カテゴリー

本編② 津軽2話

津軽さんとのデート(?)当日。

(待ち合わせより20分も早く着いてしまった···)

ショーウィンドウに映る姿を見て髪を整えたりする。

(髪、久しぶりに巻いたけど変じゃないかな)
(買ったワンピースと髪型、合ってる?)

あれこれチェックしていると、浮かれた人間のような気がしてきて恥ずかしくなる。

(こ、これは津軽さんがオシャレして来いって言ったからであって!)
(深い意味なんて全然ないない)

誰に対するものかもわからない言い訳をしていると。

津軽
さっきからずーっと窓を見て、自分大好きなんだね

サトコ
「津軽···さん···?」

口調こそいつものノラリクラリとしたものだったが、目の前の津軽さんはいつもと違った。

サトコ
「私服···髪型···」

津軽
え、気に入らない?

(いつもは完璧に格好いいって思ってる津軽さんが、めずらしい反応)

自分の前髪を引っ張る津軽さんは妙に可愛かった。

サトコ
「いえ、素敵です」

津軽
そう。まあ、俺だもんね

いつもの津軽さんに戻ると、私を爪先から頭まで眺める。

津軽
それが君のオシャレ?

サトコ
「は、はい!この服も新しく買いました!高くはないですけど、私の給料では精一杯で」
「それに支度のために、いつもより1時間早く起きて···」

(って、何でこんな詳しく説明するような···)

津軽
あの時よりはマシかな

サトコ
「あの時?」

津軽
ゴミの報告書を持ってきた時

サトコ
「!」

(そっか、最近で一生懸命化粧したのは、あの時···)

津軽
化粧、下手だね

サトコ
「は···?」

(人が触れられたくないことにも、ガンガン触れてくる人だな)
(···まあ、津軽さんだから···な)

サトコ
「あの時と一緒にしないでください」

津軽
レスラーかっていうくらい目の下塗ってたよね

サトコ
「津軽さんだって、いつものモッサリ感がマシになってます」
「できるなら、毎日スッキリさせれば···」

津軽
そうだった。デートと言えばエチケットだよね。はい

サトコ
「!?」

(また口に何か放り込まれた!)

サトコ
「~っ」

津軽
さ、行こう

口を押える私の手を引き剥がし、津軽さんが向かったのはーー

着いた先は映画館ーーではなく、調布付近にある映画スタジオだった。

サトコ
「あの、ここは···?」

(てっきりシネコンにでも行くとばっかり···)

津軽
花巻監督の新作映画の撮影現場

サトコ
「関係者以外立ち入り禁止って書いてありますよ!」

津軽
関係者だから

サトコ
「そういう津軽さんの冗談を通じる場所じゃな···」

花巻富士夫
「いや~、高臣くん、久しぶりだね~」

津軽
お久しぶりです、花巻さん

サトコ
「監督と知り合いなんですか!?」

津軽
だから関係者だって言ったじゃん。人の話はちゃんと聞きなさいよ

サトコ
「······」

(言われたくない···というか、デートっていうのは、これのこと?)

花巻富士夫
「津軽くん、こちらは?もしかして···」

津軽
ちょっと遠い親戚の子で

サトコ
「親戚の子」

津軽
うん?

思わず復唱すると、笑顔の津軽さんがこちらを向いた。

<選択してください>

親戚のことして振る舞う

(話を合わせろってこと···どういう理由かわからないけど、とりあえず···)

サトコ
「かなり遠い親戚なんですよ。かなり、すごーく遠い」

花巻富士夫
「そう。だから全然似てないんだね~」

津軽
ええ、だから全っ然似てないんです

サトコ
「そんなに “全然” を強調しなくても···」

誰が親戚か聞く

(今日は捜査じゃないんだよね?だったら、話を合わせなくても···)

サトコ
「誰が親戚の子ですか?」

津軽

(···合わせた方がいいかも)

サトコ
「はは、そうですよね···凄く遠い親戚なんで。たまに忘れちゃうくらい」

津軽
ほんと他人の方が近いくらいの仲だから

サトコ
「いっそ他人になりたいくらいですよ」

津軽
ねー

(何なの、この会話···)

デートはどこにいったのか聞く

(デートって言っておいて、紹介するときは親戚の子?)

サトコ
「デートはどこにいったんですか?」

津軽
何の話?

(そう来たか···)

サトコ
「はいはい、遠いとおーい、誰だったかわからなくなるくらい遠い親戚の人ですよ」

津軽
この子、忘れっぽくて。親戚の顔も忘れちゃうんですよね

サトコ
「忘れっぽいのは血筋では?」

津軽
君だけでしょ

(人の名前も覚えなかった口が何を···)

花巻富士夫
「遠いって割には、なかなか仲良いじゃないの」

津軽
いやいや

サトコ
「いやいや!」

声が重なり、私たちは顔を見合わせる。

津軽
人のセリフをとらない

ビシッとデコピンされて納得がいかない。

花巻富士夫
「そうそう、今日はもう1人来てるんだ」
「おいで、芹香」

( “せりか” って···)

花巻芹香
「パパ、なにー?」

現れたのは、先日写真集を出したばかりのSERiCaだった。

(そうだ!SERiCaは花巻監督の娘だって鳴子が言ってたっけ)

花巻富士夫
「紹介するよ。友人の津軽くんと、遠い親戚のお嬢さん」

花巻芹香
「こんにちは。芹香です」

津軽
こんにちは

サトコ
「こんにちは。お邪魔してます」

(うわ、かわい~。顔ちっちゃくて、スタイル良い!)

花巻芹香
「かっこいー!やだ、パパ!こんなイケメンの知り合いいるなら、早く紹介してよ!」

芹香さんは津軽さんの腕に手をかけ、ぐっと距離を詰める。

(ちかっ!初対面でこの近さ!?)

津軽
······

(津軽さんは平然としてるし)

花巻芹香
「津軽くんって、何型?」

津軽
AB

花巻芹香
「ウソ、私O型なの!」
「OとABって相性悪い~、やだ~っ」
「血液型占いなんて信じないよね?」

芹香さんはさらに距離を縮め、津軽さんの顔を覗き込んでいる。

(だから近いって!)
(···って、私今ムカついた?)

津軽
芹香さんが信じないなら、俺も信じないよ

サトコ
「!?」

花巻芹香
「じゃあ、信じないことにケッテーイ!」

(今、芹香さんって言った?もう名前覚えたの!?)
(それって興味あるってこと?)

花巻芹香
「なら違う占いしよっか。この占いアプリとか~」

津軽
どれどれ?

(完全に蚊帳の外···)

きゃっきゃする2人を、ぼーっと離れて見ていると。
ドンッと後ろから人にぶつかられた。

サトコ
「あ、すみません」

男性
「···いえ」

横を向くと、見上げるほど背の高い男の人がいた。

(デカっ!)

津軽
なにやってんの

サトコ
「え、あ···ちょっとぶつかって」

芹香さんに捕まってたはずの津軽さんが真横に立っていて、今度はそっちにびっくりする。

津軽
···君、またクマ隠した?

サトコ
「いえ、どうして?」

津軽
そういう匂いする

言われて鼻を動かせば、確かに化粧品の匂いがする。

(どこから···)

サトコ
「私の手···?」

手の甲にかすかにファンデーションがついていた。

to be continued

シェアする

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

フォローする