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本編① 津軽18話

ノア
「死ぬ時はキレイなお花畑がいいなー。おじさんは?」

津軽
お兄さんはねー、殺されちゃうからな~

(あの時の津軽さんは、どんな顔をしてた?)

頭に思い浮かぶのは、縁日の灯りにぼんやりと照らされた横顔。

津軽
「······」

(何か···諦めたような···何も感じてないような···)
(ノアは『おまわりさんだから?』って聞いてたけど、きっとそれが理由じゃない)
(あれは···そうなることが当たり前で、まるで未来を知っているみたいに···)

サトコ
「誰かに命を狙われてる?仕事柄考えられなくはないけど···」

(違うような気がする。誰かに命を狙われて、それをそのまま受け入れる人には思えない)
(だとしたら···)

様々な可能性を考えて辿り着いた結論はーー

(殺される結末を望んでる?)

そう考えた瞬間、息が詰まる。

(いや、ダメでしょ!いくらあんな津軽さんでも殺されるとか!)
(人の話聞かないし、言ってること意味わかんないし、思考回路も不明だけど!)

サトコ
「津軽さんだって人間なんだから···」

思い浮かんでくるのは、津軽さんのプライベート空間と呼べる、彼の部屋。

(あの部屋は···)

津軽
レモンコーヒーボトルに入れておいたから。はい、お土産

サトコ
「うわー、嬉しいなー」

津軽
棒読みって言葉知ってる?

サトコ
「これ、マズいって言いませんでしたっけ?」

津軽
美味しいよ

(私の味覚に関心なし···)

レモンコーヒーのボトルを凝視し、結局断れずに受け取る。

サトコ
「津軽さんって部屋、キレイにしてるんですね」

津軽
部屋は心。部屋の美しさは心の美しさ
今度、ウサちゃんのとこに家庭訪問に行くね

サトコ
「結構です」

津軽
イケメンを部屋に上げるチャンスだよ?

サトコ
「いえいえ、津軽さんを呼ぶには狭すぎなので」

津軽
部屋、汚いんだ

サトコ
「き、汚くはないですよ?ちょっと散らかってるだけで···」

津軽
ウサちゃんの心って汚いんだー

サトコ
「······」

(絶対に津軽さんを部屋に入れるのは、やめよう)

サトコ
「じゃあ、私はこれで失礼しますね」

津軽
あとでね

サトコ
「は、はい」

(まるで同棲カップルみたいなやりとり···いやいや、変なこと考えない!)

(最上階でも玄関の造りは同じなんだな)

そんなことを考えながら玄関に向かっていると···わずかにドアが開いている部屋があった。

(こんな部屋があるなんて、いいなぁ。何畳あるんだろ)

深い考えはなかった。
玄関に行く途中で、軽く部屋の中を覗いてみると。

サトコ
「え」

(この部屋、ゴチャゴチャ···全然、片付いてない···)

リビングや寝室とは大違いの雑然ぶり。

(何だ、津軽さんだって見えるところしかキレイにしてないじゃない)
(今度部屋のこと持ち出されたら、この部屋の話をしよ)

(あの時は、そんな呑気なこと考えてたけど)
(あの部屋こそ、本当の津軽さんだったら?)

『部屋は心』--津軽さんは、そう言っていた。

(初め···会ったばかりの頃···)

津軽
本当に、君って子は
冗談を真に受けちゃダメだよ

(人の心なんて持ってないと思ってた。私には分からない人だって)
(でも···津軽さんの心が、本当はあんなグチャグチャなら)
(表に見えてることだけが、真実でないなら···)

サトコ
「わかるかもしれない···津軽さんのこと···」
「わかったら、“殺される” の意味だって···」
「···とにかく!」

(このままじゃダメ!こんなところで死ぬのはナシ!)

サトコ
「救援要請を出して、津軽さんのところに戻る!」
「絶対に、戻る!」

スマホと無線の両方で救援要請を出し、シャッターの向こう側に行く方法を探す。

(どっかにあるでしょ、突破口!)
(突破できない局面はない!)

加賀教官の言葉を胸に、研究所内を駆けずり回った。

(何とか上のフロアから降りれる通気口を見つけた!)

狭い通気口内を匍匐前進で進んでいく。
すると前方に明かりが見えてきた。

(よし、戻れた!)

ハンカチで顔を覆い、格子を外して五ノ井博士のラボに戻ってくる。
催涙ガスは停止していて、イスに縛られた五ノ井博士の横には同様の格好の有島がいた。

(2人とも意識を失ってる···有島は津軽さんが片付けたんだ)
(ってことは、津軽さんは無事!)

サトコ
「津軽さん、どこですか!?」

名前を呼びながら部屋の中を探していると、まだ奥に扉があるのを見つけた。
すると、向こうからーー

津軽
···っくしゅん!

(くしゃみ!?津軽さんの!)

サトコ
「津軽さん、津軽さん!」

奥の扉に駆け寄ると、ドンドンと叩く。

津軽
ウサちゃん!?なんでいるの?

サトコ
「なんででもです!早くここから出て、任務を完了しましょう!」

扉を開けようとノブを回すと···ガチャガチャという音だけがする。

サトコ
「ロックがかかってる?」

津軽
ガスを止めにこっちに入ったんだけど、その時に自動ロックがかかった

サトコ
「何とか開かないんですか!?」

津軽
俺がここで昼寝してたと思う?

サトコ
「ですよね···あ、爆弾で破壊するのは、どうですか?ここは薬品がたくさんあるし」

津軽
こっちはいいから、戻れ

サトコ
「え?」

(戻れって、今こっちに戻って来たばっかりなのに!?)

サトコ
「津軽さん!ドアの前に来て!」

津軽
なんで?

サトコ
「いいから、ドアの窓のところまで来て顔を見せてください!」

(顔見なきゃ、何も分からないよ!)
(見ても分からないかもしれないけど)

サトコ
「津軽さんの顔、見たいんです!」

叫ぶと、扉の向こうで影が動いた。

to be continued

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