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カレが妬くと大変なことになりまs(略:颯馬1話



【颯馬マンション】

サトコ
「ん~···」

颯馬
お目覚めですか?

うつろな意識の中、何となく視線を感じて目を開けると、颯馬さんが横で微笑んでいた。

サトコ
「···おはようございます」

颯馬
おはよう

そっと囁くように言いながら、おでこに優しいキスを落としてくれる。

(颯馬さんも寝起きのはずなのに、なんて綺麗な顔なんだろう···)

間近で微笑む顔を、ジッと見てしまう。
髪を切って精悍さが増したものの、優美で柔らかな雰囲気は変わらない。

(こんな素敵な人が私の彼氏なんだなぁ···)

未だに目覚めるたびに信じられない気持ちになる。

颯馬
このままこうしていたいですね

サトコ
「はい···でももう起きないと」

颯馬
では、あと10秒だけ

サトコ
「あっ」

颯馬
10、9、8、7···

ギュッと抱き締められ、耳元で甘くカウントダウンされる。

颯馬
3、2···

サトコ
「っ!」

『1』と同時にキスをすると、颯馬さんは布団を剥いで私を抱き上げた。

颯馬
さあ、出かける準備をしましょうか

サトコ
「···はい」

朝からいきなりお姫様抱っこされ、すっかり目が覚めた。

颯馬
では気を付けて

朝食と身支度を済ませ、先に出る私を颯馬さんがエプロン姿で見送ってくれる。

(時間差登庁は寂しいけど、2人の関係がバレたら大変だし)

サトコ
「じゃあ、先に行きますね」

颯馬
いってらっしゃい

(頬にキス···新婚さんみたいだなぁ)

思うわず照れてしまうと、颯馬さんはフッと頬を緩めた。

颯馬
庁内でそんな顔しては駄目ですよ

サトコ
「···気を付けます」

颯馬
あぁ、今夜は私が貴女の家に行きますから

サトコ
「はい」

(とは言ったものの···部屋、ちゃんと片付けてたっけ?)
(見られて恥ずかしくない程度ならいいんだけど···)

颯馬
···

サトコ
「?」

自宅の状況を心配していると、不意に抱き寄せられた。
そのまま颯馬さんは私の髪に顔を埋め、ククッと笑いを堪えるように小さく声を漏らす。

(···もしかして、気付かれた?)

颯馬
何も心配いりませんよ

(やっぱり気付かれてる!)
(本当に颯馬さんには敵わないな)

サトコ
「じゃあ···行ってきます」

観念するように笑顔を見せ、一足先に颯馬さんの家を出た。

【公安課ルーム】

サトコ
「おはようございます」

津軽
おは······ん?

公安課に着くと、挨拶を返そうとした津軽さんがわずかに片眉を上げた。

津軽
シャンプー変えた?

サトコ
「え?」

津軽
いつものフラワー系と違って、グリーン系の爽やかな香りだね

(すご···津軽さん、臭気判定士の資格持ってるとか!?)
(というより別にシャンプーなんて変えて···あっ、昨夜は颯馬さんの家でお風呂に入ったんだった···!)

思い出した途端、カッと顔が熱くなる。

津軽
昨日はお家に帰らなかったのかな?

(うっ、図星です···)

東雲
うわー、ベタ

近くにいた東雲さんが、思い切り白い目を向けてくる。

(こういうとこ絶対見逃さないよね、東雲さんって···)

サトコ
「そんなんじゃないです、ちょっとした気分転換です!」

津軽
ふーん

東雲
へー

黒澤
ホー

(なっ、フクロウ3兄弟!?)
(うぅ、黒澤さんにまでからかれるなんて···!)

逃げるように自席へ向かおうとするとーー

東雲
ちょっと待って

サトコ
「まだ何か···」

東雲
キミにお願いしたいことがあるんだけど

サトコ
「···何ですか?」

東雲
これに出席して

サトコ
「?」

突き出された紙を見る。

サトコ
「『公安学校における指導と任務について』···?」

東雲
今日の午後からやる講演会、てか説明会?

サトコ
「これに私が?」

東雲
元訓練生として、お偉いさんの質問に答えて欲しいんだってさ

サトコ
「はぁ···」

東雲
超面倒臭いけど、オレも行かないといけないよね。超面倒臭いけど

(2度言った···!)

東雲
じゃ、よろしく

サトコ
「あ···はい」

断る隙も与えられず、思わず頷いてしまった。

(今日の午後って何時からだろう?)

渡された紙を見ると、後援会の時間は15時~17時と書かれている。

(17時終了なら大丈夫かな)

今朝の約束を思い出しながら自席に着くと、ちょうど颯馬さんが現れた。

颯馬
おはようございます

黒澤
おはようございます、周介さん

サトコ
「おはようございます」

時間差で登庁してきた颯馬さんは、何事もなかったように私の横を通り過ぎていく。

(颯馬さんは『心配ない』って言ったけど、できればちょっと部屋の掃除したいし···)
(早めに帰れるといいな)

【廊下】

午後、講演会へ向かう時間になった。

(念のため颯馬さんに連絡入れておこう)

支度を整え、廊下に出てLIDEを送る。

『急な仕事で外出することになったので、終わり次第連絡します』

(これでよし、と)

(あ、もう返信!)

そこには『りょ!』と敬礼するクマのスタンプが。

(ふふふ、可愛い)

???
「何ニヤけてんの?」

サトコ
「っ!?」

東雲
キモ

百瀬
「キショ···」

(み、見られた···しかも一番見られたくない2人に···!)

東雲
もう出掛けるけど

サトコ
「はい、支度できてます」
「あ、でも津軽さんにまだ挨拶をー」

百瀬
「さっさと行けよ」

サトコ
「でも出掛けるってひと言···」

百瀬
「···」

『いいから消えろ』とでも言うように、百瀬さんが睨む。

(講演会に出席することはすでに伝えてあるし、大丈夫かな)

東雲
行くよ

サトコ
「はい!では、行ってきます」

バタバタと慌ただしく、警察庁を後にした。

【講演会場】

鳴子
「サトコ!」

千葉
「久しぶり」

東雲さんと講演会の会場にやって来ると、鳴子や千葉さんたちも来ていた。

サトコ
「鳴子たちも呼ばれてたんだね」

鳴子
「急な呼び出しで驚いたよ」

千葉
「俺も」

鳴子
「でも、サトコにも会えたし良かった」

サトコ
「うん、私も2人に遭えるなんて思ってなかったから嬉しい」

東雲
同窓会じゃないだけど

サトコ
「すみません、つい···」

東雲
ちゃんとやることやってよ?

サトコ
「はい」

(って言われても、やることって何?)
(質問に答えればいいって言われたけど···)

具体的なことは何も分からないまま、講演会が始まった。
司会の挨拶のあと、見覚えのある人が登壇する。

(あ、難波室長···じゃなくて、難波さん!)

難波
え~、本日は『公安学校における指導と任務について』ということで···
元教官、卒業生の諸君らには、ぜひ忌憚のない意見を聞かせてもらいたい

(東雲さんも面倒臭がってたけど、難波さんもちょっと面倒臭そう···)

その後、上層部の人たちが登壇し、壇上から私たちに次々と質問が投げかけられた。

幹部
「では次に、公安学校で学んで良かったと思える点は?」

鳴子
「監視や情報収集の仕方、数々の専門的な訓練を受けれたことです」

同期男子
「協力者取得のためのノウハウは大変役に立っております」

千葉
「実際の事件の場で指導を受けられることも大変大きなメリットと感じます」

サトコ
「何より現場公安刑事の教官方から教わることは、勉強になることばかりでした」

東雲
ヨイショ?

サトコ
「本心です!」

隣から小声でささやかれ、思わず大きく返してしまった。

幹部
「···何か?」

サトコ
「い、いえ、何でもありません···」

東雲
注意力散漫

(誰のせい!?)



特に込み入った話になることもなく、講演会は無事に終わった。

(時間も予定通りだし、よかった)

鳴子たちとは会場で別れ、東雲さんと一緒に警察庁に戻ることに。

東雲
あー、疲れた···

サトコ
「お疲れ様でした」

東雲
あの集会になにか意味あるの?

サトコ
「私にそう言われても···」

東雲
あー、疲れた

(また2度言った···!)
(私も疲れたけど、せっかくなら颯馬さんと来たかったな)
(って、私情を挟んじゃダメダメ!)

思わず首を振ったその時、額にポツンと冷たい感触が。

東雲
ん?

サトコ
「雨···?」

東雲
傘持ってる?

サトコ
「持ってないです」

東雲
じゃ、とりあえずあっち



降り出した雨はみるみる強くなっていき、東雲さんが指差した近くのビルの軒下に逃げ込む。

東雲
今日降るって言ってた?

サトコ
「いえ、予報では1日晴れるって···」

東雲
もしかしてキミ、雨女?

サトコ
「違うと思いますけど···こういう雨はすぐに止むんじゃないかと」

東雲
止みそうにない···てか強くなってるけど?

サトコ
「ですね···」

突然の豪雨に成す術もなく、暫く軒下で雨宿りすることに。

(あ~あ、ついてないなぁ)
(日も暮れてきたし、寒くなってきたし···)

サトコ
「クシュン!」

東雲
···はぁ。ちょっと走るよ

サトコ
「え、うわっ!?」

クシャミをした私を面倒臭そうに見ると、東雲さんは突然私の手を引いて雨の中に飛び出した。

【東雲マンション】

東雲
はい、タオル

サトコ
「···ありがとうございます」

(って、まさか東雲さんの家に連れて来られるとは···)
(本当なら今頃、颯馬さんを迎えるために家の片づけを···)

東雲
何してんの?さっさと上がって

サトコ
「は、はい···お邪魔します」

(それにしても、いい匂い···)

借りたタオルの爽やかな香りを感じつつ、緊張を隠せないままお邪魔する。

東雲
ストップ

サトコ
「え?」

東雲
そのままバスルーム行って

サトコ
「バス···」

東雲
シャワー浴びた方がいいでしょ

サトコ
「いえ、そこまで甘えるわけには···!」

東雲
風邪ひくよ?

サトコ
「でも···」

東雲
くしゃみしてたくせに

サトコ
「それはそうなんですけど···」

東雲
バスタオル、ここに置いておくから

(家に上がるだけでも緊張してるのに、さすがにシャワーまでは···)

東雲
濡れた服はこの乾燥機に入れて、『スピード乾燥』のボタンをONね

サトコ
「···」

東雲
こっちまで冷えるから早くして

サトコ
「じゃあ、東雲さんからどうぞ」

東雲
いいから早く入って!

サトコ
「はい!」

(あ~、気持ちよかった)

冷えた身体をシャワーで温め、用意されたバスタオルを借りる。

サトコ
「やっぱりいい匂い···しかもふわっふわ!」

(女子力高いな···)
(シャンプーもコンディショナーもサロン仕様のものだったし)

熱いシャワーといい香りのおかげで緊張も少しほぐれた。

(雨止んだかな?)
(結局津軽さんに何も言わず出て来ちゃったし、早く支度して戻らなきゃ)

いい香りのする髪を乾かしていると、乾燥機に入れた服もちょうど乾いた。

サトコ
「うわぁ~、乾いた服までいい香り~」

(やっぱり完璧なほどの女子力だよね)
(負け···いや、負けてない。負けてないはず···!)

サトコ
「シャワーありがとうございました」

東雲
長いね···

リビングへ戻ると、東雲さんのジト目が私を捉えた。

東雲
寒い

サトコ
「すみません!すぐ課に戻ろうと思って支度をしていて」

東雲
津軽さんになら直帰するって連絡しといたから

サトコ
「え?」

東雲
座ってゆっくりメイク直したら?眉、曲がってるよ

サトコ
「っ!?」

東雲
あ~寒い。やっとシャワー浴びられる

思わず眉を隠す私を見もしないで、東雲さんはリビングを出て行った。

サトコ
「待たせちゃって申し訳なかったな···」

(というか、班が違うのにわざわざ津軽さんにまで連絡してくれて···段取りまで完璧)

急いで戻る必要もなくなり、突っ込まれた眉を直すことに。

サトコ
「お言葉に甘えて座らせてもらいます」
「···って、ソファもふかふか!」

いちいち感動しつつ、ポーチを出してメイクをチェックし直す。

(言われるほど曲がってないけど···)
(でも、このあと颯馬さんに会うんだし、ちゃんと直しておこう)

サトコ
「そうだ!颯馬さんに連絡入れておかなきゃ」

ハッと思い出して携帯を取り出したその時ー

東雲
津軽さん以外にも連絡するとこあった?

サトコ
「!」

振り向くと、東雲さんが濡れた髪を拭きながら私を見下ろしていた。

サトコ
「は、早いですね」

東雲
人を待たせてるんだし、ゆっくりできないでしょ

(うっ···それは待たせた私への嫌味···?)

東雲
誰かに連絡するならすれば?

サトコ
「い、いえ、大丈夫です」

東雲
そう。じゃあ、コーヒーでも淹れようかな

サトコ
「もう失礼しますので」

東雲
飲みたいのはオレなんだけど

サトコ
「あ···そうですよね」

東雲
まあ、ついでに淹れてあげてもいいよ

(う~ん、意地悪なんだか優しいんだか···)

東雲
はい、どうぞ

サトコ
「ありがとうございます、いただきます」

カップを受け取り、私はソファ、東雲さんはダイニングのイスに座ってコーヒーを飲む。

サトコ
「美味しいです」

東雲
ありがと

(でも困った···他に言う事がない···)

東雲
···

サトコ
「···」

(気まずいな···どうしよう)

東雲
あのさ

サトコ
「はい」

東雲
あの人のどこがいいの?

サトコ
「っ!?」

(い、いきなり何!?)

何の前触れもなく投げかけられた爆弾質問に、心臓が破裂しそうなほど大きく脈打った。

to be continued

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