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本編① 津軽1話

警察庁警備局公安課。
日本の公安警察の総元締とも呼ばれる場所。
そしてその国家の安全を確保する組織が、さらなる強化のために発足させた公安学校。
公安学校の第一期卒業生が配属されたのが、この春ーー
首席入学にして首席卒業という肩書を持つ彼女もまた、春の嵐に身を投じようとしていた。

公安員A
「今日来る新人、例の学校、首席入学で首席卒業なんだってよ」

公安員B
「え?俺はスゲー落ちこぼれって聞いたけど?」

公安員C
「噂の差が激し過ぎないか?」

公安員A
「教官をしていた皆さんは知ってますよね?」

後藤
首席···か

加賀
存在した記憶がねぇな

石神
未確認生物のような言い方をするな

颯馬
言ってるのは、石神さんだけですよ

公安員C
「存在はしてるみたいですね···」

公安員B
「百瀬さんは何か聞いてますか?」

百瀬
「······」

公安員A
「聞いてないみたいですね」

東雲
あの子だったら···
今頃、おまぬけな顔で、この建物でも見上げてるんじゃないですか?

サトコ
「今日から、ここが私の職場···」

国家の安全の要となる建物を首がいたくなるほど見上げる。

(これまで教官方のお遣いで来たことはあるけど、ここで働くとなると格別)
(公安刑事になれたんだ···!)

サトコ
「よし!」

(二度寝しかけて慌てたせいで、部屋はグチャグチャ···だけど、今日は良い日!)
(新たな第一歩、笑顔で頑張ろう!)

入庁後、早速配属式が行われーー

(配属先は難波室じゃなかった···けど、落ち込んでる場合じゃない!)
(銀(しろがね)室は、どんなところなんだろう)

緊張しながらも、課の皆さんに挨拶していく。

サトコ
「氷川サトコです。今日から、よろしくお願いします!」

公安員A
「なあ、あれが···」

公安員B
「本当にあいつが?」

公安員C
「嘘だろ?もっと凄い顔のが来るんじゃ···」

(···何か見られてる?)
(いやいや、こういうのは自意識過剰っていうのかも)

後藤
ようこそ、氷川

サトコ
「後藤教官···いえ、後藤さん!」
「これからよろしくお願いします!」

(知ってる人に会うと、ほっとする···いてくれてよかった!)

後藤
これ

後藤さんが私の手に乗せたのは1本の缶コーヒー。

サトコ
「新人がもらっていいんですか?」

後藤
これからは、これを買う時間もそう簡単に取れなくなる

サトコ
「ありがとうございます!本当に必要な時まで大事に取っておきます!」

公安員A
「おい!あいつ、後藤さんから···!」

公安員B
「許せねぇ!」

(ん?何か視線に敵意が混じったような···?)

後藤さんと話していると、他の教官方も顔を見せてくれる。

石神
ここからが正念場だ。しっかりやれ

サトコ
「はい!」

颯馬
これまでの積み重ねを活かす時です。思う存分活躍してください

東雲
それって、さりげないプレッシャーじゃありません?

颯馬
首席の卒業生に期待をかけるのは当然のことですよ

公安員C
「やっぱり、あいつが首席なんだ!」

東雲
まあ、そういう箔付きには慣れてるだろけど、ウラグチさんは

サトコ
「もうウラグチじゃありませんってば」

加賀
俺の顔を潰そうもんなら、先にお前を叩き潰す

サトコ
「激励ありがとうございます!」

公安員A
「あの人たちに可愛がられるって···」

公安員B
「やっぱり、ただ者じゃないのかも!」

(今、可愛がられてるって言った···?)
(まあ、相撲部屋的な意味合いでは可愛がりかもしれないけど)

短い距離を歩いているうちに頭やら肩やら背中やらを叩かれた私はヨレッとなっている。

サトコ
「あれ?そういえば、難波室の皆さんが、ここにいるということは···」
「私の席は、この辺りじゃないってことでしょうか」

石神
いや···

サトコ
「私、銀室の配属になったんです。銀室は···」

???
「本日より、銀室を新たに編成する」

サトコ
「!」

室内の空気を引き締めるような声が響いた。
石神班、加賀班を含む公安員全員の顔に緊張が走る。

(いったい誰が来たの?)

振り返ると、そこに立っていたのは大柄なひとりの男性。

???
「銀室を統括する、銀だ」

(この人が、銀室長!)


「銀室は今回特別に組まれた、警察庁公安課の精鋭を集めた特殊実働部隊である」

(特殊実働部隊···難波室も警察庁公安課の実働部隊だって聞いてたけど)
(銀室は、より特別な···?)


「銀室の編成を受け、難波室は当座の間、凍結扱いとなる」

サトコ
「え···」


「難波は別の任務に就くため、その期間、難波室の人員については銀室で預かることになった」
「石神、加賀。凍結中は銀室の一員としての自覚を持って行動するように」

石神
はい

加賀
はい

(難波室長の前にいる時より、お二人とも緊張してる?)


「氷川サトコはいるか?」

サトコ
「はい!」


「お前は津軽班配属だ」

サトコ
「はい」


「以上。それぞれに仕事に戻れ」

(え···でも、肝心の津軽さんって、誰···)

サトコ
「すみません!」


「······」

公安員A
「あいつ、銀室長を呼び止めたぞ!」

公安員B
「首席を取るヤツは命知らずだな」

(銀室長って呼び止めることもNGな人なの!?)


「何だ」

サトコ
「あ···その、津軽班長は、どちらに···」


「それは俺にすべき質問か?」

サトコ
「!」

鋭い視線に射抜かれ本能的に全身が固まった。
脳の奥まで震えるような感覚。

(これが銀室長···!)

サトコ
「···自分で探します!」


「そうしろ」

銀室長が背を向けて歩き出すと、金縛りが解けたように力が抜けた。

(銀室長、すごい人···いや、それよりも津軽さん!)

サトコ
「津軽さんは、この中にいらっしゃいますか?」

大きな声で尋ねるも、返事はない。

サトコ
「津軽さんって、どんな方ですか?」

後藤
津軽さんは···

加賀
ホクロだ

サトコ
「ホクロがあるんですね?」

東雲
宇宙語で話してる

サトコ
「宇宙語!?」

後藤
···話が通じないことが多い、ということだ

颯馬
けれど、ああ見えて身体能力は、なかなかのものですよ
組み合った時の力は···ゴリラ並みですね

サトコ
「ゴリラ···」

私の頭の中の津軽さんが想像の2倍くらいまで膨らんだ。

石神
基本的に人の話は聞いていないと思え

サトコ
「わかりました。つまり、津軽班長というのはーー」
「ホクロが特徴的で···話が通じない上に聞いてないゴリラ?」
「歩いていれば、すぐに見つけられそうですね」

東雲
早く見つけた方がいいよ。津軽さんの忠犬より先に

サトコ
「犬も飼ってるんですか?ここで!?」

後藤
忠実な部下がいるという意味だ

サトコ
「あ、なるほど」

石神
確かに先に見つけた方が厄介は緩和される

サトコ
「了解です。アドバイス、ありがとうございます!」

(ゴリラ並みに大きい人なら、すぐに見つかるはず!)
(話が通じないのは···追々、何とかなるだろう)
(あの教官たちに揉まれてきたんだし)

そんな楽観的に考えていたもののーー

(津軽さん、全然いない!)
(話を聞かないゴリラは、どこ!?)

警察庁中を探し回った。
ゴリラのような体格の人は何人か見かけたけれど、どの人も津軽さんではなかった。

サトコ
「今は外に出てるとか···?」

肩で息をしていると···コツ、とすぐ横で靴音が響く。

???
「誰か探してるの?」

サトコ
「あ、はい。津軽さ···いえ、津軽警視を···」

振り返ると、目の前にあるのはネクタイだった。
自然と視線が上にあがり、そこに立っていたのはーー

???
「ん?」

サトコ
「!」

おそらく8頭身は間違いない。
軽く壁に肩をもたれかけ、腕を組む姿は
どこか気怠げな雰囲気もあるけれど。
それよりも、何よりもーー

(なに、このモデル雑誌から抜け出てきたような警察に似合わない美形は!?)

to be continued

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