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#彼が野生動物だった件 プロローグ

【動物園】

9月の声を聞いても、今年は猛暑の名残が垣間見える。
爽やかな風というよりは、じっとり頬を撫でる、9月のある日ーー

加賀
······

石神
······

後藤
······

東雲
······

サトコ
「······」

各班の班長を先頭に動物園の入場ゲートを無言でくぐる。

(何度見ても直視しづらい皆さんの被り物姿···)

可愛いと格好いいの狭間。
そこに生まれたのは、周囲からのチラ見の嵐。

(かえって目立つような気もするけど)
(公安刑事が、こんな格好するわけないと思えば効果ありなのかもしれない···)

黒澤
さぁ、今日も張り切って参りましょうー!

颯馬
晴れて良かったですね

難波
おっさんには、きつい日差しだな

黒澤
はい、園内マップ。自分の分を取ったら隣に回してくださいね

加賀
いらねぇ

石神
お前には野生の勘があるからな

東雲
アプリ見ればいいでしょ

後藤
石神さん、俺がマップ見ます

石神
ああ

サトコ
「あの、このあとって団体行動なんですか?」

難波
適当でいいんじゃないのか?そう広い動物園でもないし

黒澤
自由行動でも、今日が公安学校の同窓会だってことを忘れないでくださいね!

そう、今日は黒澤さん主催の公安学校同窓会動物園ツアーという名目の集まり。

(とはいえ、訓練生は私ひとりだけの参加···これはどういう集まりなんだろう···?)
(だけど難波室長も着てるわけだし、きっと捜査の一環なんだろうな)

今は津軽班のせいか、私に詳細は知らされておらず、ただ皆さんの動きを注視するしかない。

(きっと大きな事件の影があるはず···!)

後藤
···ふわふわだな

(ふわふわ!?)

はっとして声のする方を振り返ると、後藤さんが “ふれあいコーナー” でウサギを抱っこしている。

(ウサ耳でウサギを抱っこするなんて···!)

黒澤
······

(しかもその姿を黒澤さんが連射モードで撮ってる!)

加賀
···いっそのこと全部買って帰るか

(加賀さんがぬいぐるみを大人買い!?だ、誰かにあげるのかな···)

飼育員
「あなたはヒツジの毛刈りの天才です!」

(ヒツジの毛刈り!?)

石神
そこまででは···

飼育員
「いえ、あなたは100年に一度の天才です!ぜひ、ヒツジの毛刈りの専門家に!」

(石神さんがヒツジの毛刈りマンにスカウトされてる···!)

子どもA
「わー!キノコのお兄ちゃんだー!」

(キノコ!?)
(子どもたちが東雲さんの周りに集まってる!)

東雲
子どもたちの楽しい遊び場は、あっちだよ

サトコ
「そっち、迷子センターです!」

難波
おーい、ひよっこ!

サトコ
「難波室長?どこに···」

風に乗ってきた声に振り返ると、難波室長は颯爽と乗馬を楽しんでいる。

サトコ
「いつの間に···」

難波
せっかく来たんだ、思いっきり楽しめよー

サトコ
「は、はい···」

颯馬
サトコさん、アイスはいかがですか?

サトコ
「ありがとうございます。いただきます!」

(クマの形をしたアイス型ロリポップ、可愛くて美味しい···)

オレンジ味のクマの耳を食べていると···

黒澤
うわあぁぁっ!

サトコ
「今の声って···」

颯馬
見ない方がいいですよ

サトコ
「え?」

颯馬
オランウータンが透にフンを投げつけています

サトコ
「!?」

黒澤
後藤さーん、助けてくださーい!

後藤
こっちに来るな!

(全然、捜査している雰囲気はないけど···いやいや、きっと水面下では動いてるんだよね!)
(時々、監視するような視線も感じるし···尾行されている感じもある···)

とはいえ、周りはカップルや親子連ればかり。
結局、詳しいことはわからないままーー謎の動物園同窓会が終了になった。

【公安課】

何だかんだ言いつつも楽しかった休暇明け。

津軽
ウサちゃん···

サトコ
「は、はい?」

気が付けば背後を取られていた。
振り向けば、ダンッと囲われるように机ドンされる。

津軽
これ、なに?

津軽さんが私にヒラヒラと見せたのは数枚の写真。

サトコ
「それは···!」

(昨日の動物園の写真!しかも全員、バッチリ写ってる···!)

津軽
説明できる?

サトコ
「これは、その···学校時代の皆さんと···同窓会で動物園でお会いしました···」

津軽
······へぇ

津軽さんがその長い睫毛を揺らしながらニッコリと微笑む。

津軽
同窓会のために忙しい全員で同日に公休を取って、他の候補生は誰もいなくて···
しばらく席を外していた難波さんまでも集まってくる···か
そんな凄い同窓会、初めて聞いたなぁ

サトコ
「わ、私の発案ではないので、その···!」

ダラダラと背中を汗が伝うと···ふっと津軽さんの身体が離れた。

津軽
···なぁんてね。偶然、みんなの休みが取れて、偶然、参加できたのがウサちゃんだけだったのかもね
偶然が偶然を呼ぶって言うし

サトコ
「そ、それです!」

津軽
でも、いいなぁ。俺も久しぶりに行きたいなぁ···ね、モモ、次の休み

百瀬
「行きます」

津軽
え?早くない?食い気味すぎない?

津軽さんがケラケラ笑って場の空気は一気に和んだけれど。

(こんな写真撮られてるなんて···もしかして私たち、見張られてる!?)
(このままじゃ、あの人と付き合ってることがバレるのも、時間の問題かもしれない···)

【自宅マンション】

サトコ
「『しばらく、会うのを控えませんか』···っと」

(ああ···いくら監視されてる可能性があるからって、こんなメッセージを送ったら誤解されるかも)
(だけど、このままってわけにも···)

打っては消し···を繰り返し、おおよそ1時間。
決死の思い出送り、戻ってきた返信はーー

<選択してください>

石神秀樹

加賀兵吾

颯馬周介

難波仁

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