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カレが妬くと大変なことになりまs(略:颯馬2話

東雲
あの人のどこがいいの?

突然投下された爆弾的質問に、思わず息を呑んだ。

(あの人って···颯馬さんのことだよね!?)

東雲
ああいう人が趣味なんだ?

サトコ
「あの、えっと···」

東雲
もしかして見た目重視?

サトコ
「え?」

東雲
イメチェン効果とか

サトコ
「!」

東雲さんは『イメチェン』と言いながらさりげなく髪をかき上げた。

(やっぱりどう考えても颯馬さんのことだ)
(でもあれ?こんなに普通に聞かれてるけど、話しちゃっていいんだっけ?)
(いやいや···言っていいわけないよね!?)

東雲
あの人とはいつから?

サトコ
「あの···何のことでしょうか?」

東雲
あれ?言ってることわからない?

サトコ
「···そ、そもそも『あの人』が誰なのかも」

東雲
そっかー、わからないかー

サトコ
「ええ···」

東雲
じゃあ何をそんなに慌ててるの?

サトコ
「べ、別に慌ててなど···」

東雲
もう少し公安刑事らしくなれるといいね

(うぐ···言われてしまった)

シラを切り通そうとしたものの、思いっきり嫌味な笑顔を返されただけだった。

(はぁ···まだまだだな)

東雲
雨、止んだみたいね

声につられて窓の外に目を向けると、暗くなりかけた空に星が光っていた。

【駅】

東雲
じゃ

サトコ
「色々とありがとうございました」

東雲さんに車で自宅近くの駅まで送ってもらった。

(すっかりお世話になっちゃったな)
(早く颯馬さんに連絡しなきゃ···!)

東雲さんの車を見送り、携帯を取り出した途端に着信音が響く。

(颯馬さんから!)

サトコ
「もしもし!すみません、今ちょうど連絡しようと思っていたところでした!」

颯馬
外出先から直帰になったと聞きました

サトコ
「そうなんです。帰り道に雨に降られてしまって···」

颯馬
かなり激しい雨でしたからね

サトコ
「はい。それで···」

(どうしよう、東雲さんの家にいたなんて言ったら、また怒られるかな)
(でも、変に隠すのもかえって誤解を生みそうだし···)

颯馬
それで、どうしたのですか?

サトコ
「あ、あの、同行した東雲さんのお宅で雨宿りさせてもらってたんです」

(シャワーを借りたことまでは言わなくていいよね···)

颯馬
そうでしたか。歩の家に

サトコ
「連絡が遅くなってしまってごめんなさい」

颯馬
いえ、色々と大変でしたね

躊躇いつつも報告すると、そのまま駅で待つように言われて電話を切った。

(颯馬さん、怒ってなかった···)
(約束通り会えることになってよかった)

ホッとしながら待っていると、思いのほか早く颯馬さんが現れた。

颯馬
お待たせしました

サトコ
「いえ。早かったですね」

颯馬
貴女の家の向かうつもりで、すでに近くまで来ていましたから

サトコ
「すみません、待たせてしまったのはこっちですよね」

颯馬
······ちょうどいいタイミングでしたよ

サトコ
「?」

僅かな間のあと、颯馬さんはフッといつものように微笑んだ。

(今ちょっと顔をしかめた···?)

サトコ
「あの、何か···」

颯馬
なんでもありません。さあ、行きましょうか

サトコ
「はい···」

颯馬
今日は一緒に夕食を作りましょうか

サトコ
「いいですね!何にします?」

颯馬
そうですねぇ···食材を見ながら決めましょう

サトコ
「はい!」

(特に変わりないみたいだし、気のせいだったのかな)

楽しく話しながら、駅前のスーパーで買い物をして帰った。



サトコ
「ちょっと待っててくださいね」

家に着くと、ひとまず先に上がって部屋の中をチェックする。

(一緒に来ることになるとは思わなかったし、そもそも掃除する時間もなかったし!)

ベッド周りを整え、散らかっている物を手早く片付ける。

(これでよし)

サトコ
「お待たせしました!」

颯馬
心配いらないって言ったのに

玄関に戻ると、颯馬さんは私の頭をポンとして微笑んだ。

(その笑顔、なんかずるい···)

颯馬
お邪魔します

サトコ
「···どうぞ」

不意打ちの微笑みと頭に残る手の感覚に照れながら、颯馬さんを迎える。

(初めて迎えた訳でもないのに、何となく緊張するな···)

颯馬
早速夕飯の支度をしましょうか

サトコ
「あ、良かったら着替えてください。この前泊まった時の服がありますから」

クローゼットから洗濯してしまっておいた颯馬さんの部屋着を出した。

颯馬
いいですね。こういうの

サトコ
「···?」

颯馬
サトコの部屋に私物があることに、素直な喜びを感じます

サトコ
「あ···はい、それは私も···」

(嬉しいって思ってた、いつもクローゼットの中に颯馬さんの服があるのって)



2人で照れ合うように笑い、着替えを済ませて一緒にキッチンに立つ。
スーパーで決めた今夜のメニューは、ミラノ風ビーフカツレツ。
少し多めの油で焼き上げるカツは、高級感があるのに手間はかからない。

颯馬
······

早速料理を始めるも、颯馬さんは隣に立つ私を見下ろして一瞬動きを止めた。

サトコ
「どうかしました?」

颯馬
いえ別に

(また気のせい?)

颯馬
私はカツを担当します

サトコ
「じゃあ、私はサラダを作りますね」

2人で分担して料理を進め、手軽で豪華な夕飯が完成した。

サトコ
「美味しかったですね!」

颯馬
ええ。ご馳走様でした

食事を終え、お茶を淹れてソファに移動する。

颯馬
ところで···

隣に座るなり、颯馬さんは仕切り直すように私を見た。

颯馬
どうして貴女から、こんなにも彼の匂いが?

サトコ
「彼···?」

私の方に顔を向けながら、颯馬さんは鼻をクンクンさせるように顎を上げる。

颯馬
この匂いは歩の匂いですよね?

サトコ
「っ!」

(津軽さんの嗅覚もすごいと思ったけど···誰の匂いかまで分かるなんて···)

サトコ
「···それはたぶん、お宅にお邪魔した時にタオルをお借りしたからだと思います」

颯馬
タオル、ですか

サトコ
「はい···雨で濡れてしまったので···」

颯馬
確かに柔軟剤の香りもしますが、それ以外の香りもします

サトコ
「それ以外···」

颯馬
ええ。特にこの辺りから

颯馬さんは、私の頭にグッと顔を近づけた。

(あっ!シャンプー!!)

シャワーを浴びたときに、東雲さんのシャンプーを使ったことを思い出した。

(颯馬さんってば、あのサロン仕様のシャンプーの香りまで嗅ぎ分けてる!?)

颯馬
これは、どういうことですか?

サトコ
「あ、えっと···」

颯馬
タオルで拭いただけでここまで香りが付くでしょうか?

颯馬さんはまるで犯罪者を追い詰めるような眼で真実を探ろうとする。

颯馬
そもそもこれは柔軟剤の香りではないですしね

(うぅ···シャワーまで借りたことは黙っていようと思ったけど···)
(これはもう、全て正直に白状したほうがいい!)

サトコ
「実は、東雲さんのお宅でシャワーもお借りしました」

颯馬
···

サトコ
「雨で全身ずぶ濡れになってしまったので···」
「その時に、バスルームにあったシャンプーを遣わせていただいたんです」

颯馬
なるほど···それで···

颯馬さんは納得したように呟きつつ、指先で私の髪をサラサラと弄ぶ。

颯馬
そういうことでしたら···

(まずい···怒りのスイッチ押しちゃったかも)

颯馬
俺にこの髪、洗わせて?

サトコ
「え···?」

颯馬
さあ

颯馬さんは不敵な笑みを浮かべると、有無を言わせず私を立たせた。

(どうしよう、別のスイッチが入っちゃったみたい!)

颯馬
ここでちょっと待ってて

手を引かれて洗面所まで行くと、颯馬さんはダイニングの椅子を持ってきた。
その椅子の背もたれを洗面台側に向けておく。

颯馬
座って

サトコ
「···」

言われるままに座ると、クッションで高さを調節された。
背もたれ他の上部にタオルが敷かれ、そっと肩に手を添えられる。

颯馬
そのまま首を後ろに倒して

サトコ
「···こうですか?」

颯馬
ええ、いいですね

真上から覗き込む颯馬さんが、色気の混じる目で微笑んだ。

颯馬
ようこそ “サロン・ド・ソウマ” へ

サトコ
「···!」

イタズラっぽい笑顔で始まった美容院ごっごに、天井を見つめながら鼓動をドキドキさせる。

颯馬
では、シャンプーさせていただきます

(本当にここでシャンプーするの!?)

洗面台の蛇口からお湯が流れる音が間近に響く。
颯馬さんは私の髪を束ねるように手にすると、そっと少しずつ濡らしていく。

颯馬
お湯の温度はいかがですか?

サトコ
「···ちょうどいいです」

髪全体がしっとり濡れると、颯馬さんはバスルームから私のシャンプーを持ってきた。
適量を手に取り、まずは手の平でふっくらと泡立てる。
その泡を私の髪に乗せるようにして、優しく撫でるように洗ってくれる。

(先に泡立てて洗うなんて、本当に美容院みたい)
(···気持ちい)

絶妙な力加減で逃避をマッサージされ、スーッと全身の力が抜けていく。

サトコ
「颯馬さんもかなり女子力高いですよね···」

颯馬
も?

サトコ
「!」

颯馬
誰かと比べました?

サトコ
「い、いえ!何でもないです!」

颯馬
じっとしていてください

思わず身を起こしそうになり、グッと肩を押さえつけられた。

(余計なこと口走っちゃった···)

そのまま更に念入りなマッサージで髪が泡立てられていく。

颯馬
洗い足りないところはありませんか?

サトコ
「···大丈夫です」

颯馬
では流します

淡々とした口調ではあるものの、優しく丁寧に洗い流してくれる。
上から覆いかぶさるような格好の颯馬さんの胸元が目の前に迫り、全身が痺れるように熱を持つ。

(気持ちいいけど···距離が近すぎて···)
(美容院みたいに顔に布をかけてほしい···)

息がかかりそうなほどの距離に、ギュッと目を瞑る。
やがて颯馬さんの柔らかな手の動きが止まり、蛇口から流れるお湯の音も止まった。

颯馬
お疲れ様でした

首ごと支えられて上体を起こすと、ふわりとタオルで包まれた。

タオルドライされた髪をターバン風に巻き上げ、そのままソファへ戻される。
私を座らせると、颯馬さんはドライヤーを手に戻ってきた。

颯馬
では、乾かしていきますね

サトコ
「はい···」

ターバンを外され、濡れた髪に温風が吹き当てられる。
勢いのある温風と相反して、髪を掬う颯馬さんの指の動きはとても柔らかで優しい。

(至れり尽くせりで、私だけ満足しちゃっていいのかな···)

怒られると思っていただけに戸惑ってしまう。

颯馬
貴女以外の匂いがすると落ち着かないんです

サトコ
「え···」

颯馬
器量の狭い男でごめん···でも···

ドライヤーの温風が止まり、後ろからぎゅっと抱き締められた。

颯馬
やっと俺のサトコに戻った

サトコ
「···颯馬さん」

首筋にそっと落とされたキスに、思わず目を閉じる。

(ここまでして東雲さんのシャンプーの匂いを消そうとするなんて)
(でも、こんなに優しいお仕置きもあるんだな)
(颯馬さんも満足してくれたのなら、よかった···)

シャツを通して伝わる颯馬さんの温もりを感じながら、再び目を開け後ろを振り返った。

颯馬
馬鹿な男だと思ってる?

サトコ
「いえ···颯馬さんはとってもー」
「んっ」

『素敵な人』

そう告げる前に、私の唇は柔らかなキスで塞がれた。

颯馬
それ以上は言わなくていいよ

サトコ
「でもちゃんと伝えたくて···ー」

颯馬
もう黙って

サトコ
「ん···」

再び重ねられた唇は、さっきよりも熱くなっている。

(颯馬さんのこと、器量が狭い男だなんて思わない)
(もちろん馬鹿な男だとも思ってない)
(だって私は···)

サトコ
「あっ···んん」

(こうして愛情たっぷりに怒ってくれることは、とても嬉しいし安心するから···)

颯馬
そろそろ本気のお仕置きを始めようか

颯馬さんらしい甘く妖しい微笑みに、ゾクリとしながら目を閉じた。



【公安課ルーム】

翌日ーー

サトコ
「東雲さん、昨日はありがとうございました」

東雲
お疲れ様

津軽
ゲリラ豪雨直撃だって?2人とも災難だったね

サトコ
「直帰させていただいて助かりました」

津軽
びしょ濡れのまま戻ってこいとは言えないよ~
ねえ、周介くん

颯馬
そうかもしれませんね

(なんでわざわざ颯馬さんに振るかな···)

颯馬
でも私なら、ひとまず戻らせて当直室のシャワールームで温めさせます

東雲
···

(うわ、目を合わせることなく東雲さんを非難してる!?)
(東雲さんもそれを分かって無言の対応···?)

津軽
俺なら近くのホテルとかに飛び込んじゃうけどね

颯馬
それも1つの選択ですが

サトコ
「···今度ゲリラ豪雨に遭ったら、とりあえず課に戻ります」

颯馬
それが一番ですね

サトコ
「はい···」

颯馬
では、私はこれから外出ですので

そう言って私の前を通り過ぎていく颯馬さんのカバンから、見慣れない物が覗いている。

(···バリカン?なんで?)
(ハッ!もしやまた誰かのシャンプーを使ったりしたら······刈られる!?)

颯馬
では行ってきます

サトコ
「い······いってらっしゃい」

冷ややかな恐怖を感じつつ、笑顔の颯馬さんを見送ったーー

Happy End

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