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本編① 津軽9話

気分よく仕事を終え、銭湯に向かっていると。

???
「ねぇ」

サトコ
「!?」

突然、真後ろから野太い声に呼び止められた。

チンピラA
「おねーさん、どこ行くの?」

チンピラB
「俺たちと夜の街に繰り出そうぜー」

(うわ、典型的なチンピラ!)

サトコ
「いえ、用事があるので結構です」

(今日は良い日だったんだから、面倒起こさないでよ~)

心の中でそう祈りながら、肩を小さくして立ち去ろうとすれば。

チンピラC
「そんなツレないこと言うなよ。楽しもうぜ?」

(テンプレ回答!)
(ここで男たちを撃退はできるけど、出来れば騒ぎを起こしたくないし···)

サトコ
「あの、本当に結構ですので!」

隙を見て横からすり抜けようとした時だった。

目つきの悪い男
「こんなとこで、何しとんじゃあ!」

サトコ
「!?」

イケメンの男
「女の子は大事にしないと」

太めの男
「ぷふっ!この子、『ラブ★メモ』の沙織ちゃんに似てる」

背の低い男
「人のナワバリで、なにしくさってやがる」

(別のヤンキーグループ登場!?)

新しく現れた彼らは、ザッと砂埃を立てながら私の前に立った。

目つきの悪い男
「行け」

眼光を光らせながら、男がチラリと振り向く。

サトコ
「いいんですか?お任せして···」

イケメンの男
「今度会ったらお礼してね」

(この人たちも強そうだし、任せて大丈夫かな)

サトコ
「じゃあ、失礼します」

肩をどつき合う彼らの横をササッと通り抜けた。

サトコ
「はぁ~」

(お風呂気持ちよかった。コンビニでご褒美アイス買って帰ろ!)

浮かれながら外灯の下を歩いていると。
前方に人がうずくまっているのが見えた。

サトコ
「あれは···」

(さっき私に絡んできたチンピラ?)

彼らの顔には青痣や裂傷がいくつもあり、グロッキー状態だ。

チンピラA
「あの女···!」

チンピラB
「あの女のせいで、俺らはやられたんだ!」

サトコ
「ええっ!?」

チンピラC
「あいつをボコして憂さ晴らしだ!」

サトコ
「私は全然関係ないんですが!?」

チンピラA
「うるせぇ!ごちゃごちゃ言うんじゃねぇ!」

(くっ、なんて暴論!)

男に腕を掴まれ、いよいよ応戦しなければと覚悟を決めた時。

津軽
ウサちゃん?

サトコ
「へ···?」

ふわふわした声が聞こえてきて、一瞬場の緊張が緩む。

津軽
やっぱり、ウサちゃんだ

サトコ
「津軽さん!?」

(どうして、津軽さんがここに?)

チンピラA
「な、何だよ、お前は···!」

絡まれている私を見ても全く表情を変えない津軽さんに、チンピラもたじろいでいるのがわかる。
私たちが戸惑っている間に、津軽さんはどんどん近づいてきた。

津軽
知り合い?

サトコ
「いいえ、全く、全然!」

津軽
何だ、彼氏かと思ったのに

サトコ
「好みじゃありません!」

津軽
あ、そうなんだ

チンピラA
「おい、お前ら!俺を無視すんじゃねぇ!」

津軽
まだいたの?

チンピラA
「ああ゛!?」

チンピラが津軽さんの胸倉をつかみーー

チンピラB
「お、おい!ダメだ!」

チンピラC
「死ぬぞ!」

サトコ
「え?」

チンピラ仲間は津軽さんに···ではなく、津軽さんに突っかかってる男に言っている。

(死ぬって···津軽さんが殺すの!?)

津軽

チンピラA
「!こ、こいつ···わかったよ!チッ!運のいいヤツめ!」

チンピラたちは明らかにさっきより怯えた顔で退散して行った。

津軽
ああいう捨て台詞って台本でもあるのかな

サトコ
「津軽さん···何者なんですか?」

津軽
津軽さんだけど

サトコ
「そういう意味じゃなくて。あのチンピラ、津軽さんを見て逃げていきましたよね?」

津軽
そーかなー
まあ、警察の匂いでもしたのかもね

サトコ
「······」

(かつての教官方ならともかく、この津軽さんから警察の匂い?)

津軽
ウサちゃんは、いい匂いがするね

サトコ
「ちょ···!」

いきなり後ろから髪や首筋に鼻先を押し付けてくる。

サトコ
「な、何なんですか!」

津軽
石鹸の匂い。お風呂行ってきたの?

サトコ
「部屋のお風呂が壊れてて」

津軽
へー、それは災難だね

全く気持ちのこもっていない声で言われ、私もはいはいと受け流す。

サトコ
「···どうして隣を歩いてるんですか?」

津軽
また絡まれたら困るでしょ

サトコ
「送ってくれると···?」

津軽
俺って優しいから

サトコ
「いえ、その必要は···」

津軽
いいよ、お礼は別れ際で

サトコ
「······」

(津軽さんって、とことん自己肯定派だな···)

何を言っても無駄だと再認識しながら、大人しく津軽さんの隣を歩いて行った。

サトコ
「あ、ここなので···」

津軽
うん、ここなので

サトコ
「もう大丈夫ですから」

帰ってください···という私を無視して、津軽さんがオートロックに鍵を突っ込んだ。

サトコ
「それ、私の鍵···じゃない!?え、どうして、津軽さんがここの鍵を!?」

津軽
ただいま~

サトコ
「!?」

津軽
俺の家、ここの1番上だから
仲良くしてね、ご近所さん

サトコ
「!!??」

(ここの最上階に住んでるってこと!?ワンフロアの高級物件じゃなかかった?)

<選択してください>

そんなに給料いいんですか?

サトコ
「警視って、そんなにお給料いいんですか···?」

津軽
薄給だよ、薄給

(ウソだ···じゃなかった!それより、津軽さんが同じマンションに住んでるって···)
(天はなぜ私に、そんな試練を···?)

冗談はやめてください

サトコ
「はは···冗談はやめてくださいよ」

津軽
おすそ分けとかお土産とか持ってきていいよ

(冗談じゃないんだ···津軽さんが同じマンションに住んでる···)
(天はなぜ私に、そんな試練を···?)

引っ越そうかな···

サトコ
「引っ越そうかな···」

津軽
ルームメイトは募集してないよ?

サトコ
「誰もそんな話してません···」

(津軽さんが同じ建物に住んでるなんて)
(天はなぜ私に、そんな試練を···?)

五ノ井博士が所属する研究所ーー遺伝科学生物物理学研究所で論文発表会が開かれる日。
私は記者のひとりとして会場に潜入していた。

(今なら、研究所内を調べれる!)

学会会場を離れ研究所に潜り込む。

(博士のラボは、どこだろう)

研究所内を調べていると、いつの間にか地下3階まで来ていた。

(急に周りの空気が下がったような···)

同時に何とも言えない薬品臭さが鼻につく。

(ここは何のフロアなの?)

聞こえるのは機械の作動音だけ。
緊張しながら進んでいくと。

サトコ
「え···?」

急に視界が拓けたーーような感覚だった。
左右に並ぶのは透明な器···いや、正確に言うならばホルマリン漬け。

サトコ
「な、に、これ···」

容器の中に浮かんでいるのは肌色の小さな···おそらく生き物だった。

(胎児?生きてる···?)

人が触れてはいけない領域に踏み込んだようで、耳鳴りがするほどの緊張に襲われる。
動き出すまでにかなりの気力が必要だった。

サトコ
「······っ」

(こんな時、教官たちだったら···)

加賀
さっさと行け!クズが

サトコ
「はい、今すぐ行きます!」

頭の中の加賀さんに蹴飛ばされるように一歩を踏み出す。
容器をなるべく見ないようにしつつ室内を見回すと、隅に管理用らしきPCを見つけた。

(こういう時、東雲さんは···)

東雲
悩んでたら、PCが慮って情報くれるわけ?

(一か八かでも、とにかくやってみる!)

私は腕時計に内蔵されているUSBメモリをPCに接続する。
そして東雲さんから教えてもらった知識と技術を駆使しーーー

(やった!DLが始まった!)

PCの情報を抜くと、周りを見ないようにしてその場を走り去った。

誰にも見つからず上まで行き、ほっと肩で息をつく。

(学会が終わる前に研究所を出よう)

???
「ねぇ」

サトコ
「ごめん、今忙しくて···」
「!?」

(誰!?)

パッと振り返ると、誰もいない···と思いきや、服の裾を引っ張られる。

美少女
「前にも会ったよね」

サトコ
「あなた···!」

(玩具売り場で会った美少女!どうして、ここに?)
(学会参加者の娘さんとか?)

美少女
「どうして、ここにいるの?」

サトコ
「ええと···ちょっと仕事で。急ぐから、ごめんね!」

長居は無用と、急いで研究所を出た。

幸いタクシーは近くにたくさん待機していた。

サトコ
「霞が関まで」

運転手
「はい。可愛いですね、姉妹ですか?」

サトコ
「え?」

美少女
「そう、お姉ちゃん」

サトコ
「お、おねえ!?」

(どうして、ここにいるの!?)

声にならない叫びが口から飛び出した。

to be continued

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