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このドキドキはキミにだけ発動します 颯馬カレ目線

颯馬
いいですか、よく聞きなさい···

※放送禁止のため、この先は割愛させていただきますーー

男の子A
「うっ、うっ···ひっく···」

男の子B
「···ママーっ!!」

(ふっ、ママに泣きつくようなキミたちに、この愛おしくも可憐な水着の価値などわかるまい)

取り返したサトコの水着を手に、心の中で小さな犯人たちに語り掛ける。

(もう二度とサトコに近づくんじゃないよ、愚かな少年たち)
(俺の大切な人にこんな酷いイタズラを仕掛けるなんて、お兄さんは許さないからね)

芝居じみた笑みを浮かべながら、転びそうになって逃げていく子どもたちを見送る。
その影が小さくなると、俺は改めて水着に目を落とした。

(このような可愛いものは俺の前だけで着てほしいものだな)
(そもそも人前で水着姿になることさえ心配だというのに、ましてや仕事関係の場で···)

思わず手にした水着を握り締めてしまう。

(こんな頼りない布切れ1枚の姿で彼らの前に立っていたなんて)

自分の手の中で小さく丸まる水着を見て、ふつふつとした思いが再燃してくる。

(とにかく、早くこれをサトコに届けなければ)

他の者たちに気付かれないよう、サトコが泳いでいった下流へと急いだ。

颯馬

下流へ来ると、ちょうどサトコが川から上がろうとしていた。
裸の胸元を不安そうに華奢な腕で隠している。

(なんという格好で······けど、綺麗だ···)

名画のキャンパスから抜け出たような姿に、思わず目を奪われた。

(···見惚れている場合ではなかった)

逸る気持ちを落ち着けながら駆け寄り、慎重に最後の一歩を踏み出した。

ザッ

サトコ
「!」

砂利を踏む音に、彼女はハッとした様子で背を向ける。

(眩しい···)

何も身に着けていない真っ白な背中に、落ち着かせようとした鼓動が再び高鳴る。

(そんな無防備な姿で···)

颯馬
こんなところまで泳ぐなんて···

サトコ
「颯馬さん!?」

颯馬
これでしょう

振り返った彼女に、取り返した水着を差し出した。
一刻も早く、少しでもその肌を隠してほしくて。

サトコ
「どうして···!」

颯馬
本当に最近のガ···子どもは、おイタが過ぎますよね

(フッ···つい憎しみ、いや、親しみを込めて『ガキ』と言いそうになってしまった)

自嘲する俺を、サトコは困惑気味の顔で見ている。
その両手は、まだしっかりと胸元を覆っている。

颯馬
さあ、早くこれを

サトコ
「ありがとうございます···」

不安そうに片手を胸から外し、彼女は水着を受け取った。
片手だけで隠された胸元を、しきりに気にしながら。
その顔は、恥じらいと困惑で、真っ赤に染まっている。

(そんな姿、他の男に見せられるわけないだろう)

今すぐ抱きしめたい衝動に駆られながら、そっと彼女の顔に手を伸ばした。

颯馬
そんな顔をして···大丈夫ですよ、もう

囁きながら、緩やかに下がる可愛い眉をなぞった。
そのまま頬を包むと、赤く染まっているとは思えないほどひんやりしていた。

(早く温めてあげたい···)

裸同然でこんなところまで泳いできた彼女に、より愛しさを感じる。

颯馬
私が目隠しになりますから、今のうちに

サトコ
「はい···」

背を向ける彼女をすっぽりと隠すように立つ。
彼女は水着のリボンを持って両手を上げ、首の後ろで結ぶ。

(その姿は···反則だな···)

誘っているつもりもない彼女の素の色気に、思わず息を呑んだ。
白いうなじに吸い寄せられるように、そっと身を寄せる。

颯馬
こっちは俺にさせて?

サトコ
「···!」

背後から囁くと同時に、背中のリボンに手をかけた。
ビクッと僅かに体を震わせた彼女は、そのまま固まってしまう。
俺はゆっくりと丁寧に、そしてしっかりとリボンを結ぶ。

(簡単には解けないくらい、しっかりとね)

颯馬
はい。これで大丈夫ですよ

結び終わった合図に、ポンと彼女の背中に手を当てた。
さっき包んだ頬よりもそこは温かく、その温度はスッと俺の心にまで届く。

サトコ
「ふぅ···」

彼女が大きく息を吐いたのが分かった。

(無事に水着を着けられて、ホッとしたのだろう)
(誰の目にも触れさせずに、守ってあげられてよかった···)

安堵する彼女の気持ちを思いつつ、彼女の力になれたことに喜びを感じる。

颯馬
「もう困り顔は直りましたか?」

サトコ
「···!」

問いかけながら、気付けば彼女のうなじに唇を当てていた。
驚いて振り向きかけた彼女の眉は、斜め45度の角度に下がっている。

(···そんな可愛い顔しないで)

封じ込めていた胸の鼓動が、静かにその勢いを増していく。

颯馬
サトコは困った顔ですら魅力的だから···俺の前だけにしてほしいのに

サトコ
「!」

うなじへのキスを止められず、つい本音を零した。

(困っているのはむしろ、俺の方かもしれないな···)

彼女を困らせるつもりが、その可愛さに自らが困惑している。
そんな自分がおかしくもあり、ますますキスの勢いは収まらない。

サトコ
「あ、あの、颯馬さん···」

背中へ移ったキスに戸惑う彼女の声が、心地良く耳に響いた。

(その声も、この身体も···サトコの全部を自分のものにできればいいのに)

守りたいという庇護欲は、いつしか独占欲に変わっていく。

(いや、これはもう、支配欲か···?)

サトコ
「っ···」

抑えきれない想いを誇示するかのように、俺は彼女のうなじに赤い痕跡を残した。

【バス】

鳴子
「あ、サトコ、首の後ろ蚊に刺されてるよ」

佐々木さんのその声をきっかけに、車内に微妙な緊張感が生まれた。

鳴子
「痒いでしょ。赤くなってる」

サトコ
「ほんと?」

彼女は心配そうに自分の首に触れる。

(痒みはないと思うが、ある種の毒は混入してるかな)

表情を出さずに笑った瞬間、千葉と目が合った。

千葉
「···!」

千葉は何かを察したのか、ハッとしたように目を逸らした。

(ふっ、厳しい公安学校を卒業しただけあって、勘の鋭さはなかなかのようだね)

サトコ
「千葉さん···?」

千葉
「あ、えっと···痒み止めの薬、あったかな?」

サトコとも目が合ってしまった千葉は、慌てた様子で誤魔化している。
その様子に、他の元教官たちが固唾を飲んだのがわかった。

石神
···

後藤
···

石神さんは腕を組んで寝たふりを決め込み、
イヤホンをした後藤はさりげなく手元のボリュームを下げる。
他の者たちも、何食わぬ顔をして耳をそばだてている。
ちらちらと俺に視線を向けながら。

(千葉よりずっと勘が鋭い人たちだからな···)

こっそりと苦笑いを浮かべていると、サトコは千葉から薬を受け取った。

鳴子
「赤くなってるけど、腫れてはないね」

サトコ
「そうだよね?蚊じゃないのかな」

鳴子
「痒くもないんじゃ、何か他の虫かも······ね」

佐々木さんのその微妙な間で、
元教官たちは一斉に俺という、『虫』から目を逸らした。
ただ1人を除いて。

津軽
周介くんはそういうタイプなの?

颯馬
そういうタイプとは?

津軽
大事な宝物にきちんと自分の名前を書いちゃう子だった?

颯馬
いえ、それほど自己顕示欲のある子どもではなかったですね

津軽
じゃあ、名前は伏せてヒミツの暗号を書くタイプだ

颯馬
さあ、どうでしょうか。幼いころの記憶は曖昧ですので

津軽
まあ、自己顕示欲と独占欲は、微妙に違うか

颯馬
独占欲のお話だったのですか?

津軽
別にそういうわけでもないけどね

(貴方が何を言いたいかくらい、もちろんわかっていますよ)

津軽
因みに俺はね、大事な宝物にはしっかりと自分の爪痕を残したいタイプ

颯馬
それは貴重な情報を

ニヤリとする津軽さんに微笑み返し、そのまま窓の方へ視線を移した。
外は暗くなり始め、車窓には反対側に座るサトコの横顔が映っている。

(もう眠ってしまったのか)

虫刺され騒動も落ち着いて、ホッとしたように目を閉じている。

(明日からはまた別行動か···)

毎日のように一緒に行動していた、彼女の担当教官だった頃が懐かしい。

(だが、たとえ津軽さんの下にいるとしても、貴女が俺のものであることには変わりない)

車窓に映るサトコの寝顔を、俺は飽きることなく見つめていた。

Happy End

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