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本編① 津軽14話

加賀
どけ

石神
「座るぞ」

サトコ
「え?」

私の両サイドにドカッと座ったのは加賀さんと石神さんだった。

サトコ
「あの、ここに3人って狭くないですか?」

加賀
うるせぇ

石神
我慢しろ。ここしか空いてない

サトコ
「あそこにちょうど2人席が空いてるような気がするのですが」

加賀
クソ眼鏡と顔合わせて飯食えるか

石神
飯が不味くなる

サトコ
「つまり私は緩衝材?」

窮屈な態勢でキャベツを頬張る羽目になっていると。
津軽さんが端の先端を加賀さんと石神さんに向けた。

津軽
か・ほ・ご

加賀
箸で人を指すんんじゃねぇ

津軽
俺って優しくないもんね。心配はわかるよ

サトコ
「津軽さん、最初に会った時···」

サトコ
「津軽警視って、どんな方ですか?」

津軽
んー、優しいんじゃない?

サトコ
「化けの皮が剥がれて観念を···?」

津軽
はい、俺のキャベツもあげる。残さず食べるんだよ

サトコ
「もうキャベツはお腹いっぱい···」

津軽
さて、行くよ。モモ

百瀬
「はい」

津軽さんは伝票を手に立ち上がる。
百瀬さんも席を立つと、加賀さんと石神さんに一礼した。

(班長たちには敬意を払うんだな、百瀬さん)

サトコ
「あ、私の伝票!」

津軽さんは私の伝票も持って行ってしまう。

加賀
キャベツ定食の分だろ

サトコ
「トンカツ、ひと切れは食べました」

石神
払わせておけ

(次会ったら、一応『ごちそうさまでした』って言っておこう)

加賀さんと石神さんもトンカツ定食を注文し、それが来ると。

加賀
食え

石神
キャベツだけではもたないだろう

サトコ
「え、え···」

私のお皿にたちまちトンカツが復活する。

サトコ
「ありがとうございます···」

(お2人とも優しいな。津軽さんだって···)

定食代を払ってくれ、加賀さんと石神さんとの時間のために先に帰ってくれたのかもしれない。

(優しさって···一言では表しにくいものなのかも)

お昼に加賀さんと石神さんがトンカツを分けてくれた理由が午後になって分かった。


「始めろ」

津軽
はい。これよりALILANDと遺伝科学生物物理学研究所に関する捜査報告会議を始める

着任して初めての銀室長同席の捜査報告会議。

(この空気だけで窒息死しそう···トンカツ、食べておいてよかった)

津軽
百瀬

百瀬
「研究所では人工的にニンゲンが培養、育成され、10歳前後になるとALILANDが引き取る」
「その後、ALILANDは被検体たちを海外に輸出しています」


「輸出先と、その後の動きは」

百瀬
「主な輸出先は中東諸国」
「用途はテロリスト育成の軍事目的から富裕層への娯楽目的での販売など幅広く···」
「億単位の多額の金がALILANDに流れ込んでいます」

報告を聞き、資料を見ていると頬が強張ってくる。
鼓動が妙な速さになって奥歯を噛んだ。

(ヒトを造り出して、それを売って金儲け···?)
(命を何だと···こんなこと許されるわけがない)


「その用途について五ノ井は知ってるのか?」

津軽
いえ、現時点では詳細は知らされていない可能性が高い
五ノ井は本来の性格もあり、研究の発展にしか頭にないものと思われます


「収容したという被検体については」

津軽
その件については、氷川

サトコ
「は、はい」

突然名前を呼ばれて心臓が飛び出るかと思った。

津軽
報告して

(私が!?普通、新人は発言しないのに···)


「······」

銀室長の視線がギロリと向けられ、私は慌てて立ち上がった。

(心の準備、できてない···とか、言ってる場合じゃない!)

サトコ
「保護した少年···」


「被検体1号」

(そんな言い方···)

<選択してください>

被検体1号と言い直す

サトコ
「···被検体1号の名称はノア。性別は男。研究所内についての情報もいくつか得られています」
「被検体たちは五ノ井を好んでいます」

津軽
······

チラッと津軽さんを見ると、彼は薄く微笑んでいた。

(銀室長は絶対···か)

少年と言い続ける

サトコ
「···少年の名はノア。性別は男。研究所内についての情報もいくつか得られています」

百瀬
「おい」

津軽
氷川

サトコ
「!」

見たことないほど鋭い2人の視線に貫かれ、心臓が止まるかと思った。

サトコ
「···被検体たちは五ノ井を好んでいます」

言い換えると2人の視線が外れ、やっと息ができる。

ノアと言う

サトコ
「···彼の名はノア。性別は男。研究所内についての情報もいくつか得られています」
「ノアたちは···」

津軽
被検体

サトコ
「!」

津軽さんを見ると、その顔は真剣だった。

(銀室長の言うことは絶対ってこと···)

サトコ
「···被検体たちは五ノ井を好んでいます」

津軽
······

言い直すと、津軽さんの視線が外され胸を撫で下ろす。

サトコ
「有島秀哉の出入りも確認されていますが、被検体には好まれていないようです」
「育成環境については良好、外出も認められ···」

あれから何度かノアから聴取した研究所の状況について報告する。


「現状は分かった。今後の方針は」

公安員A
「五ノ井は情報源になる可能性が高いと思われます」

公安員B
「五ノ井をエサにALILANDの動きを見ましょう」

五ノ井博士の逮捕は後回し···そう場の流れが一致しかけた時だった。

津軽
五ノ井を泳がせることに賛成はできない

津軽さんがそれを否定した。

公安員A
「しかし、五ノ井を逮捕すれば、ALILANDを逃す可能性が高まります!」

津軽
ALILANDを逃したところで、収集はつけられる
だが、ALILANDを潰して五ノ井を逃せば、第2、第3のALILANDは必ず現れる


「······」

津軽
根本である研究所を潰さなければ意味がない
危険分子の芽は見つけ次第潰しておくのが、うちの班の方針のはずでしょう

(こんなふうに熱弁する津軽さん、初めて見た···)

百瀬
「······」

津軽さんの隣に座る百瀬さんを見れば、彼は特に驚いている様子もなかった。

津軽
五ノ井の逮捕も優先すべきだ。銀さん、判断を


「津軽に一任する。会議は以上だ」

津軽
······

大多数の意見を覆し、津軽さんの意見が通る。
一瞬···めずらしく津軽さんの顔から表情が消えた気がした。

(津軽さんって、捜査会議の時は熱が入るタイプなのかな)
(五ノ井博士の逮捕については一歩も退かない様子だった)
(そこまで、重要なこと?)

五ノ井博士を泳がせてALILANDごと一網打尽ーーそれがスタンダードな方法な気がする。
むしろ逃亡という意味では五ノ井博士に公安を撒くだけの器量はないだろう。

(にもかかわらず、どうして急ぐの?)
(何か急がなきゃいけない理由がある···?)

考えすぎかもしれないけど、どうにもさっきの津軽さんの様子が気にかかった。

(津軽さんは、どうして···)

津軽
ウサちゃん

サトコ
「うわっ!」

いきなり肩を叩かれ、津軽さんの顔が間近にあった。

サトコ
「な、何ですか?」

津軽
次の研究所潜入、一緒に来てね

(津軽さんとの任務!?)

目の前の彼はさっきとは打って変わってニコリと笑っていた。

to be continued

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