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お遊戯会 加賀1話

スマホの画面には、加賀さんの名前が表示されていた。

(おめめキラキラ···少女漫画···)

さっき本屋で加賀さんが持っていた雑誌を思い出しながら、通話ボタンを押す。

サトコ
「は、はい···氷川です」

加賀
どこにいる

サトコ
「えっと···吉祥寺の商店街です」

加賀
今から言うところに来い

サトコ
「···もしかして、今すぐですか?」

加賀
当然だ

(加賀さん、さっきはうちの近くの本屋にいたから···待ち合わせはうちの近所の可能性が高い)
(急いで帰って着替えれば、加賀さんを待たせる時間も減る···!)

ここから家に戻るまでの時間を逆算しながら、必死に駅へと走った。

一度家に帰り、着替えてから最寄りの駅へと走る。
そこには、見覚えのある本屋の袋を持った加賀さんが立っていた。

サトコ
「お、お待たせしました···!」

加賀
遅ぇ

サトコ
「すみません···これでも、持ってる力を最大限に発揮して···」
「······」

(あの紙袋の中には、少女雑誌···おめめキラキラの···)
(きっと花ちゃんの、だよね)

サトコ
「でも花ちゃんには、まだあの雑誌は早いんじゃ···」

加賀
あ?

サトコ
「い、いえ···!」

加賀
このあと、時間あるか

サトコ
「はい。今日は予定もなく過ごすつもりでしたので」
「···もしかして、花ちゃんの家に行ったりします?」

加賀
······

(なんでわかった···みたいな顔で見てる···)
(花ちゃんのための本を探してるところを見てました···とは言えないし)

まるで不審者を見るような加賀さんの視線に耐えながら、その件については黙秘を貫いた。

外で食事した後、予想通り花ちゃんの家にお邪魔した。

加賀美優紀
「いらっしゃい。あら、サトコちゃん」

サトコ
「突然すみません」

加賀美優紀
「とんでもない。最近は兵吾から連絡があると、きっとサトコちゃんと一緒だと思ってるから」

加賀
花は?

加賀花
「ひょーごーーー!!!」

向こうから走ってきた花ちゃんが、体当たり気味に加賀さんに飛びつく

加賀
いい子にしてたか

加賀花
「してた!だいたいしてた!」

サトコ
「だいたい···」

加賀
土産だ

持っていた本屋の袋を、加賀さんが花ちゃんに渡す。
中身をチラリと確認して、花ちゃんはそれをぽーんと向こうへ投げた。

サトコ
「あっ」

加賀
······

(···加賀さん、ちょっとショック受けてる?)

加賀花
「アレもうれしいけど、いまのはなのきもちとはちょっとちがう!」

サトコ
「違うって?」

加賀花
「はな、いまはオオカミのきぶん!」

加賀
オオカミ···?

加賀美優紀
「実はね、今度町内会の出し物で、子どもたちがおゆうぎ会をやることになったんだけど」
「その演目が、赤ずきんなのよ」

サトコ
「赤ずきん···なら、女の子ですよね?なんでオオカミ?」

加賀花
「はなはオオカミやる!けだかいいっぴきオオカミなの!」
「あかずきんはかわいいけど、オオカミはかっこいい!はなのあこがれ!」

サトコ
「そっか、花ちゃんはオオカミに憧れてるのか···」
「でもね、オオカミは女の子を襲うっていう比喩にも使われてるし」
「花ちゃんはやっぱり、赤ずきんの方が」

そう言った瞬間、思い切り顔面をつかまれた。

サトコ
「ヒィ!痛い!」

加賀
花に余計なこと教えてんじゃねぇ

サトコ
「ちょっ、これはさすがに、花ちゃんの教育によくないですから!」

加賀花
「それ、アイアンクローっていうんでしょ?サトコがひょーごによくされてるやつ!」

サトコ
「ほら!花ちゃんが覚えなくてもいいことを覚えちゃったじゃないですか···!」

加賀花
「ねーひょーご、はな、オオカミのれんしゅうするから。ひょーご、あかずきんやって?」

サトコ
「えっ···加賀さんが赤ずきん···?」

加賀花
「そんで、サトコはりょうしね!」

サトコ
「私が猟師···逆のほうがいいんじゃ···」

加賀
おい、ボサッとしてんな。さっさとやるぞ

<選択してください>

本当にやるんですか?

サトコ
「ほ、本当にやるんですか?」

加賀
花がやる気になってんだから、やるしかねぇだろ

サトコ
「···加賀さん、段々と花ちゃんに甘いことを隠さなくなってきましたね」

加賀
あいつのやる気は長く続かねぇ
言いだした時に付き合わねぇと、すぐやる気失くすからな

(もう完全に、お父さんの目だ···)

花ちゃんに甘すぎる

サトコ
「前々から思ってたんですけど···加賀さん、花ちゃんに対して甘くないですか?」

加賀
テメェへの扱いと一緒だろ

サトコ

「雲泥の差ですよ!」

加賀
いいから、さっさと準備しろ。あんま待たせるとうるせぇ

配役、逆にしましょう

サトコ
「加賀さん···配役、逆にしませんか?」
「加賀さんが猟師、私が赤ずきんってことで」

加賀
花が決めた配役に文句あんのか

サトコ
「いえ!決してそういう訳ではなくて!」

加賀
ならつべこべ言うんじゃねぇ。やるぞ

花ちゃんが持っている絵本を参考に、早速練習が始まった。

加賀花
「あかずきんや、もっとこっちへきておくれ」

加賀
まぁおばあさん、とってもお耳が大きいのね

加賀花
「それはね、おまえのこえがよくきこえるようにだよ」

加賀
あら、おばあさんの目はなんて大きいの

加賀花
「それはね、あかずきんのことをよくみえるようにだよ」

(加賀さんが赤ずきんをやっている···いつもよりほんのちょっとだけ声が高い気がするし···)
(これは···黒澤さんとかが好きそうな展開かも)

花ちゃん扮するオオカミに加賀さん赤ずきんが食べられてしまい、猟師の出番となった。

加賀花
「すやすや···すやすや···」

サトコ
「なんと、おばあさんの家で寝ているのはオオカミじゃないか」
「あの大きなお腹には、まさか···?よし、お腹を割いてみよう」

加賀
······

横たわる花ちゃんのお腹に手を添えると、加賀さんが鋭い視線を向けてくる。

サトコ
「ほ、本気でやるわけないじゃないですか」

加賀
花には指一本触れるんじゃねぇぞ

サトコ
「私、そこまで信用ないんですか!?」

加賀花
「うーんりょうしさん、はやくおなかをきって···そしておばあさんとあかずきんをたすけて」
「そのあとは、オオカミのおなかにいしをつめて、ぬって···」

サトコ
「花ちゃん、今後の展開を全部喋っちゃダメだよ···?」

てんやわんやの騒ぎになりながらも、花ちゃんは楽しそうにオオカミ役を演じていた。

その後も花ちゃんと遊び倒し、ようやく寝かしつけた美優紀さんが戻ってきた。

加賀美優紀
「花の相手、疲れたでしょ。コーヒーでもどうぞ」

サトコ
「ありがとうございます。すみません、大騒ぎしてしまって···」

加賀美優紀
「サトコちゃんが来てくれると花が凄く楽しそうだから、嬉しいわ」

サトコ
「そんな···私なんて、加賀さんのオマケみたいなものですよ」

加賀美優紀
「オマケってことはないけど、花にとってはやっぱり、兵吾は特別なんでしょうね」
「あの子がどうして、赤ずきんじゃなくてオオカミを選んだか、わかる?」

加賀
あ?

加賀美優紀
「オオカミは悪者って言われてるけど、兵吾みたいにかっこいいから、ですって」
「 “一匹狼” っていう言葉も、兵吾みたいだから好きだって言ってたのよ」

加賀
······

(···今の話で、雑誌をポイされたことはきっと全部チャラだな)

加賀
薄気味悪く笑ってジロジロ見てんじゃねぇ

サトコ
「薄気味悪い···!」
「もう!私を照れ隠しに使わないでください!」

加賀
その口を黙らせるために、テメェの存在ごと消してやろうか

サトコ
「物騒!花ちゃんの前でそういうこと言っちゃダメですよ!」

加賀
言うわけねぇだろ

サトコ
「アイアンクローはするのに···」

なんだかんだ言いながらも、コーヒーをすする加賀さんの横顔はどこか嬉しそうだ。
そのあと花ちゃんの寝顔を見て、美優紀さんの家を後にした。

翌週、花ちゃんのおゆうぎ会まであと一週間ほどに迫った。

加賀
おい、この盗聴、ずいぶんと感度が悪ぃな

東雲
邪魔が入って妨害電波出されたみたいです。でも会話はギリギリ聞き取れますよ

加賀
聞き違いがあったらコトだろうが

舌打ちとともに、加賀さんが盗聴記録を確かめている。
そしてそれを物珍しげに見ている、石神さんたちの姿。

石神
なんだ···?あいつにしてはずいぶんと熱心だな
そんなに肩入れするほどの事件なのか

颯馬
いえ、先週末くらいからずっとあんな感じですよ

後藤
仕事を前倒ししようとしているように見えますが

黒澤
ややっ、あの加賀さんが仕事を前倒し!これは絶対、何かありますよ!
サトコさん、何か知りませんか?

サトコ
「い、いえ···私は何も···」

津軽
······

(加賀さん、きっと花ちゃんのおゆうぎ会に行くために、仕事を調整しようとしてるんだ)
(私も何か、手伝えることがあったら力になりたいけど···)

津軽
はーい、今日のウサちゃんの担当分

サトコ
「ハイ···」

ドサッと目の前に置かれた書類に、思わずため息がこぼれてしまう。

津軽
あれ~?なんかイマイチな反応?
もしかして、こっちの仕事よりも兵吾くんのほうを手伝いたい···とか?

サトコ
「めめめ、めっそうもない!私は津軽班ですから、そのようなことは···」

津軽
だよね~。いくら公安学校時代の恩師だとしても、今は別の班だし
公私混同どころか、下手したらうちの班への裏切り行為だもんね?

サトコ
「······!」

(津軽さん、何か勘づいてる···!?)
(でも私はまだ何もしてない···手伝いたいなって思っただけなら、セーフなはず···!)

大人しく書類仕事を終わらせて帰り支度をしていると、美優紀さんから電話が来た。

サトコ
「はい、氷川です」

加賀美優紀
『サトコちゃん?忙しいのにゴメンね』
『もしよかったら···衣装、一緒に縫ってくれない!?』

仕事帰りに美優紀さんの家に寄り、一緒に花ちゃんや他の子たちの分の衣装をチクチクと縫う。

サトコ
「これは···結構ボリュームありますね」

加賀美優紀
「でしょ?これでもだいぶ担当割り振りしたのよ」
「まぁ花のオオカミ衣装はすぐに縫い終わっちゃったけど」

サトコ
「ふふ。でもかわいいですね。加賀さんみたいだからオオカミがいい!なんて」

加賀美優紀
「そうね···でも花にとって兵吾は特別だけど、兵吾にとっても同じみたい」
「詳しいことは話したがらないんだけど、兵吾、花が生まれた頃に何かあったらしくて」

サトコ
「何か···?」

加賀美優紀
「花に救われた、って一度だけポツリと言ってたことがあるのよね」
「あんなに愛情表現がへたくそな子が、姪っ子を溺愛するなんて思ってもみなかったけど」
「まぁ···刑事だから、きっといろいろあるんでしょうね」

(何か、か···)
(もし本当に、花ちゃんがそのときの加賀さんを救ってくれたんだとしたら···)

サトコ
「花ちゃんは、私にとっても恩人になるんですね」

加賀美優紀
「え?」

サトコ
「花ちゃんが加賀さんを救ってくれなかったら、今の加賀さんはないですから」
「わかりにくくてもちゃんと愛情表現してくれる加賀さんになったのは、花ちゃんのおかげです」

加賀美優紀
「···サトコちゃん!本当に兵吾でいいの!?」

サトコ
「は、はい···!?」

加賀美優紀
「あの男にはもったいない!もっといい人がいるのに···不憫な子···」

(『あの男』···)

苦笑しながら、美優紀さんとともに衣装を縫い続けた。

衣装の量は、一日で完成するようなものではなく···
その後も、仕事が終わったあと美優紀さんとともに衣装を縫い続ける日が続いた。

東雲
···で?

サトコ
「折り入って、東雲さんにお話があります···」

東雲
絶対ロクなことじゃないよね

(どうしても加賀さんには、花ちゃんの晴れ舞台を見て欲しい···)
(それに花ちゃんも、きっと加賀さんに一番に見て欲しいはず···!)

東雲
言っとくけど、ちょっとやそっとのことじゃ買収はされないから

サトコ
「それは公安学校時代で痛感してます···」
「···ところで、東雲さん」

スッ···と私が胸元から取り出したのは、とあるチケット。

サトコ
「いいヘッドスパのお店があるって、鳴子から聞いたんです」

東雲

···へぇ···

サトコ
「これはそのお店の優待券です。普段受けられないサービスが受けられるそうで」
「しかも、常連しか受け付けていないそうです···今なら特別に、これを東雲さんに」

東雲
···何が望み?

サトコ
「加賀さんの仕事が楽になるように、私に雑用を回してもらえませんか」
「もちろん、周りにはバレないように」

東雲
···キミも色々と学んできたみたいだね

私からチケットを受け取ると、東雲さんが悪い笑みを浮かべる。

東雲
裏切り行為、か···公安っぽくていいよね
ま、バレたら終わりだけど

(バレないように、振る舞ってみせる···)
(だって、加賀さんに花ちゃんの晴れ舞台を見てもらうためなんだから!)

津軽
なんで呼び出されたのか、わかってるよね?

サトコ
「う······」

津軽
最近ずいぶんと、加賀班と密に連携してるみたいだけど?

(なんでバレたの···!?いや、津軽さんに秘密を作るなんて、無理な話だった···)
(こ、こういうときは···)

<選択してください>

毅然とした態度で臨む

サトコ
「なんのことでしょう?私は、加賀班とは···」

津軽
そういうのいいから

ぴしゃりと言われて、思わず肩を竦めた。

津軽
まあいいんだよ?兵吾くんはウサちゃんの恩師だしね
でも···
その忠誠心を、俺にも向けてほしいなぁ

自白する

サトコ
「ちょっとだけ···ほんのちょっとだけ、手伝いました」

津軽
なんで?

サトコ
「その···誰でもできる雑用だったので」

津軽
でもうちだって、猫の手も借りたいってわかってるよね?
その忠誠心を、俺にも向けてほしいなぁ

黙秘権を行使する

(絶対に何もしゃべらない!黙秘権を行使···)

津軽
喋らなきゃ済むと思ってる?

サトコ
「ひいっ······」

頬をぺちぺち軽く叩かれただけで、得体の知れない恐怖が襲い、
気が付いた時にはあらかた話していた。

津軽
なるほどねぇ。忙しい兵吾くんのために、か···

(な、なんとか花ちゃんのことだけは話さずに済んだ···)

津軽
その忠誠心を、俺にも向けてほしいなぁ

サトコ
「そ、それはもちろん···」

津軽
なら···モモ

百瀬
「はい」

いつの間にかやって来ていた百瀬さんが私の前に置いたのは、膨大な書類。

(普段の3倍はある···!まさかこれを、ひとりで···!?)

津軽
期限は来週まで

サトコ
「ハイ···」

津軽
いいお返事、可愛いね

普段の仕事の他に、今は花ちゃんの衣装作りがある。
正直、来週までに終わらせられる気がしない。

百瀬
「バーカ」

サトコ
「!!!」

(···いや!絶対やり遂げてみせる!)
(加賀さんに、気持ちよく花ちゃんのオオカミを見てもらうために···!)

to be continued

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