ある休日の昼下がり。
私はひとりで近所の駅ビルの本屋を訪れていた。
(平日の休みだから、友達は誰もつかまらなかったけど)
(何の予定もないっていうのも久しぶり···今日は自分のために時間を使おう!)
ーーと思い、まず最初にしたことは、7年ぶりに新刊が出たマンガ『ガラスの能面』を買うこと。
(あ、あったあった)
新刊コーナーに積まれている『ガラスの能面』目指して歩いて行くと···
???
「買ってください、買ってくださいよー」
(ん?この声···聞き覚えがある気がする···)
声は児童書コーナーのほうから聞こえている。
(見るべきか見ざるべきか···)
見ない方が安全···そう思うのに、好奇心には逆らえない。
黒澤
「カチカチ山!オレの一番好きな話なんですよー」
石神
「なぜ俺が買わなければいけないんだ」
(黒澤さんに石神さん!子供向け絵本コーナーに、なぜ!?)
(しかも、どうして『カチカチ山』を石神さんにねだってるの···)
様々な疑問が去来するが、触らぬ神に祟りなし。
さっさとマンガを買ってしまおうとレジに向かうと、今度はーー
加賀
「これください」
サトコ
「!?」
(加賀さん!?手に持っているのは、女児向けのマンガ雑誌!?)
(めっちゃキラキラしてる···めっちゃ大きい目が描いてある···)
(少女の夢が詰まった雑誌を、加賀さんが持っている···)
これ以上見ていたら、目を潰されるーー
そんな危機感に襲われ、私はマンガをそっと平台に戻すと本屋を出た。
(うん、きっと行確の途中だったんだよ)
(あの本屋に尾行対象か何かがいたに違いない)
そう自分に言い聞かせ、コンビニに向かうことにする。
(なにしろ7年ぶりの話題の新刊だし、コンビニでも売ってるよね)
駅から自宅に戻る途中にあるコンビニに入る。
(あった、あった!)
先程買い逃したものを再び手に取ろうとすると、
難波
「っへぇ~、最近の子はこんなにたくさん化粧してんのか。もう舞台メイクじゃねーか」
颯馬
「いえ、これを全部塗るというわけでは···こら、後藤、どっか行かない」
「どの色が好きなの?」
後藤
「···全部、周さんに任せます」
背が高くてイケメンの、見間違えたくても見間違えられない集団。
(あそこは人気コスメブランドのコーナー···)
(今展開されているのは、『これで貴女も童話のプリンセスシリーズ』···)
(後藤さんの好きな色って?え?後藤さんはプリンセスなの?)
サトコ
「······」
またしてもマンガを棚に戻し、コンビニを出る。
背中で陽気な入出店の音が流れて消えた。
(あの駅付近は、今日は危険な日なんだ)
(せっかくのオフなんだから、妙なことに巻き込まれるのは避けたい···!)
逃げてきた先は吉祥寺の商店街。
そこの本屋でやっと新刊を手に入れ、お茶でも飲んで帰ろうかと思った時だった。
東雲
「······」
(え···今、輝くキノ···いや、東雲さんが!?)
東雲
「んー、いまいち···違うヘッドスパ探さないと···」
(ヘッドスパ!!)
(あの頭皮を極楽に導くという···私もまだ未体験のゾーンなのに···)
東雲さんの女子力の高さに愕然とする。
(···もう天使の輪が眩し過ぎて···プリンスというより、プリンセス···)
(プリンセスになりたいなら、ヘッドスパですよ、後藤さん···)
自分でも何を考えているのか、よくわからなくなっていると、ブルルーーとスマホが震えた。
連絡をしてきた彼はーー
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後藤誠二
東雲歩
黒澤透