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本編② 津軽3話

津軽さんとデートと言う名の謎のお出かけをした翌日。
新しい案件で捜査会議が開かれた。


「今回のターゲットは武装派集団『赤の徒(あかのと)』」
「以前から監視対象だったが、武器と薬物密輸の動きが見られた」
「津軽」

津軽
『赤の徒』は構成員が全国に散らばっていることで有名だが
映画監督の花巻富士夫が繋がっている、または所属しているという情報が入ってきた

サトコ
「!」

(だから昨日、撮影現場に···仕事なら仕事って言ってくれればいいのに)
(そうしたら新しい服も買わなかったし、髪を巻いたりだって···)

無駄な時間を過ごした···思ったものの。

(ああいう時間も久しぶりで楽しかったな)

津軽
昨日、現場で花巻の娘、花巻芹香に接触しました
花巻富士夫は娘にはかなり甘い。花巻富士夫を調べるには有効な人物です

(あ···)
(芹香さんの名前を覚えたのは、捜査に必要だったから···)


「津軽、花巻芹香をこちらに引き込め。手段は問わない」

津軽
了解です

(芹香さんを協力者にするってこと?)


「捜査の割り振りについては津軽に一任する」
「進展があり次第報告しろ」

銀室長はそれだけ言うと、別件があるのか席を立って会議室を出て行った。

津軽
百瀬は俺につけ

百瀬
「はい」

津軽
氷川は昨日下見に行ったから、現場潜入

サトコ
「はい!」

津軽
それから···

(現場に行ける!捜査に出してもらえる!)
(今度こそ、自力で成果を上げられるように頑張ろう!)

会議後、私は百瀬さんとデスクに戻っていた。

サトコ
「津軽さんは、どうやって花巻芹香をこちらに引き入れるんでしょうか?」

百瀬
「ハニトラに決まってんだろ」

サトコ
「ハニートラップで?」

(芹香さんは津軽さんに一目惚れしてたから、簡単だろうけど)
(人の気持ちを捜査に利用っていうのは、やっぱりいい気持ちはしないな)

百瀬
「津軽さんなら楽勝だ」

フンと百瀬さんが得意そうな顔をする。

百瀬
「津軽さんの協力者のほとんどは女」
「警察庁に津軽さんの顔のファンは大勢いる」

サトコ
「顔のファン」

百瀬
「何か文句あんのか」

サトコ
「い、いえ、別に!」

睨まれ、ブンブンと首を振る。

(めずらしく饒舌に喋ると思ったら津軽さんの自慢話···)
(しかも『顔のファン』って言いきっちゃうところが···)

正直すぎる忠犬だと内心感心する。

(まあ、あれだけ顔がいいと、そこにばっかり目が行くのもわかるけど)
(少しは顔意外見ても···)

そうすれば、壊れた味覚と耳が馬耳東風なこととかーー彼の本性が少しはわかるのに。

その日は天気がいいので、屋上でお昼を食べようと行ってみると。

津軽
うん、大丈夫。何も心配しないで、俺を信じて

(津軽さん、電話してる)

目が合うと、静かにするようにしっと指を立てられた。

津軽
君がいるから、俺はやってける。本当に感謝してるよ

(うわ、甘ったるい声···こんな声出せるんだ)
(いつものノラクラボイスからは想像できない···)

普段のノラリクラリとした声よりも低く、メリハリも効いている。

津軽
また連絡するよ。ああ、俺の楽しみにしてる。じゃあ···

(最後にリップ音まで!これは女の協力者が集まるはずだ···)

津軽
お昼もぼっちなの?

サトコ
「いいお天気だから屋上に来ただけです。ここなら、横から取られる心配もないし」

津軽
必死に言い訳しなくてもいいのに···

サトコ
「哀れむような目で見ないでくださいよ」
「さっきの声がウソみたい···あんな声出せるなんて知らなかったです」
「さっきにハニトラ得意なんですね」

津軽
前提で三馬身リードしてるからね

サトコ
「そこまで自分の顔に自信あるんですか?」

津軽
あるけど

サトコ
「ですよねー···」

(津軽さんとの話で食欲が失せる前に、お昼ご飯食べよう)

屋上の隅に行こうとすると、津軽さんの身体にぶつかる。

サトコ
「何ですか?」

津軽
ドキッとしない?

サトコ
「え···」

長い指があごにかかり、持ち上げられた。
ぐっと近づく津軽さんの顔。

津軽
······

サトコ
「······」

間近で瞬く綺麗な睫毛。
確かに整ってる、見惚れるほどに。

サトコ
「この睫毛の長さで逆さ睫毛があったら悶絶しますね」

津軽
この顔の感想が、それ?

サトコ
「わざとドキッとさせようとしても、そういうのはちょっと···」
「それに津軽さんの顔は、割と見慣れてきましたし」

津軽
かっわいくないなー!

正直に答えると、何がツボったのか天を仰いで爆笑し始めた。

サトコ
「怒ると笑う人ですか!?」

津軽
俺の顔見るために、何もかも貢ぐ女がいるってのに
ほんっと、かわいくない
あー、かわいくない

サトコ
「そんな何度も言わなくたって···」

笑いながら繰り返されると、馬鹿にされてるような気がしてくる。

サトコ
「任務とはいえ、津軽さんは可愛い芹香さんとデートするんだからいいじゃないですか」
「可愛い女性とのデートはきっと、楽しいでしょうね~」

(あー、今ちょっと嫌な言い方したかも)

『かわいくない』の連発に、胸にチクチクした妙なモヤが広がっている。

(何だろ、これ。こんなことで傷つくわけないし···)

津軽
まあ、かわいい女の子とのデートは悪くないけど
君といる方が断然楽しい

サトコ
「は?」

(な、なにを···甘さの欠片もない、のんべんだらりとした口調って、なんてことを!)

<選択してください>

とりあえずお昼を食べる

サトコ
「······」

(ダメだ、頭が働かない。こういう時は、まず···)

津軽
え、なんで急に座り込んでサンドイッチ食べるの!?

サトコ
「栄養が必要で」

津軽
だからって、何で俺の前で座り込んで食べるの?

もう一度言ってもらう

サトコ
「···今の、もう一度言ってください」

津軽
今のって?

サトコ
「私の口から言わせる気ですか!?」

津軽
何を!?

何を企んでるのか聞く

(津軽さんが、こんなことを言うなんて···)

サトコ
「···何を企んでるんですか?」

津軽
え?

サトコ
「津軽さんがそんなこと言うなんて、何企んでるんですか!」

(可愛い人といるより、私といる方が “断然” 楽しいなんて!)
(津軽さんの言う事を真に受けちゃいけないって、骨身に染みてわかってるのに!)

ドキッとされられ、今でもドキドキしてる自分を持て余して暴れたくなる。

サトコ
「···っ、バカ!」

津軽
え、怒ってるの!?

自分に言ったつもりの言葉が、私と津軽さんの間で何度も跳ね返った。

to be continued

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