カテゴリー

カレが妬くと大変なことになりまs(略:東雲1話

とある晴れた日の朝。
いつものように満員電車に揺られていると···

(うそ···)
(いつの間にかストッキングが···!)

思い返せば、今日は朝からついていない一日だった。

(家を出ようとしたら玄関先で躓くし)
(珍しく占いコーナーを見たと思ったら最下位だったし···)

その上、このストッキングの伝線。

(さっき、電車が揺れた時に誰かのカバンがふくらはぎに当たったからその時かな)
(仕方ない···登庁する前にコンビニに寄ってーー)

サトコ
「わっ!!」

急停止した電車に身体が揺らされ、慌てて吊り革を握る手に力を込める。

『お客様にお知らせいたします』
『緊急停止ボタンが押されたため、車両確認を行います。安全の確認が取れ次第···』

(えっ)
(このタイミングで遅延···!!?)



【警察庁】

結局しばらく停車した電車の影響で、駅に着いたのは遅刻ギリギリだった。
全速力で警察庁に飛び込んで···

サトコ
「の、乗ります!」

(良かった、エレベーターに間に合った···!)

津軽
おはよう、ウサちゃん
朝から飛び跳ねて元気だね~

サトコ
「はぁ···はぁ···おはようございます······」

東雲
······

(歩さん···!)
(厄日かと思ってたけど)
(朝一番に歩さんに会えるなんて幸せ過ぎる···!)

大急ぎで乗り込んだエレベーターの中は、他にも見知った顔ばかりだった。
全速力で走ったせいで上がった息を整えていると···

黒澤
あれっ!サトコさんどうしたんですか、その足
ストッキング、破れてますよ

サトコ
「!?」

(く···黒澤さん!?)
(そういうのは、こっそりと言ってください···!)

慌ててカバンで隠すも、すでに時遅く···
全員の視線が、一斉に私のふくらはぎに集中する。

津軽
あらら、これは見事だね

颯馬
大丈夫ですか?

後藤
何かあったのか?

サトコ
「い、いえ···あのそれはですね···」
「···大丈夫です」

石神
···何もないならいいが

(満員電車で伝線しただけなんて)
(ただでさえ恥ずかしいのに、ますます言えない···)

加賀
······

百瀬
「······」

(『女としてありえねぇ』って顔に書いてある···)
(そして、百瀬さんは安定の興味の無さ)
(···というか、歩さんにも見られてるよね···?)

東雲
······

(ん?歩さんが何か言って···)
(『女子力···マイナス300点』···!?)
(分かってます!分かってるんです···)
(でも、仕方なかったんですー!!!)



(やっとお昼だ···)
(ストッキングを買いに···ううん、お腹が空いてそれどころじゃない···)

伝線を気にする余裕もないくらい、午前中は忙しくあっという間に過ぎて行った。

(今日は外回りもないし、とりあえずご飯を食べよう)
(よし、エビフライ定食を食べて午後からもがんば······)
(って、完売してる!?)

食堂のおばちゃん
「あら」
「ごめんね、ついさっき最後の一食が出たところなのよ」

サトコ
「そうなんですか···」

(残念だけど仕方ない)
(何を食べよう···やっぱりここは運気が上がる食べ物とか?)
(そういえば今朝の占いで、ラッキーフードはキノコって言ってたっけ)

期間限定スペシャルメニュー『キノコづくし定食』を選び、空いている席を探す。

東雲
······

(···ん?)
(あの乱れのないサラサラヘアーは···!)

サトコ
「東雲教官!」

東雲

サトコ
「ここ、いいですか?」

東雲
いいも何も、もう座ってるじゃん
それより何で息切れ?怖いんだけど

サトコ
「見かけたので、急いできました!」

東雲
ああ、そう···
ていうか、教官じゃないし

サトコ
「あっ···」

引き気味の歩さんの目の前には、私が探し求めていたエビフライ定食があった。

サトコ
「エビフライ定食···!」

東雲
なに?
ああ···もしかしてキミ買えなかったんだ?
これ、最後の一食だったしね

(歩さんだったんだ···それなら仕方ないよね)
(仕方ない···)

サトコ
「······」

東雲
······

サトコ
「···あの」

東雲
あげないから

サトコ
「!」
「ま、まだ何も言ってません···!」

東雲
分かるから。獲物を前にした野生のライオンみたいな目で見られたら
肉食獣?

(うっ···)

歩さんは見せつけるように、エビフライを口に運んだ。

東雲
あー、おいしい

サトコ
「ひっ、ひどいです!見せつけるなんて!」

東雲
オレのだし
やっぱエビフライは焦げてないのに限るよね

サトコ
「私も最近は失敗していません!」

東雲
そうだっけ
でもまたいつブラックタイガーになるか分からないけど

サトコ
「そんなことないですよ」
「これからも美味しいエビフライを歩さんに食べてもらうために、日々···」

東雲
そんなことより、早く食べれば

サトコ
「あっ、そうでした···」

東雲
···キノコ?

サトコ
「はい、今日のラッキーフードなんです」
「ちょっと運気上げようかと思いまして···」

東雲
ふーん···
効果あった?

サトコ
「はい!だって···」

<選択してください>

歩さんと一緒に食事が出来たから

サトコ
「こうして、歩さんと一緒にお昼が食べられましたから!」

東雲
単純

サトコ
「いいんです、単純で!」
「それに初めて食べたんですけど、美味しいんですよ」
「特にこの付け合わせのキノコが···」

東雲
······
こっち見る必要あった?

サトコ
「い、いえ!」

(危ない危ない···つい歩さんの髪型に目が···)

歩さん(キノコ)がいるから

(キノコと言えば歩さんだし)
(ある意味、今日のラッキーの象徴かも···)

サトコ
「歩さんがここにいますから」

東雲
ふーん···
どういう意味か分かんないけど、よかったね

サトコ
「!」

(笑顔が···!笑顔がこわい···!)

サトコ
「あ、歩さんと一緒に食事が出来たという意味もあるので!」

東雲
へぇ···『も』ね

サトコ
「!?」
「あっ、いえ···その···」

東雲
ま、いいけど
キミが単純なことに変わりはないわけだし

思ったより美味しかったから

サトコ
「初めて食べたけど、思ったより美味しかったんです!」
「やっぱり美味しいものを食べると元気になります」

東雲
うわー、単純
というか食い意地張り過ぎ

サトコ
「いいんです」
「それに歩さんと一緒にお昼が食べられましたし、嬉しいことずくめです」

東雲
···やっぱり単純

呆れたような口調にも、どこか嬉しさが滲んでいる気がした。

(まあ、でもぜいたくを言えば)
(やっぱりエビフライもちょっと食べたかったけど···)

東雲
···

サトコ
「···?」

東雲

不意にお皿に乗せられたのはエビフライ。
それも最後の1個で···

サトコ
「いっ、いいんですか!?」

東雲
いらないなら返して

(欲しいとは思ってたけど、まさか本当にくれるなんて···!)

サトコ
「運気の上昇が止まりません···」

東雲
大げさ
あげるしかないじゃん。あんな野生の目で見られたら
いつ噛まれるか分かんないし

サトコ
「噛まないれすけど、嬉しいです!」
「では、ありがたくいただきます···!」

サクサクとした衣の感触と甘い身が、口の中に拡がる。

(美味しい···歩さんにもらったエビフライだから普段の10億倍美味しく感じる···)
(よし、午後からはこの調子で運気挽回···!)

東雲
···
あのさ

サトコ
「はい?」

(ん?歩さんがテーブルの下から何かを···)

颯馬
サトコさん、ちょうどいいところに

東雲

サトコ
「颯馬さん!」

颯馬
どうぞ、こちらを

サトコ
「えっ···」

(これはコンビニで売っている、ちょっとお高めのストッキング···!?)

3足セットでもない、すぐに伝線もしない、履き心地も良い。
三拍子そろったストッキングを手渡され、目を丸くする。

颯馬
良かったら使ってください

東雲
······

サトコ
「あの···もしかして買ってきてくれたんですか···?」
「さ、財布···」

颯馬
気にしないでください。ちょうどコンビニに行く用がありましたから

サトコ
「でも···」

颯馬
ずっとそのままでは仕事にも集中できないでしょう?

(そ、颯馬さん···)
(いや、颯馬さま······!)

颯馬
それでは
お食事中、失礼しました

サトコ
「いえ、ありがとうございました···!」

東雲
······



(ありがたい···颯馬さんのおかげで、足元を気にしなくていい幸せを手に入れた···!)
(···あれ?)
(そういえば歩さんが言いかけたのって何だったんだろ···)

無事に新しいストッキングを履き替え、課に戻ると···

サトコ
「!??」

(えっ、な、なんかデスクの上が大変なことになってるんですけど···!)

津軽
ウサちゃんおかえり

サトコ
「津軽さん、この書類の山は一体···」

津軽
ん?
ああ、ごめん。足りなかったよね

ドサドサッ!

(ふ、増えた···!?)

津軽
これ、今日中にまとめないといけない資料らしいんだけどさ
この案件を担当してる加賀班の新人くん
急な不幸で休みになっちゃったらしくて

サトコ
「······」

津軽
ほんと、大変だよね~

(つまり···)

津軽
てことで今こそ同じ新人ちゃんの出番じゃない?
ほら、ちょうど彼の担当してた案件、君が今追ってる事件と繋がってるし

津軽さんはいい笑顔で、私の机に山積みになった資料をポンと叩く。
どんな経緯であれ、仕事を任せてもらえるということは嬉しいけど···

(この量···今日中に終わる···?)
(いや、任されたんだから頑張らないと···)

津軽
そういうわけで

サトコ
「!?」

(えっ、また増えた!)
(どこに隠し持ってたの···!?手品···!?)

津軽
あ、そうだ。昨日お願いした報告書も今日中によろしくね

サトコ
「···」
「···頑張ります···」

津軽
うん、ファイト!

(がんばる···)
(···がんばる···ぞ···)

サトコ
「はぁ···」

(疲れた···)
(すごく疲れた···)

事務仕事の合間に津軽さんのお遣いもこなし、
なんとか他の班の仕事を終わらせた。

(あとは報告書をまとめるだけ···!)

???
「おつかれ」

(この声···!)

サトコ
「歩さ···」
「!」

ふいに、冷えた感触が頬に触れる。
振り返った先には、ピーチネクターを私に当てる歩さんがいた。

東雲
あげる

サトコ
「あ、ありがとうございます···」

(このピーチネクターって、休憩室の自販機には置いてないものだよね)
(ということはわざわざ買ってきてくれたの···?)

嬉しさが込み上げて、気が付けば頬が緩んでいた。

サトコ
「······」

東雲
え、キモ···
何でピーチネクター拝んでるの

サトコ
「歩さんの優しさに感動して···」

東雲
しかもなんか震えてない?

サトコ
「抱きつきたい衝動を必死に抑えているんです」

東雲
怖···

サトコ
「ありがとうございます!大切に飲みます!」

東雲
さっさと糖分補給しなよ

サトコ
「はい、今すぐに!」

(おいしい···歩さんがくれたから30億倍美味しい気がする···)
(というか、何だか今日の歩さん、いつもよりストレートに優しい···?)
(まさかキノコパワー···)

サトコ
「なんだかもっと頑張れそうです」

東雲
そう?

サトコ
「はい、何なら今でも···!」

東雲
ふーん···
本当に何でも?

サトコ
「はい、歩さんパワーで!」

東雲
あっそう
じゃ、オレからの頼みも聞いてくれる?

サトコ
「はい、歩さんのお役に立てるなら!」

東雲
よかった
兵吾さんから今日中にとりまとめを頼まれてた書類があるんだよね

(···うん?)

東雲
参考資料自体は資料室から取って来てるし、オレがやってもいいんだけど
そんなにオレの役に立ちたいって人がいるなら
その気持ちは聞いてあげた方がいいよね

(な、何か歩さんの笑顔が怪しく···)

東雲
ってことで、引き受けてくれる?

サトコ
「えっ···あの···!?」

東雲
オレの役に立てて良かったね

(つまり、これって······)
(加賀班から仕事を回されただけ···!?)

(ひどい···)
(ひどすぎる話だよ)
(歩さんの優しさを大喜びした数時間前の私に教えてあげたい···)

カタカタカタと、キーボードを叩く音だけが響く。
午後はみんな捜査に出ているため、津軽班は私だけだ。

(とりあえず、この報告書さえあげれば···!)
(あ···この参考資料ってどこにあるっけ。資料室かな)

資料室に行こうと立ち上がった瞬間ーー

バサバサバサッ!

サトコ
「わっ」

机の上に積み重ねていた資料が落ちてくる。

(歩さんに頼まれていた仕事···)
(······あれ?)

サトコ
「これ、今探しに行こうとしていた資料···?」

これは、歩さんに参考資料だと言って渡されたものだった。
よくみれば、加賀班の仕事には関係のない書類で···

(つまり···歩さんが私のために用意してくれたってこと···?)
(さっきは、そんなこと一言も言ってなかったのに)

仕事を回してきただけじゃないーー
私の仕事がうまくいくように、渡してくれたのだ。
資料室を探せば自分でも見つけることが出来るものなのに、あえて。

サトコ
「······」

(ずるい···)
(そんなの、ずるいです歩さん···)

その夜、退庁時間をとっくに過ぎたころ···

(報告書も津軽さんの机に提出したし、歩さんに頼まれた仕事も終了!)

朝よりも軽い足取りで警察庁を出る。
すると、柱の奥に人影が見えーー

東雲
遅い

サトコ
「えっ」

(歩さん、どうしてここに···)
(もしかして···!)

サトコ
「待っていてくれたんですか!?」

東雲
たまにはご褒美も必要だし
ほら、ご飯行くよ

サトコ
「!」

(ご飯···)
(久しぶりに一緒に歩さんとご飯だ···!!)

to be continued

シェアする

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

フォローする