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本編① 津軽11話

津軽
あ、起きた?

サトコ
「!?」

寝起きの耳に飛び込んできたのは津軽さんの声。
全く知らない部屋。
けれど何となく見覚えがあるのは、同じマンションの最上階だから。

(ここは津軽さんの部屋···!)

サトコ
「す、すすす、すみません!」

ベッドから飛び出すと、床に額をこすりつけんばかりの勢いで頭を下げた。

(酔っ払って上司のベッドを占領しちゃうなんて!)
(やっと津軽さんの視界に入れたのに、この失態は···!)

津軽
昨日のこと覚えてるの?

サトコ
「気持ち悪くなって、お店の外に出たところまでは何とか」
「そう、誰かがずっと背中を撫でててくれてて···」

津軽
それ、こんな手じゃない?

津軽さんの手が私の背にあてられる。
重さはあるけれど、温もりは感じない手。

(背中をさすってくれてたの、津軽さん!?)

サトコ
「重ね重ね申し訳ございません!」

津軽
それはいいんだけどさ。自分の心配はしないんだ?

サトコ
「私の心配というと?」

顔を上げて尋ねると、津軽さんは笑いながら私を指差した。
それは私の胸元を指していてーー

サトコ
「ブラ1枚!?」

(パンツは···履いてる!)

津軽
やっぱ左右非対称

サトコ
「な、な···!」

津軽
コーヒー淹れたけど飲む?

サトコ
「あ、はい···いただきます」

津軽
じゃあ、こっちにおいで。服はこれ着ていいから

津軽さんがポイと投げて渡したのは、大きめの男物のTシャツだった。

(何もない···何もないよね?)
(身体に違和感はないし、パンツは履いてるし)

津軽さんのTシャツを着て、もぞもぞした気持ちのままリビングに行く。

サトコ
「リビングひろ···!最上階って、こんななんですか!?」

津軽
んー、他の部屋見たことないけど、そんなに違う?

サトコ
「全っ然、違いますよ!3倍くらい違います!」

津軽
ふーん。じゃ、今度ウサちゃんの部屋見せて

サトコ
「え」

(それって、私の部屋に来るってこと?)

津軽
はい、コーヒー

サトコ
「ありがとうございます」

(気になることは山ほどあるけど、とりあえずコーヒー飲んで頭をはっきりさせよう)

グラスに入ったコーヒーを一口飲むとーー

サトコ
「ぶっ!」

(な、何これ!?マズっ!嫌がらせ!?)

サトコ
「な、何ですか、これ!?」

津軽
レモンコーヒー、美味しくない?

サトコ
「レモンコーヒー···」

言われてグラスを見れば、確かに底の方にレモンの輪切りが浮かんでいた。

サトコ
「なぜコーヒーにレモンを?」

津軽
美味しくなるからでしょ

サトコ
「これが···美味しい···」

言葉にウソがないことを証明するように、津軽さんはゴクゴクとレモンコーヒーを飲み干す。

津軽
うん、美味しい

(明太胡麻チョコレートもポイポイ食べてたし···もしかして、この人味音痴?)

津軽
朝ごはんは?

サトコ
「いただいていいんですか?」

津軽
パン焼くだけだけどね

サトコ
「あの···津軽さん、パンに何を塗ります?」

津軽
俺が好きなのは、塩辛かな~。もずくもいいよね

サトコ
「それ、どっちもパンに塗るモノじゃないかと···」

津軽
誰がそう決めたの?

サトコ
「決めてはないですけど···他に何か塗るモノありませんか?」

津軽
あとは···納豆と甘納豆があるよ

サトコ
「じゃあ、甘納豆でお願いします···」

津軽さんがトーストを焼いてくれ、香ばしい香りと共に塩辛の生臭さが鼻につく。

(ほんとに塩辛でトースト食べてる···まさかのまさかで美味しいの?)

津軽
一口食べたいなら、そう言いなよ

サトコ
「え···」

私の視線を勘違いした津軽さんが塩辛トーストを差し出してくる。

津軽
どーぞ

サトコ
「は、はい···」

こうなってしまっては食べるしかない。

(もしかしたら美味しいのかもしれないし!)

勇気を出して一口かじってみると。

サトコ
「···っ!」

(マッズ!)

津軽
美味しいでしょ

サトコ
「こ、個性的な味です···」

口直しにコーヒーを飲み、それがレモンコーヒーで私の口腔は爆発寸前。

(胃薬···あとで石神さんからもらった胃薬を飲もう···)

甘納豆トーストをもそもそ食べていると、津軽さんも黙々と塩辛トーストを食べている。
私と津軽さんだけの空間。

(何か···そんなに嫌な感じじゃない?)
(少し前は津軽さんといると、どういう顔して何を話せばいいのかわからなかったけど)
(津軽さん、黙ってると悪くないかも)

沈黙が落ちると、いろいろなことが頭に浮かんでくる。

サトコ
「そういえば···昨日は津軽さん、どこで寝たんですか?」

津軽
ウサちゃんって寝てる時、子どもみたいに温かいよね

サトコ
「一緒に寝たんですか!?」

津軽
やだな。俺はそんなケダモノじゃないよ。ベッドまで連れて行ったときに、そう思っただけ
俺はここのソファで寝たよ

サトコ
「へぇ···」

津軽
紳士だからね

サトコ
「初日に私の胸を揉んだ人が紳士···?」

ウッカリ本音が零れてしまった。
チラッとトーストから視線を上げた津軽さんの片眉が上がる。

津軽
ああ、あれは嫌がらせ

サトコ
「嫌がらせ!?そういうこと、自分で言います!?」

津軽
だって、ウサちゃんってば俺の顔全然知らないからさ~
ムカついた

サトコ
「ムカついたからって、人の胸揉みますか!?」

津軽
揉んでいいよ?

津軽さんが自分の胸に手を当てる。

津軽
今、俺のことムカついたでしょ?揉んでいいよ?

<選択してください>

揉ませてもらう

(どうせ揉まないと思ってるんだ)

サトコ
「じゃあ、お言葉に甘えて」

津軽さんの胸に手を当てると、想像よりもかなりの弾力が返ってきた。

サトコ
「ボイン!?」

津軽
鍛えてるって言ってよー

お断りする

サトコ
「いえ、結構です···」

津軽
結構ボインなんだけどなー

(ほんとに?服着てると、そんなには···って、見ない見ない!)

揉むって何を?

サトコ
「あの、揉むって何を···?」

津軽
そこまで言わせる?ウサちゃんのエッチ

サトコ
「···さっさとパン、食べ終えましょう」

津軽
あとで後悔するよー?

サトコ
「しません」

そんな話をしているうちに2人とも食べ終える。

サトコ
「ごちそうさまでした。片付けは···」

津軽
置いといて。帰ったら、俺がするから

サトコ
「すみません」

津軽
そろそろ出勤の準備しないとねー

食器を流しにまとめて置いた津軽さんが戻ってくる。

サトコ
「じゃあ、私はこれで···」

部屋に帰りますーーと津軽さんの顔を見ると、彼の髪に寝癖がついている。

サトコ
「ここ、寝癖ついてますよ」

津軽
え、どこ?

サトコ
「ここです、ここ」

場所を教えるために髪に手を伸ばす。

サトコ
「津軽さんって、髪の量多くありません?」

津軽
ハゲる心配がない

サトコ
「ここの寝癖です」

津軽
ちょ、痛っ!引っ張らないで!

サトコ
「ごめんなさい!指のささくれに引っかかっちゃったみたいで···」

津軽
もー
そういえばウサちゃんってカサカサだよね

サトコ
「カサカサなのは手だけですよ!?」

津軽
俺は、どことも言ってないけど

サトコ
「動くと毛が抜けます!···これだけあれば2、3本抜けてもいっか···」

津軽
髪は男の命だって知らない?

サトコ
「知りません」

津軽
···ウサちゃんの枝毛見っけ

サトコ
「······」

津軽さんの言葉に寝癖の辺りの毛をぶちっと数本抜いた。
すると津軽さんにも枝毛を抜かれてーー

サトコ
「···っ!」

津軽
おあいこ

顔を見合わせると、どちらともなく笑いが込み上げてきて大声で笑っていた。

(津軽さんとこんなに笑うなんて···)

彼の笑顔が大嫌いだと思っていたのに、今は顔を合わせて笑い合っている。

(津軽さんと付き合ったら、こんな感じなのかな···)
(······)
(···って私今、なんてこと考えた!?)

自分で自分に驚いて、動揺してよろけると。
ガタッとサイドボードに肘がぶつかった。

サトコ
「あ!」

サイドボードからバサバサッと郵便の束が落ちて、慌てて拾う。

(ん?同じ人からの郵便物が溜まってる?)
(未央···さん?女性からの手紙?)

それらは全部未開封だった。

(かなりの量だけど···)

津軽
ウサちゃん、俺のTシャツ持って帰る?

サトコ
「い、いえ!洗濯してお返しします!」

慌てて郵便物を元に戻すと、私は急いで津軽さんの部屋を出た。

to be continued

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