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カレが妬くと大変なことになりまs(略:後藤1話

【公安課ルーム】

ある日の公安課の昼下がり。

石神
船上パーティーに同伴してくれないか?

サトコ
「え···」

突然、石神さんから掛けられた言葉。

(私に言ってる···?)

左右、後ろを見ても誰もいない。

石神
お前の他に誰がいる

サトコ
「ええと、私が石神さんとパーティーに···ですか?」

事態がつかめないという顔をすると、石神さんは軽く眼鏡を押し上げた。

石神
警察関係の催し物だ。捜査ばかりが俺たちの仕事ではないのは、お前も分かっているだろう

サトコ
「はい」

(警察もキャリアクラスになれば、政治家や各省庁との関係を意識しなければいけないって···)
(石神さんクラスになれば、大変なんだろうな)

石神
今回は同伴者が必要だ。津軽には許可を取ってある。頼まれてくれるか

サトコ
「石神さんさえよければ、私は構いません。でも、本当に私でいいんですか?」
「他にも莉子さんとか···」

石神
木下?あいつを同伴させることに、どれほどのリスクがあるか、わかってないのか

眉間にシワを寄せる石神さんに、ここは頷いて答える他ない。

(偉い人にも、遠慮なさそうだからな···それが莉子さんのいいところだと思うけど)

石神
決まりということでいいな

サトコ
「分かりました。お力になれるよう頑張ります!」

警察関係のパーティーに上官と共に出席するのは、仕事の一環と言えるだろう。
誠二さんに相談するようなことでもないと、この場で引き受ける。

サトコ
「それで、そのパーティーはいつですか?」

石神
今夜だ

サトコ
「今夜!?」

もっと早く言ってくださいよ!--というツッコミは階級の壁の前に消えていく。

石神
では、行くぞ

サトコ
「まだお昼ですけど、そんなに遠くでやるんですか?」

石神
行き先は会場ではない。その格好で出席するつもりか

サトコ
「あ···!どうしましょう!パーティー用のドレスなんて、私···」

???
「フフフ、お困りのサトコデレラ。泣かなくていいんだよ」

後ろから芝居がかった声が聞こえ、振り返るとそこに立っているのは···

黒澤
魔法使いの黒澤が、サトコデレラを素敵なお姫様にしてあげますからね☆

石神
黒澤がレンタルドレスを手配した。これから合わせに行く

黒澤
ああ、そんな夢のない言い方しちゃダメですよ~
石神さん好みのドレスを手配して···ふごっ

石神
······

(石神さんの手が思いっきり黒澤さんの口を塞いでる···)
(これは加賀さんのアイアンクローに匹敵する技では!?)

石神
行くぞ、氷川

サトコ
「はい!」

黒澤
ううう···

口元を押さえてうずくまる黒澤さんに合掌して、公安課を出る石神さんの後を追った。

サトコ
「これが、黒澤さんがレンタルしてくれたドレス···」

石神
サイズは問題ないようだな

サトコ
「はい」

シンプルなロングドレスだけれど、いささか開いた胸元が気になる。

サトコ
「···石神さん、結構セクシーな服が好みなんですか?」

石神
···黒澤が言ったことを本気にしているのか

眼鏡越しの鋭い視線に、私は小さく首を振った。

(やっぱり黒澤さんの冗談だよね)

石神
手続きを済ませてくる。そこで待っていろ

受付に向かう石神さんに、私は携帯を取り出した。

(一応、誠二さんに連絡しておこうかな)

『今夜、警察関係の船上パーティーに石神さんと出席することになりました』--と送ると、
返事はすぐに帰ってきた。

後藤
『そうか。じゃあ、あとでな』

(『あとで』って···パーティーの後でってこと?)

今夜会えるのか、聞こうとすると···石神さんが戻ってきてしまった。

石神
行くぞ

サトコ
「はい!」

結局、パーティー後のことは確認できず、石神さんと共に会場へと向かったのだった。

【パーティー会場】

警察関係の船上パーティーーーそれは、私が想像するよりもかなり華やかなものだった。

サトコ
「もっと堅い雰囲気かと思ってました」

石神
「雰囲気に騙されるな。所詮、腹の探り合いの場だ」

サトコ
「石神さんも、誰かの腹を探るために?」

石神
欠席で探られないため···だ

サトコ
「なるほど···」

石神さんの隣をそろそろと歩いていると、一際華やいだところを見つける。

(一柳さん!パーティーが様になる人だなぁ)

会場を見れば、桂木班の方々の姿も見える。

(桂木班の皆さんは警備の仕事中という可能性も···)

ぐっと大きく会場内を見回すと、細すぎるヒールがグラリと揺れた。

サトコ
「あ···!」

???
「大丈夫か?」

サトコ
「え?」

ぐらついた身体を支えてくれた腕。
上から降ってきた声は、それだけで胸が温かくなるような馴染んだもの。

サトコ
「せ···後藤さん!?」

後藤
転ばなくてよかったな

振り返ると、そこには誠二さんが立っていた。
いや、誠二さんだけではないーー

(向こうにいるのは加賀さん!?···ものすごく綺麗な女の人を連れてる!)
(それに···)

東雲さんに黒澤さん、颯馬さん···馴染みの顔があり、皆なんだかんだと女性を連れていた。

(ということは、誠二さんの同伴者は!?)
(誠二さんも参加するって分かってたら、私が一緒に行きたかった···!)

後藤
どうした?探し物か?

サトコ
「いえ、その···」

石神
同伴者が必要とされるのは、警視以上の階級のみだ

サトコ
「そ、そうなんですか?」

ほっとするのも束の間、石神さんに思考を読まれていることに気が付く。

サトコ
「じゃあ、後藤さんはひとりで?」

後藤
ああ。必要ないなら、わざわざ連れてくることもない
···ーー

誠二さんの唇が何かを付け加えるように動く。

サトコ
「え?」

後藤
いや、何でもない

石神
後藤は参加するだけで上出来だ

後藤
早々に帰りたい気持ちでいっぱいですよ。俺には合いません

石神
俺が挨拶回りを終える頃まで堪えろ

後藤
はい

石神
それから氷川

サトコ
「はい」

石神
俺が挨拶回りを終えるまでは、ボロを出すな

サトコ
「ボ、ボロ···」

東雲
ぷっ、 “馬子にも衣裳” にもなれてない

加賀
クソ眼鏡には似合いの相手だ

黒澤
どうか0時までは魔法が保ちますように···

(皆さん、いつの間に近くまで!?)

石神
とにかく、目立たず愛想笑いを浮かべていろ

サトコ
「はい···」

石神さんは私を料理のテーブルまで連れて行くと、挨拶回りに出向く。

(これは大人しく食べて待っていろと言うこと···)
(まあ、料理はご馳走だし遠慮なくいただいておこう)

誠二さんも皆さんも忙しいのか、知らぬ間に人ごみに消えている。
食べていれば笑顔にもなれると、和牛のローストビーフを頬張っていると···

警察官僚A
「君、なかなかいい食べっぷりだね」

警察官僚B
「うむうむ、若い子はそれくらい食べなくちゃいかん」

左右にやってきたのは、見るからに階級の高そうな壮年の男性。

(ボロを出しちゃいけない!)

サトコ
「あ、ありがとうございます。どのお料理も本当に美味しくて···」

警察官僚A
「はは。いっぱい食べなさい」

警察官僚B
「まだまだ育つんじゃないかね?」

サトコ
「!」

笑い声と共に、お尻やら肩やらを左右から撫でられる。

(こ、これはセクハラ!だけど、ここで騒いだら石神さんの立場が···)

震える拳をお皿で隠し、ぐっと堪えればーー

後藤
氷川、いいか?

サトコ
「後藤さん!?」

左右から伸びている手を断つように真後ろに立ったのは誠二さんだった。

後藤
すみません、仕事の話で。失礼します

警察官僚A
「あ、ああ」

そのまま誠二さんは私をセクハラ官僚の壁から救い出してくれる。
軽く背中に手を添え、避難した先は目立たない会場の隅。

後藤
···そんな恰好をしているからだ

サトコ
「え!」

後藤
あ、いや···悪い、間違いだ。セクハラしてくる連中が一番悪い
ただ···

誠二さんが、じっと私を見下ろす。

後藤
······

サトコ
「······」
「あの···変ですか?私がドレスなんて···」

後藤
似合ってる。···そんなドレスも持ってるんだな

サトコ
「はは、自前じゃないですよ。レンタルなんです」
「今夜のために、黒澤さんが手配してくれて。石神さんの好みだなんて言うんですけど」

後藤
石神さんの好み?

その瞳が軽く見張られ、私は苦笑を返す。

サトコ
「いつもの黒澤さんの冗談ですよ。今日の私はお飾りですから」

後藤
······

サトコ
「結構、地味なお飾りですけど」

後藤
そんなことはない
······

乾いた笑いを漏らす私とは対照的に誠二さんは難しい顔のままだった。

(これはもしかして···何も言わずに石神さんの同伴者になったことを怒ってる···?)

サトコ
「ええと、その···これも仕事の一環だと思ったので!」
「私も最初は莉子さんとかどうですかって勧めたんですけど、そっちの方が大変になると···」
「ほんと、私はボロさえ出さなければいい要員で···」

後藤
なんだ。そのボロさえ出さなければいい要員って

慌てて言葉を重ねる私に、誠二さんが軽く噴き出した。

後藤
仕事だというのは分かってる。警視以上の階級は同伴者が必須らしいからな

サトコ
「私も石神さんからそう聞いて···でも、それ以下の階級でも同伴者OKなんですね」
「だったら、私も誠二さんと行きたかったな···なんて···」

本音と冗談を混ぜながら話すと、強い目で見つめられる。

後藤
なら、今から俺の同伴者になるか?

サトコ
「え!?」

(それができるなら、私だって嬉しいけど。そんなことをしたら石神さんが···)

後藤
冗談だ

サトコ
「なんだ···本気で悩んじゃいましたよ」

後藤
他の誰かならともかく、石神さんなら···

誠二さんの表情が和らぎ始めた、その時だった。

石神
ここに居たのか、氷川

サトコ
「あ、すみません。勝手に移動してしまって」

後藤
目に余ることがあったので、こっちに連れてきました

誠二さんが視線を流した先にいるのは、先ほどのセクハラ警察官僚の二人。

石神
···そうか

具体的なことを言わずとも、人を見ただけで石神さんは事態を察したようだった。

(それだけでわかるほど、セクハラで有名なのか、誠二さんと石神さんがツーカーなだけなのか···)

石神
手間を掛けたな

後藤
いえ。氷川は···
······

石神
氷川が、何だ?

後藤
···なんでもありません

歯切れ悪く、誠二さんが言葉を切る。

(今日の誠二さん、何だかいつにも増して言いたいことを飲み込んでいるような?)

石神
氷川、これからダンスタイムが始まる

サトコ
「そんなのあるんですか!?」

石神
このための同伴者だ。行くぞ

スッと伸びてきた石神さんの手が、私の腰に回される。

(誠二さんの前で···)

後藤
······

歩き出す瞬間に誠二さんの顔をチラリと見ると、その表情に大きな変化はない。

(よかった···そうだよね。仕事だって分かってるって言ってたし)
(石神さん相手に妬くわけもないよね)

ほっと胸を撫で下ろしながら、ダンスの輪に入る。
スローテンポな音楽が流れ、会場の証明もやや落ちた気がした。

サトコ
「石神さん、ダンス踊れるんですか?」

石神
こういう時に困らないくらいにはな
お前は···聞くまでもなさそうだ

サトコ
「面目ありません···」

(パーティーでダンスするような生活送って来てなかったんだから···!)

石神さんが何とかリードしてくれるものの、慣れないヒールもあってひょこひょこしか動けない。

石神
あと少しだ。何とか、それらしく見せろ

サトコ
「が、頑張ります!」

見よう見まねで動いていると、石神さんの肩越しに誠二さんの姿が見えた。
薄暗い中でも、こちらを見ているのがわかる。

(誠二さんとのダンスだったら、どんな感じなんだろう?)

添える程度に触れている石神さんの手。
誠二さんだったら、もっと強く握ってくれただろうかと思いながら、ターンすると。

津軽
あ、ウサちゃん

サトコ
「津軽さん!?」

同じくダンスを踊っている津軽さんとすれ違った。

(津軽さんのお相手は···)

チラッと見ると、そこには艶やかに熟れるも熟れたる女性の姿。
踊る度に大きく開いたドレスの胸が揺れている。

(あ、ああいうのが好みなんだ···?)

相手の女性の迫力に目を奪われていると、ムギュッと足が何かを踏んだ。

石神
氷川

サトコ
「す、すすす、すみません!」

思い切り踏んでしまったようで、石神さんの眉間にシワが寄る。
激しく謝りながら、視界から誠二さんの姿が消えたことが気になっていた。

to be continued

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