた。
念のため、買い物袋には大量の保冷剤を入れ、クーラーボックスに入れてある。

(サトコにどう話を持ち出すか···だ)

下手な言い方をすれば遠慮するのは目に見えている。

(上手く誘導してやれたらいいんだが···)

サトコ
「そういえば、前に自販機でプリンシェイクの缶を見かけました」
「秀樹さん、飲んだことありますか?」

石神
いや、プリンは飲み物ではなく食べ物だ

雑談でも楽しそうな顔をしているサトコに、切り出す糸口を見つけることができず。
何も告げないまま車に乗り込むことになった。

石神
サトコ

サトコ
「······」

石神
サトコ?

湖に寄ることを切り出そうとすると、サトコがうとうと舟を漕いでいる。

(疲れたか···朝から動きっぱなしだったな)

あれこれと皆に使われ、車に乗るまでろくに座る暇もなかったはずだ。

(さっきの飲み物で糖分を取ったから、急に眠気が出てきたんだろう)

石神
このまま、行くか

目が覚めてのお楽しみというのも悪くないだろう。
車の揺れに身を任せるサトコを乗せ、山の奥にある湖へと向かった。

【湖畔】

サトコ
「わ···綺麗···」

石神
ここまで鮮やかな色の湖は、めずらしい

湖を見たサトコの反応は思った通りだった。
その目を輝かせる横顔に連れてきてよかったと思う。

サトコ
「気持ちいいですね。ここ」

石神
滝が好きだという後藤の気持ちが、わずかだが分かった気がする

(俺が心地良く感じるのは、隣にお前がいるからだが···)

思っていることの数パーセントも口に出せないまま。
それでも互いの間にある空気が密になっていくのがわかる。
湖に足を浸けたサトコの隣に立つと、手尾冷やして彼女の頬に触れてみた。

石神
気持ちいいか?

サトコ
「気持ちいいです···」

(俺は、お前の体温が心地いい)

ゆっくりと手に馴染んでいく温もり。
それは肌を重ねているときを錯覚させるような一体感があった。

石神
······

サトコ
「······」

どちらともなく見つめ合い、サトコが俺の手に自分の手を重ねる。
日焼けで火照ったサトコの顔に、少し期待で潤んだ瞳は陽射しよりも俺の頭をクラクラさせた。

(まずい、このままじゃ···)

理性の楔が抜けそうだと自らを戒める。

石神
そろそろ戻らないと、あいつらがうるさい

サトコ
「そ、そうですね」

我に返るように声をかければ、サトコもハッとした顔で頷く。
触れていた手を離し、立ち上がる気配がしたのだが···

石神
サトコ?

引き止めるように、俺の腕にかかったサトコの手。

サトコ
「え、あ···」

(本当にお前というヤツは···)

石神
どうした

サトコ
「何でも···」

石神
なくはないだろう。話してみろ

戸惑いの奥に本心が見え隠れするサトコの瞳から目が離せない。

(全部、見せろ。俺には···)

心の底を探るように見つめ続けると、サトコの唇が戦慄くように震えた。
そしてーー

サトコ
「もう少しだけ···二人でいたいです···」

零れる彼女の本心に、深い水の中にともに落ちていくような感覚を覚えた。

(囚われている···)

熱っぽいその瞳と、振り絞った甘えた表情に。

サトコ
「あの、今のは···っ」

石神
···俺もそう思っていた

本当はすぐに唇を塞ぎたい衝動にかられながら、サトコの肩を抱く。
けれど、その理性はそう長い時間は保たず彼女の唇を奪った。

サトコ
「···っ」

キスが深まるにつれ、一枚ずつ剥がれていくサトコの強がり。
そのすべてを取り払いたくて、口づけるのをやめられない。

石神
···その顔だ

サトコ
「秀樹さ···」

石神
俺にだけ見せろ

(もっと甘えればいい。俺しか見ていないんだから)

彼女の身体に力が入らなくなる頃、やっと口づけを解くことができた。


【車内】

帰りの車内。
意図したわけではないが、サトコが隣に座ることになった。

黒澤
サトコさん、寝ちゃいました?

石神
ああ

颯馬
今日一日、よく頑張りましたね

黒澤
この手のイベントは新人がひたすらコキ使われますからね~
新人の頃を思い出します···

石神
お前はもっと働け

颯馬
今日は歩とコソコソしてばっかりだったね

黒澤
そんなことないですよ~。成長した後輩たちを、ちゃんと見守ってましたよ

車が揺れると、サトコの身体が時折傾く。

(大丈夫か?)

姿勢を崩して窓ガラスに頭をぶつけないかと様子を見ていると···車は大きくカーブを曲がった。

石神

サトコの身体がドアの方に傾き、その肩を掴む。
ドアに頭をぶつける前に引き寄せると、サトコは俺の肩口に頬を寄せてきた。

サトコ
「ん···」

目を覚ますかと思ったが、サトコはまるで甘えるように俺の隣に収まってくる。

黒澤
うふふふ

石神
気味の悪い笑い方をやめろ

颯馬
元教官なんだから、肩を貸すぐらいいいんじゃないですか?

石神
···今だけだ

黒澤と颯馬なら事情を察するだろうと思ったが、サトコを引き剥がすことはできなかった。

(こんなこと、俺らしくはないが···みんな、好き勝手サトコを使ったんだ)
(少しくらい俺が思い通りにしてもいいだろう)

見えないように彼女の腰に腕を回して···今日一日、自分の中に嫉妬の感情があったことに、
今初めて気づいたのだった。

Happy End

シェアする

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

フォローする