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#彼が野生動物だった件 東雲1話

【自室】

ピンポーン!

サトコ
「···きた!」
「返信は···」

ーー『了解』

サトコ
「えっ、これだけ!?」

(なんで?)
(もうちょっと···もうちょっと、なんかこう···)

東雲
キミに会えないのは寂しいけど、我慢するよ

(とか···)

東雲
本当は、今すぐキミに会いたいけどね

(とか···!)
(なんなら···)

東雲
オレのこと、どうか忘れないで

(とか、言ってくれても···)

ピンポーン!

サトコ
「きた!2通目···」

ーー『1週間以内』

(??どういうこと?)

サトコ
「ええと···」
「『なにがですか?』···返信っと···」

ピンポーン!

ーー『写真回収!』
ーー『何があるの、他に』

サトコ
「ええっ!?」

(なんでバレてるの?)
(動物園の写真を撮られたこと、ひとことも言ってないよね?)

サトコ
「···っ、まさか、この部屋に監視カメラが···」

ピンポーン!

ーー『監視カメラとかないから』

サトコ
「ぎゃっ!」

(怖い!怖すぎる!)
(そんなの信じられないんですけど!)

【電車】

そんなわけで、翌日ーー

サトコ
「ふわぁ···」

(マズい···完全に寝不足だよ)
(でも、本当になかったな、監視カメラ···)

じゃあ、なぜいろいろバレていたのか。

(最初のメッセージからは何も読み取れないよね。ってことは···)
(「愛」?)
(「愛」ゆえにバレたってこと?)
(つまり、私と歩さんならではの「愛の奇跡」が起きて···)

サトコ
「ん?」

(あのキノコっぽい頭は···)

サトコ
「!!!」

(奇跡だ!また奇跡が起こったよ!)
(まさか、登庁前に会えるなんて···)
(歩さぁぁぁん!)

いつものように近づこうとして、すぐさまその場に踏みとどまった。

(ダメダメ、しばらく距離を置くんだってば)
(ああ、でも···)

サラサラの髪の毛。
丸頭のフォルム。

(ああ、歩さんだ···)
(歩さん···歩さん···)
(歩さん···っ!)

ブルッ···

(え、LIDE?)

ーー『視線がストーカーっぽい』

(またバレた!?見てるの、背中だけなのに···)
(でも、これももしかしたら「愛」があるからこそ···)

ブルッ···

ーー『で、回収方法は?』

サトコ
「うっ」

(いきなり現実が···)
(そうだ···写真回収のこと考えなきゃ)

理想は、もちろんバレないようにこっそり回収することだ。
けれども、写真がどこにあるのか、今のところ全くわかっていない。

(いっそ、津軽さんの机の上にポンと置いてあればなぁ)
(でも、そんなこと、あるはずが···)

【公安課ルーム】

(あったー!!!)
(本当に?夢じゃないよね?)

クリアファイルに入れられ、机の上に放られていた「例の写真」
しかも、津軽さんはまだ登庁していないようだ。

(よかった、これなら楽勝だよ)
(今のうちに、こっそり回収···)

サトコ
「!!!」

(い、いつの間に···)
(気配とか全然なかったんですけど!)

サトコ
「お、おはようございます」

百瀬
「······」

サトコ
「あの···そこは津軽さんの席で···」

百瀬
「知ってる」
「オマエこそ何してんだ」

(うっ、痛いところを···)

サトコ
「わ、私はいつも通り清掃をしようかなぁと思って···」

百瀬
「必要ない」
「津軽さんの席は、俺が片付ける」

サトコ
「そ、そう言わずに、今日は私が···」

百瀬
「譲らない」

サトコ
「いいじゃないですか!今日は私に···」

???
「うわぁ、俺モテモテだね」

(こ、この声は···)

津軽
···あれ?『モテモテ』って死語だったりする?

百瀬
「問題ありません」

津軽
ほんと?よかった
で、どうして俺の席で揉めているわけ?

サトコ
「べ、別に揉めていたわけでは···」

百瀬
「この女がしつこかったので」

サトコ
「しつこくはないです!私はただ『掃除をしたい』ってだけで···」

津軽
なるほどね。で···
ついでにこの写真を処分したい、と

(うっ···)

津軽
困ったなぁ、可愛い部下のお願いだし···
聞いてあげてもいいけど···

サトコ
「だったらください!」
「今すぐ、ください!」

津軽
わかった。じゃあ···
モモのこと、誘惑してみて

(えっ!?)

百瀬
「······」

津軽
そうだなぁ、今回の写真だと···
キミの元教官は『女豹』のカチューシャつけていたから···
『女豹のポーズで誘惑』とか、どうかな?

(女豹···しかも「誘惑」って···)

サトコ
「セ···」

津軽
うん?

サトコ
「それってセクハラです!!!」

【廊下】

サトコ
「ああ、もう···っ!」

(わざとだ···絶対わざと机の上に写真を置いていたんだ)
(最初から、私のことをからかうつもりで)
(しかも···)

津軽
セクハラ?面白いこと言うね
キミ、公安学校とやらで、セクシャル・エントラップメントくらい学んでこなかったの?

サトコ
『そ、それは···』

津軽
学んだよね?じゃあ、実践してみてよ
3・2・1···ハイッ

サトコ
『···ひょ···』
『女豹だひょー』

百瀬
『······』

津軽
···ハイ、チャレンジ失敗!
また来週!

(···やっぱり「女豹だひょー」はないよね)
(でも、相手が悪すぎるっていうか···)
(女性に誘惑される百瀬さんって、想像できない···)

???
「···氷川?」

(うん?)

サトコ
「あっ、お疲れさまで···」

(歩さん!!!)

後藤
どうした、氷川?瞳孔が開いているぞ

サトコ
「えっ、いえ···これは、その···」

東雲
嬉しいんじゃないですか?
久しぶりに、後藤さんに会えて

後藤
「いや、ついこの間会ったばかりだろう

(そうです!でも全然足りないんです!)
(歩さん歩さん歩さん···)
(今のうちに、歩さんをいっぱい目に焼き付けておかないと···)

東雲
それより、急がないとミーティングに遅れますよ

後藤
ああ、そうだったな

(えっ、もう行っちゃうの!?)

後藤
じゃあ、氷川。仕事頑張れよ

(待ってください!まだもうちょっとだけ···)

東雲
よろしくね『例の任務』

(うっ)

後藤
···例の任務?

東雲
気にしないでください。深い意味はありませんから
それより急ぎましょう

後藤
ああ

(···そうだ、何がなんでもあの写真を回収しないと)
(こんなのが続いたら干からびちゃうよ!)

サトコ
「こうなったら···」

【公安課ルーム】

3日後ーー

(やっと退庁時刻だ)
(準備は万端、百瀬さんは警視庁にお出かけ中)
(肝心の津軽さんは···)

津軽
······

(よし、今がチャンス!)

サトコ
「おつかれさまです」

津軽
ああ、おつかれさま。今あがるところ?

サトコ
「はい。津軽さんは残業ですよね?」

津軽
うん。やること、まだまだいっぱいあってねー

(ここからが勝負だ)
(まずは「交渉パターンA」···)

サトコ
「だったら手伝いますよ。なんでも任せてください)

津軽
うーん···でもなぁ···
キミにできそうな仕事、ゴミ回収くらいしかないからなぁ

(なんて手厳しい···)
(しかも、ゴミ箱ほとんど空っぽだし)

津軽
ってことだから、今日はもう帰っていいよ。おつかれさまー

(···交渉不成立)
(でも、これくらい想定内!)

サトコ
「わかりました。では、こちらを」

「交渉パターンB」として、私は隠し持っていた紙袋を差し出した。

津軽
あれ?この缶ジュース···

サトコ
「沖縄で有名な『玄米ドリンク』です」
「最近、よく飲まれているようでしたので」

津軽
そうなんだよ!
前に、透くんが出張土産で買ってきてくれたんだけどさ
中身のドロドロ感が面白くて、ハマっちゃってねー
みんなは『甘すぎて無理』っていうんだけど

(確かに···)
(私も、1本飲み切るのに半日かかったっけ)

津軽
いいの?本当にもらっても

サトコ
「もちろんです」
「いろいろな種類を用意しましたので、残業のおともにどうぞ」

津軽
ありがとう。これは高評価だなぁ!
あの『女豹だひょー』に比べれば

(ぐっ···)

津軽
···で、本当の目的は?
もしかして、コレ?

津軽さんは『例の写真』が入ったクリアファイルをヒラヒラ揺らした。

津軽
どうしよう~どうしよっかな~
これ、ジュース6本以上の価値があると思ってるんだけどな~

サトコ
「!」

(まさか「Bパターン」も失敗?)

津軽
でも、目の付け所としては悪くないんだよね
『玄米ドリンク』のことも、モモ以外、気付いてないと思っていたし

(じゃあ···)

津軽
いいよ、あげる。おつかれさま

(やったー!交渉成立!!)

サトコ
「ありがとうございます!確かに頂きました!」
「それでは、お先に失礼します!」

津軽
うん、おつかれさま

【廊下】

(やりました、歩さん!)
(氷川は、これで歩さんに会いに行けます!)
(ていうか、今すぐ会いに行きたいです!!!)

津軽
···やれやれ
バカな子だな

敷地内を出るなり、私はスマホを手に取った。

(歩さん、今日はお休みだったよね)
(だったら、家にいる確率が高いはず···)

プルルル···
プルルル···

(···あれ、出ない?)

プルルル···
プルルル···
プツッ

(あ、出た!)

アナウンス
『こちらは留守番電話サービスです。おかけになった番号は···』

(なんだ、留守電か)
(とりあえず、メッセージだけ残しておこう)

サトコ
「氷川です。今、帰宅するところです」
「また電話します」

けれども、そのあとも···

プルルル···
プルルル···

(うーん···まだ出ない···)

サトコ
「氷川です。今、駅のホームにいます」

プルルル···
プルルル···

サトコ
「氷川です。歩さんの家の近くにいます」

プルルル···
プルルル···

(···また留守電かな)
(せっかく、マンションのエントランスまで来たのに···)

プツッ···

(出た!)

東雲
はい···

サトコ
「氷川です!今、歩さんのマンションの下にいます!」

東雲
怖っ···マンションの下って···
なんなの、キミ
そのうち、オレの背後に立つつもりなの?

サトコ
「立ちません!心霊現象じゃありません!」

(そりゃ、立てるなら、今すぐ立ちたいくらいだけど···)

東雲
で、用件は?

(そうだった!)

サトコ
「『例の写真』、本日無事に回収しました!」

東雲
······

(···あれ、反応がない?)

サトコ
「あの···歩さん?」

東雲
回収方法は?

サトコ
「物々交換です!」
「津軽さんが、最近ハマっている飲み物を取り寄せたので」
「それと交換しました!」

東雲
······

(あれ、また反応が···)

サトコ
「あの···もしもし?」

東雲
······

サトコ
「歩さん?何か気になることでも···」

東雲
もう少し詳しく話して
まず、写真はどこにあったの?

サトコ
「津軽さんの席です」
「最初は机の上に置いてあって『楽勝』って思ったんですけど」
「百瀬さんに邪魔されてしまって···」

(ああ、なんだか公安学校に戻ったみたい···)
(あの頃は、よくこんなふうに歩さんに報告していたなぁ)

サトコ
「···というわけで、こちらの報告は以上です」

東雲
そう···

歩さんはしばし黙り込んだ後、ぼそりと口を開いた。

東雲
バックアッ···
ゲホ···ッ

(うん?)

東雲
···ごめん。「バックアップ」は?

(バックアップ?)

東雲
例の写真の
デジタルデータとしてバックアップを取っている可能性は?

(デジタルデータ···まさか···)

サトコ
「すみません、それについては未確認で···」

東雲
探って
じゃないと、解決したとは言えない

(ええっ)

東雲
どう考えてもおかしい
あの人が、そんなにあっさり交渉に応じるとは思えない

(うっ、じゃあ···)

サトコ
「今日、会うことは···」

東雲
······

サトコ
「私、今エントランスにいて···」
「チラッと···5分だけでも会ってお喋りすることは···」

東雲
無理

サトコ
「!」

東雲
会いたいなら、早く解決して
それじゃ···

サトコ
「待ってください!教か···」
「じゃなくて、歩さん···っ!」

ツーツーツー

(···断られちゃった)
(せっかくここまで来たのに)

【電車】

(会いたかったなぁ···)
(会って、ハグしてもらいたかったなぁ)

思えば、かれこれ2週間くらい歩さんに触れていない。
先日、ようやくそろった休日も、動物園のアレコレで潰れてしまったのだ。

サトコ
「はぁぁ···」

(こんなに悶々としているの、私だけなのかな)
(だとしたら、ちょっと寂しい···)

プルル···

(メール!?歩さんから!?)

慌ててスマホのメールソフトを立ち上げる。
けれども、そこに表示されていたのは···

(なんだ、津軽さんか···)
(仕事のメールかな)
(ついに、私にも新しい任務を任せてくれるとか···)

サトコ
「···うん?『津軽サンからのワンポイント情報』?」

ーー『知ってた?サトコちゃん』
ーー『ネコ科の動物って気まぐれだから、構ってくれないと、すぐどこかに行っちゃうんだって』
ーー『豹って、たしかネコ科だったよね?』

サトコ
「!!」

(なんで今、このメールが!?)
(まさか尾行されていた?)
(でも、そんな気配は全然なかったはず···)

ーー『ちなみに、今日渡した写真はデータでも保存しているよ』
ーー『保存場所は、職場の俺のPCの中。頑張って探し出してね☆』

(うそーっ!)
(怖い···いろいろ怖すぎるんですけど···)
(津軽さんのメールはタイムリーすぎるし、歩さんの推測は当たっているし···)
(ていうか、明らかに私、目をつけられているよね?)

サトコ
「こんなの、歩さんにバレたら···」

東雲
え、無理。オレ、異動したくないし
このまま付き合い続けるとか、あり得なんだけど
ってことで、キミとはもうお別れ···

サトコ
「イヤーー!」
「絶対イヤーー!」

(こうなったら、ひとりで解決しないと)

ポイントサイトのポイントインカム

【マンション】

(でも、どうすれば···)

サトコ
「···うん?」

郵便受けを開けると、なぜかコンビニの袋が入っていた。

(なんだろう、これ···ゼリー飲料っぽいけど···)
(「幻のピーチネクターゼリー」!?)

慌てて袋の中を確認したけれど、送り主からのメッセージは特にない。
だからこそ、思い当たる人物はひとりしかいなかった。

サトコ
「歩さんだ···」

(歩さんが、わざわざこれを···)

私は、スマホを取り出すと、すぐにLIDEのアイコンをタップした。

<選択してください>

好きです

サトコ
「『好きです』···送信···」

(···待って。これじゃ、物足りないよ)
(今の私の気持ちは、こんなものじゃなくて···)

サトコ
「『大好きです』···まだ足りないな···」
「『大大大好きです』···もう一声···」
「『大大大大大』···」

ピッ!

サトコ
「あ、送信しちゃった」

プルルッ!

ーー『なに今の。嫌がらせ?』

サトコ
「違っ、そうじゃなくて···」
「早く送り直さないと···」

ありがとうございます

サトコ
「『ありがとうございます』···送信っと···」

ブルルッ!

(あ、もう返事が···)

ーー『なんのこと?』

(また、歩さんってばとぼけちゃって···)

サトコ
「『うちのポスト確認しました。嬉しかったです』···送信っと···」

ブルルッ

(きた!お返事···)

ーー『俺、氷川の家知らないんだけど···』

(知らない?どうして···)

サトコ
「ああっ!」

(千葉さんに送ってた!!)

オレンジゼリーの方が···

サトコ
「『オレンジゼリーの方が良かったです』···送信···」

ブルルッ

(えっ、もう返事が···)

ーー『ブロックしました』

サトコ
「待って、歩さん!」
「冗談···冗談ですってば···!」

ともあれ、思いがけない差し入れは、私をちょっぴり元気にした。

(頑張ろう···頑張って、解決して···)
(今度こそ、胸を張って、歩さんに会いに行くんだ!)

to be continued

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