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#彼が野生動物だった件 颯馬2話

【公安課ルーム】

(颯馬さんと津軽さんが···?)
(そんなまさか···でも、後藤さんの意味深な呟きも気になるし···)

自分にそう言い聞かせるも、廊下で見た2人の怪しげな様子が頭から離れない。

(いや、今はとりあえず写真のことだけ考えないと···!)

津軽さんは夕方になると眠そうな目を擦りながら出て行った。
百瀬さんもここ最近の任務のために今は出かけている。

(探すなら、今しかない···!)

2人のデスクに行き、写真やデータがないかと辺りを探す。

(相変わらず津軽さんのデスクには何もないな···)
(引き出しは鍵がかかってて、開けられないところもあるし···)

もしかしたら、と思い百瀬さんのデスクも漁る。

(多分撮影したのは津軽さんだろうし、何かあれば···)

しかし、手がかりさえも見つけることはできなかった。

(どうしよう···)
(このまま何もできないまま、颯馬さんは津軽さんのところに···?)

そこまで考え、はぁ、と肩を落とした。

結局、何もできないまま庁舎を後にした。
夜の街を歩いていると、ネオンの煌めく一角が近づいてくる。

(え···)

その視線の先で、見覚えのある2つの後姿が連れ添うように歩いていた。

(こ、こんなところで何であの2人が一緒に···!?)

視線だけで追っていると、2人はホテル街へと消えていく。

津軽
キリンって、雌を奪う雄同士の争いで首折って死ぬこともあるって

颯馬
ええ。そして決着がつかずにいると」
その雄同士で愛を深め合うこともあるとか···

(まさか本当にキリンさん···!?)

慌てて後を追うように角を曲がった。

その先の道に2人の姿はない。

(もうどこかに入った···?)

そうなると、これだけ数ある中から探し出すことは不可能に思えた。

(いや、そもそも追いかけて私はどうする気だったんだろう···)
(もしかしたら2人で何かの任務についてるだけかもしれないし···)
(でも班も違う颯馬さんと津軽さんが任務って言うのも···)

ガッシャーンッ

サトコ
「え?」

突然近くの路地から響いてきた音にハッとする。

男A
「くそっ!」

何かから逃げるような素振りを見せながら走ってくる男性に勝手に身体が身構えた。
慌ただしい音が後ろから響いてくる。

???
「逃がすか!」

(今の聞こえてきた声って···!)

突進してくる男を正面から見据えた。

(この人が何者かは分からないけど···!)

男A
「どけぇ!」

サトコ
「っ!」

咄嗟に近くに落ちていた木材を拾い上げる。

サトコ
「やあっ!」

相手の男に向かって構え、足元に向かってしならせた。

男A
「っだ、あ!?」

木材がクリーンヒットし、転がるようにして倒れる男の身体を抑える。
その時、わずかにはだけたシャツの下から紋章のような刺青が見えた。

(首に入れ墨···?この形、どこかで見覚えがるような···)

痛みに顔を歪める男を拘束していると、後ろからやってくる足音が近づいてきた。

颯馬
氷川さん···!

サトコ
「颯馬さん、津軽さん!」

(やっぱりさっきの声、津軽さんたちだったんだ)

私が抑えていた男を颯馬さんが引き取る。
すると、隣にいた津軽さんが不思議そうにこちらを見つめた。

津軽
どうして君がここに?

サトコ
「あ、えーっとそれは···」

(ホテル街に入って行く2人が気になって、とは言えない···!)

サトコ
「ろ、路地から派手な音が聞こえたので、気になって」
「そしたら後ろから颯馬さんたちの声もしたので咄嗟に」

津軽
こんな騒がしい繁華街なのに、よく聞こえたね

痛いところを突かれ、思わず曖昧な笑みで誤魔化す。

颯馬
まぁ、おかげで逃げられずに済みました

颯馬さんは後ろから来た男性に男を引き渡すと、息をつく。

颯馬
でも、何も情報がないのに···そういう行動は無茶と言うんですよ

サトコ
「すみません···」

(確かに、颯馬さんの声が聞こえたからつい取り押さえたけど···)
(向こうが何か想定外の武器とか持ってたら危なかったのは私だよね···)

颯馬
そこまで落ち込んだ顔しなくても、制圧の仕方としては合格点です

サトコ
「!」

颯馬さんに褒められ、胸の奥が熱くなるのを感じる。

津軽
周介くん、先生が板につきすぎなんじゃない?

颯馬
ふふ、そうかもしれませんね

サトコ
「ところで、さっきの人は···」

颯馬
彼は海外犯罪組織 “キリン” の構成員です
最近日本での動きが活発だったので、マークしていたんです

( “キリン” って···もしかしてあの時、廊下で話してたのも···)

颯馬
なるほど、5本···

津軽
パッと見、2本しかわからないよね。キリンの角って

サトコ
「さっきの男の首にあった入れ墨って、もしかして構成員の印ですか?」

颯馬
5つの角に雷が彼らの印のようです

その時、隣にいた津軽さんが大きなあくびを零した。

津軽
あーでもこれで、ようやくゆっくり夜眠れそう···

サトコ
「寝不足の理由ってこれだったんですね···」

津軽
そうだよ。周介くんに駆り出されて、毎晩ここで張り込み生活···
しかも、銀室長に直談判してまで俺を指名してきたんだから断れないし

颯馬
この件は津軽警視が適任かと思ったので

(寝かせてもらえない、ってそういう意味だったんだ···)

津軽
じゃあ、今日はこれで···

颯馬
何言ってるんですか?今から取り調べですよ」

津軽
お願いだから俺を帰らせてよ!

(相当キてるな津軽さん···)

颯馬
では、氷川さんは気を付けて帰ってくださいね

サトコ
「は、はい···頑張ってください」

(明日登庁したら、同じ格好のままの津軽さんとか···あり得そうだな···)

そんな予感を感じながら、津軽さんたちを見送った。

【公安課ルーム】

サトコ
「おはようございま、す···」

翌日、部屋に入ると、デスクでぐったりとした津軽さんが目に入る。

(や、やっぱりあのまま徹夜コースだったんだ···)

げっそりとした表情には覇気がなく、目の下のクマも濃くなっている。

百瀬
「栄養剤買ってきました。あとあにぎりも」

津軽
ありがとう、モモ。でもおにぎりは食べられないかも···

サトコ
「大丈夫ですか?津軽さん」

津軽
3秒で寝落ちる自信がある···

(徹夜続きなうえに取り調べなんて、疲労感も半端ないだろうな···)

その時、津軽さんのデスクの上にドン、と紙の束が置かれた。
置いた張本人である颯馬さんは、ニコニコと笑みを浮かべている。

津軽
これは···

颯馬
今回の件についての報告書です。確認よろしくお願いします
大丈夫ですか?津軽警視

津軽
何で周介くんがそんなに元気なのか疑問しかないんだけど···

颯馬
そんな人を変わり者みたいに。これでも疲れてますよ

津軽
······

颯馬
反論する余裕もなさそうですね
その報告書、すべて読んでから銀室長に提出お願いしますね

津軽
なっ!

颯馬
ご心配なく。本日予定されていた合コンは、透と歩を派遣しますから

ぐっと言葉を飲み込むように颯馬さんを睨む津軽さん。

津軽
そもそも、この案件って石神班のはずじゃ···

颯馬
そちらもご心配なく。銀室長の了承は頂いていますので

津軽
······

2人が会話するたびに周りの温度が少しずつ下がっているような気がする。
颯馬さんはそっと視線を落とすと、津軽さんの耳元で囁くように言った。

颯馬
あんまり人をからかいすぎるから、バチが当たるんです

にっこりと微笑む颯馬さんに、津軽さんは拗ねるようにスマホを取り出す。

津軽
全く···可愛くないなぁ、周介くんは

颯馬
ふふ、照れますね

津軽
褒めてないよ

変わらず笑みを浮かべ続ける颯馬さんに、津軽さんは大きく溜息を吐き出した。

津軽
···分かった。今回は降参

津軽さんはスマホを操作すると、例の動物園での写真を目の前で全て消す。

(よ、よかった···!)

颯馬
これで全部ですか?

津軽
···あとはこの中に入ってるので全部

津軽さんに差し出されたSDカードを颯馬さんが受け取る。

颯馬
確かに

津軽
サトコちゃんを試すつもりだったのに···

(試すって、じゃあ本気で私のことを探ろうとしてるわけじゃなかったのかな···)

津軽
それなのに、ここまで周介くんが出張ってくるなんて思わなかったよ

颯馬
元教え子であり、後輩を守るのは当然の役目ですから

(颯馬さん···)

津軽
教え子に後輩、ね···

颯馬
では、今日中に報告書、お願いしますね

津軽
え、今日中なんてさっきまで一言も···

颯馬
じゃあ、よろしくお願いします

去っていく颯馬さんに押し切られながら、津軽さんはまたデスクに突っ伏す。
なぜか試合終了のゴングの音が聞こえた気がした。

【自室】

その日の夜。
すっかり疑念も消え、颯馬さんは私の家を訪れていた。

颯馬
貴女に触れる許可を頂いても?

改まって言われると、心臓は妙にうるさく響いた。

<選択してください>

聞かなくていいのに

サトコ
「わざわざ聞かなくてもいいのに···」

颯馬
こうでもしないと押さえが利かなくなりそうですから

ふっと瞳を細め、恭しく私の手を取った。

颯馬
手綱は握ってもらわないと

(颯馬さんの手綱なんて、私が握れるような気がしないけど···)

もちろん

サトコ
「もちろん、です」

(私だって、触れてほしいと思っていた···)

颯馬
そんなに期待した瞳で見られると、意地悪したくなりますね

サトコ
「!」

颯馬
まぁ今日は、そういう楽しみは置いておいて···

颯馬さんは私の手を取ると、綺麗に口元に笑みを浮かべた。

小さく頷く

(そんな聞き方されると、本当に大事にされてるって感じがして···)

ドキドキと落ち着かない鼓動に、小さく頷き返すことしかできなかった。
それを確認すると、颯馬さんの手がゆっくりと私の手を掴む。

颯馬
ありがとうございます

優しく取られた手を持ち上げられる動作から目が離せない。

颯馬さんの唇が手の甲へと押し当てられる。

(王子様みたいなキス···)

どこか夢心地でその様子を見つめてしまう。
すると、掴んでいた手をするりと撫でられ、そのくすぐったさに手が震えた。

颯馬
やっと、俺だけのサトコに触れられる

サトコ
「!」

握っていた手を引かれ、なすすべなく身体を傾ける私の唇は颯馬さんに塞がれた。
最初はただ触れ合うように、そして徐々に角度を変えながら深くなっていく。

サトコ
「ふ···ぅ、っ···」

重ね合う唇の隙間から洩れる声は甘い。
休む間もなく続くキスに、苦しさで涙が滲んだ。

(あ···)

ふと、わずかに瞼を開けば目の前に整った颯馬さんの顔がある。

(肌綺麗だな···それに···)

伏せられる瞼から伸びる睫毛が頬に長く影を落とす。
艶やかなその光景に、ドクンと心臓はまた大きな音を立てた。

(本当に睫毛長い。津軽さんと話してる時も思ったけど···)

そこまで考えて、2人の関係を怪しんでいた自分のことが可笑しくて笑みがこぼれる。

颯馬
どうしました?

サトコ
「あ、いえ、何でも」

颯馬
······

じっとこちらを見つめる颯馬さんに、思わず怯みそうになる。

颯馬
そういうことでしたら、考えがあります

サトコ
「え···」

颯馬さんの指先が怪しい手つきで私の身体を這っていく。

サトコ
「っ······ぁ」

じわじわと追い詰めるような触れ方に、もどかしさが募っていく。

(微妙に触れてほしいところを外して···)

颯馬
教えてくれる気になりました?

サトコ
「う···」

颯馬
まぁ、どうしても言いたくないならそれでもいいんですけど

そう言いながら、触れ方が変わることはない。
真綿で首を絞められるような快感に、颯馬さんの服にぎゅっとしがみついた。

(颯馬さんに隠し事なんて、やっぱり一生できないかも···)

サトコ
「津軽さんと、廊下で話しているところを見てしまって···」
「その···キリンさん、なのかと···」

颯馬
キリンさん···?

サトコ
「津軽さんと、その···そういう関係を···」
「後藤さんに聞いたら、あり得るかもとも言われて、つい···」

颯馬
後藤がそんなことを···

何を思い出しているのか、颯馬さんは薄く苦笑いを浮かべた。

サトコ
「後藤さんと何かあったんですか?」

思わず聞いてしまった一言に、颯馬さんは瞳をそっと細めながら呟く。

颯馬
···どうだと思います?

サトコ
「え···」

戸惑う私の身体を掴むと、そのまま後ろへと沿い倒される。
上から覆うように見下ろされ、陰になった彼の表情に息を詰めた。

颯馬
さて···いろんな俺を受け入れてもらいましょうか

瞬きをするだけでも表情が違って見えてくる。
まだ見ぬ颯馬さんの姿に想いを馳せながら、降ってくるキスを受け入れるのだった。

Happy End

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