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カレが妬くと大変なことになりまs(略:東雲カレ目線

朝のエレベーターには、見知った顔が詰め込まれていた。

(うわ、超満員)

黒澤
石神班と加賀班、それに津軽班が揃うなんてすごいですね~
同じ時間にエレベーターに乗る、これはまさしく運命···
ですよね、歩さん?

東雲
感じない

(透は朝からうるさいし、怠···)
(てか、全員は揃ってないじゃん)
(あの子いないし···)

サトコ
「乗ります!」

(···あ)

噂をすればなんとやら。
遠くから全速力で駆けてくるのはまた見知った顔···というよりうちの彼女だ。

(汗、すご)
(ていうか、ギリギリ間に合わないんじゃ···)

『開』 のボタンを押して待つことにする。
飛び込んできた彼女は、どこから走って来たのか相当息が上がっていた。

津軽
おはよう、ウサちゃん
朝から飛び跳ねて元気だね~

サトコ
「はぁ···はぁ···おはようございます······」

東雲
······

サトコ
「···!」

(何で喜んでんの。あからさますぎ···)
(······ん?)

ふと、彼女のふくらはぎに目がいった。

(ストッキング伝線してるし)
(···まさか事故?)

彼女の全身を見るけれど、特にどこもケガした様子はない。

(ってことは、気付かずに履いてきた説が濃厚)
(······女子力低っ)
(ま、仕方ないか。あとでこっそり教え···)

黒澤
あれっ!サトコさんどうしたんですか、その足
ストッキング、破れてますよ

東雲

サトコ
「!?」

彼女が慌てたように足を隠す。

(···ありえないんだけど)
(透のせいで、全員注目してるじゃん)

津軽
あらら、これは見事だね

颯馬
大丈夫ですか?

後藤
何かあったのか?

サトコ
「い、いえ···あのこれはですね···」
「···大丈夫です」

(···なるほどね)
(さっきのとっさの反応と、この返し···)

彼女は息が上がるほどの全速力で、エレベーターに飛び乗ってきた。
つまり、気付かずに履いてきたわけじゃなく、履いてくるしかなかったのだろう。

(どっちにしろ女子力が低いことに変わりはないけど)
(オレだったら予備くらい持ってるだろうし)

まあでも、うちの彼女の女子力の低さはいつものことだ。

(それより···彼女の脚、見すぎじゃない?)
(べつに、そんなにいいものでもないと思うけど)

加賀
······

百瀬
「······」

(兵吾さんはドン引きしてるし、百瀬さんも興味なさそうだからいいとして)
(透はあとで覚えてろ)

黒澤
あっ、歩さん!今夜なんですけど···

東雲
行かない

黒澤
ちょっとちょっと、まだ何も言ってないですって

東雲
合コンじゃない?

黒澤
はい!お察しの通り合コンです!

(ほらね)
(透がこんな感じで来るときは、9割合コン)

東雲
行かないから
透、一人で行けば?

黒澤
それ、合コンじゃないですから
うーん···ここは周介さんに声をかけて···

一人でうんうん唸る透は無視。

黒澤
そういえば、サトコさん大丈夫ですかね?
ちゃんと替えられてたらいいんですけど

東雲
······

黒澤
でも、いいですよねー
ストッキングの伝線!

東雲
···は?

黒澤
普段は守られている部分を見てしまった背徳感というか···
そのまま破りたくなっちゃいますよねー

東雲
絶対ない
変態?

黒澤
ええっ、歩さんだってサトコさんの足に釘付けだったくせに···

(それはうちの彼女が心配だったからであって···)
(てか、もとはと言えば透のせいだから)

黒澤
大丈夫ですよ、皆何かしら変態的な部分があ···

東雲

黒澤
!?
あっ···ちょっ、そこは···!
ダメです、歩さん···っ

透に制裁を加えながらも、考えるのは彼女のこと。

(とはいえ、あのままみっともない格好で歩かせておくのもなんだし)

東雲
······

(午前は外出予定)
(···ついでだし、買ってくるか)



帰り道のコンビニでストッキングを買った後。
オレは、その日最後のエビフライ定食を口に運んでいた。

(そういえば、彼女は午前中も庁内にいたっけ)
(これ渡さないとだし、LIDEで呼び出して···)

サトコ
「東雲教官!」

東雲

サトコ
「ここいいですか?」

東雲
いいも何も、もう座ってるじゃん
それより何で息切れ?
怖いんだけど

サトコ
「見かけたので急いできました!」

東雲
ああ、そう···

(相変わらず、勢いすご)
(しかも、タイミングいいし)

朝のことがあったのか、運気を上げたいと言ううちの彼女。
べつに心配になったわけじゃなく···
ただ猛獣みたいな視線に負け、仕方なくエビフライをあげた。

サトコ
「運気の上昇が止まりません···」

東雲
大げさ
あげるしかないじゃん。あんな野生の目で見られたら
いつ噛まれるか分かんないし

サトコ
「噛まないですけど、嬉しいです!」
「では、ありがたくいただきます···!」
「······!!」

(たかがエビフライで喜びすぎ)
(ま、いいけど。嬉しいなら)
(ていうか、それより···)

テーブルの下にあるコンビニの袋。
その中には、彼女に渡そうと思っていたストッキングが入っている。

(課に戻ったら渡せないし、今···)

東雲
あのさ

サトコ
「はい?」

颯馬
サトコさん、ちょうどいいところに

東雲

サトコ
「颯馬さん!」

しかし、ストッキングを渡そうとした瞬間。
現れた人物に、慌ててそれを袋に戻した。

(ありえない)
(なんでこのタイミング?)
(いや、べつにまた後で渡せばいいだけだし···)

颯馬
どうぞ、こちらを

サトコ
「えっ···」

(···は?)

しかし、颯馬さんが差し出したものを見て思考が止まってしまう。

(これ、オレが買ったのと同じ···)

颯馬
良かったら使ってください

東雲
······

サトコ
「あの···もしかして買ってきてくれたんですか···?」
「さ、財布···」

颯馬
気にしないでください。ちょうどコンビニに行く用がありましたから

サトコ
「でも···」

颯馬
ずっとそのままでは仕事にも集中できないでしょう?
······

(···なに、今のドヤ顔)

恐らく他意はない。
ただオレにはそう見えただけ。
頭ではそう、分かってるけど···。

颯馬
それでは、お食事中失礼しました

サトコ
「いえ、ありがとうございました!」

(こっちもこっちで、なんか感動してるし)
(何なの?ただストッキングもらっただけじゃん)
(てか、ほんとはオレが渡す予定だったし···)



東雲
津軽さん、今いいですか?相談したい案件があって

津軽
歩くんから俺に話しかけるなんて珍しいね

東雲
これ、氷川さんにお願いしたいんですけど···

デスクに戻る前に、立ち寄った津軽さんの席。
そこでオレは、うちの班の新人が持っている仕事を彼女に回していた。

(彼が担当してる案件、あの子が追ってる案件と繋がってたし)

津軽
さすが元教官。卒業しても優しいね
···でもさ、もう卒業したのに気にしすぎじゃない?

東雲
何がですか?
オレはただ、内容的に彼女が適任だと思っただけです

津軽
···ま、確かに。同じ新人ちゃんだしちょうどいいかもね
了解

東雲
よろしくお願いします

(この人、ほんとにどこまで気付いてる?)
(···はぁ、面倒くさ)

八つ当たり半分、彼女のため半分で回した仕事。
予想通り、全力で取り組んだ彼女にピーチネクターを差し入れした。

(兵吾さんに頼まれた仕事なんてないも同然)

今の彼女なら10分もあれば終わるはず。
だって、オレがほんとに渡したかったのはそれじゃない。
さりげなく添付した、彼女が今担当している事件に関する資料だ。

(がんばってるし)
(たまにはこれくらい)

颯馬
ただいま戻りました

黒澤
あっ、お疲れ様です~!
どうでした?

颯馬
ええ、中々尻尾を出しませんね

(···うわ、やなこと思い出した)

今のオレの中では、颯馬さん=ストッキング。
うちの彼女の足にある、例のストッキングだ。

(面白くない)

正直、見るたびにイライラする。

(いいけど、べつに)
(今日一日我慢すればいいだけだし···)

こんなことで心が乱されるはずない。
夕方までは確かに、そう思っていたのだ。

それが崩されたのは、その夜のことだった。

颯馬
サトコさん、何か食べますか?

サトコ
「そうですね···じゃあ···キノコの何かを···」

東雲
······

(いやいやいや、何で隣に座ってんの?)

頑張っていた彼女を誘って訪れたカフェ。
そこでオレたちは厄介な人たちにつかまってしまった。

(近すぎ)
(ありえないんだけど)

女性1
「そのサラサラヘアーのコツ教えてください」

女性2
「やっぱりトリートメントにもこだわってたり」
「ヘッドスパに通ってたりとかするんですか?」

東雲
···まあ

女性たち
「ええ、すごーい!」

(あたりまえ、どこかの女子力皆無の彼女とかじゃないんだし)
(それにしても、面倒くさ···)
(昔は一応、こんなのでも愛想良くしてたけど)

最近···いや、特に今日は全くそんな気にならない。
それは多分、目の前で繰り広げられている光景が原因だ。

サトコ
「颯馬さんは何にしますか?」

颯馬
そうですね······

(だから近い!)
(メニュー見るのに、近すぎだから!)

昼間、彼女が履くストッキングを見るたびに感じた感情。

(ストッキングだけじゃなく、彼女自身にも触れるとか)
(ほんと、ありえない)
(······彼女は、オレのなのに)

そんなみっともない感情は、合コンが終わるまでオレを苦しめた。
タクシーを降り、彼女をおぶって自分の家に向かう。

サトコ
「すー···」

(···バカ)
(酔いつぶれるまで飲むとか···)

それでも、今は彼女の温もりが触れている。
他の誰でもない、自分だけに。

(あれだけのことで嫉妬するなんて)
(ほんと、振り回されすぎ···)

感情を乱され続けたことが、くやしかった。
でもそれ以上に嫌だったのは、今も彼女の足にある例のもの。

(ありえないから)
(他の男からもらったものを身につけるとか)

オレが支えている、彼女の太ももの内側。
苛立ちが募ったオレは、ついそこを覆うストッキングを爪先でつまむ。

東雲
······

案の定、そこは伝線。
もう、このストッキングは履けないだろう。

(···なんかオレ、小さ···)
(でも···)

彼女が他の男からもらったこれを、もう身につけないと思うと気分が良かった。

サトコ
「···ん···?」

(あ···)

東雲
起きた?

サトコ
「······」
「···!!?」

覚醒した彼女は、おんぶをされていることに気付いたらしい。

サトコ
「す、すみません···!降ります!」

東雲
いい。もうすぐオレの家つくし

サトコ
「えっ」

東雲
タクシー使ったから

降ろそうと思えば、いつでも降ろせたのだ。
でも、それが出来なかったのはオレだけが感じるこの温もりを手放したくなかったから。

翌朝、彼女はやっとストキングが破れていることに気付いたらしい。

(ま、破いたのはオレなんだけど)

東雲

サトコ
「わっ!」

放り投げたストッキングは、きれいな放物線を描いて彼女の手に収まる。

東雲
履けば?

サトコ
「これ···!」
「あ、歩さんが私に···!?」

東雲
他に誰がいるの

サトコ
「···」

(にやけすぎ)

東雲
なに

サトコ
「いえ、なんだか履くのがもったいなくて···」
「······やっぱり、一生履きません···」

東雲
履け

(ほんと、大げさ)
(たかがストッキングくらいで···)

ストッキングを大事そうに抱き締める彼女に呆れる。
呆れるけど、どこか悪くないと思う自分もいて。

サトコ
「······んん?」
「ちょ、ちょっと待ってください」

東雲
ん?

サトコ
「そういえば、何でストッキングがここに···?」
「ま、まさか···元カノ···いや···」
「歩さん用···!?」

東雲
···は?

サトコ
「だってここにストッキングがあるなんておかしいですし···」

東雲
···

(いや、履かないから)
(なに勝手な嗜好、作り出してんの?)

サトコ
「大丈夫です!歩さんにどんな趣味があっても全部受け止めますから!」
「安心してくださーーー」

東雲
ああ、もううるさい

サトコ
「!」

わめく彼女を捕まえて、キスをする。

(キスしてる時だけは静かだよね)
(···ま、これで大人しくなってくれるならいいけど)

サトコ
「も···もう···もう」

(もう···?)
(牛?)

サトコ
「モーニングキッス···!」

東雲
キモ

サトコ
「えっ、歩さんからしてくれたのに···!?」

東雲
······はぁ

(絶対に言えない)

バカなことを言う彼女を、少しでもかわいいだなんて思ってしまったなんて。
そして、結局振り回されているのはオレの方だってことも。

Happy End

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