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このドキドキはキミにだけ発動します 黒澤カレ目線

【コテージ】

バーベキュー当日・朝7時ーー

黒澤
この箱を···こっちに隠して···

(ま、こんなところかな)
(宿泊用の荷物は、見つかっても構わないし)

黒澤
ふわぁ···

(やー、キツいわー)
(休日なのに朝5時起きとか)

しかも、これから都内にとんぼ帰りしないといけない。
我ながら、なんというハードスケジュール!

(って、計画立てたの、オレだけど)

公安課・3班合同のBBQ
でも、オレの本当の目的はそっちじゃなくて···

黒澤
······さて、頑張りますか!

「彼女」の笑顔を脳内再生して、ドアを閉めた。
そう、長い1日はまだ始まったばかりなのだ。

【河原】

数時間後ーー

サトコ
「千葉さん、その塩コショウ取って」

千葉
「どうぞ」

鳴子
「ねぇ、このアルミホイルはなに?」

サトコ
「おにぎりだよ」
「あとで焼きおにぎりを作ろうと思って」

(いやー、可愛いなー)
(オレの彼女さん、張り切っていてほんと可愛い···)

東雲
······キモ
何ニヤけてんの?さっきから

黒澤
えーそれ聞いちゃいますー?
どこから説明しようかなー、まずはー

東雲
うざ
言ってないから。説明しろなんて

黒澤
えー聞いてくださいよー
オレ、話したくて仕方ないのにー

(···なーんて)
(本当のことは、言えるわけないんだけど)

付き合って、そろそろ2年。
未だ、オレとサトコさんのことは誰にも教えていない。

(公安学校を卒業したらいいかなーって思ってたけど)
(新しい室長、厳しいからなー)
(バレたら、間違いなくどちらかが異動になるだろうし)

しかも、気になる人物がもうひとり。

津軽
モモー!俺にも肉ー!
俺も兵吾くんに負けないくらい、山盛りで食べたーい!

サトコさんの、新しい上司。
で、なんとなーく、引っかかる人。

(何かある気がするんだよなー、この人)
(笑顔がうさんくさいっていうか)

しかも、オレがサトコさんとふたりきりでいるときに限って···

サトコ
『あ、津軽さんからメール···』

サトコ
『あ、津軽さんから電話···』

サトコ
『ごめん!今日泊まれない!』
『津軽さんから急ぎの仕事頼まれちゃった!』

(いやー)
(うさんくさすぎるでしょ、どう考えても!)

後藤
どうした、黒澤!?いきなり割り箸を折ったりして···

黒澤
あー気にしないでください
たまにバキッてやりたくなるんです

後藤
······そうか。だったらいいが

(······とにかく)
(あの人はあやしい)
(絶対になにかある気がする)
(けど、まあ、だからって···)
(オレも負けませんけどね)

というわけで、頃合いを見計らって作戦を実行に移すことにした。

(まずは「酔っ払ったふり」をする)
(で、「来るまでは帰れない」と訴える)
(そして、ふたりきりになれたところで···)
(本日の天王山···「ネタばらし」···)

サトコ
「透くん、顔みせて」

黒澤
はい

(うわー怒ってる···)

でも、これは想定内。

サトコ
「透くんのバカ!嘘つき!」

黒澤
えー、むしろ気付くの遅すぎですよー
サトコさんなら、もっと早く気付いてくれると思ってたのに

(まずは「悲しい」と訴えて···)

黒澤
今日はどうしてもふたりきりになりたかったんです
ここのところ忙しくて、デートできなかったでしょう?
これ以上、アナタに触れられなかった、オレ···
きっと干からびてしまいます

(ちょっと、俯いたりなんかして···)

彼女が折れてくれたところで、最後のプレゼン。

黒澤
この先のコテージ、予約しているから
一泊して帰りましょう?

彼女は、驚いたように目を見開いた。
で、自分から勢いよく抱きついてきてくれた。

(······とりあえず、作戦成功?)

このとき、めちゃくちゃホッとしていたのは···
オレだけの秘密ってことで。

何はともあれ、ようやくふたりきりになれた。
つまり、ここからが本番ってわけだ。
少なくとも、オレにとっては。

(となると···)

黒澤
すごくきれいですから。今のサトコさん

(とか···)

黒澤
水着姿のサトコさん、普段の10倍増しできれいだからなー

(とか···)

黒澤
きれいなサトコさん、誰にも見せたくないなー
オレが独り占めしたいなー

(なんて···)

みんなの前では我慢して言えなかったこと、ぜーんぶ伝えたりして。

サトコ
「あ、あの···」

(ああ、また顔が赤くなって···)

サトコ
「私···もう一回泳いで···」

黒澤
行かせませんよ
まだ口説いてる途中ですから

そう、口説かせてよ。
オレ、今日ずーっと我慢していたんだから。

黒澤
自分でも、不思議なんですけどね
ぜんぜん尽きないんですよ。アナタを想う気持ちが

これも、いたってマジメ。
今のオレの、掛け値なしの気持ち。

(ああ、でも···)
(これ以上は可哀想かな)

オレの彼女さんは、どうもこういうのが苦手みたいだから。
今だって、水に浸かっているのに、耳まで真っ赤になって···
目も、ひどく潤んでいて。

(ま、いっか)
(口説く時間は、まだまだあるし)

というわけで、ここからは冗談モードにチェンジ。
で、ちょっとからかうようなことを口にしたら、

サトコ
「透くんのバカ!」

思い切り、水をかけられたけど。

(可愛いなぁ)
(いつまでたっても口説かれ慣れないところとか、ほんと可愛い···)

しかも、彼女のこんな顔を見られるのは、オレといるときだけなのだ。

(そりゃ、手放したくないでしょ。こんな愛おしい人のこと)
(だから、邪魔する人が現れたら···)

(こっちも本気出しちゃう☆)
(って、思っちゃうわけで···)

(でも、今日は意外とすんなり帰らせてもらえたなー)
(周介さんがけん制してきたときも、何も言ってこなかったし)

酒が入っていたせい?
それとも、これから何かある?

(いまいち読めないんだよなー、津軽さんって···)

サトコ
「あーお腹いっぱい」
「美味しかったねー、シーフードカレー」

満足そうな声に、我に返った。
そうだ、今は久しぶりのふたりきりの時間を満喫中なのだ。

サトコ
「透くーん、このあと、どうする?」
「シャワー浴びて、ゆっくりする?」

大きく背伸びをする彼女に、オレはにっこり笑いかけた。

黒澤
何言ってるんですか
『DOK黒澤』が、これで終わるわけがないでしょう

サトコ
「···どういうこと?」

今朝、コテージに運んで置いた箱を、ここぞとばかりに開封する。
中を見た彼女は、文字通りポカンと口を開けた。

サトコ
「花火···しかもこんなにたくさん···」

黒澤
都内だと、なかなかできませんからね
こういうときにやらないと

サトコ
「···うん!」

(ああ、今の顔···)
(写真に撮っておきたかったな)

でも、今日はカメラマンにはならない。
だって、やっぱり花火を楽しみたいでしょう?

サトコ
「どれにしようかな」
「最初は、色がきれいなのがいいな」

黒澤
だったら『すすき』ですね
これとかどう?右側の···

サトコ
「うーん···」
「透くんはどれにするの?」

黒澤
もちろん、これでしょ

サトコ
「ピストル花火!?いきなり?」

黒澤
そりゃ、警察官ですし

あれこれ話しながら、最初の1本を手に取った。

サトコ
「火、つけるよ。せーの···」

一瞬の焦げた匂いのあと、オレの手元だけがパッと明るくなった。

黒澤
おーー
なかなか派手ですねー、このピストル花火···

サトコ
「······透くん、私の点かないです」

黒澤
あー
日ごろの行いの差ですかねー

サトコ
「!!」
「私、透くんより真面目に仕事してますけど!」

黒澤
えーオレだってマジメですよ?

サトコ
「うそばっかり」
「この間、職場でギター弾いて、石神さんに怒られ···」
「うわっ」

時間差で、彼女の花火にも火が付いた。

サトコ
「びっくりしたぁ」

黒澤
きっと先の一部が湿っていたんでしょうね

彼女の花火は、派手な火花を散らしながら、次々と色を変えていく。
怒ったり、笑ったりと忙しい「彼女そのもの」のように。

サトコ
「あー終わっちゃった。次は···」

黒澤
······

サトコ
「···透くん?そっちも終わってるよ?」
「新しいの、やらないの?」

黒澤
ああ、そうですね

(やっぱりカメラを持ってくればよかったかな)

彼女のことなら、どんな瞬間も覚えていたい。

黒澤
欲深いなぁ、我ながら

サトコ
「えっ、なにが欲深いの?」

振り向いた彼女は、不思議そうに首を傾げている。

(ああ、もう···)
(また、そんな顔をするから···)

黒澤
知りたい?
サトコさんが赤面しそうなこと、考えてたけど

サトコ
「!?」

黒澤
実は···

サトコ
「いい、聞かない」

黒澤
えー聞いてくださいよー

サトコ
「いいです!遠慮します!」
「それより花火です!どうぞ···」

袋ごと渡そうとした彼女を引き寄せて、軽く唇をついばんだ。

サトコ
「···っ、と、透く···」

黒澤
敬語はやめて
今はプライベートなんだし

サトコ
「!」
「それを言うなら、透くんこそ、敬語···っ」

耳に痛い抗議は、唇で吸い取った。
確かに、オレの方がプライベートでも敬語が多いから。

(でも、これ···癖になってるし···)
(崩しすぎると、距離を見誤りそうで···)

いつかアナタを、壊してしまいそうでーー
そっと唇を離すと、軽く胸を叩かれた。

サトコ
「······透くんのバカ」
「振り回しすぎだよ、今日は」

黒澤
そう?

サトコ
「そうなの!」
「でも、いつか···」

胸にあてたままの手を、彼女はグッと握り締めた。

黒澤
『でも』······なに?

サトコ
「············教えない。ナイショ」
「それより花火の続きをしよう。ほら!」

今度こそ、花火の袋を押し付けて、彼女は背中を向けてしまった。
だから、きっと気づいていないのだ。
オレが今、どんな顔をしているのか。

(わかってないなぁ)
(オレこそ、アナタに振り回されてばかりなのに)

でも、わかってもらえなくていい。
この気持ちは、オレだけのものだから。

【公安課】

週が明けた月曜日。

黒澤
ふわ···

後藤
黒澤、業務中だ。あくびは控えろ

黒澤
すみませーん

(ああ、いい週末だったなー)
(サトコさんの水着姿、可愛かったし)
(花火やってるところも可愛かったし···)
(ていうか、サトコさんはずーっと可愛かったし)
(夜、しつこくしすぎて怒られたけど、やっぱり可愛かったし)

津軽
あれ、颯馬くんは?

後藤
今、公安学校に出向いていますが···
何か急用ですか?

津軽
んー急用っていうか···
俺のスマホ、颯馬くんが預かってたぽくて
ほら、BBQのときに失くしたって騒いだ···

(······へぇ)
(そういえば、あのあと一度も邪魔が入らなかったっけ)
(それって、もしかしてこういうこと···)
(あ、目が合った)

津軽
楽しかった?週末

黒澤
ええ『おかげさま』で

津軽
······ふーん
よかったね

黒澤
······ええ

(うわー嘘くせー)

だからこそ、目は逸らさなかった。
そうすることで、伝わることも、隠せることもあるから。

(邪魔しないでくださいね、ほんと)
(彼女は、オレのものですから)

Happy End

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