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本編② 津軽16話

津軽さんに背負われた状態で駐車場を横切っていく。
向こうには試写会会場の灯りが見え、冷蔵倉庫は会場の近くにあるとわかった。

サトコ
「冷蔵倉庫って、こんなところにあるものなんですね···」

津軽
この辺りは再開発されてるエリアで、新旧の建物が混在してる
使われてない倉庫も多くあるから、犯罪の温床になりやすい
潜入するときは周辺環境についても調べておきな

サトコ
「···はい」

(おんぶされるなんて、どれくらいぶりだろ)
(小さい頃、田んぼにはまって、その時お父さんにおぶってもらって以来かも)

サトコ
「私、どうして襲われたんでしょうか」

津軽
さあ。何かヘマした?

サトコ
「心当たりはありません。私は···」

(見回ってたら、津軽さんと芹香さんのキスシーンを見ただけで···)
(2人のキスを見たから狙われたなんてことは···さすがに、ないない)

サトコ
「あの···」

(さっき、嫌ってないって···)

もう怒ってないのかと、聞こうと口を開いた時。

百瀬
「津軽さん!」

会場の方から百瀬さんが走ってくる。

百瀬
「お前···」

サトコ
「ど、どうも」

津軽さんの背中にいる私を見て、百瀬さんが噛みつきそうな顔を見せる。

百瀬
「そんな荷物、さっさと捨てて来てください」

サトコ
「捨てるって···」

津軽
何かあった?

津軽さんは私を背負ったまま歩き続ける。

百瀬
「『赤の徒』の通信記録と暗号を解読しました」
「今回の試写会を壊すために、会場内に試写終了と共に爆発する時限爆弾が仕掛けられています」

サトコ
「!」

津軽
試写が終わるまで、何分?

百瀬
「5分です」

サトコ
「あと5分で会場が爆発する!?」

声を上げると同時に、お尻から手が離された。

サトコ
「わ、ちょ···降ろす時はひと言言ってください!」

津軽
走るぞ!

百瀬
「はい」

サトコ
「は、はい!」

(2人ともはやっ!)

駆け出した2人の背中をもつれそうな足で必死に追いかけた。

パーティー会場に到着した時点で、あと3分。
試写パーティーということで、ホールの壇上に設置されたスクリーンで映画が流れている。

サトコ
「全員を避難させるのは無理です!」

百瀬
「爆弾の位置が分かれば···」

サトコ
「爆弾の位置···」

記憶の何かが引っかかる。
爆弾があるのはーー

<選択してください>

スクリーンの裏

(1番効果的に爆発させられそうなのは···スクリーンの裏?)
(確かに場所的にはいいけど···)

何か違うーーそう思う。
脳裏に浮かぶのは、冷たい空気と凍えそうな身体とーー

会場の天井

ブルッと小さく肩が震えた。
記憶が呼び起こすのは、冷蔵庫内の冷えた空気。

テーブルの下

(パーティー会場で爆弾が仕掛けられる場所が多いのは、テーブルの下···)
(だけど···)

テーブルの下は警察側でもチェック済みだ。
この警備の中で、あとから設置するのは不可能に近い。

(どこ···?)

焦燥感のなか必死に頭を回転させると、ふっと独特の生臭い匂いが蘇ってきた。

???
「···設置···芹香の···頭上の···」

(思い出した···!)

サトコ
「盗聴器から何か聞こえませんでしたか?」

津軽
君の独り言以外は、何も。それがどうした

サトコ
「倉庫で、微かに聞こえたんです。設置したって···芹香さんの頭上に!」

津軽さんも百瀬さんも私も、暗い中で芹香さんの姿を探す。

サトコ
「前から3列目、左端のテーブルです!」

(ここからじゃかなり距離があるし、遠い!)
(どうすれば···)

津軽さんを見ると、彼はじっと天井の鉄筋に設置されている爆弾を見据えていた。

津軽
百瀬、ヘビーバレル

百瀬
「はい」

(ヘビーバレルっていうと···)

百瀬さんは近くのテーブルのクロスの下を探った。
そこから取り出したのはスナイパーライフル。

(こんなところに狙撃銃を隠してたなんて!)

津軽
公安学校で狙撃の訓練は?

サトコ
「しています」

津軽
じゃあ、これが何の銃だかわかるね

サトコ
「特殊銃I型。M1500のバーミントハンティングモデル」
「日本警察が所有する狙撃銃です」

津軽
よくできました。使ったことは?

サトコ
「ありません」

津軽
なら、今回は俺がやる。下がれ

津軽さんがスナイパーライフルを構えた。
スッと細く息を吸い、その目が細められる。

(それなりの重量があるライフルを構えてるのに、重さを全く感じさせない)
(腕も重心もブレがない···)

津軽さんが銃を扱い慣れていることがわかる。

津軽
······

百瀬
「······」

百瀬さんが食い入るような目で津軽さんを見ている。

(もう百瀬さんは爆弾を見ていない。見てるのは津軽さんだけ···)

サトコ
「爆弾を撃つんですか?」

津軽
撃って止める

サトコ
「そんなことが可能なんですか!?」

津軽
俺ならね
花巻監督の映画は、必ず最後に爆発シーンがある。ちょうど30秒後···

スクリーンには燃え盛る大正時代の洋館が映し出されている。
今にも爆発しそうなのは間違いない。

津軽
5、4、3、2···

1、0ーードンッという映画の爆発音と共に、津軽さんの指が引き金を引く。

サトコ
「!」

(爆弾に命中···作動はしてない···!)

サトコ
「すごい···」

百瀬
「津軽さんなら当たり前だ」

津軽
······

津軽さんは涼しい顔で銃を下ろしている。

(私の方が緊張してるみたい)

ふーっと息を吐いた、その時。

花巻芹香
「きゃああっ!」

花巻富士夫
「だ、だ、誰か!」

(芹香さんの悲鳴!?)

津軽
氷川!

津軽さんの声に反応し、彼が視線で指す方を見る。
そこには腹部から血を流す芹香さんと彼女を支える花巻監督。
そしてーー

監督助手
「······」

血が滴るナイフを持った助手の男。
男の手には見覚えのある、ホクロ。

(あのホクロ···芹香さんとそっくり···でも、今まであの男の手にホクロなんてあった?)
(私が気付かなかっただけ?それともーー)

ある疑問が浮かんだけれど、それは後回しにする。

サトコ
「行きます!」

津軽さんが私を呼んだのは、これが私の仕事だから。
走り、ナイフを叩き落とすと同時に監督助手の身体を床に押さえつける。

監督助手
「ぐっ···!」

サトコ
「確保しました!」

花巻富士夫
「芹香、芹香ぁ!」

津軽
救急車の手配は?

百瀬
「8分で到着します」

サトコ
「止血します!」

泣き叫ぶ花巻監督を横に、テーブルクロスで腹部の止血をしていると。
遠くからサイレンの音が聞こえてきた。

to be continued

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