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本編① 津軽8話

資料室で新たな事実に気付いてから数日後。
私は津軽さんを会議室に呼び出した。

津軽
どしたの。告白なら色気ある場所がいいな、俺

約束の時間を15分過ぎてから、明太胡麻チョコレートの小袋を手にやって来る。

(津軽さんのペースに乗せられたら終わり)
(私はただ伝えるべきことを正確に告げるだけ)

小さく深呼吸して、私は新たな報告書を突き付けた。

津軽
なにこれ?

サトコ
「とにかく目を通してください」

津軽
そんなに暇じゃないんだけどなぁ

明太胡麻チョコレートを口に放り込み、頬杖をついた津軽さんが報告書をめくり···

津軽
······

(津軽さんの表情が変わった···!)

一見、無関心そうな顔だけれど。
よく見ると、その目が意識的に報告書に向けられている。

(報告するなら、今しかない!)

サトコ
「有島秀哉(ありしま しゅうや)」
「大手玩具メーカーALILAND(アリランド)CEOの行確報告書です」

津軽
···で、この男が何?

サトコ
「五ノ井博士の食生活を調べている時、『有島』という名で予約が入っていました」
「報告書には添付しませんでしたが、これがその時の会食の写真です」

食事を隠し撮りした時の会食風景の写真をテーブルに置く。

津軽
五ノ井博士がALILAND、CEOの有島秀哉と会食してた。それが?

サトコ
「私が張り付いていた1週間以外の予約についても調べました」
「五ノ井博士は有島と週に2~3回食事をしています」

津軽
それで?

サトコ
「有島と五ノ井博士について調べたところ、ALILANDは研究所に多額の出資をしていました」

津軽
まあ、金が絡むなら接待するのは当たり前だよね

サトコ
「遺伝子の研究所と玩具メーカーです。普通に考えれば接点がない」
「それがこれだけ接触してるというのは、何かあるんです」

津軽
遺伝子レベルでリサーチして玩具開発をしてるって可能性は?

サトコ
「ないとは言えませんが、そういった可能性で流せない事情があります」

語気を強めると津軽さんの顔が上がった。
今日初めて···いや、彼に出会って初めてきちんと目が合ったかもしれない。

サトコ
「ALILANDの本社は福岡にあります。津軽さんのそれ、福岡土産ですよね」

津軽さんの持っている明太胡麻チョコレートの袋を見る。

サトコ
「津軽さんは福岡に行ってきた。私には偶然とは思えません」

津軽
······

サトコ
「私の権限ではALILANDの詳細な情報までは調べられませんでしたが···」
「公安の監視対象だった研究所と高頻度で接触している企業が」
「何かの事件の捜査線上に浮かんできている···」
「推測を含むのは否めませんが、これが私が五ノ井博士の食生活から得た調査結果です」

津軽
···じゃあ、最初に出した報告書は何?

サトコ
「あれは···」

<選択してください>

ゴミです

サトコ
「ゴミです。津軽さんがゴミ箱に捨てたように」

津軽
まあ、俺がいつも正しいのは仕方ないよね

サトコ
「だけど、今回の調査に前回の報告書が役に立ちました」

津軽
地球環境のためにも紙資源は無駄にしちゃダメだよ

(相変わらず人の話を聞いてない人だな···)

すみませんでした

サトコ
「すみませんでした」

津軽
何で謝るの?

サトコ
「求められた答えを出せなかったからです」

津軽
じゃあ、やっぱりあれはゴミだったんだ?

サトコ
「いえ。あの調査があったから、今回の調べを進めることができたんです」
「だから、ゴミじゃありません」

津軽
ゴミはゴミ箱に入れないとね

サトコ
「······」

(津軽さんはどうしてもゴミにしたいんだな···)

必要なステップでした

サトコ
「必要なステップでした。あの間違いがあったから、ここに辿り着けたんです」

津軽
リサイクル?

サトコ
「え···」

(そう···なの?情報を再利用って意味では合ってる?)

津軽
俺、エコバッグ持ち歩いてるんだ。エライでしょ

サトコ
「はぁ···」

(相変わらず話が飛ぶ人だな)

サトコ
「···とにかく」

私は息を整えると、背筋を伸ばす。

サトコ
「前回の報告書は言われたことを額面通りに受け取り、それ以上のことはしませんでした」
「その点については反省しています」

津軽
······

津軽さんが報告書の最後のページまでめくり終える。
そしてガタッと立ち上がった。

津軽
······

(反応なし?この報告書でもダメ?)

ゴミ箱に捨てたときと同じように津軽さんは無言で背を向け、会議室を出て行こうとする。
ドアノブに手をかけ···一歩出たところで立ち止まった。

津軽
何をしてる

サトコ
「え?」

津軽
ぼーっとするな。捜査会議だ

サトコ
「!」

(捜査、会議···)

サトコ
「は、はい!」

もつれる足で駆けだすと、思い切りイスの角につま先をぶつけた。

サトコ
「~っ!」

(頑張れ、私!)

奥歯を噛むと津軽さんの背中を追いかけた。

(やった!ついにやった···!)

その日の夜遅く、私は踊り出しそうな勢いで警察庁から飛び出していた。

(研究所調査を担当させてもらえた!捜査に加われた!)

後藤
氷川、帰りか?

サトコ
「後藤さん!はい!」

後藤
その様子だと···居場所、見つかったのか?

サトコ
「まだはっきりとはわかりません。でも隅っこくらいは見つけられたかも」
「参加、させてもらえました!」

後藤
そうか

後藤さんの声が明るくなるのが伝わってきた。

(後藤さんって本当に素晴らしい先輩···公安課の清涼剤!)

サトコ
「後藤さんの言葉があったから、逃げずに立ち向かえたんです」
「ありがとうございました!」

後藤
動いたのはアンタだ。よくやった

サトコ
「これから頑張ります!」

(今日はゆっくりお風呂に入って、グッスリ寝て···)

サトコ
「ああ!お風呂、壊れてたんだった!」

後藤
···大丈夫か?

サトコ
「あ、はい。近くに銭湯があるんで、そこに行きます」

後藤
気をつけてな

サトコ
「はい!お疲れ様でした!」

後藤さんに大きく頭を下げ、私は一度家に帰ってから銭湯に行くことにした。

(今日はご褒美にコンビニで高いアイスを買って帰ろうかな)

銭湯の帰りに買って帰るものを考えながら歩いていると。

???
「ねぇ」

サトコ
「!?」

突然、至近距離で男の声が耳に吹き込まれた。

to be continued

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