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カレが妬くと大変なことになりまs(略:黒澤カレ目線

【教官室】

加賀
オイ

黒澤
はいっ★

(うーん、やっぱりオレは時々、この人が職業を間違えたんじゃないか)
(···と思わなくもない)

陽気にスキップしつつ、加賀さんへと歩み寄る。
それを確認しているのかいないのか、ぶっきらぼうに質問は始まった。

加賀
次に都内である花火大会の話は知ってんだろ

呼びつけられたかと思ったら、予想していたよりも可愛い単語が出てくる。

黒澤
ポスターもよく貼ってますし、知ってますよ?

加賀
お前は警備に駆り出されないらしいじゃねーか

黒澤
そうみたいですね!たまには休めって天のお告げでしょうか?

(これはとても嫌な予感がするって、心の中のもう1人の透くんが言ってる)

そして、そういう勘は大体当たってしまうのだ。

加賀
花火大会当日、お前場所取りして来い

黒澤
え!?加賀さん、花火大会とか興味あったんですか!?

加賀
あったら何かまずいのか?

ギロッと射殺されそうな視線で睨まれる。

黒澤
そんなこと全然思ってないですよ
加賀さんと花火、並んだらものすごく絵になりそうじゃないですか!

加賀
俺じゃねぇ

黒澤
と、言いますと?

加賀
あいつが見たいんだと

黒澤
あいつ···

それを呟く時だけはどこか優しい声音に、それが誰だかすぐに見当がついた。

(なるほど、花ちゃんに頼まれたら加賀さんも断れないのか···)

加賀
返事は

それが『イエス』以外の返答を許さないことを知っていた。

(花ちゃんの可愛さはオレも知ってるし···あの子が喜ぶためなら···)

黒澤
この黒澤透、加賀さんの手となり足となりましょう!

ビシッと敬礼までしてみせると、加賀さんはふん、と鼻を鳴らす。

(···とは言ったものの、花火大会当日に場所取りか)

加賀
無ぇとは思うが、もしやらかしたら···
ここで真っ赤な花を咲かせてやるよ

黒澤
うわぁ···夜じゃなくても見られそうですね

随分と不穏な言葉を残していく加賀さん。
失敗したらおそらく自分の命がないことを悟る。

(でも、見たかったなぁ、サトコさんの浴衣姿···)

彼女の予定をまだ確認してはいないが、休みなら誘おうと思っていた。
霧散していく浴衣デートの自分の妄想が切ない。

(彼女はどんな浴衣が似合うかな···)
(髪型もアップにしたりして、簪でまとめてるっていうのも···)

その時、ふと視線に気付いてそちらを見遣る。
そこには目の前で汚物でも見るような視線を向ける歩さんがいた。

東雲
キモッ···

黒澤
心からの率直な否定の言葉いただきました★

東雲
頼むから口開かないで



【カフェテラス】

加賀さんからの頼み、というか命令で花火大会当日は予定が入ってしまった。
彼女から送られてきた同日の予定を聞くメールを確認して息をつく。

(何となくサトコさんに返信できずにいたけど···)
(こうやってずっと返さない方が迷惑だよなぁ)

そんなことを思いながら覗いた食堂には、タイミングよく彼女がいた。

(室長と何一緒にしゃべってるんだろう?)

何やら楽しそうに会話する2人。
室長とサトコさんの共通項が見つからず、不思議に思いながらも足を向けた。

黒澤
どうしたんですか~?2人で楽しそうに

オレの顔を見た瞬間、どこか表情を緊張させる彼女に違和感を感じる。

(これは何か隠そうとしてる···?)

そう思うと、何が何でも聞きだしてみたくなった。

(でも、こういう時のサトコさんって妙に頑ななんだよな···)

サトコ
「黒澤さんの気にするような秘密なんてないです」

きっぱりと言い切る彼女。
それでも『秘密』という言葉を頬を赤らめて呟く様子は可愛いと思った。

(これはもしや、花火大会に誘おうとしてくれてる···とか?)

自分に都合のいい予想だとはもちろん思う。
なんとなくそんな当たりをつけながら話していると、突然室長が笑った。

難波
若いっていいな

(え、室長その表情は一体···)

そう零した室長は、やけに優しい視線でサトコさんを見つめている。

(まるで大切な恋人を見守るがごとくの眼差しに)
(包み込むようなとびっきりの優しい笑顔って···!)

難波
じゃ、午後の講義も頑張れよ。氷川

(そして去り際に労いの言葉!)

心の中の要注意人物リストのページを捲る。

(室長、要注意···サブ、と)

しっかりとメモに書き残す。
新たな人物がページに載った瞬間だった。



それから数日後、校内にいないらしい彼女を待っていた。
手から下げたコンビニ袋に視線を落としながら、よしよしと頷く。

(サトコさんが気に入っている新作スイーツもゲットできたし)
(あとは返信が返ってくればいいんだけど)

食堂で会ったあの日から、たまに見かける彼女はどこか元気がなかった。

(その原因が花火大会に一緒に行けなかったから)
(っていうのは、自意識過剰?)

理由は何であれ、甘いものを食べて彼女の気持ちが少しでも前向きになればいい。

(ついでに少しでも一緒に居られたらな、なんて)

しかし、夕方に送ったメールは未だ返信がなかった。

(講義はとっくに終わってるはず、今日は任務だとも聞いてないし)
(何かあった、なんて考えるのはさすがに行きすぎか···)

その時、車のヘッドライトが遠くからやってくるのが見える。

(あの車、見覚えが···)

目を凝らすと、やはりそれは室長の車だった。

(どうしてこんな時間に室長が?)

不思議に思いながら見つめていると、助手席から降りてくる人影に息を呑む。

黒澤
なんで···?

しかも運転席に向かって何かしゃべっている彼女は、妙に嬉しそうだった。
再び心のメモが開き、要注意人物リスト・室長のところに大きく印を入れる。

(サブなんてとんでもなかった···)
(四十路の色気を甘く見てたかもしれない)

サトコ
「透くん?」

黒澤

ふいに呼びかけられ、気付けばすぐ近くにサトコさんがいた。

(ここで変に気取られても、何のメリットもない···)

黒澤
えーっと···メッセージ見ました?

出来るだけ笑顔で自然に。
そう思っても、目元だけは笑えていないような気が自分でもしていた。

(どうして室長の車に?今まで2人でどこに?)
(何であんなに嬉しそうな表情を向けていた?)

疑問が次々と湧いてきて、言葉にしようとするだけで苦しくなる。

黒澤
こんな時間まで、あの人と何してたんですか?

サトコ
「ちょっと、任務の後処理のお付き合いに···」

さっきまで室長に向けていた顔よりも沈んだその表情。

(そんな顔をさせるためにここに来たわけじゃなかったんだけど)

黒澤
···そうですか

それが精一杯返せる言葉だった。
押し付けるように袋を差し出して、矢継ぎ早に言葉を紡ぐ。

黒澤
明日も早いし、今日はもう帰ります
おやすみなさい

彼女に背を向ければ、振り返ることはできなかった。
何となく彼女が引き留めようとしている雰囲気も伝わってきて、
余計に今振り向いてはいけないと分かってしまった。

(何をやっているんだろう)

そんな言葉が真っ先に浮かんだ。
先程までも軽くなった手荷物。
それなのに、ぎこちなく進む足だけはやけに重く感じた。

【学校廊下】

黒澤
どうしてこんなに何も出てこないんですかね

自分が持ちうる様々な手段で、ここ最近のサトコさんと室長について調べていた。
それなのに、これっぽっちも情報が出てこない。

(あの日、2人がどこに行ったとか、何してたとかも)
(交通データとか見ればいろいろ分かりそうなもんなのに···)

まるであの日の自分が見た出来事の方が幻だったのでは、と思うほどに実態がない。

(ただ、得た情報もある···)

唯一得た情報。
それが、サトコさんが室長の選んだ浴衣を着るということだった。

(本当に断片的な情報をつなぎ合わせて出てきた答えがそれって···)
(むしろそっちが幻であってほしい···)

とにかく、浴衣を着るとしたらいつなのかということを考えなければならない。

(でも、そうなるとやっぱり1番可能性が高いのは···)
(あの花火大会の日)

他に近日中に浴衣を着て行くようなイベントはないはずだった。
それに、このタイミングで浴衣の話題が出たら十中八九それに違いない。

(駅前で待ち伏せていればあるいは···)

その時の自分はすっかり忘れていた。
なぜその日、彼女と一緒に浴衣デートが出来なくなっていたのかを···ーー

【黒澤マンション】

半ば無理やりタクシーに乗せ、自分の家へと連れ帰ってきた。

(改めて正面から見ても、可愛い···)

これ以上可愛い彼女の姿を誰かに見せたくない。
しかも、他の男が選んだ服が似合って可愛いなんて、
衝動のまま自分の胸を掻きむしってしまいそうなほどだった。

(でも、唯一得た情報も間違ってたなんて···)

サトコ
「私は、透くんのことは裏切らない」

誤解なのだと、信じてほしい、と彼女は言う。

(確かに、そういう言葉は何度も言われてきた···)
(でも、こんなにそれを信じたいと思ったのは初めてかもしれない)

黒澤
あー、もう···
そうやって、オレをサトコさんから離れられなくするんだ

サトコ
「え、そこまでのことを言ったつもりじゃ···」

黒澤
ずるいずるいずるい!

こうでもして声を出さないと堪らなくなりそうだった。

(でも、誤解が解けてスッキリ···とはならないんだな、これが)

せっかく可愛く着飾った彼女を家まで連れ込めた。
それならば、やっぱり彼女を独り占めしてしまわなければ、この気持ちは晴れない。

黒澤
サトコさん···

名前を呼べば、素直に応じてくれる。
そんな彼女にぞくっと背筋を走っていくのものを感じながら、頬に手を添えた。

(いや、そもそも最初からデートの約束が出来ていればこんな···)

そこまで考えて、はたと動きが止まる。
視界の端でチカチカと点滅する自分の携帯を見てさっと血の気が引いた。

黒澤
!あー!

サトコ
「!?」

黒澤
か、加賀さんに殺される!

室長とサトコさんについて調べているときはすっかりと忘れていた。
それでも、翌日に加賀さんの姿を見て一度は思い出したのに。

(サトコさんの浴衣姿を見たら、それ以外のことが飛んでしまって···)
(タクシー乗るときなんて、ほとんど勢いだったし···)

サトコ
「ど、どうするんですか?」

黒澤
どうしましょう★

自分の命は今、風前の灯火だった。
サトコさんの目が、すでに死者を憐れむような眼になっている気がする。

黒澤
サトコさん、お願いしてもいいですか?

サトコ
「お願い···とは?」

黒澤
そんな警戒しないでくださいよ
オレの代わりに加賀さんに謝ってきて、なんて言いませんから

その状況を想像したのか、サトコさんはひゅっと息を呑んだ。

黒澤
そうじゃなくて
命もあと僅かのオレに、キスしてくれませんか?

サトコ
「え···」

黒澤
これが最後の逢瀬になるかもしれませんし

サトコ
「大げさです、けど···」
「じゃあ···目、閉じてください」

黒澤

彼女はオレの身体に手を添えると、背伸びをするように顔を寄せた。
鼻腔をくすぐる彼女の香りに、触れ合う感触はとても優しい。

(こういう思い切りの良さ、好きだなぁ)

わずかに瞳を開けてみる。
それを見つめていた彼女がびくっと身体を震わせ、離れようと腕を突っ張った。

(それくらいの力じゃ離せないよ)

身体を抱き込むように腕を回し、逃れようとした唇に自分のそれを重ねる。

サトコ
「ん···っ」
「目、閉じてって、言ったじゃないですか···」

非難っぽくこちらを見つめる瞳は、わずかに潤んで説得力がない。

黒澤
自分からキスしてくれる可愛い姿を見ないなんて、損じゃないですか
それに、閉じるなんて一言も言ってないですし

サトコ
「···!」

黒澤
今はもう少しだけ、サトコさんのこと独占させてください

そっと顔を寄せていけば、一瞬躊躇いを見せつつも受け入れてくれる。
突っ張っていた手は、今やオレの服をきゅっと掴んでいた。

(明日には海のもくずになってるかもしれないし)
(今はこれくらいのキス、もらっておいてもいいよな)

徐々に甘く溶け合っていくキスに、夢中になる。
そのことしか考えられなくなりそうになる手前で、加賀さんの顔が過った。

(さて、どうやって切り抜けよう)

そんなことに思考を巡らせそうになる。

サトコ
「······ぁ」

その時、甘く鼻にかかるような彼女の声が漏れた。
自分の腕の中で、じわじわと熱を帯びていく様子に思考は引き戻される。

(やっぱり今は、彼女だけを堪能しないと勿体ない)

後で考える、なんて言い訳じみたことを胸の内で呟いて、
彼女の肌へと指を滑らせたのだった。

Happy End

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