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本編① 津軽3話

何とか津軽班に合流し、やっと動き出した初日。
私たち3人は一台の車に乗っていた。
運転席には百瀬さん、助手席に津軽さん、後部座席には私。

津軽
この曲なんだっけ?

ラジオから聞こえてきた音楽に、津軽さんがぽつりと聞いた。

サトコ
「これは···」

百瀬
「REVANCEの曲ですよ。先週リリースされたーー」

津軽
ああ、そっか。あれか

小さく頷いた津軽さんが鼻歌を歌い始めた。
窓の外を眺めながら歌う姿は様になっていて、見惚れてしまいそうだけれど。

(津軽班で出るってことは、早速捜査に···?)

エンジン音に合わせるように鼓動を早くすれば···ゆっくりと車が信号で止まった。

(あれ?あのスーパーの前にいる着ぐるみ···)

サトコ
「 “焼きウサギ” だ」

津軽
ウサギを焼くなんて···君って平気は顔で残酷なことを言うんだね

バッグミラー越しに津軽さんと目が合う。

サトコ
「あのスーパーのところにいる着ぐるみですよ」
「風船を配ってるの、ゆるキャラの “焼きウサギ” です」

津軽
雪ウサギに焼き目を付けて “焼きウサギ” ?好きなの?

サトコ
「はい。可愛いので好きです」

津軽
じゃあ、ウサちゃんだ

サトコ
「え?」

鏡越しの目が笑う。

津軽
「ウサちゃんで決まりね。コードネーム」

サトコ
「コードネーム!?」

<選択してください>

コードネームつけるんですか?

サトコ
「津軽班はコードネームつけるんですか?」

津軽
つけないよ

サトコ
「じゃあ、ウサちゃんというのは!?」

津軽
やだな、もう忘れたの?ウサギが好きだからウサちゃんって言ったばかりじゃない

サトコ
「いえ、だから···」

(···そうだ、話が通じないんだった)

百瀬さんのコードネームは?

(津軽班はコードネームをつけるの?)

サトコ
「百瀬さんのコードネームは?」

津軽
ええと···ポチ?

百瀬
「せめてケルベロスにしてください」

(適当につけてるんだ···)

ふざけたこと言わないでください

サトコ
「ふざけたこと言わないでください」

百瀬
てめぇ···

(ひっ)

バックミラー越しに鋭い視線に貫かれた。

津軽
ウサちゃん···うん、言いやすくていいね

(···そうだ、話を聞かない人なんだっけ)

(ウサちゃんで班に馴染めるなら、いいか···)

津軽
···これなら覚えやすい

サトコ
「え?」

津軽
ねぇ、公安学校って、どんなところだった?

サトコ
「どんなところというと?」

津軽
公安学校の子に会うの初めてだから。話聞きたいなと思って

サトコ
「厳しいところでした。入学したばかりの頃は卒業できるか不安でしたが···」

津軽
君、首席入学なのに?

サトコ
「···それくら緊張感のある場所だったんです」
「でも、教官方の素晴らしいご指導のおかげで、みんな頑張れました」

津軽
国のために死ねる駒に育ててもらったってこと?

サトコ
「!」

ミラー越しに笑ったままの目に見つめられドクンと心臓が脈打った。

(国のために死ねる駒···公安刑事としての心構えは教えられたけど)
(そこまで···?)

覚悟ができているかと聞かれればーー

サトコ
「······」

津軽
あれ、この曲なんだっけ?

サトコ
「え?」

(さっきも聴いたREVANCEの曲なのに)

百瀬
「REVANCEの曲ですよ。先週リリースされたーー」

津軽
ああ、そっか、あれか

(私、タイムスリップしてる···?)
(いやいや、時計はちゃんと進んでる!)

サトコ
「津軽さんって、本当に人の話を聞いてないんですね···」

百瀬
「おい」

津軽
いいよ。俺って、興味の無いこと全然覚えれられないんだよね~

サトコ
「興味がないのに二度も聞くんですか?」

百瀬
「おい!」

サトコ
「!」

(口は閉じてた方がいいみたい。つい、余計な一言が···)

百瀬
「俺が教えるからいいんだよ」

サトコ
「はい···」

(ご飯食べたか何度も確認するおじいちゃんとお嫁さん···とは口が裂けても言えない···!)

津軽
情報の取捨選択は公安に必要なスキルだ

サトコ
「ものは言いようですね」

津軽
ん?

サトコ
「あ、いえ!その通りだと思います!」

(津軽さんの話を聞いてると、ついウッカリ本音が出そうになる!)
(ほんとに気を付けないと···)

本音を引き出す特殊な会話術でもあるのだろうかと考えていると。
車は有名老舗デパートの前に停車した。

(ここが目的地?)

津軽
ウサちゃんは、ここで降りて

サトコ
「私はここで何を?」

津軽
 “魔女ッコ★ラブピュア” のステッキ買ってきて

サトコ
「魔女ッコ···ラブピュア···?それが今回の捜査と、どういう関係が···?」

津軽
長官のお孫さんがハマってるんだって
ラブピュアグッズってすごい人気で、品薄らしいから頑張って探して

サトコ
「それって···」

百瀬
「ここで見つからなかったら、別の店に行けって意味だ」

サトコ
「いえ、そうじゃなくて···これって仕事なんですか?」

津軽
上司への忖度も立派な仕事
じゃ、行こう。モモ

百瀬
「はい」

サトコ
「津軽さんたちは、どこへ···」

津軽
捜査に決まってるでしょ

サトコ
「ちょ···え!?」

(私はお遣いで、津軽さんたちは捜査!?)

口をパクパクさせる私を置いて、無情にも車は走り出した。

(初日から捜査に連れて行ってもらえるなんて思うのは甘かったか)

サトコ
「ふぅ···」

(雑用をこなす力は公安学校で鍛えられてるんだから)
(絶対に手に入れてみせる。 “ラブピュア” ステッキ!)

オモチャ売り場に行くと、まず目についたのは “焼きウサギ” グッズの数々だった。

(人気があるのは知ってたけど、こんなに流行ってたんだ)
(あ、この “焼きウサギ” の抱きぐるみ可愛い···じゃなくて、 “ラブピュア” は···)

女児向けのコーナーを見回していると。
背筋から頭の先までピリッとするような感覚が走った。

(誰かに見られてる···つけられてた!?)
(長官へのプレゼントを阻止しようとする何者かが···)

気を引き締めた時、ぐいっとジャケットの裾が引っ張られた。
しかも下から。

サトコ
「え···?」

美少女
「······」

透き通った薄い瞳と輝くブロンド。
年齢は4,5歳といったところだろう。

サトコ
「迷子?」

美少女
「······」

サトコ
「···言葉、分からない?」

美少女
「······」

(案内所に連れて行ったほうがいいみたい)

サトコ
「大丈夫だよ。すぐにお母さんか···お父さん?一緒に来た人、見つかるからね」

少女の手を引いて歩き出すと、カツカツと高いヒール音が近付いてきた。
振り返ると、そこにはピンヒールの女性が鬼のような形相で立っていて。

サトコ
「あの···?」

女性
「······」

パンッという弾けた音が鼓膜を震わせたと同時に。
頬に焼けつくような痛みが走った。

to be continued

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