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最愛の敵編 東雲5話

数日後。
潜入先のエントランスで、私は大きく深呼吸をしていた。

(ここが、今回潜入する「誠盟大学附属病院」···)
(ここでの、私の役目は···)

津軽
ウーサちゃん!
ハイ、これ。今回の監視対象者の資料

サトコ
『···ありがとうございます』

津軽
それじゃ、確認しようか
君の今回のお仕事は?

サトコ
『清掃員として、次女の入院先に潜り込み···』
『例の思想団体との接触の有無を探ります』

津軽
その通り
今回の潜入は、刑事部のコネを遣って実現しているから
くれぐれも潜入先に迷惑をかけることのないようにね

サトコ
『わかりました』

(監視対象者は「茶谷みさと」13歳)
(宗教団体「神有道」次期トップ候補のひとり)
(潜入期間は、彼女が退院するまで)

サトコ
「···よし、ちゃんと頭に入ってる」

(やっと掴んだチャンスだ)
(絶対、成功させなくちゃ!)

(それにしても立派な病院だな。さすがVIPご用達)
(記者会見なんかでもよく見るよね。ここのお医者さんが話してるの···)

ドンッ!

イケメン医師
「ああ、悪い」

(イケメン!いきなり、すごいイケメンが···!)

???
「高堂さん、ちょっといいですか?」

フェロモン医師
「例の患者のことで相談が···」

(うっ···)
(この人は、なんかフェロモンが···!)

フェロモン医師
「あれ、お知り合いですか?」

イケメン医師
「いや、知らねぇ」
「で、なんだ、相談って」

フェロモン医師
「ここでは何ですから、ひとまず医局に戻って···」

(すごい···)
(たった1分で2人もイケメンが···)

???
「清掃員さん?」

(···うん?)

新イケメン医師
「ちょうどよかった。これ、捨てておいてもらえますか?」

(3人目!?)
(たった1分で3人ものイケメンが···)

新イケメン医師
「···どうかしました?」

サトコ
「い、いえ、その···」

<選択してください>

カッコイイですね

サトコ
「か、カッコイイですね」

新イケメン医師
「えっ」
「ありがとうございます」

(さわやか!)
(笑顔がさわやかー!!)

新イケメン医師
「じゃあそのゴミ、よろしくお願いします」

サトコ
「は、はい!」
「はぁぁ、すごかった···」

お名前は?

サトコ
「あの、お名前は···」

新イケメン医師
「···」
「もしかして俺、今ナンパされてます?」

サトコ
「ち、違います!そんな滅相もない···」

(ていうか、あまり目立ったらマズイよね)
(今、潜入中なんだし)

サトコ
「すみません、失礼します!」

新イケメン医師
「えっ、ゴミ···」

サトコ
「はぁぁ、すごかった···」

失礼します

サトコ
「失礼します!」

新イケメン医師
「えっ、待って···!」
「ゴミ、回収してほしいんだけど···」

サトコ
「はぁぁ、すごかった···」

(最近、イケメンとの遭遇率が高いな)
(ポーピくん好きの「キラキライケメン」にも2回も会っちゃったし)
(でも、髪の毛サラサラ具合なら、歩さんが一番···)

ピピッ、とデジタルウォッチのアラームが鳴った。

(···時間だ)

頭の中から、さっきで会ったお医者さんたちの顔を振り払う。
代わりに思い浮かべたのは、ここの病院の見取り図だ。

(次女がいるのは「VIP専用病棟」···)

(清掃員が入れるのは、原則1日2回の決められた時間帯のみ)
(でも、それじゃ、仕事にならないから···)

次女の病室の前に立つと、私は軽くドアをノックした。

サトコ
「失礼します。ゴミの回収に伺いました」

しばらくすると、ドアが余計な音を立てずにスッと開いた。

久間佐次郎
「お世話様です。ゴミ箱は奥にありますので」

サトコ
「ありがとうございます」

(···資料の通りだ。この人は、執事の「久間佐次郎」)
(で、肝心の次女は···)

ベッドを見ると、布団が山になっている。
どうやら眠っているようだ。

(仕方ない。顔は明日確認しよう)
(それより今は···)

ゴミを回収するふりをして、床頭台の裏に触れてみる。
幸い、執事は腕時計ばかりを見て、こちらには背中を向けたままだ。

(···よし)

用意してきた小型の盗聴器をセットすると、素早くゴミをまとめた。

サトコ
「では、失礼いたします」

久間佐次郎
「おつかれさまです」

(設置は澄んだ)
(あとは、ひとつ下の一般病棟に移動して···)

ドアを閉めるなり、私は受信機を取り出した。

(音声は···)

サトコ
「···よし」

(なんとか聞こえる!)

ノイズが多少気になるものの、これなら問題なさそうだ。

(あとは、百瀬さんと調整して···)
(交代で張り付くことにして···)

サトコ
「!」

(えっ···こ、この人···)

茶谷みさと
「いい?奥の個室」

サトコ
「は、はい!どうぞ···」

(間違いない···今の、「みちゃと」だったよね?)

(まさか、彼女も入院中?)
(って、それはないか。私服姿だったし)

サトコ
「じゃあ、お見舞い?」

(もしかして、次女の···)

サトコ
「······」

(···念のため、探ってみよう)
(とりあえず、階段付近で待機して···)
(出てきた。よし···)

かなり距離を取りながら、彼女のあとをついていく。
辿り着いた先は、エレベーターホールだった。
彼女は、迷うことなく「上」のボタンを押した。

(帰らない···ってことは、これからお見舞い?)
(しかも「上」のフロアに入院しているのは···)
(あ、乗った!)

案の定、みちゃとを乗せたエレベーターはひとつ上のフロアで停止した。

(やっぱり···次女のお見舞いだ)
(ってことは、みちゃとは次女派?)
(それとも、単に「信者」としてお見舞いに来ただけ?)

サトコ
「うーん···」

(例の思想団体とは、関係のないことだけど···)

百瀬
「···みちゃと?」

サトコ
「WeeeTuberです。今、人気の。ご存じですか?」

百瀬
「······」

(···えっ、この顔はどっち?)
(知ってるの?知らないの?)

百瀬
「関係ない」

サトコ
「はい?」

百瀬
「今回『WeeeTuber』は監視対象に入っていない」

サトコ
「···まぁ、そうですけど」

(じゃあ、報告しなくても良かったってことか)
(いちおう「必要かも」って思ったんだけどな)

百瀬
「盗聴器は?」

サトコ
「設置完了しています。私のほうで張り付けるのは···」

百瀬
「13時から1時間。17時から1時間」
「それだけでいい」

サトコ
「えっ、でも、他の時間帯は···」

百瀬
「オレがやる」

サトコ
「残り全部ですか!?」

百瀬
「オレがやる」

サトコ
「······そうですか」

(あと2回くらいは引き受けられるんだけどな)

サトコ
「夜はどうしますか?」

百瀬
「他班から応援が入る」
「連絡はオレがする。オマエは気にしなくていい」

サトコ
「···わかりました」

(仕方ないか。まだ新人だもん)
(今は、少しでも信頼されるように頑張らなくちゃ)

こうして始まった、配属後初の潜入捜査。
けれども、何日経っても報告するような出来事は何も起こらなくて···

サトコ
「すみません、ちょっと出てきます」

清掃員1
「えっ、また?」

清掃員2
「アンタ、昨日も外出していなかったかい?」

サトコ
「すみません、実は地下って苦手で···」

そんな言い訳のもと、毎回抜け出しては盗聴器の確認に向かっているものの···

サトコ
「···はぁぁ」

(今日も空振りっぽいな)
(まぁ、そのほうがいいんだけど。接触していないってことだし)

その一方で、妙な焦りがあるのも事実だ。

(まさか、大事なことを聞き逃したりしていないよね?)
(すでに接触しているのに、私が気付いていないだけ···なんてこと···)

サトコ
「···っ、違う違う!」

(勝手に不安になるな)
(そんな気配、今までに一度もなかったってば)

空振りが続いているのは「報告するような事態が起きていないから」だ。

(そこを間違えたらダメだ)
(こんな時こそ、冷静に、冷静になって···)

ふいに、イヤホンからドアを変えるような音が聞こえてきた。

(誰?まさか···)

久間佐次郎
『ただいま戻りました』

(なんだ、執事さん···)

茶谷みさと
『ちゃんと伝えてくれた?会う気はないって』

(···うん?)

久間佐次郎
『ええ。ですがよろしかったのですか?』
『あちらは、希世子様とかなり懇意にしているようですが』

茶谷みさと
『そんなの知らない!希世子は希世子、アタシはアタシだもん』
『あんなヤバそうな連中、絶対に会いたくない!』

久間佐次郎
『左様ですか』

(まさか、これって···)
(例の思想団体が、次女と接触しようとしていた?)

サトコ
「メモ···メモしないと···」

なんとかペンを走らせながらも、意識はあくまで耳に集中する。
今の会話は、決して聞き逃してはいけないものだ。

茶谷みさと
『他に報告は?』

久間佐次郎
『学校から連絡がありまして···』
『クラスのお友達が、お見舞いに来たいと』

茶谷みさと
『面倒くさっ』
『まぁ、でも······ないよね。将来の······だもん』

(···うん?)

茶谷みさと
『アタ···は、希世···みた···なやり······はしない』
『地道···て、うちの······を······するの』
『あ···なヤバ······な連中······しな······』

(なっ···)
(何でこのタイミングでノイズが!?)

茶谷みさと
『だから、今後···なくて······もさっ······』

(···ダメだ、ほとんど聞こえない)
(こうなったら···)

(同じフロアに移動するしかない!)

エレベーターを下りるなり、すぐに左端へと移動する。
ここなら、ギリギリ監視カメラに映らないはずだ。

(ひとまず受信機を調整して···)
(ノイズは···)

茶谷みさと
『···った。そこは任せるから』

久間佐次郎
『かしこまりました』

(···よかった、ちゃんと聞こえる!)

問題はこの後だ。
できれば、この先のトイレに隠れたい。
けれども、ここはVIP病棟だ。
先に進むには、ナースステーションでの許可が必要だ。

(だからって、ずっとここに居るわけにはいかないし)

万が一、誰かに見られたら、間違いなく不審者扱いされる。
そうなると、清掃員をクビになりかねない。

(いっそ、清掃時間を間違えたフリをしてみる?)
(運が良ければ、そのまま通れるかもしれないし)

サトコ
「···よし」

ダメ元で、私はナースステーションに向かおうとした。
そのときだった。

久間佐次郎
『みさと様、お待ちください!』

(えっ?)

久間佐次郎
『どちらに行かれるおつもりですか!』

茶谷みさと
『見て分かんない?動画撮影』

(···動画?)

久間佐次郎
『いけません!また倒れたらどうするんですか!』

茶谷みさと
『大丈夫。今日はお腹痛くないもん』

久間佐次郎
『そう言って、この間も倒れられて···』

茶谷みさと
『うるさい!クマは黙って!』
『マメに配信しないと、すぐにユーザーは離れるんだから!』

ガラッ!

茶谷みさと
「絶対に、今日こそ配信···」
「うっ···痛たたっ」

久間佐次郎
「みさと様!」

茶谷みさと
「ダメ···配信···」

久間佐次郎
「お戻りください!どうか今は安静に···」

サトコ
「······」

(···お、落ち着こう。まずは整理しないと)

今、病室から出てきたのは、間違いなくWeeeTubeerの「みちゃと」だ。
けれども、執事は彼女を「みさと様」と呼んでいた。

(それって、つまり···)

サトコ
「『みちゃと』は次女ってこと?」

夕方ーー
百瀬さんを待つ間、私は「みちゃと」の動画サイトを開いていた。

(最新動画···WeeeTubeもTicToocも1週間以上前だ)
(それ以前の動画は、ほぼ毎日配信しているのに)

サトコ
「それにしても、中学生···中学生かぁ······うーん···」

次女の「素顔」は、これまでに何度か見ている。
ごく普通の「13歳の顔立ち」をしていた。

(なのに、メイクでこうも変身できるって)
(いっそ、コツを教えて欲しいくらいなんですけど···)

ギイッ、とドアの開く音がした。
足音は静かに近付いてくると、私から少し離れたところで止まった。

百瀬
「報告を」

サトコ
「例の思想団体が、次女への接触を試みたようです」

百瀬
「······」

サトコ
「ですが、次女は今のところ接触を拒否しています」

百瀬
「接触は、本人に直接か?」

サトコ
「いえ。執事を通してのようです」

百瀬
「執事···久間だな」

サトコ
「そうです。それと···」

(どうしよう···)
(次女が、WeeeTuber「みちゃと」だって伝えるべき?)

これが公安学校時代なら、ためらうことなく伝えていた。
気になる情報はすべて報告するように、と教わってきたからだ。
けれどもーー

ーー『とりあえずさ、忘れちゃってよ。公安学校時代のことは』

ーー『関係ない。今回「WeeeTuber」は監視対象に入っていない』

百瀬
「『それと』···なんだ?」

サトコ
「······いえ。報告は以上です」

百瀬
「そうか」

遠ざかる足音を耳にしながら、私自身はまだ迷いの中にいた。

(本当によかったのかな、これで)

(そりゃ、私の仕事は「思想団体と次女の接触について探る」ことだけど)
(けっこう重要な情報じゃないのかな)
(WeeeTuber「みちゃと」と次女が、同一人物だなんて···)

アナウンス
『間もなく~I駅~I駅~』

電車が止まると、結構な人数の乗客が降りていく。
地下鉄4路線との接続駅だからだろう。

(ここで乗り換えたら、警察庁に行けるよね)
(歩さん、元気にしてるかな)
(えっ···!?)
(あ、あの後ろ姿は···!)

思わず近づこうとして、ハッとした。
今、私は潜入捜査中だ。

<選択してください>

構わず近づく

(ま、いっか···)
(せっかくだもん。近づくくらいなら···)

女性
「すみません。ちょっと詰めてください」

サトコ
「う、うぐっ」

(待って···押さないで···っ)
(歩さんとの距離が···っ)

サトコ
「ああ···」

(···ダメだ、離れちゃった。今日は諦めよう)

メッセージだけ送る

(今はメッセージだけにしよう)
(『歩さん、今、同じ車両にいます!』送信···っと)

東雲

(あ、気付いたっぽい···)

ブルル···

(きた!返事が···)

ーー「怖···」
ーー「ストーカー?」

(違います、偶然です!「愛の奇跡」です!!)

サトコ
「もう···」

我慢する

(ここは我慢するしかないよね)
(我慢···)
(我慢我慢我慢我慢······我慢···っ)

切ない想いを抱えたまま、私は歩さんの背中をジッと見つめた。

(今回のこと···歩さんなら何て言うだろう)
(私がWeeeTuberのことを報告したら、歩さんならきっと···)

サトコ
「···っ」

(ダメだ、比べたら)
(私の上司は、もう歩さんじゃない)

(「言われたことだけをやる」「余計なことはしない」···)
(今はこれが正解なんだ)

サトコ
「失礼します。ゴミの回収に伺いました」

久間佐次郎
「お世話様です。お願いします」

ふと、ベッドに目を向けると、眠っている次女の姿が見えた。
メイクが施されていない素顔は、やっぱりどう見ても年相応の中学生だ。

(···まだ信じられないな)
(この子が、あの『みちゃと』だなんて···)

久間佐次郎
「ご覧になりましたよね」

(えっ)

久間佐次郎
「昨日、みさと様が病室を出られようとした時···」
「あなたは廊下にいらっしゃいましたよね?」

(やっぱり、見られていたんだ)

昨日の夕方、ゴミ捨てに来たときは特に何も言及されなかった。
だから「気付かれていないかも」と淡い期待を抱いていたのに。

久間佐次郎
「お名前を伺っても?」

サトコ
「長野です」

久間佐次郎
「長野さま、どうかお願いです」
「昨日見たことは、内密にしていただけませんか?」

サトコ
「······」

久間佐次郎
「気付かれたのでしょう。みさと様の別の顔を」

サトコ
「······WeeeTuber、ですよね?」

久間佐次郎
「そうです」
「ワケあって、みさと様は素顔を隠されて動画配信しております」

サトコ
「······」

久間佐次郎
「みさと様には夢がございます」
「『自分の信じる道で、世界中の人を救いたい』という夢が」

(それって「神有道」の···?)

久間佐次郎
「ですが、みさと様はまだ中学生」
「未成年のみさと様がそのような道を説いても···」
「多くの者たちは、真摯に耳を傾けてくださいません」

サトコ
「それで、大人のフリを?」

久間さんは「ええ」と頷いた。

久間佐次郎
「どうか、みさと様の意を汲んでください」
「このことは絶対に口外しないでください」

サトコ
「そ、それは、もちろん!」

久間佐次郎
「本当ですね?」

(ち、近い···)

久間佐次郎
「本当に···本当に、約束してくださいますね?」

サトコ
「は、はい···もちろん!」

久間佐次郎
「ありがとうございます。感謝いたします」
「もし『あの連中』に知られたら、私は···」

(···うん?)

サトコ
「『あの連中』?」

久間佐次郎
「···!」
「い、いえ、その···なんと言いますか···」
「『みちゃと』の知名度を利用する輩がいるかも···と思いまして」

(「みちゃとの知名度」···確かにその通りだ···)

千葉さんの部署は、「みちゃと」にも目をつけていた。
彼女の影響力と、例の思想団体がつながることを恐れたからだ。

(それなのに、「みちゃと」が、ただの「広告塔」ではなく···)
(「次期トップ候補」でもあることが、思想団体側にバレたら?)

ゾッとした。
やっぱり、これは「報告するべきこと」だ。

(今日こそ、百瀬さんに伝えよう)
(次女が、WeeeTuber「みちゃと」だって)

(もしかしたら、それによって監視体制が変わる可能性も···)

百瀬
「知っている」

サトコ
「えっ?」

百瀬
「その件は、すでに把握済みだ」

(···把握済み?)

サトコ
「ふたりが同一人物ってことがですか?」
「そんなの、聞いてませんけど」

百瀬
「オマエには必要ないと判断した」

サトコ
「!」

百瀬
「他に報告は?」

サトコ
「ありません···けど···」

(必要ないってどういうこと?)
(私も、捜査に参加してるのに?)

サトコ
「あの···情報共有ってどうなっているんですか?」
「こんなの、フェアじゃないって言うか···」

百瀬
「······」

(え、なんで笑って···)

百瀬
「刑事部じゃあるまいし」
「本気で、情報共有が絶対だと思ってんのか?」

サトコ
「でも···っ」

百瀬
「共有するかどうかは上が決める」
「オレにもオマエにもその権限はない」

(そうだけど···そうだけど···!)

百瀬
「知りたければ、自分で調べろよ」
「オマエにできるならな」

(な···っ)
(···い、いい言ったよね、今)
(「自分で調べろ」って)

サトコ
「だったら調べてやる」

(公安学校卒なめんなーーっ!!)

そんなわけで、夜の11時ーー

(尾行の気配···ナシ)
(知ってる顔も···いない!)

サトコ
「···よし」

資料室に入るなり、すぐさま私は閲覧用PCの前に腰を下ろした。

(捜査資料検索···)
(···あった、これだ!)

クリックすると、個人IDの入力画面が出てきた。
ここで入力すべきなのは、当然私のIDだ。

(でも、それじゃ絶対「閲覧制限」に引っかかって見られない)
(つまり、ここは···)

サトコ
「思い出せ···思い出せ···」

(何度か見てる···津軽さんがID入力してる時の···)
(あの···手の動き······)

記憶通りにキーボードを叩き、最後にEnterキーを押す。
画面が切り替わり、捜査資料が表示された。

サトコ
「よし!あとは···」

(次女···茶谷みさとの情報を···)

サトコ
「···見つけた」

そこには、思っていた以上に多くの情報が記されていた。
私が、潜入前に目を通した資料とは大違いだ。

(私が知らされていたのって、この半分くらいだよね?)
(WeeeTuber「みちゃと」のことは···)

サトコ
「···あった」

追記されたのは3日前。
つまり、百瀬さんたちが知ったのもつい最近というわけだ。

(他に、追記されているのは···)

サトコ
「『神有姫の条件』?」

(「神有姫」って、宗教団体トップのことだよね)
(条件は···『女性であること』···)
(『10年に1度の祭事で、神有姫から指名を受けること』···)

サトコ
「『他者の血で穢れていないこと』···」
「うん?どういうこと?」

幸い、注釈があったのでクリックしてみた。

(ああ、なるほど)
(『輸血を含む、臓器移植の禁止』···)

???
「ずいぶん無防備だね」
「こんなに近付いているのに、気付かないなんて」

(えっ)

東雲
鈍すぎ
それとも、そんなに面白いわけ?その捜査資料

(あ、歩さん···!?)

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