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このドキドキはキミにだけ発動します 難波カレ目線

【河原】

難波
あちっ!

サトコ
「大丈夫ですか?」

焼きたてのナスで舌をヤケドした瞬間ーー

難波
いってぇ!

サトコ
「今度はどうしました!?」

アブに刺された瞬間もーー
サトコはいつも、一番に俺を心配して面倒を見てくれる。
この年になってこんなこと言うと笑われるかもしれないが、
サトコがそうやって心配してくれるのは、はっきり言ってすごく嬉しい。

(俺っていつからこんな構って欲しいオッサンになっちまったんだろうな···)

我ながら不思議に思うが、サトコに世話を焼かれるたびに、
確実にサトコへの愛が増していくのを感じてしまうのだから重症だ。

(若い頃は、好きな女にみっともない自分なんか見せられるかっていきがってたもんだが···)

人間、年と共にいろいろ変わっていくものだ。
食の好みも、女の子の見も。仕事との関わり方も、女との接し方も···
そんなことをぼんやり考えるでもなく考えていたら、
足首の辺りからヒリヒリと痛みを感じ始めた。
ふと見ると、日陰にいたはずの俺の足首に、
いつの間にかガンガン直射日光が当たってしまっている。

(いてっ···やべぇな。これは確実に焼けてるぞ。赤くなって、下手すりゃ水膨れだ)
(ああ、この肌の弱さが恨めしい···)

キラキラと光る川面。
でもそれ以上にキラキラと輝いて見えるのは、水着姿のサトコだ。
佐々木と千葉と黒澤と一緒に、水着で元気に水の中を走り回っている。
こういう姿を見ると、改めてサトコの若さを突き付けられる気分だ。

サトコ
「冷たいっ!止めてよ、鳴子」

佐々木に水をかけられたサトコの肌を、水滴が這う。

鳴子
「いいじゃん、いいじゃん!水も滴るいい女!」

黒澤
え?いい女!?どこです?どこです?

調子に乗って、すぐ近くでサトコの水着姿をガン見している黒澤が恨めしい。

(水着を忘れるなって言ったのは確かに俺だが···)
(いくら黒澤とはいえ、本当は他の男の前でこんなふうに肌を露出されるのはちょっと···)

サトコの眩しさのせいか、強すぎる日差しのせいか、
立ち上がると心なしか足元がフラフラと···

(なんだこれ、もしかして夏バテか?俺···)

サトコ
「室長、大丈夫ですか?」

こんな時でも、やっぱり一番に気付いて駆けつけてくれるのはサトコだ。



【難波マンション】

家に帰るなり、サトコは日焼けした俺の身体にローションを塗り、
痛む腰に湿布を貼り付けてくれた。
俺はソファに長々と寝ころびながら、サトコにされるがままになる。

(なんだか、心地いいな···溜まった疲れも一気に吹き飛びそうだ)
(仕事から疲れて帰ってきたら、こうやってサトコが俺をねぎらってくれて···)
(サトコと一緒に暮らしたら、毎日こんな感じなのか?)

ぼんやりと妄想を膨らませる。

(サトコは料理も上手いし)
(帰ってきたとき、部屋に人がいて夕飯の匂いがしてるっていうのもいいもんだよな)

前の妻と離婚して以来、ずっと一人で気ままに暮らしてきた。
それはそれで気楽な毎日ではあったのだが、その生活に唯一欠けていたのが、家での憩いだ。

(若い頃はそんなもんどうでもいいと思ったもんだが)
(これもまた年と共に不思議と欲しくなるもんなんだよな)

サトコ
「はい、できましたよ」

サトコに声をかけられ、ふと我に返った。

難波
サンキューな

俺はゆっくりと身体を起こしながら、改めてまだジンジンと痛む腰をさする。

(あっちはヒリヒリ、こっちはジンジン···今日の俺は、久々に満身創痍って感じだな)

そう思ったら、ついついため息がこぼれた。

難波
日焼けだの腰痛だの、どこが何で痛んでるんだか、もはや分からん

何とはなしにぼやいた俺に、サトコは意外にも結構真剣に怒りだす。

サトコ
「日焼けはともかく···腰痛は無理したりするからですよ」
「クマ相手に戦おうとするなんて···」
「相手が本当のクマだったら大変なところだったんですから」
「クマにも拳銃にも、もう二度と丸腰で立ち向かったりしたらダメですからね!」

ちょっと強めの口調。
眉間に寄せられたシワ。
軽く睨むような目線。

(こんな真剣に怒るってことは、それだけ真剣に俺のことを心配してくれてるってことだよな···)

またもや場違いに嬉しくなってしまって、気付いた時には言葉がこぼれてしまっていた。

難波
いいよなぁ、その顔

サトコ
「へ?」

(あ···何言ってるんだ?俺)

自分で自分に突っ込みながらも、一度出てしまった言葉は止まらない。

難波
そうやって怒ってる顔のこと

サトコ
「茶化さないでくださいよ。私は真剣に···」

難波
真剣だからだよ

サトコ
「?」

言いながらますます嬉しくって、俺はサトコの唇にゆっくりとキスを落とした。

難波
真剣に俺のこと心配してくれてるんだって思えるから

サトコ
「だって、室長が心配ばっかりかけるから···」

難波
悪かったよ。心配かけて

今度は何とも守ってやりたい気持ちになって、保護者気分でそっと頭を撫でた。
時に構って欲しくて、時には守ってやりたくて。
サトコとの関係は、立ち位置が上になったり下になったり······我ながら本当に不思議だ。

難波
もしかしたら、お前のその顔が見たくてわざとやってるのかもな···

サトコ
「え?」

難波
だとしたら、困ったクセがついちまったもんだ
なんかな、お前がなんだかんだと構ってくれるのが嬉しいんだよ、俺は

自分でも信じられないくらいに、素直な気持ちが言葉となって溢れ出す。

(素直なのは結構だが、公安の刑事がこんなんで大丈夫なのか?)

どうやら俺は、サトコと出会って恋人になって今日まで過ごして···
いつの間にか、公安刑事らしからぬ素直な男になってしまったようだ。

【公安課】

数日後。
警察庁の公安課に顔を出すが、サトコの姿がどこにも見つからない。

(こういう時はたいていここに来れば捕まえられるはずだと思ってたんだが···)

難波
おい、お前ら。サトコ、どこにいるか知らないか?

石神
少し前まではここに居ましたが···

加賀
知りませんね、あんなクズのことは

後藤
そういえばさっき、津軽さんから何か頼まれて出て行ったような···

難波
津軽?

見回すと、津軽は部屋の片隅でのんびりとコーヒーを飲んでいた。

難波
おお、いたいた。津軽、サトコ今どこにいるか知ってるか?

津軽
サトコちゃんですか?それならお遣いに行ってもらってますよ

難波
よりによってお遣いかよ

津軽
何か急ぎの用事でもありました?

難波
いや···

津軽

難波
別に、今日の夕飯を何にするか相談しようと思っただけなんだが···

そう言った瞬間、津軽が勢いよくコーヒーを噴き出した。

津軽
げほっ···

難波
あれ、言ってなかったか?あいつ、俺の栄養管理士みたいなもんだからさ

津軽
そ、そうですか···

シレッと言った俺をもう一度見て、津軽は席を立って行った。

(···なんだ?俺、なんかヘンなこと言ったか?)

心配してもらって世話してもらって、健康管理もしてもらって······

(こうして考えてみると、完全にもう奥さんだよな。サトコは···)

くすぐったい想いが沸き上がり、思わずニヤけてしまいそうになる。
なんとなく、そんな日ももうそう遠くないかもしれないなと思いつつ、
俺はじっとサトコが戻ってくるのを待った。
こうして待つ時間すら楽しいーー
そんな風に思えるような恋は、本当に久しぶりだ。
いや、そう思えている時点で······それはもう、愛なのかもしれない。

Happy End

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